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一兆年の夜 第百十五話 少年よ、大志を抱くんだ(結)

『--校内には御器被型が百八体も居た。幾ら軍者が戦い慣れてても其れだけを相手に
やり合うのは辛い。特に複製完全同位体相手に喰われた生命は更に複製完全同位体の
生産工場と成り、余計に真古天神武国軍を大いに手古摺らせる。一般生命を媒介いや
生産工場にする事で想定以上の戦力を生み出す。戦いに於いて数とは力だ。戦術の面
で御器被型が持つ複製完全同位体の機構は今後の銀河連合のやり方にも取り
入れられる。戦略に組み込まれれば最早数は実数の十の倍以上はあると後の歴史家は
語る程だ。
 さて、後の事は誰にでも語れる。だが、今の事を語る場合は少し異なる。私達の戦いは
余りにも想定しなかった物だった。御器被型が複製を作る事位はわかっていた。だが、
其れにはあくまで生殖能力が限りなく低下した状態だからそう簡単にはいかないと思って
いた。想定しても大気中の空気を肉体に取り込んで無理矢理体を膨らませるしかないと
考えてもいた。勿論、皮膚等の関係で結局は何かを食べて濃度を高めないと其れ等は
膨張及び伸縮は難しいからな。熱膨張だってあくまで器を少し大きくするだけだ。そんな
複製型は既に其れを克服する術を持っていた。其れが一般生命の肉体に取り込んで
食い散らかす事で完全同位体に迄近付ける。後に複製完全同位体御器被型として伝わる
ように想定以上の戦力を獲得させて此方を大いに苦しめた。あの時は誰の心にも望み
絶えた想いが駆け巡る。悲観が制御出来ないままに彼等の心を襲い掛かる状態だ。
やる木なんて出る筈もない。勇敢に成れる筈もない。心で言い聞かせても本能は恐がって
動きそうにもない。悲観はやはり気分の問題だ。対策を採る為に活用出来ても望み絶える
空気が広がれば己自身を雁字搦めにしてしまう。
 そんな空気が支配された中で私は戻って来た。私には当時の心理状況はそうゆう事に
構っていられなかった。何よりも生徒達を、私の教え子達が如何なっているかに意識が
集中した。私は逃げるだけの力が無かった代わりに並み居る銀河連合の大群に真っ直ぐ
向かった。当然、其れには近くに居た同僚達や彼等を守る軍者達は止めに入った。だが、
其の時の私は冷静には限りなく遠かった。完全に掴む力が乗る前に振り切り、向かった
のだ。どんな時に振り返っても如何してそんな風に考えられたのかがわからない程だ。
けれども、私はそんな銀河連合の大群が襲い掛かる中でこうして生き残って此れを執筆
するのだから世の中如何転ぶかわからない話だな。
 如何して生き残れたのか? 其れは私が向かって行く事で軍者達も同僚の教師達も
望み絶えた状況で更には本能が悲観を受け入れた状態に少しだけ楽観が押し寄せた。
私を止める為に彼等は己の意志で本能に命じた。其れが良い作用を働いたのか、其れとも
奇跡と呼ばれる物を生み出したのかは今の私達には推測出来ない。だが、此の御蔭で
生徒達の中で死者は一名も出さないという結末を生んだ。確かに幸運ばかりではない。
「恩師」を含めて軍者や教師達に死者が出たのは事実。だが、此れだけの状況下で
生徒達一名たりとも死なない上に生還後の身体検査で銀河連合が一体も付着
しなかった事を受けても此れは奇跡と呼べないか? そうだ、表現しようがない。
 肝心の私のついて段落を変えて語ろう。私は大群の中で確かに色んな所を齧られ
続けて何時死んでもおかしくなかった。其れでもまだ残る私の生徒達を助ける為に必死
に成った。誰も他の教室の生徒迄助けようという意識は働かない。決して彼等を救う事
が義務だと思った訳でもない。謝罪したかった。あいつらに。其れはあいつらに今迄
自分が「先生」を演じていた事か? 其れとも生徒の一名を傷付けたからか? 其れとも
あの場で自分だけ逃げてしまった事か? そうじゃないんだ。私自身への本能に対して
謝罪したかったのだ。今を謝罪せずして此れからも此の先も謝罪するなんて如何して
明日へと向かえるのだ。過ぎ去った事に謝罪するのではない。其れは終わった事なんだ。
そうじゃないだろう、謝罪とは。過ぎ去った事に何時までも謝罪しても戻らないのが
此の世ではないか。そう思い、必死で私は意識が暗闇に落ちる前に彼等を探して
見付けては自らの肉体の限界も考えずに彼等の命を守る為に奮闘した。例え戦いが
出来なくても私は意識が続く限り己の意志を行使した。楽観を行使したんだ。そして生き
残った。
 私は確かに演じ続けた。其れ故に目覚めてから私は生徒達に、そして学校関係者に
謝罪した。だが、謝罪した私に待ち受けるのは謝罪する意味がわからないという彼等の
怒りの声と私のお陰で多くの生徒達が命を救われた事への感謝の声だった。驚いたな、
私の行動が軍者達に勇気を与えるなんて。私の行動が教師達に勇気と生徒達の為に命を
懸ける事に繋がるなんて。そして私の行動で私は本当の意味で「先生」内村苦楽に成る
なんてな。私は演じる内に私に成ってしまった。
 おっと長く成り過ぎた。其れでも私は演じ続ける事は良くないと思って生徒達、そして
学校関係者に別れを告げようと思った。どれだけ残留の声があっても教師の免許を
持たない私が、其れに「恩師」が死んだ今と成っては最早代わりを務める意義はもうない。
其れでも彼等は私の残留を諦めない。とうとう腰が折れた私は少しだけ残る事にした。
たった一の日だけな。そして別れ際に私の生徒達に次のような言葉を送った--』

 第百十五話 少年よ、大志を抱くんだ

ICイマジナリーセンチュリー二百六十一年四月八十四日午後五時五十七分四十四秒。 完

 第百十六話 武士道とは死ぬ事と見付けたり に続く……

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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