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一兆年の夜 第十七話 猫と鼠

 ICイマジナリーセンチュリー五十七年八月三日午後八時二分十七秒。

 場所は東物部大陸ピタゴラス地方廃タレス山成人体型二百付近。平均成人体型
十四もの竹に囲まれた竹製の小屋。
 そこへ齢三十五にして一の月と五日目になるラエルティオ猫族の中年がやって
きた。成人体型は猫族にしては大きく、約一もある。だが体毛の方は苦労性なのか
白以外の色が見られない。
 そんな苦労性だろう中年は前左足で三回竹の扉を叩く。
「何でちゅか?」
「我様の名前は大山ニャ朗と申にゅ! 今は亡きラエルティオ族の猫でありにゃす
にょ!
 どうか今晩だけ泊めてもらえにゃいでしょうにゃ?」
 齢十五にして十五日目になる今は亡き小タレス村出身である鼠族の少年は少々
戸惑う。何故なら小屋は狭い。人族の者が泊まるには窮屈な所に鼠族の少年と
猫族にしては大きすぎる中年を泊めたら夜を無事過ごせるかわからない。そんな
悩みから生じた戸惑いだ!
 だが少年は代々継いできたとある魂からそんな戸惑いを吹っ切る!
「いいでちゅ! 狭いでしょうがどうかお入り下さいまちぇ」
「恩に着るにょ!」
 少年の懐の大きさに感動したニャ朗は左足で扉を開けて狭い小屋の中に入る。
「も、申しわけありまチェん! とてもあなた様を入れる為に小屋でなくちぇ--」
 少年は灰色の体毛を震わしながらも小屋の狭さを釈明するが--
「いいって事にょ! そもそも我様が大きすぎるのがいけないにょ!」
「ゆ、許すのでちゅか?」
「むしろ申しわけがにゃいのは放浪者風情で勝手に他所様の小屋に泊まろうと
すにゅ我様の方にゃろ?」
「いえいえ、と、とんでもございまちぇん! 僕の方こそ--」
「そんなことはもう良いにゃろ!
 それよりもあなたの名前を聞きにゃい! 名前がわからにゅと我様としましても
恩の返しようがにゃいぞ!」
「そ、そうでちた! えっと……僕の名前はチュウ兵衛。名字は田中でちゅ。
 出身はタレス村でちたが、もう無くなってしまいまちた」
 チュウ兵衛はタレス村という言葉を出して少々両眼を下の方に向ける。
「そうにゃ。まあ訳を聞くわけにもいかにゃい。今晩はただ泊まるだけの話にゃ。
 我様は明朝にここから出にゅ。それまでの付き合い故、今は楽しい事にゃけを話し
合えば良いだけにょ」
 ニャ朗は相手の事情にできる限り踏み込まないように努める。それには彼なりの
理由がある。そして、彼もまた自分の事情に踏み入らせないように努めようと必死
だ! それに気付いたのか、チュウ兵衛は--
「あなた様の想いはわかりまちた。あなた様は確か放浪者と申しまちたよね?
 つまりあなた様は何か重いモノを背負って旅をなさってまちゅ。その重いモノはどう
であっても僕は貴方様に出来る限り踏み込まないようにしまちゅ!」
 チュウ兵衛はニャ朗をまっすぐ見つめながらそう言った!
(とはいえ結局は踏み込むだろうにゃ。我様はいつだって他者の心の隙間に入り
込んで痛い目を受けにゅ!
 あの時にゃって! あの時にゃって!
 いかんいかん! そうゆう心持ちは良くにゃい!
 死んだペルニュアの言った事を守らにゃいと!)
「どうしたのでちゅか?」
 下の方から覗き込むようにチュウ兵衛はニャ朗を心配した。
「申し訳ないにゃ! つまらない事で考え込んだりしにぇ!」
「つまらない事? それなら僕は大歓迎でチュ!
 ねえねえ、どんなつまらない事でちゅか!」
 チュウ兵衛は両眼を光らせながらニャ朗に迫った!
 あまりの迫力にニャ朗は--
「え、えっと、じ、実にゃ、その、ほら昔を思い出したんだ!」
「どんな昔でちゅか!」
「あれはちょうど十の年より前の事にゃ!
 セネカ町を訪れた我様は思わず飛遊生代いくよ様の御子装束を汚してしまっにゃ!」
「そ、そ、それは大変でチュ!
 生代様と言えば現在も存命中の壱生様の第三子にちて新セネカ人族である飛遊
家康様に嫁いだ美女!
 よ、よほどお叱りを受けたんじゃないでちゅか!」
 心配そうな質問とは裏腹にニャ朗は顔髭を長く伸ばすように笑顔で答える!
「それが不思議な事に我様の勘違いで済んだにゃ!
 実は生代様はすでに大マンドロス町に帰郷中で御子装束を着ていらした御方は
物真似一族であるボルティーニ家のエリシア様だったにょよ!
 どうだ、面白い話にゃろ!」
「はあ、確かにつまらない事でちゅね」
 落ちがあまりにも期待から離れていたのか、チュウ兵衛は両肩の力を一気に下げ
た。
「他にもつまらない事で悩んでいたにゃ! 聞くにゃ?」
「いいでちゅ! どうせ落ちが宜しくないのでチョ?」
「どうせ眠るまで時間はあるのにゃろ? 聞いているとだんだん眠くなれると思うが
やめとくにゃ?」
「うーん……決めた! 我慢出来るギリギリまで聞いてみるでチュ!」
「それでいいにょ! では我様のつまらない話百連発を聞くがにぃ!
 それは八の年より前の出来事にゃ。大プロティ町を訪れた我様は南地区三番地で
お土産を買おうと思った時の事にゃ。ちょうどマンドロン硬貨が無かったにょ!
 我様は大プロティ町名物のプロティイム茶を飲もうと冬に訪れたというにょに!」
「そ、それは大変でちゅ!
 あの甘い香りがすると噂されるお茶が飲めないと折角来た意味がありまちぇん!
 そ、それでどうなりまちたか?」
 またしても顔髭を長く伸ばすように笑顔で答えた--迫力を持たせるように!
「体毛、それに顔髭全てと交換で飲む事が出来たにゃ!
 いやはや、あの時は後先の事よりも一杯のプロティイム茶の味に感動したにゃ!」
 嬉しそうなニャ朗に対してチュウ兵衛は大きな溜息をついた!
「どこまで真実でちゅか?
 その後そこまで伸びきるまでどう顔を上げきったままでいたのでちゅか?
 まさかそのまま暮らしたとか言う話は良くないでちゅよ!」
「そのまま旅に出たにゃ! あまりに赤面するのでにぇ!」
「それじゃあ神様に申しわけがつきまちぇんよ!」
「まだ二発目を放ったばかりにゃ! 三発目もいくにゃ!」
 それから三の時より後までニャ朗はつまらない話--実は自慢話--を眠気に
負けるまで語った!
 そして二名は幸せそうな顔で眠りに就いた……。
 なおチュウ兵衛は眠るまでに二十四もの話を聞かされた!

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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