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一兆年の夜 第百話 蒼穹の紅蓮 希望は未来だけじゃない(三)

 四月八十三日午後九時十二分三十五秒。
 場所は雄略大陸南側草香幡梭姫くさかのはたびひめのひめ川。
 其処は清めの川と呼ばれる事もある。かつて蒼穹と紅蓮の祖母に当たるソーラ六代は鎮めの雌として度々其の川で髪を洗ったとされる神聖な場所。
 だが、其処で蒼穹達現地を合わせた五十二名だけで百倍以上の戦力に対して激戦を繰り広げる。既に地同斗波は昨の日より前に足首に受けた傷が重く圧し掛かり、想念の海に旅立つ。勿論、斗波だけではない。蒼穹の両腕に抱かれるようにサルタビロウ八代も終わりを迎えようとしていた。
「大丈夫だ……サルタビロウ。暫くの間だけ眠って適切な治療を施せば--」
「だがっち。だが……僕はっち。僕はもう、ほんのっち。ほんの、少ししか、生きられないっち」サルタビロウ八代は静養しても僅かな命ならいっそ其の侭、去る事を既に決めた後だった。「さ、最後にっち。生きて、生きて、下さいっち。僕、達、の、分、まで、ぇ、ぃ……」
 サルタビロウ八代は其の侭、二度と目覚める事はもうない。蒼穹は斗波やサルタビロウ八代だけではない。既にサルタビロウ八代を含めても九十名近くを死なせた事に責任を痛感する。
(わかっていたさ。其れでも……俺は放って於けなかった。せめて全員が生き残る道を模索して奇襲戦略で各個撃破を狙って来た。だが……数の差は僅か三の日で俺達の数を三分の一まで減らしてくれた!
 こう成れば……いや、俺は何の為に伏線張ったかわからないじゃないか。だが、其れはあくまでも知らせてしまったら奴等が力を出し渋ってしまう。俺達は俺達だけで銀河連合の大群を……って指揮官型!)
 一瞬で中同近正の左腕を切り落とした逸れ銀河連合指揮官型の速度に意識が持っていかれる蒼穹を始めとした幹部十名。
「近正さん……大丈夫ですか!」
「ウググ……俺が、斗波叔父さんと同じように死ぬ運命にある--」
「馬か鹿か言うんじゃないゾゾ、若造ウウ!」既に両目の光を失い、更には左後ろ足を切り落とした後である近藤イノ四十三郎。「此処は年寄りに任せて……生きろオオオオウウ!」
 拙い、止めるんだああ……イノ四十三郎さアああん--ルーララに切断面を白の包帯で縛り上げる中で右手を突き出してイノ四十三郎を制止しようと叫ぶ近正!
「後は頼んだ--」
「勝手に……死ぬんじゃないエエ、馬か鹿な若造エエ!」
 後尾で僅かに持てる岩を投げてイノ四十三郎の踏もうとする右前足に踏ませると其の侭転ばせてから素早く指揮官型の前に体を潜り込ませたヘビータ三十六世--其の侭、指揮官型の繰り出す下右手に持った雄略包丁のような何かで逆さ縦一文字、中断左手に持った何かで斜め左上から右下に掛けて一文字、余計な押しに腹部にある隠し腕が持つ何かで横一文字で支離滅裂にされた!
「何と……音で……わかるぞオオ!」
 イノ四十三郎はヘビータ三十六世の命懸けの行動が気休め程度だと思っていた。其れでも助けられた恩を感じて少しでも生きようとは思っても気休め程度では少し寿命が永らえるだけで状況は変わらないと理解していた。故に指揮官型の攻撃に対して定款を決め込んでいた--だが、死ねない生命は何処まで行こうとも死ねない……サーバラ四世が左目を切断されてでもイノ四十三郎を守った!
「うーうぐううあああ、ハアハア……勝手に死ぬ権利はここでこうししちゃあいけないのバアル!」
「クウ、止めるんダダ!」
「だー大丈夫……あたいの四足歩行式蘇我鋭棒は、逸れ銀河連合だろうと活かし切るバアル!」
 サーバラ四世の渾身の突きは……「なーなっ……馬か鹿かバアル!」指揮官型の素早過ぎる粉切れで貫通力を削ぎ落とされた!
「ウーウワアアアア--」
「ウオオオオオオ、カンガルー拳法ヲ……ウオオオ、右前足がああ!」
 ミローダの右前足の渾身の突きは指揮官型のたった一回の逆さ一文字で阻止された。だが--
「背後……取ったぞ!」だが、ゴリンブロウダーは隠し腕が全面だけじゃないと気付かずに胴体に七ヶ所も刺し込まれる。「ブフッ……此れっで、良いんだ!」
「はい、兄さああっああん!」流石に上からの攻撃には隠し腕の用意もなく、ゴリンブロワダーの両前足に持った人族用の蘇我鋭棒で股間に掛けて迄深く貫通した。「兄さん……此れで終わりっましたよ」
 だが、ゴリンブロワダーは倒した筈の指揮官型の内部で何かが蠢く事に気付かない。そう、其れは用意された逸れ液状型だった--只では死なないというのか、指揮官型とは!
「やらせるかああああい!」真島ギャルラッ弩は全身に物部刃のような何かを二十八ヶ所も刺さった状態であっても全身を投げ出してゴリンブロワダーを切り離すべく体当たりを敢行。「乗っ取るなら……僕に乗っ取れええい!」
「そ、其の声は……止めるんだアア!」イノ四十三郎は遠征部隊最年少のギャルラッ弩が自らの命を差し出してでも彼等を救った事を聞き取ってこう訴える。「何故可能性のある若造ばかりが、投げ出すのだアア!」
 だが、訴えも空しく……ギャルラッ弩は全身を液状型に乗っ取られてしまった。そんな彼を命を懸けて指揮官型に刺さっていた鋭棒を切り離して投擲したのは……ゴリンブロウダーであった--二名の死に顔は……悲しく痛ましい物ではなかった!
「に、兄さん……胴体に七っヶ所刺さった状態で……ウウウ!」
「す、済ミマセンネ」ミローダはルーララに依る切断面への入念な毒抜きと白の包帯で何重にも強く巻かれながらも指揮官型を倒す為に死んでいった三名への黙祷を始める。「済ミ、マセン……」
 だが、戦場はまだ続く。次々と戦士達の命を喰らいに来る逸れ銀河連合は黙祷する暇も与えない。だが、蒼穹は黙祷する時間を設けさせる為に神武包丁が例え刃毀れを起こして次々と刃を欠けようとも三種類の剛胆の舞及び疾風の舞で縦横無尽に川の流れが刻一刻と変化してゆく草香幡梭姫川を動き回る!
(此れで何度目だ……数の差は例え俺が百倍頑張っても気休めにしか成らない。こんな時に……ウグウウ!)
 だが、只でさえ持ち病を抱える蒼穹には両肺に重く圧し掛かる--右膝を付いて左手で口元を抑える程に激しい吐血が襲った!
 そんな様子を見て逸れ百獣型が襲い掛からないなんて都合が良過ぎる--蒼穹は迫っている事に気付かない訳ではない……だが、吐血の激しさと予想外の肉体の重みのせいで反応が付いていけなかった!
 此処で蒼穹の命は幕を閉じる……誰もがそう思っていた--其の時、百獣型の繰り出す左前脚の肩に神武包丁が突き刺さった……其れに悶えて百獣型は僅かに蒼穹に反撃する時間を与えてくれた!
「全く……お前は出て来るのが遅過ぎるぞ!」突き刺さった神武包丁を素早く抜くと百獣型の首を刎ねた蒼穹。「御蔭で俺の肉体は川に流されなく成ったぞ!」
「まさか……此のオオの数は!」
「其の反応……全く兄さんの秘密主義には呆れて物が言えない」紅蓮率いる真古天神武遠征軍が漸く戦場に駆け付けた。「だが、もう安心して良い……兄さんはみんなを連れて後方に下がってくれ!」
「……蒼穹様は、全く」
「全くですよ、お父様は」紅蓮だけじゃない……「私達には黙って南雄略に危機に全力で向かうんですから!」齢十四にして五の月と五日目に成る蒼穹の第三子白髪が真古天神武包丁と呼ばれる長期間硬度が保たれる包丁を抜いて駆け付ける。「安心して私達にお任せ下さい!」
「……白髪め。良いだろう、お前の言う通りにする」
 そうして紅蓮達凡そ三千名もの遠征部隊の登場で生命側優勢とはいかない戦場も一変した。援軍を前に僅か三の分より後に逸れ銀河連合側は退却を余儀なくされた。
(此れは大きく響いたな……もう俺は残された時間が大きく縮まったぞ。さて、其の時間を一体どのように過ごせば良いんだろうか?)

『--約束通り兄さんは生き延びた。やがて兄さんが秘密裏に南雄略に向かう前に私に
提案した作戦は成功に導いた。確かに私達が率いる三千名程では何れ数の上での利無し
は覆らない。だが、兄さんは其れを知っているからこそ敢えて三段構えを採った。其れが
私達の次に向かう部隊で島中を包囲して私達上陸部隊を含めて挟み撃ちにするという
作戦。其の部隊は私達よりも二の日より遅く出航。其れも相まって私達が上陸するのが
少し遅れた。其の遅延で助かる命が失われたのは事実だ。だが、言い訳をすれば連携が
上手く行かないと作戦は成功しない。其れに指揮を執ったのは私だけじゃない。
遠征軍司令である。彼は自らの責任を懸けて私に進言し、私も其れに従った。何故なら
私は大王である。大王である以上は王と同様に任命責任を踏まえて判断したのである。
そして僅かに後続の部隊に何かしらの事故が起こった事を察知。そうして三隻程、敢えて
後続の遅れを取り戻す為に向かわせた訳だ。
 まあ其の話は機会が有ったらしよう。そろそろ兄さんの物語の幕引きを紹介しよう。
其れは--』

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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