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一兆年の夜 第九十九話 蒼穹の紅蓮 現在を憂いても尚、(四)

 十月百十日午前八時二分四十一秒。
 場所は真古天神武首都ボルティーニ府中央地区中央官邸二階第一最高官室。
 其処へ齢三十二にして十六日目に成る蒼穹は他の者と同じように中へ入る。齢三十六にして五の月と二十三日目に成る最高官である猪田イノ唐山に対して。
「蒼穹様アア、別に蒼穹様迄俺達と同じようにしなくても良いのですヨヨ」
「まだ軍務大臣だからな。其れに」蒼穹は右懐に仕舞う掌で収まる白浪の似顔絵を取り出す。「白浪の為にも俺は何時までも力を追う訳に行かない」
「ですガガ、白浪様の死を契機に蒼穹様には既に仙者の呼吸法らしき片鱗が見受けられまスス」
「何……確かか?」
 蒼穹は気付かない--既に紅蓮と同じように呼吸をする己に。
「蒼穹様が気付けないのも無理はありませンン。何しろオオ、度々蒼穹様はマンドロス山を登山しておりましたから其の影響もあって山での環境適応が功を奏したのでしょうナナ」
「解法が一つだけと思ったら大間違いだ、イノ唐山!」
「確かに兄さんの言う通りですね」隣の第二最高官室より顔を出すのは紅蓮。「誰だって一つの確実な答えを求める物です……が、其れは思考を止める事に他成りませんよ」
「二名共やっぱり御兄弟ですね……はアア」
 イノ唐山の乾いた溜息は第一最高官室を充満させるまで時間を掛けない。だが、蒼穹は其の時間を待つだけの余裕はない。
「早速だが、用件は何だ?」
「あ、そうでしたネネ」すっかり用件を伝えるのを忘れるイノ唐山。「実は此度の選挙では……是非共、筆頭最高官の所をお願い申します!」
「ああ、良いぞ」即答する蒼穹、理由は次の通りである。「俺はまだまだお前から学ばないといけない。後四の年をお前から学ぶ……其の為に筆頭最高官の地位を甘んじる!」
「まさか即答でしたとハハ」
「そりゃあそうだ。昔なら兎も角、今の兄さんはもう……あの頃みたいな兄さんじゃないからな!」
「そうだ、紅蓮。其の為に……って伏せろ、イノ唐山!」
「え……ってうわあアア!」イノ唐山は元々鎌鼬流故に素早く巨体ながらも机の下に隠れた。「銀河連合……党本部を襲ったあの時と同じようナナ!」
 机の上に乗っかり、燃やし始める炎指揮官型。紅蓮は種類こそ混合型とはいえ、姿形は紅奈を死なせた指揮官型其のモノ。勿論、怒りは湧き起こるだろう。だが、其れ以上にあの時のように何も出来ずに恐怖で両膝を震わせる己であった--紅奈を死なせた指揮官型……けれどもあの時のように何かをしたいという一歩が踏み出せない己も同時に感じる!
「紅蓮……お前は包丁を抜いて構えておけ」既に抜き終わった蒼穹は既に間合いを詰めて指揮官型を外に吹っ飛ばす。「たあ……逃がすかよ!」
 紅蓮は訳もわからない自分で居た。というのも蒼穹が窓の外へと飛び込んで一階下で見事な受け身を取りながら炎指揮官型を追い詰め続ける。そんな中で紅蓮は自らの足で階段を下りて向かうのではなく、自ら窓から飛び降りて右足を捻る程の痛みに悶えながら蒼穹と炎指揮官型との一戦を見届けようと駆け付けていた!
「馬か鹿か……紅蓮!」炎故に斬撃を中々繰り出せない蒼穹は後ろに下がらされつつも少しでも炎指揮官型を己に集中するように攻め続ける。「おっと……お前の相手が俺だ!」
「いでで……わかってるさ」建物に背凭れしないと立てない程に右足首を捻る紅蓮。「右足の痛みが酷い時でも……僕は兄さんの戦いを見守らなくてはいけないんだよ!」
「紅蓮……わかった」敢えて胸元を広げた蒼穹は……「お前の僅かな踏み込み」炎指揮官型を誘わせてから一気に心臓部を渾身の突きで決めた。「確かに受け取った!」
 紅蓮は其の見事なまでの間隔と更には突きを放ちつつも同時に回避行動を行う蒼穹を見てこう述懐した。

『--あの突きを前にして私は王の位を譲ろうと思った。あの動きは間違いなく
仙者其の物だった。実際に私達は父さんと白髪、其れに紅以外の仙者しか知らない。特に
白髪と紅は後に仙者独特の呼吸法を身に付けるから当時の私は父の物しか知らない。
だが、そんな私でもこれだけは思い知らされた「あれこそが代々から続く天同家の仙者
だと!」な。
 まさか私にそんな決意をさせる生命が身近に現れるなんて思わなかった。故に私は
選挙の後に筆頭最高官として第二期を務めるイノ唐山と共に仕事をする兄さんの元まで
駆け付けたな。確か--』

 ICイマジナリーセンチュリー二百三十九年一月三日午前十一時一分二秒。

 場所は真古天神武首都ボルティーニ府中央地区中央官邸二階第二最高官室。
 今の年に入って別の官邸に政務を移す予定。其の為、最後の仕上げとして蒼穹とイノ唐山はたった二名だけで引き継ぎの資料の回収に当たる。其処へ紅蓮がやって来る。
「何だ……紅蓮?」
「早速だが--」
 お前が言いそうな事はわかる……だが、俺が一期だけ最高官を務めるまではお前が王として全生命体を導いてくれないか--と返事をする蒼穹。
「で、でももう兄さんに位を譲る段取りが完了したよ!」
「そ、そうですヨヨ。もう都合の良くない状況じゃあありませんヨヨ」
「俺はなあ……最高官を目指すと言ったんだ。ならば一回位は最高官とは何なのかを知らないで如何するか!」
「兄さんらしいな……全く」
「ああ、そうそう」蒼穹は何かを閃く。「お前が俺に譲ろうと此処へ話を持ち掛けた際に思い付いたんだがな」
「何だい、兄さん?」
「俺の次は……紅が次期王に指名したい」
「紅を?」
「ああ……あいつは、早くから仙者の呼吸とは何たるかを知りつつあるぞ」
「……気付いていたのか」
「え、そうなのですか……って紅蓮様も既に知っていたのですネネ!」
 ああ……と言うよりもどっちみち紅以外に王の座に就ける天同の者は居ないんだけどね--紅蓮は男系継承上、仮に紅が仙者の資格を有していなくとも彼以外の選択肢はないと知っていた。
「本来ならば仙者の呼吸を有していない天同家の雄は摂政以外に選択肢はない。だが……あいつしか居ない場合は仙者でなくとも紅にするしかない。全く銀河連合め……いや、銀河連合に全ての責任はちと都合が良過ぎるな!」
 やっぱりイイ、蒼穹様は蒼穹様ですナナ--とイノ唐山は呆れた溜息を吐いた。

『--尚、新官邸に移住する理由は選挙期間中に起こった指揮官タガの襲撃が理由では
ない。前々から老朽化が進んでいる事を受けて改修工事に着手しないといけなかった。
此れは鎌鼬党政権以前の剛力党政権の頃より言われ続けた事である。決して一回や
二回の銀河連合の襲撃で全てが決まる話ではない。
 さて、蛇の足の説明を終えた所で次の話に移る。其れは兄さんが鎌鼬党を率いて遂に
最高官に就任した後に同じ年に政権引き継ぎの際の話だったな。確か--』

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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