FC2ブログ

一兆年の夜 第九十八話 蒼穹の紅蓮 過去に思いを馳せて(二)

 ICイマジナリーセンチュリー二百三十四年七月十九日午後二時二分四十一秒。

 場所は真古天神武六虎府工業都市第二西地区。其処では望遠砲の改良が進められる工場が並ぶ。
 齢十四にして九の月と十五日目に成る蒼穹と紅蓮は再び抜け出して其処へ単身向かう。
「兄さん、父さんに知られたら溜まった物じゃないぞ!」
「わかってる。けれども現総理ラゼンルノも言ってただろう。若い内から無茶をして良いって!」
「其れは確か……其の侭に受け取ってはいけない事じゃないの?」
「良いんだよ、其の侭でも」蒼穹は前向きだった。「九の年より前に言っただろう、俺達二名が力を合わせれば無茶だって十分茶が入るって」
 何でお茶の話に成るのさ--紅蓮は其処まで賢しくなかった。
(全く紅蓮の奴は無茶という字をちゃんと読めてないな。あれはなあ……いや、今はそっちじゃない)
 蒼穹は未だに紅蓮が次期王に選ばれる事に満足しない様子。其れでも抜け出した理由を考えると紅蓮の事で一々何かを思い出す訳にはゆかない。目的は第二西地区にある更に改良された望遠砲の無断視察。其の為には紅蓮と共にその現状を此の目で見ないといけない。
「では行くぞ、付いて来いよ!」
「ああ、僕だって覚悟は出来る!」

 午後三時七分十八秒。
 工場内にて二名は製造に携わる生命達の手際の良さ、火の調整の巧みさ、室温は適正なのか如何かを確認。
「暑いねえ、兄さん」
「ああ、暑過ぎる」
 二名は仕事場が異常な程に高温である事を危惧する。特に蒼穹は次の事も指摘。
(水道水を飲む為の蛇口が一つもない。全部工業水だ。然も休憩なしで三の時も四の時も……其れじゃあぶっ倒れる生命だって何名も出るんじゃないか?)
 事実、蒼穹の指摘する通りに此れまでに三の時以上も水分補給なしに作業する工員の十名の内の半数以上が作業中に熱中症を発症。年間で百名換算で二十二名が仕事を辞すか或は二十二名換算の内の五名が其の侭息を引き取る事が多発する状態に。
「兄さん、水が飲みたいよ」
「ああ、そろそろ帰ろう。此のままでは俺迄頭痛に悩まされそうだ」
 蒼穹と紅蓮は静かに去った--が、一度だけ戻っては工場で働く全ての従業員分の水を購入して其れを振舞ったとされるが果たして本当なのか?

『--ああ、確か兄さんが水を振舞ったとされる話だけどあれは私は知らない。多分、
私が日記を書き始めようと決意した時期に誰かが兄さんを正しい指導者だとしたい為に
広めた根も葉も仕上がらない噂だよ。けれども、次の話は本当だからな。多分、其れが
先程の噂が広まった原因かも知れないな。
其の話は確か--』

 七月二十一日午前十時二分三秒。
 場所は首都ボルティーニ中央地区中央官邸二階会議室。
 蒼穹は去年と同じく会議室に侵入--
「--つまりですね……と其の前に」齢四十四にして十の月と六日目に成る神武人族の老年天同蒼天が倒れる三の年より前の出来事。「忍び込むのは気付いているぞ、蒼穹!」
 気付いたのは蒼天だけじゃなく、現軍務大臣にして齢二十九にして五の月と十二日目に成るテレス熊族の青年真鍋ベア小十郎もそうであった--故に蒼天が後方口に向けて声を発すると同時にベア小十郎は事前に移動して左前足で蒼穹の紺色の襟巻の袖を掴んだ。
「あ、もう気付かれたか……なら早い!」蒼穹は見付かる事も想定していた。「早速だが、親父達にお願いする!」
「一回だけなら何とでも聞ける!」
「お願いだ、工業都市全ての工場に飲料水用水道の設置と一の時毎に一回の休憩をお願いする!」
 何--意外なお願いに蒼天は我を忘れる!
「まサアカ、忍び込まれたのですな……一部の工場ニィ?」
「ああ、俺は痛感した……望遠砲の生産があんなにも蒸し暑いって事に!」
「……現状では無理だ」
「え、何でだよ!」
「話はもう終わっただろ……摘まみ出せ!」
「はいヨォ!」
 待てよ、親父……何名熱中症患者を作る気だああ--放り出され、後方口の扉が閉まる迄に同様の言葉が蒼穹の口からどれ程会議室内に轟いたか……数え切れない!
「はあ、我々が進めている事を……あいつはあの歳で既に発想していたなんてな」
「然も其れ考えたのが……なあ」齢三十四にして一の月と十三日目に成るキュプロ栗鼠族の中年にして現最高官であるラゼンルノ・メデリエーコフは齢二十七にして十一の月に成ったばかりの現産業大臣であるアデス羊族の青年メエジェン・メヒイストに目を向ける。「産業大臣殿」
「はあ、子供ってのは大人を軽く超えて行きーイますか。末恐ろしーいな、将来が」
「蒼穹は才能ばかりが突出しているな……だが、其れでも最高官までが限度だ」
「王に成れない……と?」
「ああ、其れが真古天神武の法律だ。だが」蒼天は次のような可能性も論じた。「若しもあいつが仙者の呼吸まで才能のみで辿り着いたならば……長男優先で王として世襲しても構わない」
「大胆に行きましたね。でも呼吸法は才能だけでは如何しようんもありませんが」
 まあ可能性に過ぎない……そうだな--と蒼天は其の可能性を隅に置かずに其の侭、記憶に留めた。
 此の出来事もあって工業都市に於ける熱中症問題の解決を図る為の改築工事は翌年を待たずして僅か九の月の後に前倒しされた。其れは当初、多くの官僚が王である蒼天が息子に甘いから予定が詰まる工事関係者達に無理を申し入れた物だと判断した。だが、そうではない。

『--あれは父さんが工事関係者の予定表の穴を衝いて無理矢理前倒しにする事で可能
にした物。まあ兄さんの訴えも確かにあるかも知れないな。でも兄さんが訴えなくとも
何れは父さんが産業大臣の案に現最高官の改良を加えた物に認可するかも知れない。
ま、王がやれる事は限られる。私が記せるのは其れ位か。にしても兄さんは素晴らしい。
当時の私は何時も兄さんに思い知らされて来た。何事も先を行く発想に更には現在進行形
で話し合われた事と同じ速度
恐ろしい速度で大人達と同じ視点に立てる所に。敵いは
しないな、私は。
 だからこそ優れた兄が居ないこんな時代が辛い。辛いのだよ、其の優秀な兄が居ない今
の時代が。さて、まだまだ過去に思いを馳せる時間だ。次の話は--』

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
リアルタイムカウンター
現在の閲覧者数:
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR