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一兆年の夜 第九十四話 衛星世界旅行(張)

 三月三十五日午前七時二分七秒。
 場所は不明。三名は睡眠時間三の時と三交代を繰り返して夜を過ごした。
(一の日に一食は余りに腹が空くから全然眠気に就けられない! 所長と二凝さんは良く持ち堪えるよなあ!)
 事実、一の日に三食或は二食に馴れた生命はいきなり一食の生活を始めても直ぐに体が慣れる訳ではない。少しの間は空腹の余り眠る事も難しい。其処で登場するのが酸素供給機の存在。七段階に目盛りを調整出来る機能は眠気に就けない状態でも少し供給量を増やすだけで快眠を約束される。つまり通常は三段階目で調整され、作業時は四段階目、快眠時に少し間隔を空けつつも五段階目に調整して三の時三交代を実現する。其れでもキッ次のように眠気に就けない生命は必ず発生するのも無理からぬ事ではない。
(心身に何か溜まっているのかな! 其れとも単純に一酸化炭素が顔を出しているのか! いや! 其れはないか! 兎に角! だ! 僕が余り眠れないのはきっと酸素がまだ出し切っていないんだ!)
 此の考えが後にとんでもない事態を起こすとは……此の時、三名共気付けずにいた!

 午前十一時零分零秒。
 試作六号機はとうとう引力と引力の間に入った。其処で三名は念願の第二加速器に点火する準備に入った。
「良いか……点火してから一の分と経たっずに俺達に再び衝撃が走っる!」チーンパはまるで指導者であるかのように振舞う。「後三の分まで余裕があっる……其れまで辞世の句を頭に入れっておくのだ!」
「そーんな暇なんーてない。私達ーは今で精一杯ーだ!」
「一緒です! 他の事なんて考えてられません!」
「フウ……ではそろそろ最終点検に入っる」
 最終点検とは通常点検で残っていた危険物の固定のし忘れがないか如何か。特に食べ残しや掃除のし忘れは此の宇宙にとって危険な浮遊物を増やす要因と成る。其れについて想定していたのは実は批判が多い二凝ではなく、チーンパ自身だった。チーンパはウシマルの宇宙空間内での食事の問題を聞いてこれを思い付いた。其れが掃除は何時如何なる時でも欠かさない。欠かせば無重力が容赦なく襲い掛かる。故に依り清潔感を嗜む必要に迫られるのである。結果、最終点検に問題はなかった。
「じゃあ……点火しました!」
「急っげええ!」
「慌てーると何でもー出来なくな--」
 黙って落ち着いてやれええ--と大声で注意するチーンパ!
 三名共保護帯を締め終えると……衝撃が三名に襲い掛かる--今回に限って気を失う程ではなかったのが幸いだった!
(気が……飛ばない! 飛んでない! で! でも! こ……恐いいいいいいい!)
 キッ次だけでなくチーンパも二凝も青褪めた表情で加速してゆく試作六号に身を任せる。三名は自分達が如何に小さい存在であるかを何度も思い知りつつも心の何処かで此の謀り無き挑戦に心躍らせていた!
 生命以前に三名は子供心に立ち返って未知なる世界に憧れを求めていた。其の結果、命を危険に晒すと同様に子供の心を徐々に思い出してゆく。子供とは大人と異なり、何事も考えずに踏み出す事が出来る。子供心を思い出すたびに三名はこう思う「まだまだやれる」と!
 そうして試作六号は水の惑星の引力から衛星の引力へと飛び移る事に成功。徐々に衛星の一部と化してゆく試作六号--一方でもう片方も衛星の一部と化して着実に三名の乗る試作六号に向けて体当たりの準備に入るのであった!

 午後九時七分四十八秒。
 場所は不明。月の周回軌道へと入ったのはわかるがどの軌道なのかを特定出来ずにいた。
「そろーそろ居眠りーの時間だ!」
「え! まだまだ大丈夫ですよ!」
「そうもいっかん。そうやって頑張って強烈な眠気に襲わっれたら如何するのだ!」
「僕は大丈夫です!」
「段階ーを五にしーたぞ!」
「ちょっと待て……今五としったよな?」
「ああー、そうだーが?」
 チーンパは一旦酸素供給機を零に目盛りを合わせて止める。其れから中身を確認する。其の時間は僅か二の分……深刻に成る程でもない。チーンパの懸念は只の取り越し苦労に終わった--彼は余分に酸素を使ったのだと考えたからだろう。
「ほらほら……まだまだ僕の開発した試作品はそう簡単に酸素が尽きたりはしませんって!」
「だよっな……だが、最っ近」チーンパは体の軽さにある疑問を投げる。「体が浮つっくせいでとんでもない何かを見落としっている気がする!」
「とんでもない何かって!」
「うーん……わからんーな」とここで二凝は大変な事をしてしまう。「ン……其れーよりも大変な事ーだよな?」
「無重力って確か重力と違って体に圧を掛けない現象だったよなあ?」
「ああーそうだけど……うーん、そうだ!」二凝は突然発案する。「ここは運動ーしよーうじゃなーいかあああ!」
「其っれだな。豪いっぞ、犬の癖しって!」
「猿の分際ーで私みたーいな人気書評ー家に楯突ーくか、此のー野郎ー!」
「ちょっと! 二名共! こ! 興奮せずに! そ! そうだ!」キッ次も突然、歌い始める。「僕は天才発明家合間キッ次様ー! アンタラと違ってぴちぴちの若もんだぜー!」
「言ったっな、何時っも何時っも親の威光を笠に来やっがって!」
「待てー待ーて、カンガルー体操はー犬族とー雉族ーにはー難しい!」
「お、そうだった。俺達が取り組まっないといけないのは此のお月様本部を立ちっ上げてっからという物……此の閉鎖空間で聊っかにも程がっある位に運動しておっらん事だあっああ!」
「は! そうだった! 僕達は気付くべきだった! 衛星に旅行しに行く為には! そ! そうだった! 僕達は動く事を忘れていたああ!」
「流石だーなー、チーンパ・ビーケル!」二凝は急にこんな事を口にする。「今日から君ーは衛星本部部長にー任命すーる!」
「待て待って、重要な生命を抜けって任命さっせるのは聊っか豪っく成っり過ぎなっいか……なっあ、大二凝っ!」
「そうだ! そうだ!」
「そうーだった……其ーれで誰を本部長ーにすーる?」
「そっちではっない。俺がまだあっる生命を指名していっなあああい!」
「まさか--」
「そうっだ、キッ次。簿記会計として蔭かっら望遠弾倶楽部を支えた有田アン太が居っるじゃないかあああ!」
「でーは一票ずーつだなー。さーあ、キッ次君ーは誰を立候補すーるのだ?」
「僕は……やっぱり僕はチーンパ・ビーケル以外に本部長に相応しい者が何処にも居なあああい!」
「其れーじゃあ決定だーああ……おめでーとう!」
「有難っう、本当っに有難っおオオっっオオウ!」
 三名は明くる日の午前六の時に熟睡するまで此のような謎の騒ぎを起こし続ける……

 三月三十六日午後十時一分七秒。
 場所は真古天神武テオディダクトス大陸サッカス地方西サッカス町中央地区望遠弾倶楽部二階観測室。
 其処で観測するのは齢三十四にして四の月と五日目に成るサッカス蟻族の中年有野アン太と齢二十五にして十一の月と十八日目に成るサッカス牛族のウシマル・ウシウミ、そして齢三十にして四の月と二十七日目に成るエウク蜘蛛族の糸井サク造は衛星の一部と化した望遠弾試作六号を観測し続ける。
「ンォもう一つ厄介なモノを見付けた!」
「何う!」
「どれどれ……確かにありました」
「貸してう。えっと……うおったああう!」
「ンィサッカス速報の記事に誤りはなかったか」
「如何ゆう意味です?」
「ンィえっと今の日の朝刊は……此れだ!」アン太は二凝の引継ぎを任されたサク造の為にわざわざ観測室内まで持参していた。「ンゥ此れの何面かな……此れだ!」
「どれどれう?」
 三名は上半分で紹介される記事を読んだ。
『謎の何かが天を衝く?

 西サッカス町にある望遠弾倶楽部が世紀の有者衛星旅行を敢行したのと同じ時間帯に
謎の何かが天に向けて飛んでゆくのを計十八名が目撃。(以下略)実際に其の現場に駆け
付けた者は二名。彼等への証言を入手したのでここで抜粋する。
<あれは何なんだ。確認しに行くと煙が襲い掛かって中々踏み込めやしない。蝙蝠族の俺
は初めて熱のこもった煙を肌に感じて死にそうな熱さを味わった。あのまま全身にあの煙
を味わったら俺は間違いなく想念の海に旅立っただろう。でもほら……左羽が少し焼けた
だけで済んだ。此れは運が良いという証拠だ(以下略)兎に角、煙が少し腫れた後に其の
現場に駆け付けるとよお。何だよあの穴は!>
<(以下略)兎に角さあ、熊族の誇りに掛けてその穴の先に何があるかを確かめに行った
のさ。すると出て来るのは焦げに焦げた剥き出した何かが蠢いていて迷わず俺は其の場
から逃げてしまった。元軍者である俺が新兵以来と成る恐怖を体験してしまった。恐い
ってこうゆう奴だったんだな。そうゆう訳であそこでどでかい何かが製造されていたって
訳だよ!>
 二名の証言から望遠弾倶楽部以外にも衛星に到達しようと試みる集団が存在していた
事が発覚。其れが果たして我々一般生命である保証は何処にあるのか?
 これに対して(以下略)』
 其の記事を読んで三名はこう思った「銀河連合に違いない!」と!

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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