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一兆年の夜 第九十二話 海底成人体型一万二千(十)

 二月二十二日午前三時十八分五十七秒。
 場所は不明。外部船員室で深い眠りに就いた筈の三名が同時に目覚める事態が発生。
「何か知らねエガァ、健康に良くない夢を見チイマったあ!」
「何なんですかッケロ、いきなりッケロ!」
「はあはあイモォ、もしかしたらリィ」
「何カアイわかったのか--」
 扉を強く開ける船員が一名。蛇足族の生命は利き親指で『付いて来い』と三名に指示を送る。
「やっぱり此の為に例の技術で私達を叩き起こしたのですねリィ!」
「あの技術は考えるのも限界ですっケロ」
「細かい事考えずに付いて行くゾォウ!」
 三名は船員の後を追うように乗り込み口まで駆け付ける。するとその出入り口が開いていた。
「何イモォ、先に出て下さいリィ?」
「これは良い--」
「いえッケロ、今は下手な事を口走らないで下さいッケロ」
 わかったゼェイ、カエルヒコ--ベアッ土は思わずあの計画を漏らす所だった。
「……」蛇足族の船員は其れを聞いても何も反応を示さない。「……」
「どっちみち私達を必要とする事柄だイモォ、行くぞリィ!」
 三名は外へ出た。すると見えるのは成人体型高さ三十、横幅五十一、縦幅七十七にも成る巨大な蒸気船。其れを見てイモール達は三者三様の反応を示す事に。
 ベアッ土は上着を脱いで其れに持参した銛を括り付けて旗代わりとして活用。カエルヒコは蛙族の独特な声を駆使して救助を求める。おっぽうのイモールは次のように考え始める。
(蒸気船にしては何だか見た感じの材質が少し異なるリィ。船を全て鉄だけで覆い尽くせるだけの技術を今の真古天神武が所有するのかリィ? いやイモォ、そもそも鉄は未だに謎の解明されない材質だぞリィ。下手に水につけると溶けて使い物に成らない代物だぞリィ。
 だとすればあの蒸気船は……何となく--)
 考える……までもありません--三名の背後にネロリモ船長は立つ。
「またお前かヨォイ!」
「今から僕達は--」
「何故私が君達に……あの船のようなシロモノを見せたのか……教えましょう!」
 其れを聞いてカエルヒコとベアッ土は信じられない思いでネロリモ船長に訂正を求める。一方のイモールは確信に至った。
「カエルヒコ君にベアッ土君イモォ、少し静かにしてくれないかリィ」二名の口を閉じさせるとイモールは尋ねる。「もしかしてあれがネロリモ船長が求めていたモノですかリィ?」
「君たちの時代では……あのようなシロモノは知らないだろう。だが、私の時代では……あれは空の惑星を焼き尽くした恐るべき……浮上船に良く似たシロモノだ!」
「ならば如何するのですかリィ?」
 今から……粉々にしてやる--恐るべき一言を告げてネロリモ船長は中へと戻ってゆく。
「ま、待てヨオウ!」
「粉々にってッケロ、其れは幾ら何でも一般生命の倫理を超えた越権行為ですっケロ!」
「ああイモォ、閉め始めたリィ!」ネロリモ船長は例え仲間が死ぬ事があっても……「二名ともイモォ、直ぐに中へ入るぞリィ!」必ず無念を晴らす決断力を知るが故にイモールは二名に避難を促す。「ネロリモ船長は本気だリィ!」
「あの野郎メエイ、何処まで突破してるんだヨウィ!」
「もうこれ以上付き合ってられませんっケロ!」
 其れから三名は船員に案内される形で船長室まで迎えられる。其処で船長室に入って直ぐ右側の展望窓から浮上船に良く似たシロモノの下腹部が見える--ネロリモ船長の、そしてイモールの推察した通りに船は剥き出しの内臓と筋繊維……其れから灰色の骨を見せ付ける!
「何だよ、何ダァヨ!」
「剥き出しだ……船が銀河連合化をしたのかッケロ?」
「いや……最初からだ。しかもこれは……凡そ十段階先の姿だ……これから君達の時代にあれは……到来する!」
「なイモォ、鍵盤台がリィ!」
 イモールの見た通りに鍵盤台が突然、姿を変えて足踏台二つに上下左右倒し棒二つ、更に中央に中央基幹棒として変化する。
「さあ……此れで一つ叶う……これは全生命体の望みだああ!」
 ネロリモ船長は馴れた手足付きで操作し、浮上船のようなシロモノの銀河連合の下腹部中心部を貫くほどの勢いで突進--ピースケイスの先端に取り付けられた代物の貫通力と硬度は思った以上に……銀河連合の命を絶つ威力だった!
「此れで……安心出来る」その一言と共に元の鍵盤台へ戻る。「もう用は済んだ……自室に戻って寝たまえ」
 三名は無言のまま、船長室を立ち去った。
『--ピースケイスの技術力は今更記す必要もない。あの時代へ到達するまでに私達は
果たせるだろう。問題は其処ではない。
 私達は最早、ピースケイスに残る気は毛頭なくなった。これ以上、ネロリモ船長の怒り
に付き合っていられない。私達は自室に戻る振りをして脱出を決める。此れには前々から
出たがっていたベアッ土君や彼に同調してピースケイスへの積もりに積もった満足し
えない思いを溜め込んでいたカエルヒコ君も賛同した。私達は目配せ一つで
ピースケイス脱出作戦を決行する。其れは付け焼刃もあるが、前々から計画していた事。
しかも事を終えたばかりのピースケイスは何故か知らないが、浮上を始める。
 本来ならば成功しない作戦。ところが謎の浮上と誰よりも聡明で警戒心の強い
ネロリモ船長が私達を自由に帰らせた事が起因して見張りを担当する船員達の目を
掻い潜ってベアッ土に案内された部屋まで辿り着く。
 だが--』

 午前三時五十七分五十六秒。
 場所は不明。ベアッ土の言う穴の空いた船のような物は表に出された分だけで二十四も引っ掛けられている。その内の右側を取ったイモールとカエルヒコ。
「試しに空気を容れてみてくれイモォ、ベアッ土リィ」
「如何なっても知らんぞオオウ、はあああああう」
 ベアッ土の屈強な肉体は肺活量も期待通りと成り、僅か五の秒で其れは空気船へと形を変えた。イモールとカエルヒコは実際に乗り込んでその感触を確かめた。
「待て待て……加減利かないと困るだろうガアイ」
「済まないイモォ、ベアッ土君」
「いやっケロ、乗り心地はどうなのかを確かめたくてねっケロ」
「全く……後はこの栓を填メィレば、良いんダナア」
 栓は更に一度填めると其の侭取っ手の部分が解けて穴を塞ぐ。遥か明日の時代の技術を今更驚く気がなかった三名は最早論じる事もしないまま次の作業に取り掛かる。
「あとはこの巨大な四角が何なのかッケロ、ですねっケロ」
「何か開く物あるか……うおあリィ!」
「うわあお……あッケロ、ありましたっケロ!」
「あ、カエルヒコメエイ……まだ始メエルのは早い……うわあアオオウ!」
 三名を襲った揺れはピースケイス全体を揺らす。カエルヒコが引き倒した棒は四角の何かを開く。其処で海水が勢い良く内部に入り込む。浮上している筈の潜水艦の周りで何が起こったのかを三名は直ぐに察知出来ない。いや、其の前に空気船に乗り込むのが先だった。イモール、カエルヒコ、其れからベアッ土は何とか空気船にしがみつく事で津波に体を持っていかれる事はなかった。
「はあはあイモォ、こ……これはリィ!」
「今は遥か明日の時代の技術を信じてッケロ!」
「神様よ、どうか俺様達をもとの時代の技術の加護に帰しておくレエイ!」
 三名は特殊な空気船の操作盤をイモールの知識とベアッ土の勘、其れから両者の均衡を取るカエルヒコの操作で起動させる。起動こそ初めての試み故に其処まで出来は宜しくない。けれども空気船は三名を生かす為に最善を尽くして流される。そんな中でイモールの目にある物が飛び込むと次のような考えが始まる。
(あれはネロリモ船長……この渦の中でも鍵盤台にて音楽を演奏するのかリィ!
 という事は彼にとってこの渦は初めから予測されていた事なのかリィ? いやイモォ、何処までが彼の予測通りなのかリィ? あの船型銀河連合を倒す前からこうなる事を予測していたのかリィ? 其れとも私達が逃げ出す事も既に予測していたのかリィ?
 どっちでも良いイモォ、アウストラネロリモはこの時代に於ける倒すべき銀河連合を倒したリィ。後はこの渦を利用してピースケイスを深海の奥深くまで急落下して元の時代へと戻って行くだけリィ。
 私の知る限り謎の深い深海だと信じれば其れはまだ叶うリィ。まだ……ウワアアアア--)
 三名を乗せた空気船は激しい勢いの渦に呑まれて意識さえも深淵へと運んでゆく……
『--其れから先は気が付けばテオディダクトス大陸の最南端の崖にて私達は目覚める。
最初の方こそ空気船がなくなり、一体如何やって帰還すれば良いかに混乱したな。
けれども、その混乱を止めたのはたまたま現地を調査していたとある衛星研究班の三名。
何でも月へ行けるかどうかを議論する為にテオディダクトス大陸こそが発射台に相応しい
と踏まえて調査していたそうだな。
 まあ彼らのお陰で私達は生還を果たせた。無事に一の年ぶりに元の時代の加護を
受ける事が出来る。最初の一の週こそは如何してもピースケイスでの生活もあってパンも
グラシャラ蕎麦も其れから実に美味しい御粥も喉から足が出るほど欲しかった。だが、
其れを過ぎると心身は元の生活に適応を始める訳だ。そうすると寂しくなって来る物だ。
ピースケイスに於ける日常を私は好んでいたのだと。私達はあんなにも激しいやり取りを
していたのだと感じ始める。今だってそう思う。だからこそ今日に至るまで筆を執り
始めた。
 あの生活を忘れない為、死ぬまでに一度でも良いから私が体験したピースケイスの全て
を後世にも知って貰う為に。今回は他にも記したかった事も多くあった。けれども、私は
敢えて重要な部分だけを取り上げるに留めた。
 要望があればより詳しいピースケイスの真実を読者の皆様にも知っていただけたら
明利に尽きます!
                       深海研究者 イモール・アーロニク』

 ICイマジナリーセンチュリー二百三十一年二月二十五日午後二時零分零秒。

 第九十二話 海底成人体型一万二千 完

 第九十三話 惑星から衛星へ に続く……

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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