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一兆年の夜 第九十二話 海底成人体型一万二千(九)

 二月八日午後十一時三分四十八秒。
 場所は不明。三名は外部船員室にて眠りに就く。
 いや、三名共眠りは浅い。特にイモールは早朝に自分達を呼び出した少年の事が頭に浮かんで眠れない。
(確かに彼は最後に自らの訛りを吐露したリィ。ピースケイスの船員達がどんな目的を持とうともイモォ、彼だけは若過ぎる故に他の船員に比べて胸に溜める怒りは少ないリィ。其の結果が最後の瞬間だけ自らを隠さなかったリィ。其れだけに彼の死は私のみならずイモォ、みんなを眠りから遠ざけて行くリィ。
 特に苦しいのはベアッ土だったリィ。なのに眠りが最も浅いのは私なのは何故だリィ?)
 其の答えは静かに開く扉が教える。ネロリモ船長がイモールに用がある様子。イモールは現在のネロリモ船長の心境を窺う為に彼の後を追いに部屋を出る。
 其れから一の分掛けて船長室に辿り着いた後はネロリモ船長を先に入らせて遠慮気味に中へと四本足全て丁寧に中へと入れる。
「其処まで畏まる必要は……ありません」
「いえイモォ、早朝での出来事もありまして余り刺激を与えたいとは思っておりませんのでリィ」
「私を誰だと心得る……微々たる死を恐れて何が出来るか!」
「微々たるだってイモォ、彼の命も前に海難事故で亡くなった船員の命だって代え難いのですリィ!」
「済まない……格好の付かない姿を見せてしまって!」
「あイモォ、こちらこそ申し訳ありませんリィ」
「彼には……私達の目的を強制する気は……全くなかった」
「目的リィ?」
「いえ、聞き流して下さい……これは私だけの……目的なのです」
 イモールの思った通り、ネロリモ船長には怒りの炎を燃やすだけの理由があった。イモールは踏み込むように次のようなお願いもする。
「怒りをぶつけたいのはわかりますリィ。ですがイモォ、私共は其れに付き合うつもりはありませんリィ」
「其れは……質問かね?」
「いえイモォ、お願いですリィ」
「貴方は……立場を弁えなさい」
「其れでも貴方の怒りに付き合えるだけの勇気も覚悟も持ち合わせておりませんリィ!」
「捉え方に依っては……出て行く気ですね?」
「ええイモォ、私達にとっては念の残る形ですがリィ」
 其れは……出来ない相談だ--初めて会話した時から其れは譲らないネロリモ船長。
「なぜですかイモォ、ネロリモ船長リィ!」
「言った筈だ……この潜水艦に乗れば……一生ピースケイスと運命を共にする、と」
「ですが私もカエルヒコ君もベアッ土君も貴方の時代の生命では--」
「そんなの……理由に成らない屈っし内容だ」切り捨てるネロリモ船長。「この船を少しでも知ってしまう……或は知ってしまった以上……後戻りは出来ない!」
「私達を貴方方の時代に連れてゆくのですかリィ!」
「私達の時代は……遥か先まで進んでしまった!」
「だったら貴方達だけで進んで下さいリィ!」
「如何しても……譲らないのですか?」
「そんなの私達がどれだけ努力しても追い付けない所にあるのですリィ。だったら--」
「そろそろ……演奏の時間だ」話に成らないと判断してネロリモ船長は調律線鍵盤台を弾く為に近くの椅子に腰掛ける。「お休み……イモールアーロニク先生」
 其れからイモールは無言で部屋を立ち去った。
『--これが私とネロリモ船長が決裂した瞬間。私は明日の為に前に進むのに対して彼は
戻らない明日の為に前に進む。戻らないモノの為に命を懸けられるほど、私は出来た生命
ではない。私がピースケイスに残る最大の理由だった彼との私的な対話はこれ以降
行われない。私の中でピースケイスへの思いが薄れてしまった。
 其れでもまだ私の中でピースケイスから出て行くという選択肢はない。まだ
ピースケイスに僅かな希望を残している為なのかを今の私があの時の私を観察出来るか
を理解出来ない。当事者だからわからない事が多いのは認めても観察対象として思うのは
神様に対して礼を失する気がする。
 なので話を進める。次の話は--』

 二月十五日午後三時十二分十八秒。
 場所は不明。最近は三名を外に出す機会が多く発生する。
 外に出て感じたのは先端の方角に何かが浮かぶ。三名は近付く。するとネロリモ船長が顔を出す。
「何だよ、船長さんヨオィ」
「最近は禄でもない数で……沈没船が浮上する」
「何か意味を理解しかねますっケロ」
「済まない……独り言だ」
「……」
 この頃からイモールは自ら声を掛けようとしなくなる。そんなイモールの様子を露知らずにネロリモ船長は急に語り始める。
「まあ良い……この船は私達と同じくこの時代に飛んできた……恐るべき銀河連合の存在を明確に表す!」私達とはピースケイスの船員達を指す。「奴等は一体たりともこの時代に居ては成らない……其の為にもこの沈没船を手掛かりに……私達はずっと追って来た!」
 更にネロリモ船長の演説は熱を帯びる。其れは訛りという名の衣を外すと次の通りに成る。
 ネロリモ船長自身の目的は彼自身の故郷の時代にて凄惨成る事件を起こした銀河連合を全て打倒する事。其の為には慈悲さえも根こそぎ捨てる覚悟でずっと望んで来た。全ては故郷の時代で凄惨な目に遭った仲間達に報いる為に。道半ばで死んでいった仲間達をこの時代に眠らせたのもある理由があった。其れはもう戻れない故郷で跡形もなく消し飛ばされるよりもまだ希望があるこの時代に眠らせた方が幸せである為に。だが、一の週より前に埋葬される事なく死んだ仲間が居るように必ずしも埋葬が約束される訳ではない。其れもネロリモ船長は理解した上でこの時代まで誘われようとも其れを追い続ける。全ては戻らない明日の為に。
「此れで……九十九隻目」数えてもいた。「漸くこの時代の何処に……奴らが居るかを特定……出来るぞ!」
 黙って聞いていた三名はこの後、部屋に戻った。

 午後七時五十三分三十八秒。
 場所は不明。外部船員室にて三名は会話する。
「そろそろここから逃げ出そうゼエイ!」
「ええッケロ……でもッケロ」カエルヒコは次のように答える。「見張りが思ったよりも目を光らせているッケロ!」
「心配ないゼエイ、カエルヒコ」
「如何してですかッケロ、ベアッ土さんッケロ?」
「今日の朝に成って思い出したんダアイ」ベアッ土はある物を発見する。「一の週より前に呼び出された時に案内する傍らである部屋に目が飛び付イタアのだよ
「其れは本当かイモォ、ベアッ土君リィ?」
 珍しいナアイ、先生……喧嘩でもしたのか--とイモールが食い付く事を不思議に思う。
「私の事は気にしないでくれイモォ、二名共リィ。だから話を続けてくれリィ」
「わかったゼェイ、えっとなあ。あれダアヨ」ベアッ土は今日の昼食後の休憩中に許可された制限自由時間内にて……「俺様は目を掻い潜って其処へ入ったのダァヨ」僅かな時間の内に全てを脳裏に焼き付ける。「そしたら何故か穴の空いた船のような物を見付けタアゼ!」
「何故か穴の空いた船のような物……本当なのかイモォ、ベアッ土君?」
「其れじゃあ脱出する際に沈みますっケロ」
「普通の常識ならばイモォ、なリィ」
「先生もそう勘付くか……俺様もそう直感しているゼエイ!」
 まあ実物を見ない事にはわからないなリィ--他社の見た物を其の侭信じる程、イモールは空論倒れではない。
「其れで如何しますっケロ?」
「寝る時間帯は扉が頑丈に閉まってイルゥ。何度も挑戦した俺様だから言えるノォダ!」
「じゃあ休憩時間に--」
「待てイモォ、深海の中では危険過ぎるリィ!」イモールはネロリモ船長の考えを読んでこう意見を述べる。「空気の入れ替え時にはピースケイスは地上に顔を出すイモォ、そこが脱出する機会だリィ!」
「つまりまだ早いって訳か……全くこれだから深海の旅は嬉しくないゼエイ!」
「難攻不落ですねっケロ、深海ってのはッケロ!」
「だからこそ深いイモォ、私が深海の謎に挑戦してしまう程にリィ!」
 この時、イモールの中である閃きが浮かぶ。其れは次のように回顧される。
『--この時、私はピースケイスが深海の奥深くにあるとされる時空の扉よりこの時代に
やって来たという仮説を頭の中で立てる。その仮説を信じればあのようなピースケイスが
水の惑星中の海に出没するのに納得がゆく。其れ以前にあれは確かに潜水艦と名乗った。
だったら深海の中で初めて出没する方が説得がゆく。実際にピースケイスはずっと深海の
中を移動し続ける。深海という名も地中を潜り続ける。
 と話が脱線したな。そろそろ最後の部分を紹介しよう。其れはピースケイスが浮上を
始めた頃だな。私達はこれを好機と踏まえて耳に壁をやって浮上の様子を感じ取る。幾ら
防音と言えども触覚まで逃がす事は出来まい。そう思い、耳をやった。
 すると--』

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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