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一兆年の夜 第九十二話 海底成人体型一万二千(七)

 一月二日午前六時三十二分十四秒。
 場所は不明。ピースケイスの大衆食堂の出入り口より一番右端にある机に座る三名。
「なあ、そろそろこの話をして良いカアイ?」
「良くありませんっケロ、ベアッ土さんッケロ」
「カエルヒコの言う通りだイモォ、ベアッ土君リィ。そうゆう話は部屋の中でする物だリィ」
「でも堪忍にも限界が来るってのが生命って物ダロォう。どんな大人だって超えてはいけない一線を超えると爆発するように俺様はもう堪忍の限界ダアイ!」
「其れでも堪忍するのだイモォ、ベアッ土君リィ!」
「そうですっケロ、ほら……今日は献立がパンから聖母液で出来たイエローデルタと呼ばれる酸味の効いた朝食ですっケロ!」
 この味好きじゃねえヨオウ--どうやら今日の朝食の満足しえない事が重なった模様。
(とはいえイモォ、たまに珍しい献立もあるのだなリィ。とすると今日は昼食の献立も変化しているのかもしれないリィ)
『--だが、私の予想は大きく外す。その日の昼食の献立は何時も通りのグラシャラ蕎麦。
どうやら食事担当の船員の気分が左右するようだな。だが、ネロリモ船長以外の船員と
話した事がないのでどうゆう風に考えているのかを私達は推察する事が出来ない。
 船員で思い出したが、ピースケイスに拾われて七の月ともなれば少しは船員達が
どうゆう生命なのかも観察が出来たな。カエルヒコ君もベアッ土君も彼らについて
詮索しようとしない。もしかするとそれも相まって二名の中は深まったのだと私は推察
する。可能性でしか過ぎない。
 其れじゃあ其処について回顧すると彼等の中には何やら高度な似顔絵のような四角い
何かを時折見つめる船員も居れば良く壁に向かって拳を振舞うカンガルー族のような船員
も居る。それぞれ二度と帰る事が出来ない故郷を思って一名は大事な者に何度も問い
掛け、慰める。もう一名は果し合いを約束してその日が訪れるまで研鑽する物と私は
推察する。あくまで推察でしか過ぎない。
 其れはそうとこんな話もある。そろそろ半分を過ぎた頃だ。其れはこの話より三の月
より後だったな。確か再び外に出た日での作業を終えて--』

 一月九十三日午後八時七分四十三秒。
 場所は不明。だが、ピースケイスは大きく揺れる。海底で何かが震え上がった。
(部屋の中で大人しくしていると……何事だリィ!)
 だが、イモールは許可が下りるまで限定範囲とは言えども自由に出る事が出来ない事を思い出す。その為、ピースケイスの中で何が起こっているのかを見る事も調べる事も出来ない。此れにはカエルヒコだけでなく、短気なベアッ土も落ち着いていられない!
「先生ッケロ、もう限界ですっケロ!」
「そうだゼエイ、絶対にこれは海底火山が噴火した激震に違いネエイ!」
「推測を述べても意味がないイモォ、ベアッ土君リィ。もしかするとピースケイスの一部が故障を起こして姿勢制御もまま成らないのかも知れないのだぞリィ!」
「だったら猶更僕達に避難を促しても良い筈ッケロ!」
「これが一般生命の行動カアイ!」
「壁に当たらないで下さいッケロ!」
 イ、でえええい……何て頑丈な黒壁だヨオゥ--右前足の腫れを気にするベアッ土。
(そイモォ、其れにしても……何か眠たいリィ。ここでずっと居るせいなのかリィ?)
 イモールだけが眠気に襲われる訳ではない。先ほどまで壁に当たるほど暴れていたベアッ土もそのベアッ土を鎮めるので精一杯なカエルヒコも徐々に瞼を閉じ始める。
「なっケロ、何か眠、いっケロ」
「畜産の生き様、カアィ……」
「何かイモォ、いろいろと……あってリィ。ねイモォ、眠り、にリィ……」
 三名は約十五の時まで死んだように眠り続ける……
『--まあ幸いなのは誰一名たりとも死者は出なかった……少なくとも私達の中では--』

 一月九十四日午前十一時五十三分三十三秒。
 場所は不明。三名は徐々に瞼を開ける。
(あれリィ? 扉が開いているリィ?)
 扉の奥で待っていたのは齢三十八にして二日目に成る巨耳族の青年。彼は目覚めた三名を見て数度ほど無言で全身を撫でる。
「ッテエイ、お前は雄色家か何かカアィ!」
「違いますっケロ、ベアッ土さんッケロ。僕達の心配をしてくれたのですよっケロ、彼はッケロ!」
「彼というよりもこの者って表現が良いんジャアね? だってどいつもこいつも俺様達よりも年上だしナアイ!」
 其れはあくまでピースケイスの船員達の寿命の常識に照らし合わせたに過ぎないぞイモォ、ベアッ土君リィ--とやや長々しい言葉でベアッ土に言うイモール。
「流石に聞き流しそうに成ったゾオィ、イモール先生ヨオウ」
「済まないなイモォ、私の良くない所だリィ」
 身体検査が済むと巨耳族の青年は右親指で指示を送る、『付いて来い』と。これを解読したのはイモール。他の二名はまだその域には達していない。ベアッ土は兎も角、カエルヒコはまだ指示の内容の把握にもう少し時間を要する模様。なので困った時はイモールに、更に困る場合はネロリモ船長に直接尋ねる程。
 では、三名が案内する形で入ったとある医務室のような所の中央の寝台に何やら齢四十一にして八の月と八日目に成る蜘蛛足族の髭が濃くて円形脱毛が目立つ青年が瞼を閉じて頭から血を流した為に何重にも包帯を巻かれて寝かされているのが見える。
「こイモォ、此れはリィ!」
「案内……御苦労」巨耳族の青年に労いの言葉を述べたネロリモ船長はイモール達に話し掛ける。「確かツミカゼノカエルヒコ氏は……両親が医者だと聞いたが……確かか?」
「あッケロ、僕の事ですかッケロ?」
「質問をするのは私だ……だから答えなさい!」
 何時もと違ってネロリモ船長は穏やかではない。如何やら寝台で意識も曖昧な蜘蛛足族の船員の事で冷静ではいられない様子。ネロリモ船長の放つ気に圧倒されてカエルヒコは真っ直ぐ答える……「はいッケロ、そうですっケロ」答えないと何をされるかわからないと感じて!
「彼を……看てくれないか?」
「あのッケロ、僕は両親が医者とはいえ--」
 一刻を争うのです……何でも良いですから早く--ネロリモ船長に余計な言葉は必要ない!
「わッケロ、わかりましたっケロ!」
 カエルヒコは直ぐに蜘蛛足族の青年の容態を確認する。カエルヒコが言いたかったのは次のイモールの思いから推察される。
(カエルヒコは医の全てを伝授される前に家を飛び出した経緯があるからなリィ。その為に基本はわかっていても其れを応用するだけの術がないリィ。だがイモォ、今のネロリモ船長にそんな言い訳が通じる筈がないリィ。何時ものネロリモ船長ならばここまで取り乱す事もないリィ。余程の思いがアスストラネロリモの中で渦巻いているのだろうリィ。その思いとは一体何なのかリィ?)
 其れからカエルヒコは付け焼刃と自覚しつつもわかる範囲で診療。その診療を以てしても彼は助からない事をネロリモ船長に伝える。
「頭蓋骨の傷が深過ぎますっケロ。腕の足の翼の良い医者がやっても奥が一の確率で助かる以外にないです……ヒイイッケロ、本当ですよっケロ!」
「恐がるのではない……少しの希望を抱いたのは事実だが……助からないのなら潔く諦める覚悟は持ち合わせている」
「本当に助からないのカアイ、カエルヒコヨオゥ!」
「あんなのどうしようもないッケロ。僕は基本しか知らない身で少しでも希望を以て診療したんだっケロ。でもッケロ、でもッケロ!」
「泣くなヨオゥ、泣きたいのはあいつの仲間達の方ダアゾ!」
 ベアッ土の言う通り、後少しで息を引き取る船員を思ってネロリモ船長以外の船員は皆涙をこらえようと必死に顔を逸らしたり翼や腕や足等々各自の体を使って顔を覆い隠す。
 一方のネロリモ船長はカエルヒコを退かせると蜘蛛足族の青年に何かを語りかける。その言葉はやはりイモールでも解読が困難を極める。一定の幅を見出す事さえ出来ない理由は一体何なのか?
(今は推察するよりも先に情を優先しようリィ。其れが全生命体の貫く事なのだからリィ)
『--彼は凡そ二の分より後に全ての生命活動を停止。その前に彼がどうしてあのような
状態に成ったのかを記そう。私はネロリモ船長に尋ねた。すると以下のような事が判明
した。
 そもそも原因はピースケイスを襲った巨震。其れは意外にも海底火山に依る物では
なく、更に食い込んだ部分から来た物だった。何と其れは鯰族の感知する何かを超越する
ある事実に依る所だったがな。残念ながら其れを記す頃には私の頭の中にその事を忘却
してしまった。まあ考察は自由に。兎に角、其れは津波の原因にも繋がる海を揺らす
巨震。どれだけ時代を遡っても克服出来ない海のうねり。其れがピースケイスを襲った。
 その後に揺れに耐えた代償として一部が破損。其れを修理する為に蜘蛛足族の青年は
駆け付けた。ところが再びピースケイスは巨震に振り回される。結果、頭部に猛烈な一撃
を貰った。カエルヒコでなくとも助かる見込みが難しい一撃を。最初の方こそ
ネロリモ船長は龍道と呼ばれる何かに依る治療を試みた。ところが、状況は良くなる方向
の反対側を進むばかり。当時の最新機器を使っても此れだとわかったネロリモ船長は
原点に戻って原始的な方法も試みた。其れがカエルヒコの両親は医者である事を私との
対話で思い出すかのように。だが、結果は好転せず。
 話を蜘蛛足族の青年が息を引き取った後まで戻す。その後、ピースケイスは彼を
埋葬する為に陸に上がる。その陸とは木々が生い茂った原初の無者島。一名も生命が
暮らしていない。どうゆう方法でここを選んだのかはわからない。だが、謎の言葉龍道
此の島を相応しいと判断したのかも知れない。
 ともあれ、その奥深くにて墓場と思われる二本の木で十字を立てた物が計八十本並ぶ
場所まで足を踏み入れた私達。幸いなのはやはりそこに銀河連合が居ない事だろう。
お陰で私達は一番奥で右から五番目の墓に青年の亡骸を埋葬する事に成功する。
 埋葬作業は簡潔であり、十字にされた物を抜く。次に蜘蛛足族の体型に合わせて穴を
掘る。其れから亡骸を放り込む。最後に亡骸に火を点ける。燃え尽きると最後に土を
被せてから十字の者を立ててから一の分もの間黙祷する。こうして青年は静かに眠る。
 その時の船員達の様子は何とも堪えた様子だった。特にネロリモ船長は目元一つすらも
私達に見せようとしない程に激しく。
 一通りを完了すると私達はピースケイスに戻ってゆく。この時私達の中で何か一つの
ある恐ろしいモノが浮かぶ。ネロリモ船長の目的はこの時代に不時着した何かを
追っているのではないか? 其れが判明するのはもう少し先に成る。
 今は--』

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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