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一兆年の夜 第九十一話 必死の逃亡者達(六)

 午後十時二分三十七秒。
 場所は不明。二名は既に息も枯れ、三等分に裂いた仙人掌四つを抱えて砂漠の中で足を動かす。
(ァアもう六本足全てが固く成って動かない。セェっかく俺が先導してやったのに、やったのに……蟻地獄型の、いや銀河連合が良くやる相手を疲れさせてから狙い撃ちするというやり方に嵌ってしまった!
 オォもう俺達はここで果てるのか。カァもう無理だぞ、ラク一よ!)
 既に喋る気力もないアンティラ。ラク一もまた、背中の瘤が全て萎み切った後。仙人掌を食べて体力を回復したいがその余裕もない。背後より蟻地獄型がラク一の動脈を狙って飛んで来る。幸い、紙月による攻撃の為に柄物の長さは余りに短い為に動脈を切り裂くような程深く噛み千切られる事もない。其れでも徐々に薄皮一枚から掠り傷と徐々に精度が上がる。銀河連合の学習能力の高さが窺える。深く入り込めば入り込む程に危険性が高くなるという戦いの常識を照らし合わせてもこれ程の成長性は侮れない。
 その事に気付いたアンティラは自ら蟻地獄型の前に立つ。自決を望んでいたアンティラが如何して他者の為に命を投げ出す事に踏み切るのか? 其れは次の通りである。
(ォオ俺は何故これに気付かなかった。カィ俺が命を投げ出す方法がずっとここにあったじゃないか。キィここでラク一の為に命を投げ出してあいつに勇ましいのは何なのかを教えておけば……だが、死ぬのは恐い!
 ソォうだ。ィシし、死ぬのは恐かったのだ。オォ俺は今までどうしてこんな当たり前の事に気付こうとしなかった!
 クゥびを縄で括る事だけを考えている時はさしもの恐怖なんて感じなかった。カァ感じ始めたのはラク一が俺を呼んで止めた時だ。アァいつが制止してもそのまま縄を首で括って台を倒せばそれで済む話だった。ナァなのに出来なかった。デェ俺は其処で恐怖が湧き始めてラク一に助けを求めてしまった。ンィ何て事なのだ。ンゥなのに俺は命を投げ出そうとしたのか。ァア半端だ、俺は!
 ダァからこそ俺はここで恐怖と向き合う!)
 アンティラは家族を失って初めて自らの生きる意味を見出す。其れは誰かに生きる意味を見出す事でも自ら家族の元に行くのでもない。生き永らえた命が一瞬たりとも意味のない物でないように全力を尽くす事である--その時、肉体は呼び動力を分け与えてアンティラを動かす!
 言葉こそ出ないアンティラではあったが、精々三の分もの間の猶予を以って自らよりも巨大な蟻地獄型と対峙--力の方こそ、蟻地獄型の方が勝る為に徐々に背骨が曲げられて今にもくの字に折られそうなアンティラ!
(ナァんて力だ。クァ家族を死なせた銀河連合とは訳が違う。クィこいつは足場の緩い砂漠地帯に適した肉体を持つ蟻地獄だという事を忘れていた!
 ウァあの時とは訳が違うし、同じ方法で倒せないのか。タァ倒せないのか、そうなのかあ。ダァがなあ、だがなあ……俺はあの時と違って怒りのままに戦うのではないああああ!)
 アンティラが僅か三の分もの間に蟻地獄型と戦う理由……其れは生き甲斐を見付ける為。死を覚悟し、誰かを守る為に命を投げ出す段階から生き抜く為に戦う段階へと上り詰める。その時、アンティラは気付く--やや後ろ左足の重心を少し浮かせると蟻地獄型が前のめりに倒れるのではないか……気付いた時、アンティラは釣り落としして蟻地獄型の頭から叩き付ける投げをしていた!
(イィ、まのは何だ? オォレがやったのか……じゃなくてまだ動けるか!)
 アンティラの思った通り、蟻地獄型はまだ動ける。砂の大地は蟻地獄型を死なせるには柔らか過ぎるようだ。これがもしも普通の大地ならとっくの昔に頭から血を流して果てていただろう。だが、この世界は砂漠……砂漠である以上は平衡感覚こそ安定しなくともまだ戦える。アンティラにとってこれ程までに死を受け入れようとする事態はない。何故なら--
(モォう体が動かない。コォこまでか)
 三の分を過ぎるとアンティラの呼び動力は其処を尽きて休みの段階に入った。最早後がない……そう思った時、蟻地獄型が突如止まり、背中を向ける!
(ナァ、何と……背中を向けて直ぐに踏み潰されたぞ!)
 アンティラの思った通りに蟻地獄型は何者かに踏み潰され、全身から血を流して果てた……一体誰が蟻地獄型を踏み潰したか? 答えは明白--
(ラァラク一か。ヤァれば出来るじゃないか……あ、ァ--)
 二名は意識する気力も失い、そのまま眠りのその辺引きずり込まれてゆく……



































 十一月二十八日午後五時十七分十八秒。
 場所はプロタゴラス大陸フィス地方ゴルギ市第三北東地区。
 その中で二番目に大きな建物二階個室。その正面扉から二番目にある寝台から這い上がるように起きる生命が一名。
「ハァはあ……あれ、ここは?」
 目覚めたみたいだじょお--目の前に巨大な何かが見つめていたのでアンティラは声を張り上げて飛び上がった!
 幸い、三名程の看護婦が駆け付けた事で安心感を得たアンティラはそのまま寝台の上で寝転ぶ。
「ヨォかった。ホォんとうに良かった……俺達は生きてるんだ!」
「念が残るようにピアス饅頭は届ける事が出来なかったが、代わりに仙人掌を届けられたので良しとしようじゅう」
 ァア何が良しだ……何処に生やすのだよ、そいつらを--とアンティラは怒鳴る。
 一方でアンティラは感謝する。家族を失った後でも生きる事を諦めては成らない事を教えてくれたラク一の事を。其れだけでなく、アンティラは気付く。自決した所で家族の元まで行ける保証はない。家族とは別に死に急がなくとも幾らでも会う機会があるという大事な事にも気付く。
(ソォうだ。オォ俺は妻や息子や娘達とは何時でも会えるのだ。ンァ何も急がなくても良いのだ。ンィ俺はずっと生き急いでいた。アァ俺は家族の為と思ってずっと生き急いでいた!
 ダァが違うんだ。ダァ俺は別に好きなように生きる理由を見付けても良かったのだ。スゥなのに俺は自らの意思で生きる意味を見い出す事も放していたなんて!
 アァ改めて俺は俺自身を見つめ直さなくちゃいけない。オォ俺は--)
 退院後のアンティラは如何成ったか? 彼は生きる意味を見出す為に出家を始め、四十八の年まで生き抜いた……
 尚、アンティラとラク一を閉じ込めた世界の謎の真相は突如として明日の世界より飛来した正体不明の鯨族の白骨した肉体が最後の力を使って見せた幻。其れはその時代の鯨族が死の寸前に自らの世界に危機が及ぶ事を知らせる為に放った摩訶不思議な出来事。だが、ここで大きな誤った算出なのは二つ。アンティラとラク一は死ぬまであの世界の謎を追求しなかった事。もう一つが二名を追っていた蟻地獄型まで幻に包まれてしまった事。
 そう、真相は更に話が進まないと解明されないのである。まだ全生命体にとってそれを開示する時期ではない……

 ICイマジナリーセンチュリー二百三十年十一月二十八日午後五時三十分一秒。

 第九十一話 必死の逃亡者達 完

 第九十二話 海底成人体型一万二千 に続く……

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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