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一兆年の夜 第八十八話 躯伝の空 躯伝、安らかに眠る(六)

 ICイマジナリーセンチュリー二百二十三年九月四十五日午前十時二分三十八秒。

 場所は新天神武首都六影府中央地区中央官邸。三階第一執務室。
(後一の年で任期を終える。その前にわしは自らの権威を背景に様々な施策を推し進めて来た。じゃが、其れも後一の年経てば権力は後世に譲る。今のわしがやれる事はこの為にある。わしはギガントルとの約束を果たす為に--)
 齢四十五にして二の月と十二日目に成る躯伝はすっかり一名称も年相応に変化した。それは自然の流れなのか、其れとも。そんな職務遂行中の第一執務室を叩く音が響く。躯伝は扉を叩いた者に名乗りを上げさせる。何故なのかは後程説明する。
 名乗るのは齢十九にして八の月と二十六日目に成る菅原カンガルー族の少年が尋ねる。彼の名前は菅原カン次……ミリットに命を救われた当時の子供。その彼が躯伝に尋ねに来る訳とは何か?
「名前を聞いてもしや、と思ったが……君とはのう」
「はい、菅原カンガルー族ノ菅原カン次デス。躯伝様、如何カ僕ヲ養育係ニ勤務サセテ下サイ!」
「ああ、良いぞ。ちょうど付き者が足りなくてな。特に最後の子供である蒼天は是非共育てないといけないと思ってた!」
「ほ、本当デスカ!」
「ああ、只知……もう一名養育して欲しい生命が居るのじゃ!」躯伝は間髪入れずこう言う。「わしの孫に当たる正心をな」
「正心?」
「ああ、あいつには蒼天の付き者として将来育てたい……が」
「何カ問題デモアルノでしょうか?」
「わしの経験上……正心はきっと蒼天に対して並々成る思いを抱くだろう」
「其れは良イジャナイデスカ。何れは躯伝様の……ア、そう言エバ孫ト言ッテおりましたね、その方」
「ああ、流石に今は亡き息子の娘と最後の息子を結ばせるのは遺伝学上……拙いだろう」
「其レハ確カニ問題ありますね。何デモ近親間ノ結ビ付キニツイテ余り良い話を聞きませんね。ではドノヨウニ教育スルノガ一番でしょうか?」
「一番かあ……そうじゃのう、まあ多分正心は結婚しないじゃろう。だからこそその思いに報いる形で……あいつを蒼天の半身として育て上げるのじゃ!」
 半身、デスカ--即ち、如何せ意思を誰も止められないならせめて生き様に道を示せ……躯伝が辿り着いた結論にカン次は反応に困る。
「とはいえあくまで道を示すだけじゃあ。その先はあの子が決める事じゃあ。祖父もそうじゃが親もそうじゃ。子供に進んで欲しい道を決定付かせる事は如何にも出来ない。ならばせめて道をそのように舗装するくらいはしないとのう!」
「成程、其レハ大変ナ責務デスネ……わかりました。おじさんから貰ッタ僅カナ恩ヲ必ズ何倍ニモ返ス為ニココマデ何百回断られてもやって来た己です!」
「お前か、前々からしつこい生命が官邸にやって来ると烈希が呆れていたのは!」
「そして今日、ソレガ実現スルノデス。その為ニ僕ハおじさんガ最後ニ見セタアノ打撃ヲ研鑽シ続けました!」
「そうか、其れは有難いな。じゃあ頼んだぞ、菅原カン次。早速、案内するから今しばらくは隣にある第二執務室にて寛いでくれたまえ!」
 躯伝は秘書で齢二十歳にして十の月と二十二日目に成るボルティーニ栗鼠族の女性リリーナル・リッサールに頼んで漢字を第二執務室まで案内させてその手の仕事について順序を教え、実行するように三回も反復して説明した--その意味するところ即ち、この年に成ろうともリリーナルは手の焼く生命だった!
(まあ良からぬことを想定して何回も繰り返した。これでも出来ないなら更に増やすだけだ……ハアア、あいつが居るだけでわしは寿命が縮む気がするわい。全くリリンジも大変な子育てをしてくれたな……まあ年を取ってからの子供なのは仕方がない。けれどもせめて出来るように育ててくれないとなあ、こっちの身が保たんわい!
 さて……お、この叩き方は烈希じゃな!)
 名乗り上げて華麗な礼儀作法をするのは齢二十五にして八の月と十四日目に成る神武人族の女性天同烈希その者。短髪ではあるが、七三分けも華麗で尚且つ気品と美しさに満ちた素顔を持つ。身長は成人体型にして一とコンマ二もある長身。そんな彼女がここへ来るのには訳がある。
「漸くだね、パパ」
「だからその呼び方は止めんかい」
「別に良いじゃないの。全く最近は名乗り上げないといけない週間まで付いちゃったねえ」
「銀河連合への対策じゃ。そうしないと襲撃されて命を落としてしまうからな」
「怒ってからじゃあ遅いのに、何時も後手に回りやすいのだから!」
「あのなあ、烈希。いい加減に--」
「この際、置いといて」自らの調子を崩さない十一名兄弟の中で正伝の次に変わり者である烈希は話を続ける。「新天神武については全議員が全会一致で賛同するわ、パパ!」
「そうか……でも一名くらいは妥協を好まない議員も居るだろう?」
「ああ、其れも裏を取ったわ。でも彼が反対するのは時期国家神武に移行する際に捨てられる物についての話よ。それは何とか私が約束したわ。中々に骨が折れたのよ」
「そうか、漸くじゃな」
「ところでパパ?」
「まだ何か言い足りないのか、烈希?」
「あのカンガルーの提案を呑んだの?」
「其れが如何したのじゃ?」
 全く困ったパパだね--と何か飲んでは成らないような困りが尾をする烈希。
「あのなあ、烈希。お前は色々と口を出すようじゃが、次の国家神武の最高官はお前じゃない。全会一致である者に決定した!」
「あああ、勝手に決めないでよ。折角、最高官に成って色々やりたかったのにいい!」とれっきは悔しそうに語り始める。「全く何が民主主義なの。優秀な生命が仕事が出来る生命が上に立つ物でしょう。なのに人気が高い生命ばっかり議員先生に成って何が偉いのさあ!」
「其れはのう、烈希。優秀だけじゃあ却って出来ない者達の思いを理解出来ないのじゃぞ!」
「わかってはいるのよ。それでも私は納得いかないのよ!」
 烈希はこの後二の時も語る。それを聞きながら政務に励むしかない躯伝。公者であるならその場で烈希を元の仕事場に戻すだろう。だが、今の躯伝は私者。私者なら最後まで聞くしかない。何とも辛い役割である。
(そうじゃのう、辛いわ。でもなあ、わしはこれから辛い役割を担ってゆく。それは果てしなく続く公務。本来であるなら一生時期国家神武の為に尽くさないといけない。それが愛する国民と痛みを共にする天同の宿命じゃ。
 さて、法案は全会一致で可決して新国家神武草案は可決された。施行日は初日の出と共に。その前にこれだけは紹介しないとのう)

 ICイマジナリーセンチュリー二百二十三年九月百一日午前九時零分零秒。

 場所は新天神武廃都タイガーフェスティ。
 タイガーフェスティは六影と合併し、新たな府庁と成る。名前を六虎ろくことする。
 政府は六虎を経済都市として発展させる方針。それだけでなく、タイガーフェスティに因んで科学と評論が集まる都市にもすると全会一致で決まる程。それだけ期待が籠められる。
 そんな新府にある天同八理やつりの墓標上にて躯伝は登壇する。それは次の宣言をする為に!
「ええ、わしは新天神武最後の最高官として新天神武の終焉を宣言する天同躯伝と申す。此度は大晦日まで一の月掛けて公共放送を聞いた方々が安心出来ずに年を過ごしたと思われます。勿論、既に周知した者達だってこの場に居るでしょう。ですが、そうゆう事は最高責任者であるわし自身の口から伝えないと納得がいかないのが初の国家神武を起こした天同生子の時からの風習。そろそろ発表したいと思います!
 それは翼の年の初日の出にて真古天神武の建国をここに宣言します!
 そう、新天神武は完全に終わるのではないのです。新国家神武最後の最高官七の時代に国家神武は三つに分かれました。一つは天同星央ほしおの一族が統治する真正神武。首都六影を中心に北を統治する古き良き物を取り入れた国家神武。
 一つは天同八弥やつみの一族が統治する古式神武。首都はここタイガーフェスティ。其処を中心に西を統治する古き物と新しき物を上手く取り入れた均衡の国家神武。
 最後が御存知新天神武。初代最高官七以来、国民の支持を得た党が政権を担う誰でも最高官に成れる可能性がある新しい国家神武。
 やがて三つの内の一つは銀河連合に喰われ、生き残ったその天同家最後の一名は其処の国家神武を統治する天同と結ばれて新たな国家神武の建国に至った。それがここを首都にした真古式神武。そう、わしの先祖に当たる天同斬弥きるみ七弓なゆみが共同で建国した両方の特性を上手く融合した国家神武。そんな国家神武も長くは続かず、わしの祖父に当たる烈闘れっとうに依る大陸藤原奪還が失敗に終わってから起こったタイガーフェスティを呑み込む流れ星の群れ。父優央と大叔父である躯央は生き残る為に尽力し、タイガーフェスティに代わる首都として前々から建設を進めていた六影を知新都にして再始動。それでも銀河連合に依る猛攻は止まらずに大叔父は道半ばにして倒れ、父優央は辛く心苦しんだ。それでもせめて自らの国民が助かる道を模索し、新天神武に借り入れる際に真古式神武の国民を全て受け入れるという条件を付けて返せないとわかっていながらも借款の約束を実現した。そう、父優央は決して力がなかった訳ではない。誰よりも国民の為に、全生命体の希望としての使命を果たす為に命を擦り減らして来た!
 それは真古式神武が完全に喰われてもそれでも真古式神武で今も必死に抗い続ける生命の逞しさに表れる。そう、ここが新たに変わるのはその逞しさに応える為、ずっと助ける事が出来ずに手を拱いていた我々新天神武の至らない部分に贖罪の意味を籠めての事でもあるのだ!
 だからこそわしはこの場で六十の年以上も取り残した事をここに謝罪する。そして我々は新天神武では果たせなかった借款の全額返還を果たす為に新たに真古天神武として再始動するのである!
 只名前を変えただけの国家神武ではない。七が予言した三つが一つに成るという意味を籠めて真正神武の伝統を重んじる精神と古式神武の柔軟性と合理的な対応を、そして我々新天神武の常に最新を心掛ける部分を重ね合わせてここに宣言いたしました!
 フウ、そうゆう訳で後一の年は新天神武国民として忘れられぬ一の年を作ってゆこうじゃないかああ!」
 躯伝は最初こそこんな整理整頓も出来ない演説は嘲笑されるか或は怒りの講義を齎す物だと思っていた。だが、そんな感情を国民の誰もが持たない。寧ろ、この日を待っていたかのように三国統一を心より受け入れた--全てを紹介するには少々億劫ではあるが、国民の誰もが心の底で統一を夢見ていたのだった!
(わしは何という思い違いを。そうじゃ、国民も同じなのじゃ。わし自身の考えで国民を判断していたのはわしの方じゃった。国民はわしら公の者達が思っている以上に賢明なのじゃ。わしはそれをこの活気の中で思い出したぞ。そうじゃ、わしが忘れていた物がここで芽吹いたのじゃ!)

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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