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一兆年の夜 第八十七話 躯伝の空 躯伝、最高官に就任する(五)

 午後八時一分二秒。
 躯伝とトビ男が話し合われるのとほぼ同じ時刻にミリットは齢九にして九日目に成る菅原カンガルー族の子供と出会う。ミリットはその少年が一生懸命カンガルー拳法をする所を目撃。直ぐ様、出来栄えを窺う。それからこう挨拶をする。
「やあ、坊ヤハ将来立派ナカンガルーニ成るぜ!」
「え、ホントウ?」
「但し、坊ヤノカンガルー拳法ハ筋コソハ順調デハアルケド……マダマダ銀河連合ヲ倒すには如何せん基本がまだ足りないね」
 ええー、ヤルキナクスー--と座り込んで止める少年。
「あ、これはイケナカッタカナ? うーん、坊ヤニ如何言エバ良イノカ……躯伝様ノ言ッテル事は本当だったのだな」
 ミリットは悩み始める。船で躯伝が言った事は正しかった。学ぶのは親も教師も必要としない。故に誰であろうと簡単に出来る。だが、教えるのは難しい。それは相手に理解出来るように丁寧にそして簡潔に纏めないといけない。しかも教える事は何も平等ではない。時には厳しく、時には優しく接しないと教えられる側の意欲に結び付かない。故に教えるのは難し。
 其れでもミリットは諦めない。自らの死期が近いのか、それともその少年が自分と重なるのか……どちらにせよ、教えずにいられない己がそこにあった。そこでミリットは自己紹介を始める。
「ミリット・レヴェーロ?」
「ああ、タゴラスカンガルー族ノミリット・レヴェーロッテ言うんだ。宜シクナ」
「ぼ、僕ハ菅原カンガルー族ノ菅原カン次ト呼ブンダ。ヨロシクネ、オジサン」
 ああ、宜シクナ……坊ヤ--ミリットとカン次は固い握足をする。
「自己紹介ヲシタラ先ズ……ハ、何をしよう?」ミリットは考える。「正脚突きノ正シイ打チ方ッテノハ……マダ難しいよなあ。頭突き……ソレハ教エル事ジャナイしなあ。うーん、ワカラン」
 心配でカン次は尋ねる。するとミリットは意地を張って突然、基本的なカンガルー拳法の動作を始める。彼の巧みで尚且つ激しさを増すその演武に釣られるようにしてカン次も続く。それは躯伝が声を掛けるまで凡そ二の時も続いた。
「オイ、ミリット……時間だぞ」
「あ、もう話ハ終ワッタノですか!」
「寧ろこの時間まで掛かったのは流石になあ……それでその子供は一体?」
「ああ、俺ノ教エ子ノカン次さ」
「はい、エット……菅原カン次デス。えっと菅原カンガルー族ノオスデス」
「俺は神武人族の天同躯伝だ。宜しくな、カン次君」
「ウウウ、ウウウウ、ウワアアア!」カン次は天同家の生命だと知って土下座した。「もうしわけアリマセン。あの躯伝サマダト気付カズニ僕ハタイヘンレイヲシッスルコトヲしてしまいましたあ!」
「其処までする必要はないな、カン次君。君は素直で良かった。だから俺も君に応えたまでだよ」
 あ、ありがとうゴザイマス--と顔を上げて感謝の涙を見せるカン次。
 さて、こんな夜中に九の年の子供が居るのは何故か? 躯伝もミリットも其処で気付く。するとカン次の傍まで近付く男女の気配を感じる。三名が振り向くと齢二十九にして十一の月と八日目に成る菅原カンガルー族の青年と齢二十七にして六日目に成る同じく菅原カンガルー族の女性がやって来る。
「あ、済ミマセン。私ハ菅原カンガルー族ノ菅原ミヒ怜ト申します。隣ハ妻デ同ジク菅原カンガルー族ノ菅原マニ絵です。うちノ倅ガマタ夜中ニホッツキ歩イタことを陳謝します!」
「こら、カン次。これで五回目デスヨ!」マニ絵の言葉からして普段からこの時間帯にて繰り返す事がわかる。「夜ヲ繰リ返スト夜生命ニ成るのですよ。そう成ラナイ為ニモ今日デ終ワリニシナサイ、良い?」
 やだよ、そんなことデハ僕ハチットモ強くなれないって--その言葉からして何故夜遅くにここへ来るのかが見え始める。
「又、あの人族ノ生命カイ。カン次よ、彼トオ前トデハ種族ガ異なる--」
「人族? もしやその者がこの子を?」
「名前……忘レテシマイマシタワ。確カニ人族デコノ一帯デ第一線デ戦ッテオラレマシタわね」
「実は僕モナンダ……申シ訳アリマセンネ、旅のお方々--」
 コラ、躯伝様ニタイシテソノ言イカタハナイダロウ--と一名息子のカン次が告げるまで両親は知らなかった模様。
 その後、この子にして良心ありと言う諺通りに土下座してお詫びの言葉を並び立てたのは説明するまでもない。しかも躯伝とミリットが遠慮しておきながらも家まで案内されてその家では最上級の持て成しをされる程だった。


(全くその両親には困ったわい。わしらはそこまで施される必要はないと思っておったのに)

 ICイマジナリーセンチュリー二百三十年十月八十七日午後八時零分二秒。

 躯伝は一旦話を止めて日常会話を楽しむ。それから本題へと戻してゆく。
「その親子の持て成しの為に躯伝様とミリットは滞在期間を伸ばした……訳じゃないよな?」
「そんな訳ないじゃろう。わしが気に成ったのはその人族の事じゃ。思い出して貰うのも何じゃが、その少年を一緒に指導する代わりとしてわしはミリットの様子を見つつもトビ男に事情を尋ねたのじゃ。そしたらわしの思った通りじゃな」
「思った通り? それ端まさか正伝様です科?」
「全くあの息子には困らせるわい……こんな所まで足を運んでおるのじゃからのう」
 それから躯伝は就寝時間が迫るまで正伝が今まで何をしていたのかをガンジャーとバレイバーに話す。
(そうじゃなあ。あいつは……真古式神武後に残る生命の為に尽力していた事を知ったな。全く何処までも親に迷い惑わす第一子だ!
 しかも--)


 ICイマジナリーセンチュリー二百二十一年一月三十日午後六時一分二秒。

 場所は新天神武大陸藤原大中臣地方迷宮の洞窟前。
 躯伝はミリットが指導するカン次を見守りながらもトビ男から正伝について聞かされる。
「--確かそう名乗りーました」
「あいつめ、天同の名を捨てたな。全く親に反抗するなら飽き足らず、天同の姓を捨てるとは!」
「何かあーったのですーか? あそこまで躯伝様に向かーって意地を張ーるなんて!」
「それを言った所で解決の糸口は見付からん。只、俺としては正伝が自分で決めた事が気掛かりで仕方なかった……只それだけだ」
 素直ではないでーすね--と親子揃って意地を張る姿を見てしまうトビ男だった。
(それで物事は終わりかと思われた……ところがここであいつらは事を起こす)
 突然、カン次の背後にある迷宮の洞窟入り口にて指揮官型が襲い掛かる--それを庇ってミリットは左前脚を切り落とされた!
「ウグアアアアアアアア!」
「セ、センセエエエエい!」
 ミリット……クソウ、俺は如何してミリットにばかり気を取られていたのだ--躯伝は自らの見る目に衰えが出始める事を嘆く。
「ああ、ああ、これは、躯伝様……理、無ーき、でーす、よいおよよ」
「今の俺に」躯伝は既に青き眼が出せない事を全身で感じ取りながらもこう宣言する。「何もかもできない……けれどもメランの為に俺は逃げる訳にはゆかないのさ!」
 包丁を抜くと素早くミリットとカン次を蹴り飛ばして助けると目にも止まらない速度で斬り合いを始める!
「何故……だ?」トビ男は躯伝が青き眼を使えない事を知らない。「何故能力を使わーないのですか……あの躯伝様が、何故能力を封ーじ為さーれるのだ?」
 だが、能力の使えない躯伝は忽ちの内に尻餅を付いた。そして指揮官型はこの機を逃さずに振りかぶる!
「ウオオオオオ!」その時、ミリットが躯伝を庇って指揮官型の第三左腕に持つ刃のような物から繰り出される一撃を胴体に受けた。「グウウウオオオオオオオ!」
「ミリットおおおお--」
「叫ぶな……俺ハ、アレヲ、得タ」突然、ミリットの瞳が赤く輝いた。「銀河連合ヲ体内ニ入レテヤット……メランコリーナ・レヴィルビーノ助言ヲ受ケタゾオオオオウ!」
 最後の叫びと共に右前足の寸止めの如き一撃を指揮官型の胴体に与える--すると指揮官型は口から膨大とも捉える赤黒い物を履き出してあおむけに倒れたまま……暫く震えた後に終わりを告げた!
「何と凄まじい才能だ。ミリットめ、俺を驚かせ……え?」躯伝が彼に触れた時、真実を悟った。「全く新しい付き者が来たというのに……俺は何て主者だ!」
「しんじつジャナイデスヨネ。ねえ、先生? ねえ、ネエ?」何度も揺さぶるカン次。「ねえ、ウマカシカカトオモワレルコトハやめてよね」
 だが、前のめりするように倒れてからカン次は気付いた--もうミリット・レヴェーロは想念の海に旅立った事を!
 カン次よりも先に泣き叫ぶのは……「生命は如何して悲しーみから逃れらーれないんだああ!」トビ男だった。
 それから釣られるように周囲はミリット・レヴェーロの死を悼んだ。
(後にカン次は最後の息子である蒼天そうてんの付き者と成るが、それは又別の機会でやる。こうして俺はミリット、そしてメランコリーナの骨を首都ボルティーニまで運んだ。メランだけでなく、ミリットまで死んで真っ先に悲しむのはソーラだった。特にあいつは良き雌友達であったメランの死を悲しんだな。あいつにとってはメランとはよく相談役でもあったのだな。だからこそ……いや、良いか。
 こうして銀河連合に依るあの通信は今勢いを高めている事を報告した俺だったな。それから幾らくらい年を経たのかな? そこで俺は党首指名選挙の前にバレルバーと会ったな。確かあいつは--)

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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