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一兆年の夜 第八十五話 躯伝の空 躯伝、雄略大陸に着く(五)

 午後七時三十五分十八秒。
 夕食を済ますと躯伝及びメランコリーナとソーラ五、六代の会話は本題に入る。最初は北と南の簡単な歴史をソーラ五代が伝え始める。
「北と南はかつては同じ大陸として繋がっていた。それがなくなるのが父方の先祖である大ソラン前七世の頃ね」
 蛇の足だが、通常は一世、二世、一代、二代と数が増えるほど後の世代を意味する。ところが前が頭に付くと六世、五世、六代、五代と数が増えるほど前の世代を意味する。
「それは確か流れ星が降り注がない遥か前の時代だったよ。泥の神々が最初の衣替えをしたと伝え聞いたよ。それはそれは大変な変動で君達の言葉で表すなら中雄略が北と南を分断し、そのまま雄略海に沈んでいく……ようにね」
「ちょっとわからないけど……えっと、衣替え? 服を着替えるって事なの?」
「躯伝様、ヒョットシテ地震じゃないの?」
「地震? そちらでは衣替えをそう呼ぶのね」
「何なの、おかあさま?」
「娘には後で覚える事だらけよ。じゃあ今は話を続けるよ」
 はい、おかあさま--どうやら母子の呼び方は両方共直接名前を呼ぶのは避ける傾向にある。
(そりゃあそうだよね。娘も同じ名前だったらそうゆう呼び方をしないと混乱するよね)
 躯伝はそう思いながらも話に耳を傾ける。
「その中雄略が其方の言い伝えにある竜宮に成ったのか或は空の秘境として空中に浮かぶか或は空間と空間の境目に入り、秘境神武に成ったのかは誰にもわからない。古い時代の事に関しては口伝でしか知る事が出来ない以上は如何しようもない物ですよ。
 わかるとしたら中雄略が北と南を分けたのは紛れもない事実。それ以降、北と私達南は船で行き来する関係と成ったよ。特に私達の雄略は外とは別の形に変化を遂げた銀河連合に依って更に隔たりを強くしてゆくのよ」
 其れでも交流はあった……しかし、銀河連合の存在は互いの雄略族の中を断ち切る存在。それを如何にかしたいという思いは南雄略で暮らす生命にとって大事な話であった。このままでは血は濃くなる一方。兄弟姉妹同士の恋愛と交わり合いは一般生命にとっては避けなくては成らない。
「それ以上の話は酋長自ら君達の耳に届ける事が出来るよ。ちゃんと記憶に留められるように反復しなさいね」
「反復って……えっと?」
「御免なさい、私も忘れました」
「おかあさま、はんぷくって何?」
「繰り返し同じ事をする或は言い続ける……という意味よ」
 あ、そうだった--優央同様に頭脳面でもそこまで秀でた物を持たない躯伝であった。
「それよりも何カ書ク紙ないの?」
「何かを書く紙?」
 そんな物は要りませんよ--如何やら筆記を好まないのが南雄略の方針であった。
 尚、寝る前に躯伝とメランコリーナは水浴びのような物はないかを尋ねる。それについてソーラ五代は「それは草香幡梭姫くさかのはたびひめのひめ川に行けば何時でも体を洗えますよ。但し、朝にここを出発しても到着する頃には夕日は沈む程の時間ですよ」と距離まで丁寧に教えた為に二名は諦めて就寝の準備に差し掛かる。
(はあ、凄い所に来ちゃった。南雄略には問題もあれば新天神武や或は喰われてしまった新古式神武では当たり前の事が一つも当り前じゃないと思って来た。余りにも僕は今までの有難みを心身共に馴染み過ぎた。これじゃあ良くないよ!)
 躯伝は就寝時間の九時或は十時に成っても寝付けない。自らの常識が通じない事に少なからず悔しいと思い始める。それからメランコリーナが深い眠りに入る時間帯に躯伝は神武包丁を左手に建物の外へと出る。夜遅くに隠れて修行しに外出する。
(ソーラの姿がない。お母さんの方は寝ているのに!)
 その時、躯伝は気付く。断崖の一番上に立つ酋長邸から光が漏れるのが目に届く……が--
(約束は約束だ。三の日が経つまで僕は其処へ向かわないからな!)
 躯伝は酋長邸とは反対側の方角にある草香幡梭姫くさかのはたびひめのひめ川へと向かう。勿論、本気で向かうのではない。近場に深夜の訓練に相応しい場所があるかを確認する為だった。

 四十六日午前零時三分七秒。
 躯伝はそこでイタトラノと鉢合わせる。
「躯伝様っち、何してるのですかっち?」
「それは僕が言うべきだろ……ってイタトラノこそこんな深夜に何の用事があるの?」
「それは……ここで修行する為っち」
「あ、僕と同じだね」
「でっち、でも躯伝様……朝も早いのですから直ぐに眠るべきじゃ--」
 僕は悔しいのだ……だから少しでも包丁を振るって心頭を滅却したいんだ--と深夜の訓練の理由を述べた。
「そうかっち、わかったっち。では付き合いましょうっち」
 こうして約一の時も訓練に付き合うイタトラノ。それは三の日という時間の中で躯伝とイタトロウの絆を強く結ぶかのようであった……この先にある悲劇に比べればまだそれは幸せなる三の日でもあった!


(イタトロウ……今思い出すだけでもわしは、わしは!)

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プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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