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一兆年の夜 第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて(三)

 三月十九日午前十時七分三十三秒。
 場所はフィス地方ヒッピア砂漠。ここは螺旋の砂があちこちに点在する。
「--ルギアス村ニ滞在スレバ良かったノニドウシテフィスト砂漠ヲ駆け抜けヨウトするノですか?」
 コブ吉とコケ真の二名はマンマミーから注意されていた。彼の弁によるとプロタゴラス大陸は全体が砂漠地帯。旅をする場合注意しなければならないのは大地が砂で覆われている。その為なのか平面でしか走るのに適さない。仮に坂道を走ろうとすれば誤って転げ落ちるか、場合によっては生き埋めに遭う。故に走り回れる種族は限られている。
「--仮に歩いて進むニシテモ注意シナケレバいけないのは水。水は生命ニトッテ欠かすことノ出来ない物。一気飲みスレバ死ニ近付きます。温存ヲ勧めます」
 はい--コケ真は温存しなかった事を反省する。
「全く一の年も現場から離れるだけでこれほども経験を忘れるとじゃあ。努力とは終始行うしかないじい」
「そうは言われても死んだっさらすべてが無意味になるんっさない?」
 無意味--コブ吉は意味無き事には少し引っかかる素振りを二名に見せる。
「ま、まあ生きている内は意味なきことはたくさんあるって言うし気にしないで下っそ教官殿!」
「励ましをありがとうコケ真じゃあ。確かに無意味に関してはわしも少し安心出来ない思いはあるじゅう。じゃあが無意味を恐れて努力しないでは怠けると同義じゃあ。わしらは努力しないで一命前に慣れる程利口な生命ではないじい」
「けれどもいつニナッタラ努力ガ報われルンでしょうか? 銀河連合ハ一向ニコノ星カラ消えないノですよ」
 銀河連合--全生命にとっては耐え難い存在。倒しても倒しても学習してより強大に生命を食らう。手口(足口)は巧妙になる。種は拡大する。そんな情無き存在が地上から消える事は未だ叶わない。
 三名は努力が実らない事を嘆く。だが、その内のコブ吉は考えるよりも先に足を進める事だけを二名に伝えた。
「そうでっさ! 足を進める以外にないでっせ。でないと死んでいった魂は骨の状態で墓石から飛び出まっそ!」
「恐いこと言わないでよ。心臓ガ止まったラお父さんニ怒られるよ」
「何だ何だマンマミー。お前も一丁前に恐がってっせ!」
「お喋りは止めろ二名共じゃあ! 咽が早く渇いたらどうするじゅう!」
 コケ真とマンマミーは大人しくなった。
(ピアス市第三南口から出て一の時が経過じゃあ。眠いじい。今日までにゴルギ村に着かないじい。どこかで休まないといけないがこうも螺旋の砂がたくさんあると休める場所探しは一苦労するじょお。まあ出来る限り焦らず進もうじゅう)
 二の時まで三名は螺旋の砂に注意しながら進む。時には巻き込まれそうに成る者を二名掛かりで助け、時には山道で足を滑らす者をまたに名掛かりで助け合うなどして絆を深めてゆく。やがて休めそうな場所を見つけた。
「ここなら螺旋の砂に巻き込まれないじゃあ?」
「ええ。足場ハ安定してます。後は、ふわああ」
 どうっそ欠伸を--コケ真は睡眠をとっていたのか二名が眠たそうにしている理由がわからない様子。
「わしら二名は昨日から早朝まで説教をする側とされる側だったのじゃあ。眠く、成るの、もとうぜ……」
 二名はだらしなく倒れ込んだ--一名は前後両足を崩して目を閉じ、もう一名はうつ伏せに。
「え、え、ああそ、そうだ! 見張りしないとっそ! 銀河連合よ! 来るなら来てみっさ! おらは全力で逃げてやるっせ!
 ……置いて逃げれなっそからそのまま腹の中で四股が散らばるっせ?」
 こうしてコケ真はおよそ六の時もの間、恐怖で体毛が抜け続けながらも見張りを行った。
「腹減ったけど水飲んでもいいかっせ?」

 午後十一時七分三十二秒。
 三名は現在、螺旋の砂で囲われた水湧き湖で明日の出発までに水筒一杯に水を入れ終えたばかりだ。
「地面が崩れる心配はありまっせ?」
「いえ、不思議なことニコノ水湧き湖ダケハオヨソ数万程ノ年月ガ経ってモ地盤ハ安定してイルト言われてます。情報源ハ蘇我梟族ノ二十七代目蘇我フク兵衛カラです。この方ハ地質学担当です」
「確かわしが旅を決めた日の新聞一面にあやつの死が載ってじゃあ。大きく『地質学者第二十七代目蘇我フク兵衛死去。享年三十五』じょお」
「早過ぎます。まだ三十五ですよ。コケ真おじさんと大して年ガ変わらないッテのに!」
 マンマミーは蘇我フク兵衛の死を悼む。当然フク兵衛と年の変わらないコケ真は内心穏やかではない様子。
「悲しい話は良くないじい。明日は早いんじゃあ。さっさと眠りに就けじぇえ。特にマンマミーはさっき寝たばかりじゃあ。眠気が来るのは遅いかもわからんが寝ないとこの先を乗り切れんじょお。寝るんじゃあ」
 コケ真はすぐに鼾をかき出す。一方のマンマミーは湖に頭を向けるようにうつ伏せに倒れ込む。
 残ったコブ吉は背中の上に載せた荷物を降ろしてそこから紙で出来た百枚程ある日記と硯、そして墨汁用の水筒と口で挟みながら使用可能な筆を取り出す。
『人生は山道、谷道、そして坂道じゃ。ちょうどヒッピア砂漠のように。わしらが向かう
先はゴルギ村。そこはかつてアリスティッポス大陸に十一度挑戦した伝説の軍者が
隠居する村。彼が生きているかどうかは定かではない。もしかしたら二十七代目蘇我
フク兵衛と同時期に想念の海に旅立てるかも。寿命がどれほどなのかわしら生命に
は伝えられない。わしも突然死するかもわからない。人生は恐ろしくも険しい山道、谷
道、坂道じゃ。どうか後少しでも生きられたら愛する女房の元に帰れるというのに。
                           旅をして四日目の深い話をさせる夜じゃ』

一兆年の夜 第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて(二)

 三月十八日午後二時七分九秒。
 場所はフィスト砂漠。
 天候は快晴。最高気温に達したばかり。
 コブ吉とコケ真は歩き続ける--登山するように。
 水が欲しっし--コケ真の両頬はくの字を描く。
 彼は二の時より前に水筒に入れてあった水を完飲したばかりだ。
「我慢じゃあ。とは言いたいがわしとお前さんとでは水の蓄えが異なるじょお。このままじゃあ可愛い部下を死なせかじぇえ。
 と言ってもどこに水湧き湖があるのやらじゃあ?」
「出来るか、ぎりの視力を出して、も、なっさあ」
「確かに無いじい。フィスト砂漠の神々はわしらを死なせるつもりかじょお。せめて幻覚でもいいから水湧き湖を見せればいいのじい」
「厳格は空しい、で、さあ。も、もう、おらは」
 両足がふらつき、うつ伏せに倒れかかる所をコブ吉が後ろ右足で抑えた!
「少しでもしっかりじぇえ! 僅かではあるが何か見えそうじゃあ!」
 コブ吉は何かを発見した--北東東の向こう側に黒く三角した何かを。
「あ、れ? 水、湧き、湖?」
 きっと水湧き湖に違いないじい--動く事もままならないコケ真を瘤より前に乗せたコブ吉は三角した物に向かって歩を進める。
 自身は駱駝族で砂漠地帯ではどの種族よりも長く活動出来る。しかし、四十を過ぎた今となっては肉体も思うように動かせない。特に水を多量に必要とする砂漠地帯とあっては尚更の事。それでも苦楽を共にする旅仲間を救う為なら僅かな希望を胸に目的地まで歩き続けるが--
 何と言う事じゃあ--コブ吉は嘆く。
 彼が目にしたのは水湧き湖ではなく砂漠の山だった!
「おのれ神々じゃあ! そこまでしてコケ真に試練を与えるじゃあ! 本当に死んだら感謝出来ないじょお! 何とかしてくれじぇえ! つまらない童話の都合良い展開でも何でもじゃあ!」
 現実は悲しいモノ--いくらコブ吉が願っても神々は応えない。
 何故なら神々は生命を正しく導く訳でもなければ祈るだけで楽な道に送る存在でもない。ましてや苦行を乗り越えた者を必ずしも幸福に導く事すらなれないのであった。
 コブ吉は二十の分くらい前に進みながら神々に懇願したがとうとう咽の渇きを進めるだけと考えてやめた。
「はあはあじゃ、わしゃ疲れたじゃあ。コケ真じゃあ、生きとるじゅう?」
 え、ええ--耳元に聞こえるかそうでないかであった。
 やがてコケ真の声は聞こえなくなる。それから一の時が過ぎるとコブ吉の瘤は平に成る程萎み、視界は揺らめき始める。
(わしの人生はこんな所でおわ、る、の、じゃあ? こえをだ、せせ、な……)
 やがて両眼は黒い部分が扉を閉めるように広がり始める。
 そして、閉じると同時に前後両足が崩れる音が耳に聞こえた。

 未明。
 コブ吉の両眼は扉を開く--映ったのは三日月。すっかり夜時間。
(そう、じゃ? わしは……そうじゃ! コケ真の馬なのか鹿なのかじゃあ!)
 ゆっくりと前後両足を上げる。それから辺り一帯を見渡す。そうして状況を頭の中で整理する。そこから導き出された結果は--
(窓があるじゅう。そして一つだけしかない開き扉とわしがのると破りかねない高寝床じゃあ。そして窓から見える風景じゃ、ここはピアス市じゃあ)
 起き上がりとはいえ素早くピアス市だとわかると扉の方に向かう。すると扉は内側に開き、そこから開けた本者がコケ真の右隣に立つ。齢十九にして八日目になるタゴラスカンガルー族の少年だ。
「おはようっさ教官殿! 実はタゴラス族のマンマミーのお陰で助かっしだよ」
「別に助けたくて助けたワケじゃないけど。ボクはお父さんトお母さんノ言いつけヲ守って助けたよ!」
 マンマミーと呼ばれる少年は左横顔を向けて照れ隠しをするが、赤いのが一目瞭然だ。
「知ってるじゃあ。君はミハエル・レヴィルビーの子マンマミーだじぇえ。あやつの最後は立派な事じゃあ」
「コラ教官殿! マンマミーに向かってそうゆっそことは--」
「いいよコケ真ノおじさん。お父さんはコノ都市ヲ救った英雄なんだ! 今でもお父さんハボクノ誇りなんだし!」
 マンマミーは前羽の構えで表現した。
「昔から変わらないじゃあ。新米なんじゃからもう少し力を抜いたらどうじゃあ?」
 マンマミーは構えを解くと首を左右に振る。
「今日をもちマシテ軍者ヲ辞めました」
 何--二名は飛び上がるように驚愕した!
「何て言うカ割ニ合わなくて。ま、まあ帰ったらお母さんニドレダケ叱られるカわからないけど」
 着地してすぐにコブ吉の口は全開に広げる!
「腰砕けエエエエじゃ! お前さんはそんな下らない理由で辞めたというのかじゃあ! 何という馬か鹿じゃあ! それでもカンガルー拳法の使い手じゃあ! 割が合わん理由をその場で言ってみろじょお! わしは何聞いても説教するじゃあ!」
 マンマミーは気迫溢れるコブ吉に両足を激しく震わす!
「教官殿は鬼族に匹敵する教官っさ! 良いこと言うっせ! 早く逃げるこっさを--」
「お父さんモお母さんモ逃げるノハ得意じゃなんだ! だ、だ、だからボクダッテ逃げないよよ!
 え、え、えとト……訓練ガ辛くて辞めました。」
 声が震えながらも両親の誇りに懸けて立ち向かうマンマミー。
 その覚悟と理由を聞いたコブ吉は気に入るように--
「よかろうじゃあ! それじゃあお前さんの教官に代わってわしが問い詰めるじゃあ! 途中で怒ったって構わないじょお! 怒りは全生命の権利じゃからじょお」
 コブ吉は日が昇り始めようとするまで説教した--既にコケ真は部屋にある高寝床で鼾をかいた。
 はあはあ--怒りを表情に示しながらも呼吸を荒げてでも堪えた!
「全く父親に似て格好付けじゃあ。ここまで堪えるとはさぞ辛かろうじゅう。
 んじゃ? もう朝じゃあ。じゃあ飯を食べようじゃあ? 今日はここまでじゃあ」
 コブ吉は鼾をかくコケ真を宿全体に響き渡る程の声で叩き起こす。すぐに食堂へと足を運ぼうとした。
「あ、あの林原さん。起きてスグナノに、えっとその、この度ノ教え説きヲありがとうございます。お礼ニお供させて下さい! ボクは両親ミタイニ辛抱ガ強くありません! ですので林原さんミタイナ方ニタクサン辛抱ノ仕方ヲお教えシテもらう以外ニ方法ハありません! 良くないでしょうか?」
 懇願するマンマミーにコブ吉は首を縦に振った。
「ええ! 厳しい旅の始まりでっさ! マンマミーはどうしてそこまで自分を痛めっせ訳?」
「ボク自身ヲ鍛え治す為です。ボクが林原さんトコケ真おじさんヲ助けたノハコノためダッタノですよ!」
 マンマミーは頭を抱えるコケ真に向かって胸を張って口にした!
「やはりお前さんがわしらをじょお。じゃあその件を是非食堂で聞こうかじょお?」
『マンマミーは父親に似て無理してまで格好付けたがる。その部分を少しでも是正出
来ればマンマミーは本当の意味で成長するだろう。わしがこの子を旅の道連れにした
のはその為。それにこの子が居れば少しはコケ真も臆病風を直せるかもしれん。
 いや考えは浅いのう。生命がそう簡単に変わらないかの。特に三十過ぎのコケ真に
関しては大部。
                                    旅をして三日目の朝じゃ』

一兆年の夜 第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて

 ICイマジナリーセンチュリー九十八年三月十七日午前九時二分七秒。

 場所はプロタゴラス大陸ソフィス地方タゴラス村南地区。三番目に小さな一階建て
木造建築。
「馬か鹿じゃアアアああああ!」
 齢四十一にして七の月と十五日目になるタゴラス駱駝族の老年は激怒した!
「あんたじゃあ! 近所まで響く声をあげんでくれじぇえ。また苦情が来るわよじょお」
 齢四十にして二の月と六日目になるすでに帰化したタゴラス駱駝族の老婆は夫を
宥める。
「そうは言ってもじゃあ、この記事を見て怒らない旅者がどこにおるのじゃあ?
 記事を見ろじょお、こん美さんじゃあ」
 老年はこん美と呼ばれる妻に紙の五枚重ねの新聞の一枚目表にある記事を見せた。
記された内容は--世界各地で検問所を設置。一の年までに施行を開始--である。
「それのどこがあんたが怒るというのじょお?」
「まだわからんのかじゃあ? 検問所がなんたるかわからんのかじゃあ? 精密に
調べる所なのじゃあ! 遠征しまくって一の年より前に定年退職したこの林原コブ吉
だからこそわかるのじゃあ!」
「元国家神武軍者という肩書きは恥ずかしい物じゃあ。今のあんたは何にも働かん
只飯食らい
じゃろうじい!」
「おのれこん美じゃあ! 言ってはならん事を言いおってじぇえ!」
 コブ吉と呼ばれる老年はその言葉を突かれて少し落ち込む。
「とじょ、とにかく検問所が出来るとなれば通行許可証なり何なりが必要になる時代が
訪れるじゅう! そうなれば今まで楽に旅行した世代はそれより若い世代に一層激しく
怒鳴られるんじゃあ!
 わしは若者を腰砕けにいうのは好きじゃないじい! 何故なら可能性ある者に
『しっかりしろ』と言うのはわしが爺さん方に言われてきた事の繰り返しでならんから
じゃあ!」
「まさかあんたはそんな下らない事の為に大声を張り上げたんかいじゃあ? 全く何
やってんだか」
 こん美は夫に呆れて溜息ばかりつく。
「べじぇ、別にそんな理由だけじゃないじょお! いくら銀河連合対策じゃからって
検問所が設置されたら自由に旅行出来なくなるだろうじゃあ! いちいち許可証見せ
たり荷物調べたりなんかしたら入るまでに草臥れるだろうじゅう!」
「ほうほうじゃあ。だったらえっとここに……『一の年までに施行』って書いてあるわじぇえ。
じゃあ、それまでに旅したらどうじゃあ? 家にいたって只飯食うだけしか脳のない
あんたには合ってる趣味じょお」
 それまでに旅をする--現在十五の年まで付き添う妻の一言は一の年まで何もやる
事の無かったコブ吉に何か知らない火を点す。
「断る……と言いたいじゃろうがわしはそうやって流れるままに旅された過去ばっかり
じゃあ。四の年より前の蘇我大陸にある防波堤への突然の派遣だってそうじゃあ。
 だったら老いでくたばる前に一回は旅してくたばろうじゃあ!」
 コブ吉は決意した--さっき激怒した新聞記事の前で!
 そんな中二の分より前から扉を二回ほど叩く音がしたのでコブ吉自ら前右足で叩き
開かせた--扉の向こうで吹っ飛ばされる齢三十三にして六の月と九日目になる蘇我
鶏族の中年。
「お前は蘇我コケ真じゃあ。わしが大声を張り上げたから駆けつけたのじゃあ?」
 蘇我コケ真と呼ばれる腹が小まん丸に出た中年は頼りなさそうに立ち上がる。
「いでっせ、教官殿は元気良くて困りまっし!
 じ、実はおら。嫁と婚約解消を持ち込まれて大変でっさあ!」
 コケ真は両眼から溢れんばかりの水を溢しながらコブ吉に寄りつく!
「コケ真ちゃんも大変じゃあ。そんなに太ってちゃあコケ緒ちゃんも怒っちまうのも無理
ないじゃあ! 十五児を抱える母親からしたらコケ真ちゃんが情けなく写ったんじゃあ」
「そうゆう問題でっさか! 嫁と別れたらおらはこの先どうやって生きたらいいっせ!
 ど、どうか教官殿! 嫁を説得して下っしせい!」
 コケ真の懇願にコブ吉は嬉しくなさそうな顔で首を横に振る。
「わしも尻に敷かれる身じゃあ。諦めて次の相手を探すんじゃあ」
「鬼族みたいなこと言わないで下さいっさ! おらは嫁が居ないと自信無くっさだよう!」
 そうは言われても--コブ吉はコケ真の妻であるコケ緒を説得させるのには無理が
あると考える。
 そんな時だった。彼はある事を思いつく。
「じゃあこうしてはどうじゃあ。明日わしと共に旅をするというのはじゃあ」
 え--コケ真はどうしてコブ吉がそんな事を言ったのかを予測出来ない。
 実は新聞記事に激怒したんじゃあ--コブ吉はコケ真に朝の出来事について十の分
経たない時間で説明した。
「つ、つまり教官殿は検問所制度が施行される前に各地を旅したいってわけでっせ。
 で、でもおらが付いっそいく意味は--」
「あるわじょお。旅をしていって帰ってきた火には解消話も無くなってるかもじょお?
 コケ緒ちゃんはコケ真ちゃんのたまにしっかりする部分を信じて今までついて行ってた
んだからじゃあ。ここは雄を見せる機会じゃあ!」
 こん美はそうしてコケ真を乗り気にさせた。すると--
「そ、そうっさ! じゃあ教官殿と一緒に旅しまっさ! じゃあ帰ったら嫁に報告っせ!」
 コケ真は鼻歌慣らしながら南地区で二番目に小さな二階建て木造建築へと帰った!
「じゃあが、あやつは明日になるとまた臆病風を吹かすじゅう! よって明日の日が昇り
始めの頃に強引に連れ出すじょお。それでいいじゃあ?」
「あらあらじゃ、顔はすっかり国家神武軍者じゃあ。わたしゃそこが好きであなたに一生
付いて行くって決めたのじゃあ。だけど今度も家を守らせる気じい?」
 いつも済まないじょお--林家コブ吉は繰り返し行われる返答をした。
『こうしてわしは人生最後の旅を始めた。大方の予想通りコケ真の腰砕けは旅に出よ
うとした所、<銀河連合恐い。おらは旅なんてしたくない>なんて無き事言いおったも
んだ。だからわしは力尽くであやつを引っ張り上げた。その事についてはあやつの嫁
も了承したな。
 話を飛ばす。こうして日が顔を出す頃にタゴラス村の西地区から外へ出た。
                                 旅をしてまだ一日目の朝じゃ』

格付けの旅 プロローグ 宇宙のアルッパー

 第十惑星<リューイチ>から第三惑星<わとーそ>へと光よりやや遅い速度で進むデュアン。彼はブラックストーン製のB5ノートを軽々しくめくる。
『[神殺しの九十九]最新版


 ~生誕の順-統合日時より
 【緑肌の剣士】
 【混沌の帝皇】
 【植物学者】
 【格付士】
 【時空王】
 【政治家】
 【不死身の銃士】
 【人肉喰らいの科学者】
 【初めからない欠番】
 【妖艶の痴女】
 【卑怯なる黒豚】
 【俗物の悪獅子】
 【収集の古代種】
 【交渉家】
 【強者を屠る格闘家】
 【神死なせの哲学者】
 【快楽の半人半獣】~』
 デュアンはルイ14世時代の学者シャワルン・マゼーラモアの記す神殺しに関する書物を基に予めノートに記したページに眼を配る。
(さすがのシャワルンもマザーシステムが捕獲した門番まではわからなかったな。俺はこの十七の馬鹿野郎に加えてマザーシステムから聞かされた連中の通り名も追加しておく)
『[神殺しの九十九 verデュアン監修]最新版


 ~生誕の順-統合日時より
 【緑肌の剣士】
 【混沌の帝皇】
 【植物学者】
 【格付士】
 【時空王】
 【政治家】
 【防犯の家】
 【不死身の銃士】
 【人肉喰らいの科学者】
 【爆発する老人】
 【初めからない欠番】
 【妖艶の痴女】
 【1/1のスケール】
 【紳士的な骸骨】
 【卑怯なる黒豚】
 【俗物の悪獅子】
 【収集の古代種】
 【右に属する化学記号】
 【左に属する化学記号】
 【交渉家】
 【強者を屠る格闘家】
 【踏ませる地雷】
 【神死なせの哲学者】
 【快楽の半人半獣】~』
(そもそも俺達全員が全て人型という訳じゃない。通り名でも解るように豚やライオン、それに家や地雷も神が困るほどの成長をする訳だ。ちなみに俺は【格付士】だ。
 ってそんなのはどうでもいい!
 俺はこいつらの中で注意してかからないとならないのが多分三体もいるぞ!
 一体はどうしようもない悪党。こいつは何もかもが危険過ぎる!
 もう一体は種をまき散らす中年太りのクソ野郎! こいつほど殺してやりたいと思わせる男は他にいないが勝てる気がしない!
 最後の一体はこの中じゃあ一番苦痛がわからん奴だ! そいつは持ちうる力が何かと厄介な代物だ! なんでこんな奴をあの最大最悪の男は気に入ったんだ?
 他の連中か? わかりやすい悪党は三体いるが内二体とはいやいやながら同盟を組んでるな。まあ始末する気が全くおこらない以上仕方のない事だ。他には……まあ敢えて尊敬する男も居るけどここは思い出さないでおこうか。
 さっさと……もう<マクタガ>まで進むとは体内時計が進んだ時間と一致しない証拠だな)
 デュアンが<マクタガ>まで来る頃には半日経過。光に近付くと物体は進んだ時間よりも時間の経過が遅くなる。改めてアルバート・アインシュタインを褒め称える--が同時に軽蔑もした。
(何が光より早い物体はない……だ! ここに俺がいるではないか! あのチョビ髭はもっと頭を働かせれば良かったのによ。はあ、まあニュートリノに危うくスピード競争で王座を譲りそうになったけど頼むぞアインシュタインよ!)
 アインシュタインへの愚痴を宇宙空間に溢そうとする頃には第三惑星<わとーそ>を回る衛星<月>を背後に構えていた。
「どの太陽系も結局は月に守られている……と」
 デュアンはA4のノートを取り出して<わとーそ>の地形がどのように成ったのかを直視。
(月からの角度じゃあ海はもう無いも同然だな。それなのに超重元素が原料の超重兵器でも無事な鯨が居るのか。どんな魔法を駆使したんだか)
 ここは自分の故郷の宇宙とは違う。物理学が支配するエーテル無き宇宙なのだ。
(さあて降りますか。エーテルが無くても俺は困る事なんて一つもないからね

 <わとーそ>へと降りたデュアンが早速目にしたのは超重兵器によって年中雪が降る北アメリカ大陸の合衆国領地だった。そんな光景を見るなり早速大量破壊兵器を記したB5ノートを懐から取り出す。
(原子力爆弾はアインシュタインが宇宙斥力以上に人生において影を残した悪魔の兵器だ。キノコ雲は日本人に放射能アレルギーを植え付け、放射能と共に生きるという責務から逃げる連中を作り出したと言えるな。全くこれだから原子力を兵器にするべきじゃあないんだよ。後の戦争がまるでにらみ合いのつまらない戦争になるんだからさ。
 全くアインシュタインにしたってオッペンハイマーにしたってフォン・ノイマンにしたって偉大なる天才は同時に悪魔にさえ手を貸す愚行をやってしまうんだから世の中はどう転ぶかわからん。
 さてと、超重兵器とは何なのか? それは俺の目の前で繰り広げる終わらない雪……だけじゃないな。終わらない雨、終わらない火山噴火、終わらない地震……果たして原爆よりも危険な物をどうして人間様は作れようか?
 あの兵器は一度起爆すれば瞬間的に小ブラックホールを出したかと思うとたちどころに全てを歪ませて気がつくと原形を留めないものが一帯に広がるというのさ。果たして放射能を悪に仕立てた原爆と重力を悪に仕立てる超重兵器。どちらがよりサタンを誘わせるだろうな?
 まあどちらも絶対悪と見るのは死人のする事だ。生きてる奴等はそいつらと真っ正面に向き合う事を勧めたいね。俺だってそうしたいがどうにも向き合えない部分があるんだ……止めようこんな考えは。
 今はどこかに生命反応があるはずだ! 探し出して確かめないとな、格付けの為に!)

 デュアンは一時間で全世界の隅々まで調べる--光を難なく超えた速度で!
(こんだけ人間様が<わとーそ>を痛めつければコキブリや植物といった恐竜共が蠢く時代からの奴等以外は生きられんはずだぞ! なのに十三発目以降を難なく防ぐ鯨は本当に鯨なのか?
 仕方ないが、海も隅々まで調べてみるか? 面倒くさいが)
 太平洋上で浮かぶデュアンが海に潜ろうとしたその時だった!
「反応した! しかも--」
 突然百メートル以上の影がデュアンに襲いかかる--不思議な事に影が襲う前に波飛沫が発生!
 デュアンは光以上の速さでこれを回避!
「光を越えただと! お前は門番だな! 全く新しいタイプの!」
 いや動物がお喋り出来るとは思え--デュアンがそう思考している内に影は姿を現しながら口を開く。
「お前は二本足だな! 俺以外で目に追えない奴がまだ居るとは!」
 それはお喋りが出来る--ブラックストーンを呑み込めば出来ない動物が果たしていようか?
 影は全長百メートルで恐らくシロナガスクジラに近い姿。体色はやや藍色がかる。
 何時の間にか[神殺しの九十九]が記されたB5ノートを取り出すデュアン。
「ここに新たな神殺しが追加されたな、鯨くん?」
 自分を無視してノートに記してゆく者を見て怒りの湧かない動物はいない--鯨はすぐに食らいついた!
「危ないだろ! 紙を破ったらどうするんだ鯨野郎!」
「お前の趣味は知らん! さっさと俺に食われろ二本足!」
「俺が食われる? 食われると言うより寧ろ倒されるのはお前だ鯨!」
 B5ノートにある程度記したデュアンはそれを懐にしまうと教典を回し始めた!
「その教典が自分でに動く? お前は錬金術師か?」
「鯨の癖に錬金術を知ってるなんて意外だな。生憎外れだ。俺は--」
「魔術師風情が俺を倒せると本気で思うなよ!」
「言う前に答えを当てるなんてお前はどんだけ賢いんだよ、鯨外生物が!」
 こうしてデュアンと巨大鯨の神智を越えた戦いが幕を開けた!
 日本の沖縄から北海道に至るまで彼等は現在光よりやや遅く、音では決して届かない速さで戦いを繰り広げる!
 一方は積極的に食らいつき、もう一方は躱しながら火、水、風、土、氷、雷属性の低級魔術を放ってゆく!
「二本足の癖してエーテルってんじゃねえぞ!」
「エーテルはこの宇宙じゃあ否定されてるんだよ! つーかエーテルという単語を知ってるお前は人間臭くない?」
「そんなへなちょこで俺を倒せると本気で思ってるのか!」
「わざと使ってるんだよ。どうしてだかわかるかな、鯨君?」
「小さい癖してブンブンと! いい加減俺の腹の中には入れっての!」
 お断りだ--その言葉と共に巨大鯨の中心部に山吹色の巨大なダビデの紋様が記される!
「これでお前は俺の攻撃を回避出来ない。少し本気を見せてやるよ」
「何訳解らん事言ってる! もうノロノロ動くのは飽きたんだよ!」
 巨大鯨は光速を僅かに超えた速さで右捻り回転の突進をデュアンに仕掛ける--実像は後に続くように!
 だが、暖簾に腕押しするように当たり心地を感じない!
「何、どうゆうトリックだ二本足!」
 こうゆう事だ--デュアンは火、水、風の下級魔術を周囲に放つ!
「俺に近付いてるだと! そんな物は--」
 巨大鯨は避けようと速度を上げる--火球、水流、鎌鼬は虚ろな実像をすり抜ける。
 ところが三つの魔術もまた速度を上げて巨大鯨を追尾--鎌鼬の実像は恐山に届いていないのにも拘わらず斜め上に真っ二つ!
 巨大鯨はなおも回避しようと速度を上げてゆくが三つの魔術は呼応するかのように速度を上げる!
「あの紋様はそうゆう事か! よりにも……しまったぞ!」
「もういっちょ行っとくぞ鯨よ!」
 デュアンは追撃するように土、氷、雷の下級弾幕魔術を北方四島を覆うように放つ!
「クラスター爆弾も放てるのかよ! つーかもう避けるのも面倒だ!」
 巨大鯨の口から光のような物が収束--下と同時にそれは弾幕ごとデュアンに放たれた!
 デュアンは予めバリアを唱えていた為、周囲半径二メートルより内側は無事で済むものの、それより外は二十一世紀初頭に製造された一般核兵器並の威力に晒され、火の海と化す!
(実際に核戦争が起きたら択捉島も国後島も無事では済まないな。キノコ雲こそ発生しなくてもたけのこ雲や蛇雲、それに落雷に似た発光を起こせば何もかも一瞬で焼き尽くす物だよ。まあそれだからこそ核抑止力は成立しちまうってもんだよな)
 デュアンはその光景を眺めながらまるで余裕の態度で格付けしたい事を考える。
「何ぼーっとするか二本足! そのまま俺に食べられろ!」
 巨大鯨は背後をとって漁船すら呑み込まんと大きな口を開かせる!
 かかったな間抜け--デュアンの口元は笑みを隠せない。
 次の瞬間--
「ががああ、忘れていた!」
 巨大鯨はデュアンの放った火球、水流、鎌鼬を三方向から受けた!
「弾幕は虚仮威しだよ。それと先に放ったそいつらも同じだ。
 本当の狙いはここからだ!」
 デュアンは火、水、風、土、氷、雷、光、闇の中級第一魔術を周囲から放つ!
 そんなもの俺の鯨砲で吹き飛ばしてやる--巨大鯨はもう一度口から核エネルギー並の光線を放つ!
 放たれた光線は八大属性の第一魔術を吹き飛ばす……はずだった--八つは光線の周りに沿うように巨大鯨目掛けて向かってゆく!
 気付かない俺だと思ったか--巨大鯨は目前のところで急加速しながら上昇!
「放った瞬間に動くなんて俺に出来ない事をやりやがるとは。それにしても<わとーそ>人共は大変な奴を出してしまったよな。
 そうだろ、鯨くん?」
 光線を防ぎながら頭上から巨大鯨が大きな口を開けながら右螺旋で突進するのを超光速による感覚で気付いたデュアン。
「独り言多いんだよ二本足が!」
 格付けだよ、鯨くんよお--デュアンは特殊な魔法で物理攻撃を回避!
「二度目だぞ! しかもまだ八つが追って来やがる! しつこい奴等だぞ!」
「お前も独り言呟いてるんじゃねえか、鯨!」
「間抜けが! それは俺の作戦だ!」
 しまったなあ--巨大鯨の真上に居ることを当てられたデュアンは笑いながら右手の人差し指と親指の平で交差しながら音を立てた!
「これで年貢の納め時だ、魔法使いの二本足がああああ!」
「それはこっちの台詞だ! 落ちよ、熱圏!」
 ななな--デュアンによる大気圏をずらす魔法だけは避けきれなかった巨大鯨は太陽の表面温度の約三分の一の熱と<わとーそ>上の全ての電流をまともに浴びた!
「<わとーそ>生まれの鯨君はわとーその力にやられ、更には俺が放った魔法をガンマナイフの原理で--」
 中心部向かってエエエエエ--<わとーそ>を半壊させかねない程のエネルギーを受けた巨大鯨は全身を焼き尽くされてゆく!
 そろそろ格付けしないとな--その様子を月面で眺めるデュアン。
(確かに強すぎたが俺の敵ではなかったな。えっと……マザーシステムには何て報告すればいいかな?
 そうだ! ここは……ググ!
 危うく左腕を持って行かれるだけで済んだか!」
 デュアンは肩から先までの指まで左腕を抉られながら視線を張本人……いや張本鯨に向けた!
 宇宙空間でも活動出来るのかよ--視線の先には骨と内臓を出しながらも左腕を器用に咥える巨大鯨の姿があった!
「勝負はまだ着いてないぞ、二本足イイイイイ!」
 全くこれだから神を易々と越える奴は常識が解らないんだよ--デュアンは余裕の表情で呟く。
「そのままテメエの左腕を味わってや--」
 かかったな、鯨--左腕はデュアンに鼓動するように掌から火、水、風を融合した極限魔法を放つ!
 巨大鯨は--危うくやられる所だった--と月が隠れる地球圏まで光速移動する!
「有り難う、鯨! お陰で左腕は元通りだ!」
 デュアンは何時の間にか巨大鯨の背後に移動--経典を外して!
「生身で声が聞こえる……まさか本気を出すのか!」
 その通り--デュアンは突然地、氷、雷を融合した極限魔法を巨大鯨目掛けて放つ!
 しかし、巨大鯨は難なく回避したと思った矢先に何故か下腹部に回避したはず魔法を受ける--固められ、急激に冷やされ、痺れながら!
「がああああ! まさか同時に放てるのか、経典とテメエは!」
「その通りだ! 俺が本気を出した暁として、もう太陽系を大事にする気は毛頭無くなった……ディバインドライヴとファントムハザード、それにギャラクティックヘブンを惜しみなく使ってやる!」
 とすでに経典を含めて三の九乗分放つデュアン--太陽系の重力はひび割れを起こしてゆく!
「受ける前にテメエを食らってやる!」
 巨大鯨は口を限界まで開けながらデュアンのいる方まで最大速度で迫る--もはや映像が一時間遅れる程に!
「俺を食らうって? 甘いぞ、鯨!
 経典にも注意を払わんか!」
 いつの間に--経典は巨大鯨を覆うように周囲を回りながら拘束!
「いで! 俺を閉じ込めるなんて!」
 チ、チ、チ、閉じ込めるという発想は止めよう--デュアンはくっつけた左腕の人差し指を左右に振る。
「まさか約二万もの魔法が俺に--」
「ああ、しかも経典でさらに二倍来るぞ! それを避ける術は--」
 合計39366もの極限魔法を受けた--巨大鯨の周りで太陽系の星々はエネルギーに耐えられず、次から次へと消滅!
 戻れ、経典--デュアンは<リューイチ>まで避難して巨大鯨の周りで起こる出来事を観察。
(どうやらブラックホールの発生でエネルギーはこれ以上やってこない。ただ、太陽が消滅したからもうここら一帯は漂流してゆくってな)
 安堵したのか懐からB5ノートを取り出すデュアン……だったが--
「信じられない! あれだけのエネルギーを耐えきるなんて!」
 巨大鯨はブラックホールにもがきながらも今なお生きていた--吸い込まれながらも体中の傷を超光速で治しながら!
(魔術師という人種は火を起こす為に詠唱を行う。これは数学者が三角形を証明するように魔術師も火起こしの証明をするんだ。その為に火を起こす魔術回路を通じて体内に蓄積されたエーテルと俺達魔術師が必要とするマナと呼ばれる生命エネルギーを消費して火を実体化し、そいつを目標に向けて放つ。ただし、マラソンランナーが大量の肺活量を必要とするように魔術師もまたそれを必要とする。魔術一つ消費するだけでも息切れを起こすなんて事が多々ある。
 んで俺はどうして巨大鯨を眺めながらそんな事考えているかだろ? それは俺の詠唱方法がやや特殊なんだ。これは俺が開発した詠唱方法ではないんだが、『零秒詠唱』と呼ばれる詠唱法について……ガ!)
 油断をしたデュアンは巨大鯨の体当たりをもろにくらい、<Hカー>まで直径千メートルものクレーターを出しながら激突!
「余所見してるんじゃねえ、二本足!」
「油断してただけだろ、鯨君よ!」
 デュアンは見覚えある島まで飛ばされた事を確認する。
(連中は既に避難済みなのか? 無理な話だ! 何れグリーンP太陽系は……考えさせろよ、こいつは!)
 右捻り回転による体当たりを寸での所で避けるデュアン!
「俺をここまで痛めつけた事を後悔させてやる、二本足!」
 それはこっちの台詞だ--デュアンは雷系上級魔法を放ち、巨大鯨を牽制!
(話の続きだ! 『零秒詠唱』で俺はこいつに僅か零秒でも詠唱の隙を……クソ、また正確無比になって!
 隙を与えずに放てるんだ、魔法を! けど、こいつにも……経典も限界を迎えそうだな!
 『零秒詠唱』にも弱点がある! それは予め入力したい魔法を放つ以上は大量の消費マナを体内に蓄積するんだ! これが厄介な代物で……考えさせろよ、巨大鯨の癖して!)
「お前は圧倒的に不利なんだな、エ!
 あんだけ魔法を放っても俺一匹倒せないから不利なんだろ、エ!」
「鯨の癖にチンピラみたいな言葉遣いをするなよ。いつから俺が不利になった?
 独り言でも吐くぞ! いいか?」
 敵である俺に聞くな--巨大鯨は海に潜る!
(俺が予測出来ない場所から這い出て来るってか? んじゃあ話の続きだ。
 えっと、大量の消費マナを蓄積する以上は当然人体には様々な悪弊が出る訳よ。消費マナってのは生物が腎臓で有害な物を尿に還るように人体に有害なマナもまた消費マナとして魔術経路を通じて体内から放出されるんだ。だから消費マナを体内に蓄積するなんて事になると魔術回路がおかしくなって様々な状態異常にかかり易くなる。それだけ危険な詠唱法なんだ、『零秒詠唱』は。
 そろそろ来る頃かな?)
 デュアンは水系上級魔法で周りにある海を更地にさせた!
 すると、巨大鯨が正面よりやや垂直に白く輝きながら突撃してくる!
「奥の手を見せてやる!」
 お前に手がないだろ--そう言いながらデュアンは防御魔法で周囲半径一メートルまで覆うバリアを張る!
 巨大鯨による『ホワイトホエール』を受けながらデュアンは話しかける!
「この技は何て言うんだ、鯨君?」
「『ホワイトホエール』だ……テメエは余裕こいて聞くんじゃねえよ!」
「んで俺が『零秒詠唱』を難なく放てるのはまあ他の連中と違って対処法を駆使してるのもある上、俺自身が蓄えるマナが星の容量を遙かに超えるからだ!」
「んな事知らん! つーかいい加減そんな防御壁も限界だろ!」
 そう言えば--防御壁はひび割れを起こしながら半径を縮めていき、デュアンの服にまで接近しようとしていた!
「『ホワイトホエール』を破る方法なんてねえ! そのまま食らっちまえ!」
 とうとうバリアは壊れ、白い光は<リューイチ>を呑み込む!

「はあはあ、二本足の分際で俺をここまでコケにしやがって!」
 <リューイチ>は跡形もなくブラックホールに吸い込まれてゆく中、巨大鯨はデュアンを探す!
「倒した……はずなんだけど。あの二本足の事だからどこかに--」
「へへ、ターバンを脱ぐぜ!」
 巨大鯨は驚愕の表情を見せながら声の聞こえる方へ向いた!
 そこには血だらけになりながらターバンを脱ぐデュアン--隠れていた肩まで伸びる白髪を宇宙に晒しながら凍らず、原形を留める!
「『ホワイトホエール』をくらってもまだ宇宙で活動出来るのか!」
「俺を誰だと思ってる! 故郷の賢者共から忌み嫌われた魔術師及び魔法使いデュアン・マイッダーだ!
 超神魔道師たる俺がそんな攻撃をまともに浴びながら無事である事はお前が証明しただろ!」
「つまり『同類』と言いたいのか!」
 ああ--デュアンは金色の光を放ち出す。
「まだ戦えるのか?」
「『零秒詠唱』をたった今解除した。ここから先は時間のかかる事をする」
 有り難い--巨大鯨は口から光線を放つ!
 しかし、デュアンを通過するように曲がりくねってブラックホールに向かう!
「言い忘れたけど、解除する前に一定時間物理攻撃を無効化する魔法をかけた。一般人にとっては一定時間でも俺達にとっては一日以上に耐えがたい長さだよ、鯨君」
 二本足がああ--巨大鯨はデュアンを倒すべく尻尾攻撃及び噛みつき攻撃を仕掛けるが何れも空を切る!
「鯨君は御存知かな、ボーリングについては」
 お喋りは手の内さらしだ--巨大鯨はデュアンに体当たりを仕掛ける!
 またもや通過--勢い余ってブラックホールに引き寄せられそうになる巨大鯨!
「どんなトリックなんだ! 無敵時間が長すぎるぞ、二本足!」
「光は光に、闇も包み込もう。そして穴は全てを引き寄せ、光すら逃さない--」
「その詠唱は……ブラックホールでも出す気か!」
「--ならば世界は転がるように回れ……さて、長ったらしい詠唱時間はお終いにしよう。
 いでよ……小宇宙!」
 させるかああああ--巨大鯨は白く輝き出す!
「また『ホワイトホエール』か。その技は光よりやや遅いのに使うよな。止めを刺すのか?」
 今度こそ消滅しろ、二本足--『ホワイトホエール』がデュアンの寸前まで迫った!
「……無敵時間は終いになったが、お前もそろそろ消滅しろ!
 『ボーリング・オブ・コスモス』によってな……」
 油断した--巨大鯨の周りを経典が覆い、そしてプラネタリウムのように中で模様を描き出す!
「お前は俺に触れる前にその小宇宙から逃れようと必死になるのさ。まあすぐに脱出出来るだろうが、そんな事をしたら……無事でいられるかな?」
「てめえ、動くぞ! 経典まで捨てる気なのか!」
 捨てないさ--巨大鯨をブラックホールより月の直径まで運ぶと突然姿を消す!
「ほら、元通り……遠すぎて声が届く事すらわからねえな」
 二本足イイイイイイ--小宇宙はブラックホールに呑み込まれ、急激に引き延ばされてゆく!
 デュアンはようやく決着が付いた事を安堵する。
(はあ、同類に勝てたのはこれが最初だ。俺もようやくあの男に近付けたかな?
 もう二度と俺の同類と出会うのは御免被りたい。俺の中にあるエーテル量が少なすぎる。もうこの宇宙から脱出する以外の消費は出来ない。さっさと……また迫り来るんかよ!
 ……いや、今度は神々が来るのか!)
 デュアンは二つの反応に気付く--その内の一つがドーナツ型宇宙の支配者である八百万の神々による光の速度で迫る無数の隕石群だった!
(あんだけ荒らせば神様だって怒るのは当然だな。俺は奴等に勝てるが、エーテルを維持したい。ここは--)
「勝負はこれからだぞ、二本足!」
 デュアンの眼前で空間が硝子のように割れる--そこから血塗れの巨大鯨が飛び出す!
「ちょうど良い所に来た、アルッパー! 神様が俺達を仕留めに隕石を寄こしたぞ!
 そんな訳で--」
「待て、二本足! 勝手に名付けてんじゃねえぞ!」
「話をしている場合か! 宇宙八百万の神は空間を使う者も含まれるんだぞ!
 ほら、あっという間に!」
 危ねえ--巨大鯨アルッパーとデュアンは紙一重で避けてみせる!
「怒ってるぞ! 神様はお前の先祖である怪獣王もいるぞ!
 放射能熱線を浴びせられるんじゃないか?」
「そんなことよりもお前に負けっ放しでは俺の--」
「だから喋っている場合じゃないだろ、アルッパー!」
「いつから俺に名前が付いたんだよ!」
「強敵兼相棒として認めたんだ。んで通り名は『宇宙のアルッパー』でいいか?」
「ええい、神が邪魔をしなければお前との決着が付いたのに!」
 こうして巨大鯨は正式に門番となった。名前はアルッパー。名付け親はさっきまで死闘を繰り広げた魔術師デュアン。
 二体の門番はその後、天文単位の隕石を躱しながらドーナツ型宇宙を脱出してゆく……


 PROLOGUE END

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キラキラネームは将来を壊す

 どうもDQNネームじゃなくて良かったとつくづく思ってますペンネームdarkvernuでございます。
 始める前に『格付けの旅』のプロローグの半分が終わりましたので読みたい方はカテゴリ覧の<格付けの旅>にクリックして下さい。
 では早速ショートストーリーを始めますぜ。

 ここは神の超宇宙……神の神による神だけが許された神の超宇宙。
 そこには様々な神が切れる若者のように群雄割拠していた。そんな若者気質の多い神々の中で命名権を与えられし神が新生児の名前を見ていた。すると--
「ふ、ふ、ふざけんな馬鹿野郎共オオオオ!」
 彼は激怒した! 新生児に付けられる名前の内の--
「お前ら親は何を考えてそんな名前を付けるかああ! わりと最近だったら荒木大輔にちなんで大輔なんて考えもせずに付けた馬鹿親が居たがそれならまだマシだああ!」
 神の癖に怒りで我を忘れる--パソコンを壊すだけならまだしもキーボードクラッシャーや修羅パンツのような振る舞いを見せた!
「現在は酷い! 西尾維新小説の読み過ぎだぞ! 関係ないか……。
 わてが言いたいのはそうじゃない! なんだよ『星空(きらきら)』『希星(のあ)』『炎皇斗(かおす)』『眼蛇夢(がんだむ)』『模戸難(ぼとむず)』『ジア武合嵯(ふぁいざ)』『詫惰者(ただもの)』『御化基(おかもと)』はよおお!
 新生児をなんだと思ってるんだアアア! お前ら親共の玩具じゃないんだゾオオオオ!」
 今度は拳児の真似をしながら怒りを表現!
「そいつらが将来どうなるか考えた事あんのかアアア! 虐められるとかならともかく自分で自分が嫌になって犯罪や不幸な目に遭うんだぞオオ! 実際には『宇宙太(うちゅうた)』と名付けられた奴が前科を増やしてるってのによオオ! 犯罪予備軍を増やしてどうするか馬鹿もんがあアアア!」
 怒りはなおも続く--荒ぶる鷹のポーズだけでは物足りないくらいに!
「名前はその子の人生を決める物。その子が健やかに幸せであるように付けないと駄目なんだぞ! それを流行だとか自己満足の為に付けられて不幸な目に遭うのは付けられた本人なんだぞ! お前ら親……特にお腹を痛めて産んだ母親は何の為に赤ん坊を産んだのかを考えろ!
 はあはあ、わては新生児の名前に幸がある事を願う。出来ればいい格好しようとする親に産まれない事を願う。将来に幸あれ……」


 今回は自分自身を思いっきり投影しました。いやマジで新生児の名前はちゃんと考えろと言いたい(怒)! 第一そんな名前を付けられて困るのは子供なんだぞ! それだけじゃないぞ、周りだってそんな名前にどう対応すればいい? 先生は? 同級生は? クラブの先輩は? 面接をする人は? 企業は? いろいろ考えろよ馬鹿親共(怒)!
 すみません、久方ぶりに取り乱してしまって。とにかく自分は自己満足の為に名前を付ける馬鹿親はこの世から消えればいいと願います。子供が可哀想だよ。そんな名前を一生背負わなければならないなんてよお。第一名前とは人生そのものを決める大切な道標だぞ! 名前一つでどれほど人生に振り回されるかを考えないといけないんだぞ! わかるかキラキラネームを付ける馬鹿親共! お前らが本当に子供の事を思うなら名前を付けて不幸をまき散らす事になっても絶対に責任取れよ! 責任転嫁は下衆のやり口だからな(怒)!
 他にも大輔ブームにちなんで子供の名前を『大輔』にしたり、ジャニーズ信者で子供の名前を『拓也』と付けたり、エヴァオタクで名前を『飛鳥ラングレー』と付ける馬鹿親はDQNネーム親と同罪ですよ。そいつらは結局子供を愛しちゃいない証拠ですから。
 え? 自分? 漢字一文字ですがちゃんとした名前ですよ。ちゃんと親が考えて決めた名前ですので。以上でショートストーリーの解説を終えたいと思います。

 第三十五話の解説を拙速気味にしますね。今回はタイトル名にちなんで主人公を蜥蜴にしました。
 主人公は六度も組長を務めては派遣する度に部下を死なせて得意の尻尾切りを駆使して生き延びるほど無能な指揮官です。六度目以降は四年間雑用を任されるだけの人生でしたがある日、第二十八話~二十九話の主人公アリゲルダによって特殊班の長を任せられました。そこから先の任務は防波堤の奪還。七度目の正直が始まる訳ですよ。
 今回は死んだのかそうでないのかを曖昧にしておきました。何故なら主人公の戦う意味が見出せないのではないかと考えたからです(苦)。たださすがに遠征隊とか門が突然開く部分は唐突というか都合良すぎたのではないかと悩みます(辛)。
 今回訂正しなければいけない部分が出ました。それは第二パートで『~に殺されて何かに当たりたい』とありますが正確には『~に死なされて何かに当たりたい』です。遠すぎる過去の世界では出来る限りの善意の言葉はあっても悪意の言葉は彼等には表現出来ません。まあ第一話、二話のタイトル名は突っ込まないでくれ、お願いだから(笑)。他に訂正したい部分はHP版で公開する時以外はそのままにするよ。その方が読み比べに便利だしね(笑)。
 まあ設定の整合は自分は基本的に気にしない主義ですので突っ込みたい方は好きに突っ込んで下さい。ただしいらん突っ込みは受け付けない予定ですので(辛)。
 以上で第三十五話の解説を終えますよ。

 今回は『格付士デュアン』についての解説も行います。主人公は魔術師デュアン。何かを格付けしたがる男だ。
 プロローグでは彼が何故ドーナツ型宇宙に来たのか? それは気まぐれ以上に自分と同類がいると直感したからですよ。つまり都合良くできたお話ですよ。
 まああまり詳しい事は説明しませんが舞台となる銀河系と太陽系は鯨問題に詳しい人なら一発でわかると思います。つーか自分は本気でそいつらをネタにしてますよ、丹念にね(怒)。
 とまあ説教臭い事はここまでにするとして、主人公デュアンは現地住民に恐怖を与えた後、代表のどう考えてもそんな老人いないだろうと言える老人からここに暮らしている理由を聞き出します。そこから先は次のプロローグでどうぞ。プロローグは元々二部構成にする予定でしたので。
 ちなみに『格付けの旅』は白魔法、黒魔法、赤間法、青魔法と四つの章に分けて話を進める予定。しかも日曜の不定期日にね。それぞれの章はどんな特徴なのかはプロローグの後半を終えた後の解説を待って下さい。今日は明日まで書くかも知れませんが後半を執筆予定です。
 以上で『格付士デュアン』の解説を終えます。

 それじゃあ今後の予定をどうぞ。

 九月
 三十日~十月五日   第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて       作成日間
 十月
 七日~十二日     第三十七話 鼬ごっこの世              作成日間
 十四日~十九日    第三十八話 三兄弟物語 星々が輝く世で    作成日間
 二十一日~二十六日  第三十九話 三兄弟物語 無限逃走の責務   作成日間

 ちなみにとある理由で三十九話は二十四日までに終わらせて二十五日に雑文予定にします。宜しくお願いします。
 では今日はここまで。あなたの人生に幸あれ!

一兆年の夜 第三十五話 蜥蜴の尻尾(七)

 午後十一時五十六分三秒。
 場所は第三関門前。トカッガ達五名が居る所はちょうど高台となっており、第三関門を見下ろすには最適だ。
 第三関門にはおよそ百もの銀河連合が待ち構える--正確には産卵と出産をしている以上はそこで生活していると考えよう。
「こりゃあひどい。だいさんかんもんをなんだとおもってるんだ、あいつらは!」
「さすが銀河連合っせ! おら達に出来ない事を本当にやるもんだから全然共感出来ねっす!」
「共感するべきじゃな、第二関門で今も戦うブルルンを考えるん」
「ブルンデッドの兄貴のお陰で某達はやっと第三関門までこれたス。
 でもここを含めて後五関門もあるのでス。この先某達が進める想像が出来ないのはきついス!」
「確かにこの関門の銀ー河連合はー酔っ払いとー変わらーないとはいーえ数ではーこちーらを押さえ込ーめるわ。この先はーどうやーって乗りー切るつもりーなの、班ー長の坊やー?」
「もうそろそろか、もうそろそろ根回しが働く頃なんだけ」
 その言葉に反応したのはイン歌だ--復興赤兄村に滞在中、彼はトカッガの頼みである手紙を担当している部隊長に渡していた。
「あのてがみをよんでむこうのたいちょうさんはこまってましたよ。あれはむちゃなたのみですよ!」
「俺達の方が無茶だ、こんな数で奪還しようとしているん。
 だからこそ少しでも妥協する術を探るべく俺はあの手紙を書いたん、全ては己の失敗した経験を込め」
「まあー何を待ってーるかわーからなくてーもいざとなーったら私が持ー参した十……いえ途ー中で飲んだーり落としたりしーてもう七瓶ーしかないけーどそれを使って--」
「残り六瓶になったぞス! まさか佐藤姉貴は酒の発火作用を利用して--」
「ウイ、いーざといーう時だわー。そのいざとーいう時ーがいつ来ーるかわから--」
「何呑気に飲んだくれっせますか! そんな時期なんて訪れないっそ! あんな数っじょあもうおら達はお終いだああ!」
「にげんじゃないよ、こけまどの! わたくしめはなんかいえりくびつかめばいいんだよっと!」
「声を小さくし、気付かれたらどう……この音」
 かすかではあるが左斜め後方より何かの一団が接近する音が近付き始める。トカッガのみならず他四名もその音に気付く!
「まさか銀河ー連合ーの増援ー?」
「いやそれならあいつらは音を出さずに来るはずス! この音は--」
 カマ汰が振り返るとそこには国家神武の軍服を着た生命の一団--数はおよそ七十--がヒラリー班に向けて行進していた!
「あれは国家神武ス! どうしてこれ……まさかイン歌が渡してきた手紙の中身はこれだったのかス!」
「きてくれたんだ! でもこれでかんぜんにだいさんかんもんのぎんがれんごうにきづかれたよ!」
「予想より半分くらい少ない、仕方ないよ。
 俺は向こうの隊長さんと話をしてく、お前らはギリギリまでそこで待機し、指揮はイン歌に任せ」
「わたしめにやらせるとは!」
「一番ー偵察にー向く坊やなーら任せられーるわね!」
「で、でもここでじっとしっさはいつまで?」
「さっきも言ったろス。ギリギリまでス、とス!」
 四名が待機中、トカッガは一団を指揮する隊長である齢三十七にして七の月と十四日目になるタゴラス駱駝族の中年林原コブ吉に近付く。
「貴様が不死身の傭兵トカッガじゃあ。またわしを遠征させおってじぇえ」
「話には聞いた、あなたが遠征家林原コブ吉か、兄から良く聞かされ」
「腰を砕くのはここまでにしようじゅう。要望を言えじぇえ、トカッガ・ヒラリーじゃあ」
「出来れば第四関門まで突破を願」
「無茶じゃあが、わしが居れば可能じゃあ!」
 一分と係らず交渉成立--コブ吉は全兵士に命令を下す!
 それを聞いたヒラリー班全員(コケ真を除く)は一旦退却した!
(それじゃあお足並み拝見、一応第五関門までに補給員から道具を調達しないと)

 三月十七日午前二時五十八分三十七秒。
 場所は第四関門。銀河連合によって各地に仕掛けが施され、それに気を取られて遠征一団の四分の一が命を落としてゆく!
(仕掛けだけじゃない、数が前の関門より二倍あ、さすがに突破が困難を極める。
 まだ俺達が動くのはここでは--)
「班ー長さん? どれくーらいあちらは渡してーくれたー?」
 二本渡す--トカッガは前右足で鞘のついた二本の神武包丁をパト恵に転がし渡した!
「こんな中ーで渡すーなんてさーすがはー私が見ー込んーだ雄ね!」
「姉貴はいつから見込んでましたス? 気付きませんでしたス」
「まったくこんなじょうきょうでよくしゃべれますね」
「そうゆうあんたは戦わないじい。自分の意志じゃあ?」
「わたしめはそうゆうせいめいですから」
 イン歌の表情を一瞬見えたコケ真は--
「見直しっそイン歌。お前だっし弱い部分があるなんっさ!」
「ほめてないだろ、それ!」
「砕けるのはここまでじぇえ! そろそろ突破するじゅう!」
 第四関門の戦いは一の時以上続く!

 午前六時零分二十三秒。
 場所は第五関門。この関門には仕掛けもなければ地形的に厳しい物もない。只一点異なるのは銀河連合の数は第一関門と同じだが質は明らかに違った!
「何て強さだス! なんで百獣型級が十体も居るんだよス!」
「折角突ー破してきーた国家神ー武の一団はーもう十名を切りそうよ!」
「もうぼうかんできないよ! わたしめはもうたたかって--」
「それだけはまだやる、俺が死ぬまでお前は偵察に徹し。
 戦いたい気持ちは抑え、イン歌」
「何なっせおらも戦って--」
「お前みたいなのは外野で悲鳴でも上げとけじぇえ! わしが知らんと思ったか元軍者蘇我コケ真じゃあ!」
「お、もいだしったよ! あの時の五月蠅い教官殿でしたっせ!」
 コケ真は今頃になって冷や汗を出した。
「だがこの若造十体はわしらが相手にしてやるじゅう!」
「無茶だコブ吉、あんたがどれくらい強くても部下がそこまで強くは--」
「もう呼び捨てかトカッガの若造じゃあ! 部下がそこまでじゃないのなら気合いで無理矢理そうさせてやるんだじゃあ! なあコケ真じゃあ!」
「鬼族並みに恐ろしい教官殿らっせうですね、はは」
 腰と頭を踏ん張らんかい、ひよっこオオオ--コブ吉は残り十名の部下に怒号を浴びせた!
「先に進めトカッガじゃあアア!」
「行くぞみんな、第六関門」
「「「「オオオオ(おおおお)!」」」」
 ヒラリー班の行く手に成人体型一とコンマ五はある銀河連合猿型が立ちはだかるが、隊員であるルケラオス鼬族の青年がなめらかな包丁捌きで猿型の右肘から指先までを切断--猿型は一瞬切られた痛みを感じず唖然とした!
「ありがとうイタラス・ジャレモンド」
 ヒラリー班は第五関門を突破した!

 午前七時一分六秒。
 場所は第六関門。ヒラリー班は数が十倍いる銀河連合に今までの疲労が重なり、限界に近付いてきた!
(俺の物部刃は残り二本、他の者はイン歌とコケ真を除けばもう戦えな、第七関門に入れば後は。
 なのにここまで来てこれでどうしろ、また俺は部下を、また無意味に尻尾を使うの。
 いやもう後ろ向きは考えたくな、第二関門で未だに戦い続けるブルルンに怒鳴られてしま、でも--)
 表情に諦観が表れ始めようとしていたトカッガを見たパト恵は全身傷だらけで口持ちの神武包丁も残り一本であと一回しか切れない状態。そんな状態になってようやく彼女は残り四本となった酒瓶に足をやる。
「佐藤姉貴ス! まさかやるつもりなのかス!」
「当たりー前でしょー。さっきもー言ったーじゃなーいの。これーだから雄ーは教養ない者ーばかりなのーよ」
「やめるんだぱとえどの! あんたはのこりよん……ちょっとなんでいっぽんのんきにくちに--」
「何ってー? 最後ーの一本を飲まなーいと始められなーいわよ。さあ残り三本ーは酒浴びよー!」
 銀河連合達にはパト恵の行動は全く理解出来ない様子--残り三瓶の蓋を開けて水浴びするように全身に塗るたくるパト恵。
 そして--
「行きなーさい四ー名! 私はここにーいる坊やー達を惹きー付けるかーら!」
 両前足で火の点いた松明を全身に浴びせる--火は瞬く間に佐藤パト恵を燃やし始める!
 それを見たトカッガは無茶な命令を下す!
「これだけは言わせ、必ず生きるん、パト恵」
「アチチー、出来なーいと思うけーど頑張るーわ!」
「パト恵さんんんん! 死んじまうなっさああ!」
「ひふをやくなんてめすとしてちめいしょうだよ!」
 パト恵は道を阻む銀河連合の一体を切り裂くと口から神武包丁を離して群れとなった銀河連合達に突進!
「雌ーは燃えーる者なのよーおおーおお!」
 佐藤パト恵が付けた火はほぼ七十六体の銀河連合に燃え移り炎となった

 午前七時二十五分九秒。
 場所は第七関門前--本来ここが第一関門と命名される場所。そこには五体もの百獣型が待ち構える。
 一方のヒラリー班四名は疲労困憊の上に全身傷だらけ(二名除く)。それでも両眼は前向きに輝く!
「行って下さいス! 後は某達がこいつらを相手にしますからス!」
「任せたぞカマ汰、イン歌、そしてコケ真」
「ということはそろそろわたしめもたたかうときですね」
「覚悟があるなんっさ本当じゃないけど覚悟してみせるっせ!」
「使い方はわかるかス!」
「わたしめのどうぐはぼうえんとうだよ! だからいったいたおすのはたぶんできるはず!」
「たった一体なんて……向こうから来る、好都合」
 百獣型五体が全身を始めると四名もまた傷だらけの肉体で走り出す!
「ん? みんな、こうほうよりぎんがれんごうがきます!」
「さすがのパト恵でも全体は無理、だが交代出来るものか、俺達は前しか見るな」
 百獣型五体との距離が成人体型一に近付くとトカッガはイン歌に尻尾を持ち上げられる!
「いいの? しっぽがきれたらどうするのさ!」
「百獣型より後ろまでいけたらそれでい」
 しりませんよ--五体の背後に入るとすかさずイン歌は落とす!
 トカッガは五回転ものする前受け身をした後、第七関門へと疾駆! 五体いる中の一体はすぐにトカッガを追おうとするが面前に翼持刀を構えたイン歌が立ち塞ぐ!
「ししゅあるのみ! しぬきはまったくないが!」
「うわああ! もう囲まれっしだああ!」
「さすが百獣型ス! 某の運命はこれまでなのかス!
 いや敢えて我が儘を貫くス!」
 残り三名には生きる覚悟しか残されていなかった!

 午前七時五十七分二十八秒。
 場所は第七関門左引き縄前。第七関門は元々津波対策も兼ねて巨大な鉄製の開門が建てられた。左右それぞれを開けるには左は偶数個もの縄を引っ張る事。右は奇数個もの縄とある床の板を外す事。そうすれば門は開き、防波堤に海水が流れるようになるという仕組み。
 ただしこれはかつて占拠される前の情報。今となっては真実である保証はない。それでもトカッガ・ヒラリーは黙々と仕掛けを解除してゆく。
(これで左は完了し、後は右の方だけど……ぐぐ。
 傷がここに来て気にしようと、だけどどうし、俺はもうろく度に渡る逃亡は御免こうむ)
 よろめきながらも四本足で進んでゆくトカッガ。それから五の分が経過してようやく右の解除に入った。
 奇数個の縄の解除は簡単--ただ縄を規定範囲まで引っ張れば自然と解除完了。
 問題はどこの床を外すかだ。右側の床は縦六個、横七個更に横にもう一列あって縦に五個あり合計すると四十七個にもなる。普通なら見つけるのは容易そうだ。だが、一つでも正しくない床を外すと全ての床板を最初からやり直して外しても解除に至らない不思議な仕掛けとなる。そこが第七関門が第七関門足り得る理由。
(縄の解除は終了、問題の床板はどれを外すべきなん。
 当時の設計者と仕掛けを作った生命はもう墓の下にいる以上は聞き出すことは叶わな。
 支部長からは破ってでも奪還しろとは言われた、しか、これはどうすることも叶わないので)
 それでもトカッガは床板の音で仕掛けのものを探し出そうと試みるが床板一枚の面積は成人体型一とコンマ五。反響で調べるには時間のかかる作業だ。それでもトカッガは一枚一枚丁寧に調べてゆくが--
(ん、床板の下に……まさか--)
 考える暇もなく背中から人文字のような頭をした影が襲来!
(あれは鍬形型……まさか赤兄村に居てた奴は死んだのではなか--)
 身に覚えがあったのは何も鍬形型だけではなかった--後ろ左足を救うように地面からも身に覚えのある土竜型が出現!
「お前も生きていたの、折角解除出来ると思っていたの」
 トカッガは床板の下に銀河連合が潜まれて大きな衝撃を受ける--彼は結局己の過去を乗り切る事は叶わない無念に身体全体が包まれようとした!
「神々はどうやら俺にお叱りのよう、ならば今度はその然りに包まれよう--」
 先に解除された左側の扉は海水の力に耐えきれずに力の限り開く!
 それに釣られて右側もまた破裂する勢いのまま海水を吐き出す--解除されない部分を強引に破ってまで!
 海水は波と化して第七関門で戦う者達を包み込む! その勢いは第六、第五と派生! 登り角である第四、三も全く効果を表さずにとうとう防波堤全体を覆うように海水は全てのものを呑み込んでゆく! トカッガは七度目にしてようやく過去と決別した!
 だがこれは果たして都合の良い結果なのか、それとも奇跡と呼べるものなのか?
 流されながらも命からがら生き延びたカマ汰とイン歌、それにコケ真はトカッガを探す。彼等は一の時かけて見つけた物は蜥蜴の尻尾。
「まさかトカッガ殿は--」
「んなことあってたまるかス! トカッガはこんなに早く死ぬような雄ではないぞス、なあイン歌ス!」
「わたしめはこのめでみるまではせいしをはんだんしないつもりだよ。でもしっぽはまちがいなくはんちょうそのかたのものです。なのでどこかにはんちょうがうかんでいるかわかりませんよ!」
「浮かぶなんて死んだ物のしてしまうことだっさあ! おらはそっさ後ろ向きは勘弁して下さい!」
「うしろむきじゃないよ。まえむきだろ?」
「当たり前じゃないかス! あいつならそこに……やっと見つけたス!」
 トカッガ・ヒラリーは生きる覚悟を決めて七度目--ようやく汚名返上を果たした



 ICイマジナリーセンチュリー九十七年三月十七日午前九時零分零秒。

 第三十五話 蜥蜴の尻尾 完

 第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて に続く……

一兆年の夜 第三十五話 蜥蜴の尻尾(六)

 午後九時五分六秒。
 偵察を済ませたイン歌が戻ってきた。彼は班長トカッガに五の分くらい報告をした。その後は五名の所へ行き、会話の中に盛り込む。
「ありゃあむりだよ。わたしめはかつてしぶちょうから、らてすとうたいじゅがたとのはなしをきいたことありますよ。それとおなじじょうきょうだとそうぞうしますよ」
「支ー部長は確かーヤマビコノアリゲルダだーったわねー。三名の仲間ーが死んーだって聞いたわー」
「正確にはもう一名以上追加するべきだス。言葉が複雑な真正細菌族の方々ねス。彼等が居なければ負け戦でありましたス」
「な、何呑気に喋ってるんでっさ! やっぱ逃げまっせう!」
「ここまで来ておいて逃げ戦は一生悔いを残すゾゾ! 俺は家族の無念をここで終わらせに来たんだアア! 逃げるという単語はもう意味ないのだアア!」
「待ち時間は過ぎ、行くぞみんな。
 己の過去との決別をし」
 一名除いて彼等の足(翼)は前進する!
 まず六名は防波堤第一関門--正式には最終関門だが銀河連合に占拠された今では第一関門である--を無傷で突破しようと試みる!
(ここは楽、内容によると銀河連合が十体程度しかいな、俺達六名を甘く見ないことだ)
 先陣を切るのはブルルン--牛、羊、豚の三体は突進を敢行するものの予想を上回る力の前に弾き飛ばされてゆく!
「俺はこう見えて国家神武軍者ダダ! そこにある突進倶楽部に所属燃していたんだぞオオ!」
「とこーろで『倶楽部』ってー何? 私知らないんーだけーど」
「『倶楽部』とはなアア! ややこしいから言わねえぞオオ!」
「ドヤス、こやつううう……『倶楽部』ってのは趣味を一つにする者がねス。ええと……危ないス! ノワアッツ……後で説明するよス!」
「みなさんきんちょうがなさすぎるよ。わたしめはていさつたんとうだから、これをほごすることでせいいっぱいだよ」
「やっぱり帰りたっさいイイ!」
 コケ真とイン歌を除く四名は十の分も経たないうちに銀河連合十体を倒した!
(ここは俺の経験上は楽、問題は次の関門から、ここでいつも俺は油を断ってしまうん)
「私の雄ー略包丁は二回斬ーったから残ーり三回までーだわ」
「ほえっす? 包丁は三回までじゃないのっそ? いつからそこまで切れ味が保証出来っそ?」
「あんたはすぐやめたからわからないだろうけど、たいじゅがたとのたたかいいこう、しんせいさいきんぞくのじゅうようどがましたのさ。それまでてつのきょうどときれあじをほしょうするゆのおんどだとかそうゆうのから、いかにしんせいさいきんぞくにきょうりょくしてもらうかがじゅうようになった。そのけっかとしてきれあじはそのままにきょうどをたもてるものきりほうちょうへとしんぽをとげたんだ。まあそれでもし、ごかいまでしかほしょうできないけど」
「腕の立つ生命なら何回斬っても錆を残さないと聞くが本当かなス?」
「俺はモノ切り包丁ではなく望遠刀を使うから気持ちはわからな、だが居たとしても国家神武軍者カゲヤマノツクモノカミかイタラス・ジャレモンドか天同八弥様くらいしか思いつか、他にいるの」
「俺だって思いつかないぞオオ! そんなに強い存在がいるわけ……関門で待機しちゃくれんかヨヨ!」
 第二関門は本来遠距離から望遠刀による雨あられで防衛するはずであった。ところがそれに反して銀河連合蠍型がブルルンに向けて突進!
「待てブルルン、ここは俺が--」
「大事な尻尾は最後まで取れエエ! ここは俺がになってやルル!」
 ブルルンは五名を後ろに下がるように進めた後、自ら蠍型に突進! 蠍型との距離がブルルンの角の長さまで詰めた時だった!
 第二関門から大量の物部刃らしき物が雨あられのように彼等二つに襲いかかるのを!
 ブルレットの兄貴イイス--カマ汰は叫ぶ!
「蠍型を倒した後に考えるウウ!」
 ブルルンは左角で蠍型の胴体を貫くも雨あられのように振る物部刃のような物に次から次へと刺さる!
 叫び声を抑えつつも致命傷を避けるものの第二波がそれを許さないかのようにまた降り注ぐ!
 ガアアアアアアア--とうとう叫び声を上げるブルルン! だが軍者としての経験からかまたしても致命傷だけは避けるが、第三波は赦しを容れなかった!
「早くブルルンさんを助けましょっし! このままじゃあ死んで--」
「あんたがいえるたちばかよ! というかわたしめらがたちいるすきがない! どうしろと!」
「二名とも黙るん、ブルルンは命をかけて俺達を守ってるんだ、それに只受け続けている訳じゃないん。
 奴は窺って、俺達が突入出来る僅かな時間を」
「『信じろ』なーんてー無茶な要ー求ね。でも雄なーんて格好つーけの集ーまりだからこーれくらい身体を張るー者よ!」
「ブルレットの兄貴……ス」
 第四、五……と次から次へと第二関門で構える銀河連合三十体は三交代で物部刃を放ってゆく--さすがのブルルンも幾度の致命傷は避けても流れる血は不可避であった!
 そして第九は目に入ろうとする時、第二関門で思わぬ間隔が発生--後日物部刃らしき物を出す木箱のような物が倒れる事故であった--し、ブルルンはその間隔を見逃さなかった!
「未だああああああ無能うウウ!」
 ブルルンは第四関門まで響くような怒号を上げる--三名は一斉に突撃!
「止まるんじゃねえ、二名と」
 そーの関ー門を突破しーてやるわ--パト恵は成人体型六十六を七秒台で駆ける速度により第二関門内に入るとすかさず中に居た銀河連合人型、猿型、鬼型の咽を切り裂く!
「後二ー十七体! 囲まれーたわーね!」
 某が助太刀するぞス--カマ汰はパト恵が入って一の秒も経たずに援護するように両刃で二体の銀河連合の急所を切り裂く!
「右は一回ス、左は三回ス。当然奴等は左を狙うに決まってるス!」
 カマ汰の予想通り残り二十五体中九体はカマ汰の左方に向かって襲いかかる!
 だが、九体の内三体は胸と頭をどこからともなく飛んできた物部刃に貫通--放ったのはトカッガだ!
 俺を忘れるん--呟きながらもトカッガは移動しながら残り本数を数え、一本しかない事を確認。
(だからこそ第二関門は恐ろし、いつもここで俺は部下を一名死なせ、乗りきっても次で全滅必至。
 いくらイン歌に頼んだあれとはいえ、あれは第三関門を抜ける為、ここじゃな。
 だがこのままではブルルンよりも先にまた一名の部下を--)
 諦観しそうになるトカッガを見たのかブルルンは表情をより険しくしながら--
「何後ろ向きに考える無能ウウ! 一一悩んでるからお前はいつだって死なせるんだろうガガ!」
 ブルルン--トカッガは渇を入れられ我に戻る。
(そう、俺は何をしてい、俺も過去に決着付けに来たのだろ。
 こんな時は前向きに考えないといけな、その為にはどう--)
「確かに考えたくないだろうがこの際また俺に任せロロ! 一体でもではなくこの関門全部を倒してやるからさアア!」
「……頼んだ、ブルルン・ブルンデッド。
 でも俺からの無理な頼みになる、生きろ」
 了解したゾゾ--傷付きながらもブルルンは最後の戦いへと臨む!
「わわ……一体をーやっと倒しーたけど刃ーが欠けたわー!」
「危ない……合計四体ス! ノワ……某も限界だス!
 うわうわ……残り十七体は数が多すぎるス! コケ真とイン歌の二名は第三ス、第四で必要だから……さあっと!
 錆びた両刃ではもう--」
「十七体はこのブルルン・ブルンデッドに任せろオオ!」
 ブルルンは叫び声を上げながら十三体固まった銀河連合の群れに突進--正確には残り一本の物部刃を頭に貫通させ、銀河連合十二体が集まる群。
「一体減らしたブルルン、これで少しは--」
「なにやってるんですかはんちょう! ぶるるんどのをしなせるきですか!」
「あいつが臨んだ事を駐める権限は俺にはな、俺達五名はこれより第三関門に突入するん」
「つまり死なせろってことなのっせ! 何て罪深いことをっそ!」
「はんちょうもりょうしょうしたいじょうはあのかたにまかせましょう。わたしめのとめるものではありませんし」
 コケ真を掴んだイン歌は第三関門へ向けて翼を広げる! 地上にいるパト恵とカマ汰もまた無言の了承で第三関門へと進んでゆく!
「おおとオオ! お前ら五体も俺の相手をしてもらうんだアア! はあはあ、血を流しすぎたようだがやっと十五体になったんだアア。これくらいじゃあ息子二名も嫁も満たし切れンン! 別に喜ぶ訳じゃねえが俺の過去に決着を今つけるんだよオオ!」
「絶対に守れ、必ず生きるん」
 トカッガはブルルンに背を向けて前進する!
「そうだなアア。死んだら嫁さんに叱られちまうんだから死んでならねえよナナ」
 血の溜め池を作るブルルンは最後まで戦い、残り十五体全てを倒した

一兆年の夜 第三十五話 蜥蜴の尻尾(五)

 三月十六日午前九時零分二秒。
 場所は馬子市第二東地区第二東門前。
 馬子市は別名『要塞都市』と呼ばれ、市周囲が巨大な鉄で覆われる。要塞化を決定したのは新国家神武が興った年。当時の町長である蘇我蝸牛族の蘇我カタ津が市宣言とともに要塞化を決定した。当初要塞化は町政府内でも市民となった者達の間でも反対の意見が多数を占めた。自由な行き来を制限する以上、閉鎖的な生命が増加するという懸念が彼等の中にあった。だが市長になったカタ津は自らの種族と同じような速度で演説する事で皆を納得させた。
 宣言から僅か一の月の後に着工開始。本来計画された要塞化は目標五の年で完成と天井高くまで覆う予定であった。しかし、数多物銀河連合の襲来、現場監督との口論、住民の度重なる要望への応答、資金面問題などで予定より三の倍数完成が遅れた。着工から十八の年と五の月を以てようやく市全体を鉄の要塞で覆う事に成功した。当初の目標だった天井を覆う計画は実現不可能と判断され、市の周囲を覆うのみとなった。反対に出入口付近の門は軽量化要望に応えて木の門が採用された。その結果は非要塞化市町村同様、自由な出入りが可能になるという得した部分も見られた。
 そんな歴史ある百年以上経つ木の門から外側で待つ一名の雄が居た。彼はこれからやってくる部下達を待つ。
(一番早いのはブルルンだろ、あいつは規則正しい雄だか、次は多分--)
 待ち伏せする雄トカッガ・ヒラリーの方に近付く二名ほどの影が近付く--どうやら飛んで現われた。
「お前達が先、イン歌は規則正しいんだ」
 イン歌はコケ真の襟首を掴みながらトカッガの正面に降り立つ。
「死ぬのはいやっす! おらはかみさんの所に戻りたいよっそ!」
「そのおくさんがあんたのえんせいをおうえんしてるんだよ。わたしめがつれていかなければ、けっきんさせるところだったよ」
「やっぱ辞めようよっさ! おらは死にたくないよっさ!」
「それは無理な話、一度決めたら取り消しは効かな、諦めて防波堤奪還に協力し」
 そんなっす--早くも涙を流すコケ真。
 コケ真が泣き騒いでいる間に煙をまき散らして突進する一つの巨体が門前で急停止する!
「げほごほ、いのししぞくなんだから、けむりをまいてあらあわれないでくれる!」
「そうはいくかアア! 今日は予定の二分ほど遅刻したはずダダ! 急ぐのが当たり前だろオオ!」
「ブルルン、出発は十の時だ、集合が九の時なだけだ。
 ゆっくり行けば良かったのだ」
「無能が偉そうにするナナ。俺は元国家神武軍者ダダ。少しでも遅れると上官に扱かれるんでなアア」
「そうゆう過去があったんだっせ。知らなかっし」
「三名は予想通り、問題は二名。
 一名は多分寝坊だろうけ、もう一名は確実に--」
 その予想に反して二名一緒に第二東門へと向かう影が現われた--蘇我カマ汰と佐藤パト恵が自分調子で向かってゆく姿だ。
「後ろ向きな考えはやるべきじゃない、今日という今日は前向きに行こう」
「遅れて御免ス。お日様の光を見誤っちまってよおス」
「私はまあ酒を持っていーいか悩んーでいたー所。べー、別に酒はあんまりー飲んでないーよ、本ー当に!」
「しゅつじんのときにさけをのむなさとうさん!」
(案外こいつらは予想に反してやろうとしている、問題は今日までに防波堤に到着出来るか)
 十の時になると六名は石川麻呂の森へと歩を進める。

 午後零時七分十三秒。
 場所は石川麻呂の森。中心部。石川麻呂の森には生命の開拓しきれない場所が未だに多く、中心部もまたその内の一つだ。
 トカッガ達は中心部で地盤が緩やかな場所に来ていた。ここで昼食を取る。
(もろこしだけで空腹を和らげられるとは思え、いずれまた腹を空かす。
 にしても事故が少ないと思われる場所なのに頭に響く碌でもない感じは何、長居をすると皆に迷惑をかけるな。
 その前にさっさと--)
「ここに何か出るれっしいいいい! おらは先に帰れっさ!」
「かえらすとおもったか!」
 快くない感覚に思わず逃げ出そうとするコケ真の襟首を掴んで空中に浮かす事で脱走を阻止するイン歌。彼も影響を受けて少し目眩を起こしていた。
「無能班長さンン。そろそろ飯を切り上げる頃だと思うがなアア」
「そうだ、ここは案外俺達には快くない場所だ、おかしくなる前に出発しよ」
「そうしてくれス。目が回るス。こんな所にいたら銀河連合が狙いを付けてくれえス」
「呂ー律回らなーいね。酒飲んーでもいないのにここは酒飲みー状態にすーるんだね。私はそーんなに感じないーけどね」
 中心部から発せられる磁気嵐のような物で神経系の調子を狂わされながらも六名は銀河連合の襲来を警戒しながら復興赤兄村方面へと進んでゆく。
(吐きそ、だが堪えないと、堪えて赤兄村で休憩を取らせないといけ)

 午後一時十五分七秒。
 場所は石川麻呂の森北出入口赤兄村方面。出入口から赤兄村までに何もなくただ真っ直ぐ村へと進める場所。
「ふうう、外は何だか気持ちいいさっす!」
「ぎんがれんごうは……だいじょうぶ、かな?」
「心配ならー私も見ー回るけーど?」
「パト恵よオオ。お前さんは切り込み役に徹しロロ! 点呼の時に配置を知らされたろうにイイ」
「そうーだった? 忘ーれたわ、酒飲んでたかーら」
「まだ酒飲んでるよこの姉さんス。水みたいに飲まないでくれるかス? 支障きたしたらどうすんのですかス?」
「あーら忘れーた? 酒を飲めばー強くなーるのよ、私ー」
「迷信はいいだ、そろそろ赤兄村に入る」
 六名は順調な足取りで赤兄村に入ってゆく。
(ここは四の年より前に俺が任務に失敗して部下全員を死なせた場所。
 その後別の組が村を奪還した、それからここは復興作業で大忙しってわけ。
 ただ--)

 午後二時五十分八秒。
 場所は復興赤兄村中央地区。銀河連合真正細菌型による土壌の浄化はまだ完了せず未だに快くない匂いが充満する。
 そんな思い出の場所でトカッガは黙祷を続ける。
(今だけでいい、今だけ俺に力を貸せ部下共、俺は今までお前ら四名だけでなくおよそ二十名もの部下を死なせ。
 そんな俺がどうしてここまで生きてきた、兄の為だ、兄トカーゲンに救われた命を根治まで大切にしてきたからここまで生きてこられ。
 今度は俺があいつらを救う番、あいつらもまた俺と同じ、俺とは角度は異なれど仲間を死なせた罪、酒に逃げた罪、家族を死なせた罪、逃げてきた罪、そして傍観し続けた罪で苦しんで。
 俺はあいつらの苦しみを全て受け入れて今度こそ汚名を返し上げる所存。
 だからどうか力を貸せ、四名)
 ゆっくり目を開くと各地区で待機した部下達を呼び出し、出発を開始……する前に--
「イン歌、ここで復興作業をする隊長にこれを出してくれない」
「はあ、はんちょうのめいれいとあらばしかたないね」

 午後四時一分七秒。
 場所は赤兄森。石川麻呂の森と比べて三分の一ほど小さい面積でありながらも複雑な地形により身長に進まざるおえない場所。
 五名の元に手紙を送りつけてきたイン歌が追いついた!
「そがいんかただいまもどりました!」
「随分遅かったじゃないかス。国家神武軍者は円滑な行動が出来なくて困るなス」
「もうしわけありませんはんちょう!」
「別にいい、赤兄森は予想以上に進みづらい地形だから遅れるのを想定してあそこの隊長に緊急時の手紙を出したまで。
 上手くゆくといい」
「ところで何をだっすか?」
「それだけは教える訳にはいかな」
「班長ーも秘密主ー義だね」

 午後八時九分十三秒。
 場所は防波堤第三門前。そこは赤兄森東出入口から直角に真っ直ぐ進んだ所にある。
 ヒラリー班は目的の場所に到着。そして--
「食事を済ませた後、これより任務を開始す」

一兆年の夜 第三十五話 蜥蜴の尻尾(四)

 午後六時二分三秒。
 場所は馬子市第三東地区二番地。居酒屋『大人の隠れ家』。
 トカッガ・ヒラリーが来る頃には先客二名が単客席に座って酒を口に流し込んでいた。
「あやわ、いらっしゃいトカッガちゃんやわ」
「母さ、今日も五十年物の稲目酒を」
 トカッガは先客の一名である齢二十四にして二十一日目になる蘇我牛族の青年の右隣に座った。
「残り少ないよの。ほどほどにしてやわ」
 そう言いながら彼女の体型ほどある樽を重たそうに持ち上げるとゆっくりとお椀に注ぎ込んだ。
「ありがと、じゃあ頂く」
 トカッガはお椀に零れそうな酒を胃の中に注いでゆく。
「初っぱなから一気飲みするとはヨヨ。今日満足いかない事でもあったかアア?」
 先客の一名ブルルン・ブルンデッドは五の分もしないうちにトカッガに突っかかる。
「逆、良いことがあった、喜べブルルン」
「呼び捨てするとは良い度胸ダダ! 無能の癖に俺に喧嘩を吹っ掛けるかアア?」
「別に喧嘩しに来たんじゃな、えっと髪はここだったか」
 トカッガは左最奥に座るブルルンにゆっくりと接近して左前足でブルルンの左前足に紙を掴ませた。
「蹄に上手く挟んだなアア。どれどれ……何イイ! どうしたんダダ!」
「何って決まってるだ、明日から俺達六名は防波堤を奪還しに行くん」
 突然の前線派遣に頭が混乱するブルルン。それを想定していたトカッガはこう説いて納得させる。
「仇をとれとも言わ、過去を清算しろとも言わ、もう一度生きる目的を見出してみな。
 俺は確かに無能、お前を死なせるかもしれ、でも生きる目的なら与えられ。
 行こ、運命の堤へ」
「フンン! 俺に生意気言うんだなアア。わかったゾゾ! これはお前に課せられた使命なんだなアア。見届けてやるゾゾ! お前の最後を見るまでなアア!」
 こうしてブルルン・ブルレットは部下になった。
「ありがと、了承してくれ」
「酔っぱらっていたから引き受けたんダダ!
 これじゃアア、今日の酒はここまでだなアア!」
 ブルルンは勘定を払った--三十二年物の稲目酒でお椀二杯分のを。
「それで他四名は誰何だアア?」
 ブルルンが質問する内にまた一名入ってきた。名前は蘇我カマ汰。居酒屋に来ては五杯以上の酒を飲んでは次の日に二日酔いを起こす雄。酔いが覚めない内からまた酒にありつこうと入ってきた。
「いででス、母さんス! また六十八年物の良房をス! いででえス」
「酔いが覚めてないでしょの? だったらあげませんやわ」
「それはいででないでしょう母さんス。酒は某がいででス、同僚から離れたい気持ちにさせるのにス!」
「死から離れる方法は他にあ」
 え--カマ汰はトカッガが何を言おうとしているのか予想つかない。思考しようと二日酔い気味の脳を回転させる前にトカッガは一枚の紙を右刃甲に乗せた。
 カマ汰は左刃にとって読み上げる。すると--
「はス? どうゆうことだス? どうして某がお前の部下になるんだス?」
 突然の出来事から二日酔いを忘れたカマ汰は明日からヒラリー班員になり、防波堤奪還任務に就く事を疑いかかった。そんな状態を解くべくトカッガは訴える。
「相変らず疑り深い、何かの間違いだと思いたい気持ちもわか。
 俺だって支部長に任命された時は疑った、何かの間違いだと。
 でもそうじゃないんだよカマ汰、これは支部長が俺に与えた最後の機会なん。
 それと同じようにお前も最後の機会だと思え、そうすればようやく仲間の死から逃れられ。
 これはその為にある任務なん」
「お前もいっぱしに言えるようになったじゃないかス。ただ生意気ながら反論させてもらうス!
 仲間の死から逃れ会いのは何も某だけじゃないということを理解しろス!
 いででまた頭が痛くなってきたよス。明日の任務まで引っ張ったりしないだろうなス?」
 回りくどく蘇我カマ汰は部下になった。
「あやわ。今日はなしと言う事でいいかしやわ?」
「そうなるなス。いででス、昨日飲み過ぎてやっぱり痛いス。某は店を出--」
 カマ汰が店から出ようとすると駆け込むように次の客が入ってきた!
 どわ--カマ汰は後方に吹っ飛びトカッガが取った単客席の後ろ側をぶつけて両眼を回す。
「いだいなーあ。折角酒飲みーにやってーきたのに」
 駆け込んだ客の名前は佐藤パト恵。酒に滅法強く、十杯以上飲んでも酔いを起こさない。彼女は元々真鍋傭兵団に所属していたが酒による遅刻・欠勤が相次いだ為、素行に問題があるとして解雇された。だが、彼女の実力は一級物であり、真面目に働いていたなら今頃は支部長を任されるとも噂された。
 そんな素行に問題があるパト恵にトカッガは紙を持って近付く。
「まーさか何? おー誘いは犬ー族の雄ーしか引き受けーないわ」
「そのお誘いじゃな、俺の誘いは君の実力を試す機会」
 パト恵の頭上に紙を置く。彼女は紙を床に落とすとそれを文字がある面を上にしてさらっと読む。
「へえー。私はー君の部ー下になーるんだあ。それで前線かーら五の年以ー上も離れたー私に今更ー何を期待するの?」
 へそ曲がりなパト恵を納得させるべくトカッガはこんな事を言ってのける。
「見返していないと思わな、当時お前を解雇した真鍋傭兵団。
 三十体を相手出来ると謳われた佐藤パト恵が素行が良くない理由であえなく実現出来なかった悔しさを力に換えて傭兵団を見返すん。
 お前は今もその気持ちはあるはず」
 パト恵は正直解雇された悔しさを持ち合わせていない。
 彼女にとっては酒を飲めない生活は死んだも同然。辞めて清々出来た--そんな気持ちが大部を占めた。
 けれどもそれが却って自ら死んだ生活を強いるとなれば一体何の為に辞めたのかわからない。そのまま死んだ生活を続けて五の年が過ぎた。
 そしてトカッガから示された生きる道--彼女が酒を飲む理由は戦場の疲れを癒す事--そこへ戻ろうと決意させる!
「さあ前線ー復帰もーしたし、パタ音エエ! お祝いのー酒を鱈腹ついーでくれない?」
 こうして酒塗れになりながら佐藤パト恵は部下になった。

 午後九時十五分十二秒。
 トカッガはカマ汰を先程まで気絶させた椅子に座りながら目的の物が現われるのを待つ。
(遅いなコケ真、道に迷った)
 思考しながら四、五名目の部下を待つが堪えられず酒を頼もうとしたら--
「わわっす。今日はかみさん断られてるのに何すっしイン歌!」
 現われたのは下戸な青年蘇我コケ真とアリゲルダの秘書を務める蘇我イン歌。コケ真は酒を飲まされる危うさがある故に恐妻によって居酒屋に行く事を勧められていない。こうして彼が来たのはアリゲルダの命令を受けてイン歌が襟首を掴んでここまで運んだお陰だ。何故ここに連れてこられたのかはトカッガがコケ真とイン歌を選んだから。
 二名が来た事を確認するとすぐに二枚の紙を渡した。
 一名は事前に受け入れたので問題はない。だが--
「あっし! 何だ何だっさ? こっれは何の腰砕けっさ!」
「見ての通り俺はコケ真を引き抜くん、防波堤奪還任務で。
 反論あるなら言って見」
「あるよっし! おらは知っとの通り臆病者だっし。軍者に憧れっし国家神武の試験で辛くなってお宅の真鍋傭兵団に入ったっし! でも銀河連合の恐さを知って自分が場違いだと感じて僅か一日で辞めたっす! そんなおらを入れても何の役に立つっさ!」
 蘇我コケ真は戦う以外の方面でも腰抜け振りを披露する。土木工事をしても汗かくのが辛くて辞めたり、八百屋の仕事も接客で気を遣うのが苦しくてすぐ辞めたり、製造現場でも流れ作業の重圧に耐えられずに辞めたりとあらゆる方面で根性無しを見せつける。
 そんな特になりそうな部分が見当たらない雄をどうして引き抜くのか? それは--
「役に立つ、何故ならお前がいると何だか上手くゆく気がするん」
 役に立つ部分があった。それは強運に恵まれている所だ。その証拠に彼が働く場所では何故か死者が出なかったり、天気が快晴だったり、具合の良くない案件が極小だったり、商売繁盛したりと運を惹き付ける才能がある。
「確かにコケ真ちゃんが来る時に限ってうちの店は繁盛するよの。今日なんて昨日の半分しか来てないやわ」
「偶然だっし! 思い込みすぎだっす!」
 それでも強情なコケ真に対してトカッガは釣らせてみる。
「そうか、思い込み、そうじゃない。
 お前が来た頃の傭兵団について支部長はこんな評を出してい。
『コケ真はどうしようもない新者だ。あいつがいなくなって辛い事は折角昨日では死者数が最小になったのにまた増加した事くらいか』と。
 つまりこうゆうこと、支部長はお前の運を高く評価している証。
 どう、もう一度そんな評価を受けてみな」
「うぐぐっす! おらを釣らせよう立ってそうはいかなっそ!
 で、でも評価される事は全生命にとっては有り難いこっす!
 ま、まあいつでも逃げられるなら引き受けても……いや引き受けっす!」
 流れるままに蘇我コケ真は部下になった。
 コケ真引き抜きに納得いかないイン歌はトカッガの左耳元まで近付くと小声でこう言う。
「いいのかな? どうせにげますよ、こんなこしぬけは」
「その為にお前が居るんだ、偵察と監督を任せ」
「とししたのいうことをききますか?」
「お前の方が先輩だ、部下になったからには俺の命令に従うん。
 わかった」
 へいへい--嬉しくなさそうな顔をしながらも蘇我イン歌は部下になった。
 こうしてヒラリー特別班は居酒屋『大人の隠れ家』で結成された。
(部下を死なせずに達成出来るの、無理な話だ。
 俺は六度も部下を死なせてき、今回もないとは限るの、いや後ろ向きはまた同じことの繰り返し、今度はもう後がな。
 ならばこそ俺は後がなさそうな連中を部下にしてやった、こいつらとならいける気がするん、支部長も覚悟を決めた以上は俺も覚悟を決める時だ、って今まで覚悟無かったようなことだ、別にそうじゃな。只今回だけは何か異なるような……ええいややこし。
 明日の出発まで考えるのを止め)

一兆年の夜 第三十五話 蜥蜴の尻尾(三)

 三月十五日午前九時一分二秒。
 場所は馬子市中央地区真鍋傭兵団馬子支部。縦に長い建物。その最も奥にある支部長室。
 中に居るのは三名。窓近くで椅子に座るのは支部長ヤマビコノアリゲルダ。彼の肉体は服で隠れていても扉近くで見る者にはすぐに引き締まった筋肉がわかる。彼の日課は筋肉鍛錬。過去を乗り越えても日課を怠る気配は感じられない。
 アリゲルダの左隣にいるのは齢十九にして一日目になる蘇我インコ族の少年。弱冠十八にしてアリゲルダの秘書を務める者だ。両眼の視力はインコ族の中で一、二を争うくらい高く、成人体型百くらい先にいる生命体の黒子がわかるほどである。彼の名前は蘇我イン歌。一応名前に反して雄である。
 そして扉付近にいるのはトカッガ・ヒラリー。彼は前線に復帰しようとしていた。既に点呼は終わり、本題に入る。
「早速だがどうして君のような者を前線復帰させようと考えたのかを説明せねばなるまいがん。わしはっが、君よりも君の能力を高く買ってるつもりなんだっぞ」
「それがわたしめにはどうしてもりかいできません。どうしてとかっがのようなぜんかのおおいようへいを?」
「前科っざ? 何の話かなっが?」
「支部長、それについてはイン歌と同じ意見で、どうして俺のような部下死なせを採用したん」
「だから説明するから今は二名とも黙ってるんだがん」
「「はは」」
「では話そうっぞ。今回トカッガ君に仕事して貰う事は廃赤兄村より北に位置する防波堤の奪還だがん」
「防波堤、あそこには鼠算の如く銀河連合が増援する為に傭兵団は奪還を断念したので」
 防波堤--それはアリスティッポス大陸を占拠する銀河連合の侵入を防ぐべく国家神武が真鍋傭兵団とシャクルズ傭兵団が協力して作り上げた全長成人体型二百はある巨大な堤。
 構想はICイマジナリーセンチュリー八十六年八月一日。着工は九の年より後の
ICイマジナリーセンチュリー八十八年十二月五十六日。完成は二十の年より後の
ICイマジナリーセンチュリー九十三年十二月百二十三日。悲しい事に完成から僅か三の日より後に
銀河連合に占拠された。
 それ以来国家神武及び真鍋傭兵団、シャクルズ傭兵団は奪還する為に四の年くらい
間に六度も部隊を送ったが必ず敗残兵が帰ってくる始末であった。三者はとうとう派遣
を断念した。
「--そうゆうれきしがあるのですよ。そんなところにいまさらはけんですよ。しかも
しょうすうでなおかつぶかしなせのとかっがをはんちょうにするのですよ」
「余計な事まで喋りすぎだがん、イン歌っざ」
 はい--そう返事しながらイン歌は影の面積を広げるように下を向く。
「そんな難攻不落と思われる防波堤をどうして少数の要員と君の指揮下に置くのかっざ。
それは五つの理由があるっぞ」
「五つの理由、馬や鹿みたいなことはあまり俺に--」
「わしが話している時に口を挟まないで貰おうがん、トカッガっぞ」
 申しわけありませ--そう言いながらトカッガは胸に潜る勢いで頭を下げた。
「では説明するぞん。一つ目は手っ取り早く頭を倒す為だがん。どんな組織であっても
指揮官という名の頭脳を死なせては機能しなくなる。そうなると数と実際の戦力は比例
しないという訳だっぞ。
 二つ目がなるべく戦死者を少なくする事っぞ。死は私情では真に悲しいっぞ。遺族への
説明は大変心の折れる作業だっず。公情では戦力低下に繋がっぞ。だからこそ組織は
要員を送るのを渋る訳だっざ。わしの場合は後者に当たり、なるべく少数で達成して
貰いたいっぞ。
 三つ目がわしの昇進だっぞ。わしは昇進したくてたまらないっぞ。昇進すれば
真鍋傭兵団を今よりも円滑に動かせると信じて昇進を望むがん。勿論罪深い事は良く
わかっているつもりっざ。死んだら神様にたっぷり叱られるつもりでいるよっだ。
 四つ目は非常に重要な事だが防波堤を破る事っだ。防波堤は奪われて十二もの歳月
が経っぞ。仮に奪還出来てもまた奪われっだ。それだけの年月が経てば真正細菌型に
よって維持と浄化に大変な労力が伴われっざ。ならば破る以外に他はないがん。
 最後はわし自身の私情だがお前に期待している事だがん。これには親友である
トカーゲン・ヒラリーからの頼み事でもあるだがん」
 五つの理由を聞いたトカッガは最後だけは納得しなかった。それは何も彼だけでは
なかった。
「いつつめのりゆうがなっとくいきかねますしぶちょう。いくらしじょうでもどうしてぜんかの
おおいかれを、しんゆうのたのみごとひとつではんちょうにするのですか?」
「俺も同じ意見、兄の頼み事は俺を助ける為じゃないの、なのにどうして部下を死なせて
ばかりの俺を--」
「トカーゲンの遺言っが。真の意味は何があっても最後まで君を信じる事にあるっだ。
 彼は誰よりも君の能力を信じていたのだがん。それは引き抜いたわしも同じ考えだ
がん。君ならいつか必ず果たせると信じてっだ!」
「納得いきかねま、俺みたいに良くない結果ばかり残す者を--」
「前向きに考えっが!
 それに君を見ていると昔の自分を思い出して仕方ないっがん!
 かつて多くを死なせて後ろばかり見た昔のわしをながん」
 説得力あるのか層でないのかよくわからない事を聞かされて反論しようか悩むが、
アリゲルダの性格をよく知る二名はそれをせずに了承した。

 午前十一時十三分三十二秒。
「--という用事でお願いしま」
 トカッガは共に行動する傭兵を決定した。
「ずいぶんとじぶんのかんとははんたいのようじにしたね。これでまたししゃがでたら
どうすんの?」
「いや彼等なら生きて戻れ、何しろ俺の勘が『こいつらなら死にそうだ』と告げる以上は
大丈夫で。
 俺の勘は外れる自信はありま、ならば予想より反対の用事でいいだろ」
「成程なっぞ、考えたがん。よし、採用しよっぞ!」
 選ばれた五名の書類に--特別班--の判子が押された。
「はは、ありがとうございま」
「だがこれだけは言わせてもらうがん。必ず生きて奪還しろだがん!
 それを守り通せっざ!」
 必ず生きて奪還しろ--その言葉を胸にトカッガ・ヒラリーは退出してゆく。

一兆年の夜 第三十五話 蜥蜴の尻尾(二)

 ICイマジナリーセンチュリー九十七年三月十四日午後十時二分七秒。

 場所は北蘇我大陸石川麻呂地方馬子市第三東地区二番地。三番目に大きな一階
建ての居酒屋。
 歴史上初の居酒屋。店名は『大人の隠れ家』。創業者は蘇我パタ音。創業から今年で
四十年目。今も現実逃避するために酒に溺れる大人が集まる。
「母さ、酒をお願いするウ」
 齢二十七にして七の月と十二日目になるタゴラス蜥蜴族の青年トカッガ・ヒラリーも
またその一名だ。
「トカッガちゃんやわ。これで十杯目だよの。脳みそが機能出来なくなって死んだら
どうすんよの?」
 齢三十七にして二の月と五日目になる蘇我熊猫族の熟女にして雌主人蘇我パタ香
は万遍なく客を心配するようにトカッガを扱う。
「いいだろ、お金が入ってくるんだか」
「そうゆう問題ですやわ! お客さんを死なせたら店全体の存続が危うくなるよの!
 そうなれば折角心が平穏じゃない者を助ける為に店を創業した先代パタ音お祖母さん
に申し訳つかなくなるよの!」
「損得勘定のない母さんなこ、少しは俺みたいに酒の水滴一つ分でも掬い上げる根性
を見せたらどうあん」
「五月蠅いゾゾ、無能の癖にイイ!」
 齢三十一にして八の月になったばかりのエピクロ猪族の中年は顔を真っ赤にする
くらい酔い潰れながらトカッガに突っかかる。
「こらブルルンの小僧やわ! 突っかから--」
「ほっといていいよ母さ、相手をするだけ労力の垂れ流しだ」
「ああ、何て言ったんだ無能ウウ?」
 トカッガは無視する。ブルルンと呼ばれる酔っ払いはもう少し突っかかろうと考えたが
酒の方を優先させた為にこれ以上の争いは起こらなかった。
「ブルンデッド兄貴の気持ちは少し考えるんだひっくス。あの方も何だかんだいって
家族がみんな銀河連合に殺されて何かに当たりたい気分なんだようっくス」
 齢二十六にして二十八日目になる蘇我蟷螂族の青年は呂律が回らない状態で
あってもブルルンの気持ちを代弁する。
「そうゆうお前だって多くの同僚の死から逃れたくて呂律が回らな」
「言うなス。某の気分がひっくそれを許さないス」
「勝手な雄だーねえ兄さんーやい。いくら蘇ー我の大地で産ーまれたかーらってそれはー
ないでしょう」
 齢三十三にして六の月と六日目になるキュプロ犬族の熟女は七杯目に入っても平気
な表情で皆の前で色気づく。
「まだ飲めるのかス。ひっく某には無理な量だようぃっくス」
「酒は水みーたいに飲ーめば酔わなーいわよ」
「その理屈は違う気がす、そうだよなあ母さ」
「そうやわ? 私にとっては普通の気がするやわ」
「やめとけっし! 豪傑な雌ほどわいラオスの常識が通用せって!」
 齢二十九にして十一の月と十八日目になる蘇我鶏族の青年は下戸な身である故に
絞りたての馬子蜜柑果汁樽一杯分飲んで酒を飲んだ気分でいた。
「明日下痢を起こすなよス、ひっくコケ真ス」
「お前もだっず、カマ汰っし」
 腰砕け騒ぎは六の時から始まり、現在も客は酔っぱらっては大声を出したり、突然
泣き出す者がいたり、訳の分からないまま笑い出す者もいれば、口喧嘩を起こす者も
いる。ただ言える事は誰一名とて殴り合いに発展するほど酔っぱらわないという点だ。
この点に関しては遠すぎる過去だから出来る事なのかも知れない。
(腰砕けをしたまま俺は毎の日を過ご、あの逃走劇以来俺はずっと前線から退かれ。
 無理もな、六度も部下を全て死なせた雄を誰が次の組に入れるとい、当然の処置、
あれ以来四の年になったか、俺はずっと各地区の掃除だけを任され、退屈だが辛い
仕事だ。
 はあ、でもそれがいいか、俺を出して部下を死なせるよりかは--)
 いつまでも酒を飲んで逃げられるほどトカッガの人生も甘いモノではなかった!
「礼を失するっぞ! ここにトカッガ・ヒラリーはいるがん?」
 齢三十二と二十三日目になる応神鰐族の中年が突然入口から現われた!
「な、何でしょう支部長ど」
「喜べトカッガがん! 君に四の年ぶりに前線復帰してもらっぞん!」
「は、酒に酔ってて何か幻を聞いたよう」
「もう一度言うっぞ! 前線に復帰してもらうがん!
 勿論今回は初めてとなる班を率いてもらうぞん!」
 何度も質問したが支部長ヤマビコノアリゲルダから返ってきた言葉は同じ。
(俺が前線復帰、しかも組を飛び越えて班を。
 班、何だそ、俺に相応しいの、俺が生命の上に立つの。
 そもそ、出来るの、俺に、生命の上に立って部下を死なせずに任務を果たせ。
 こんなの無謀だ)
 喜びよりも寧ろ安心出来ない部分が多数を占めていた。トカッガは支部長の用事を
納得出来ずにそのまま宿に戻り眠りに就いた。

一兆年の夜 第三十五話 蜥蜴の尻尾

 ICイマジナリーセンチュリー九十六年三月十四日午前九時零分三十七秒。

 場所は北蘇我大陸石川麻呂地方廃赤兄あかえ村中央地区。
 真鍋傭兵団馬子支部トカーゲン組は赤兄村奪還の任務を果たすべく五名の精鋭で
村にいる銀河連合を倒してゆく。ところが--
「はあはあ、何て強さなん」
 齢二十三にして七の月と十二日目になるタゴラス蜥蜴族の青年トカッガ・ヒラリーは
村にいる銀河連合鍬形型によって部下四名が死んだ。残ったトカッガは敗走への道筋
を考える。
「俺はまだ死ぬ訳にはいかな」
 鍬形型に背を向けながら彼は南地区出口へと逃走すべく足を踏み入れようとしたが、
目の前にもう一体の銀河連合が立ちはだかる!
(土竜型だ、こんな時にお前ミタイナのが出てくん、馬なのか鹿なの)
 トカッガは右横に匍匐前進しながら追ってくる二体から必死で逃げる!
 建物と建物の隙間、井戸から井戸へと抜け、或は建物の屋上から建物の屋上に
飛び込む事さえする!
 だが、二体は持ち前の巧みさでトカッガを追い詰めてゆき、とうとう南出口を目前に
建物間に挟まるように囲まれた!
(俺達生命が銀河連合みたいな考えなんて思いつけ、結局俺は後に続く者の為に死ぬ
運命な)
 トカッガには大きな心の傷があった。それは『無能組長』という劣名。これまで部下に
なった者達は彼を除きことごとく全て土に帰ってゆく。今回の任務でもそうであった。
 組は途中まで何事もなく順調に進んでも最大の山場で強力な銀河連合によって部下
全員を死なせる。トカッガにとって今回で六度目。
(何もかも俺が無能だからいけな、俺が有能なら部下の一名でも生き残るの。
 今回だってそう、俺の無能さで部下を踏み台にし、俺はまた生き残るの。
 でも--)
 考える暇もなく二体の銀河連合は空と地中からトカッガを挟み撃ちした!
 トカッガは死んだのか鍬形型は彼の尻尾を咥えながら満足げに中央地区に帰って
ゆく。一方の土竜型もまた尻尾の一部を咥えながら地中深くに帰る。
 けれどもトカッガの命は尽きていなかった
(い、いなくなっ、ならこのまま俺は馬子市に戻ってや)
 トカッガには罪の意識はあっても自ら命を差し出す心意気は持ち合わせていなかった。
彼の人生観は常に生への執着心から成り立っていた!
(いくら他者を死なせた罪が重くても死んでいい命は認めな、俺は後二続く者達の為に
死んでなるもの、俺を助けてくれたトカーゲン兄さんの分も生きな)
 彼の兄は五の年より前にエウク山で行方不明……正確には銀河連合に食われた
登山家トカーゲン・ヒラリー。元々は登山家になるはずだったトカッガはエウク山に挑戦
しようとしたところをトカーゲンに止められた。トカッガは親の薦めで軍者になる予定で
あった。ところがトカッガは兄トカーゲンに憧れていた。その為なのか彼は両親に認めら
れたくて何度も無謀な登山に挑戦しては両親と兄トカーゲンに叱られ続けた。
 そしてエウク山挑戦を控えた前の日にトカーゲンは弟を守る為に内緒で真鍋傭兵団に
無理矢理入隊させた。自慢の蜥蜴の尻尾切りで脱走しようとしたが当時引き抜きに来た
者はラテス島大樹型銀河連合を倒した英雄の一名ヤマビコノアリゲルダであった。
よって得意の尻尾切りも空しく彼は連行された。
 そして二度とトカーゲンとの再会が断たれた……。
(当時は兄に怒りを見せ、でも兄がアリゲルダに頼んでいなかったら俺はあの山で
銀河連合の腹だ、悔し。
 俺自身が助けられる立場であるという現実)
 トカーゲンは面を上げきった状態で馬子市へと戻っていった。

こうしてパクリは受け継がれてゆく

 どうもパクリに関してはマガジンのO先生以上という自覚があるdarkvernuです。
 ショートストーリーに入る前に『格付けの旅』が数行ほど更新されてますので、読みたい方はカテゴリ覧の<格付けの旅>にクリックして下さい。
 ではネタに詰まったので例の震えるハートを燃え尽きるほどヒートする物のパクリ物の続きをしますね。

 1896年……
 大英帝国初のタブロイド紙『デイリー・メール』創刊。
 その記念すべき創刊号の見出しは……『帝国を揺るがす隕石落下!』--歴史は変わった!
 正確に説明すると大英帝国バーミンガムの熱圏で巨大隕石が破裂! 欠片は南アイルランドの一部を除き、数百カ所にも及び国土に被害をもたらす--5月2日~3日まで続いた。
 この光景を見たデイリー・メール創業者アルフレッド・ハームズワースは次のような言葉を残す。
「歴史通りではないのか?」

 デイリー・メール創刊から一週間後……
 ここノーザンバーランドの辺境……『ベリック・アポン・ツイード』--と呼ばれるはずだった町『バーウィック』。
 人口は少なく、この町で成人になった若者はより大きな報酬を求めて町の外に移住してゆく。
 そんな町で唯一の見所はツイード川とその近くに建てられた三階立てにもなる豪邸。
 豪邸主の名前はロイド・レッドバーグ。ジョージ・レッドバーグの子である。彼は今新しく家族になる者を使いの者に手配していた。
 ロイドは寝室でバーウィックのスラム地に住むプロイセン系移民マーク・バレラーの手紙を読んで、思考に耽っていた。
(マーク殿の子だ。彼の手紙によると息子であるマイヤーは私の子ジョーと同い年と聞く。あのマーク殿の子なら私も心ゆくまで育てられるな。何せマーク殿は私の命の恩人。彼がいなかったら私もジョーもいない。大切に育ててジョーの良き理解者になってもらわないと。
 それにしてもそんな素晴らしい子なのにどうしてマーク殿は『隙があったら殺しても良いんだぞ』なんて書くんだ? あんなに手紙で息子さんを褒め称えながら最後の文にどうして懸念材料でもあるような事を?
 良くないな、私も。死んだ父のどうでも良い遺言に翻弄されて相手を後ろ向きに考えるなんて! 第一この家に悪魔のような者がやってくるってどう根拠があるというのか? 未だに遺言の意味を理解出来ない。
 遺言? そう言えばこの手紙も遺言だったな。マーク殿が初め書きに『この手紙があなたの元に届いたということは私の命はもう……』と書かれていたな。その後書かれてある内容からは……やめておこう。
 今はジョーが帰りを待つが、遅いなあの馬鹿は……)

 レッドバーグ邸に通じる道の真ん中で紳士服を着た13歳の少年が田舎町に住む同い年の少年二人を相手に喧嘩を居ていた!
「女の子をいじめる奴は僕が許さない!」
 彼の顔面は腫れ上がり、鼻血は止まらない様子であった。そんな状態でも彼は少年二人に拳を振るうが、全て空振り。それとは対称的に少年二人の拳や足は紳士服の少年の背中肩、腰、腹などに当てる。
「レッドバーグのボンボンが! 俺達に挑んだことをこうかいさせてやんの!」
「一人で二人に勝てるかってーの!」
 小太り体型と三角ヘヤーの少年はレッドバーグの御曹司と思われる少年が身動き出来ない状態になっても攻撃を止めようとはしなかった。それどころか攻撃は激しくなる一方であった。
 少年が気絶した頃になってようやく二人の少年は呆れたような顔をしながら太陽を背に帰って行く。
 数分後、意識を取り戻した少年はレッドバーグ邸へと足を踏み出す--蹌踉けながら。
(僕は情けない男だ。女の子を助ける為にあいつらに挑んだのに手も足も当たらずやられっぱなし。こんなので立派な紳士になれるのか!)
 彼の名前はジョー・レッドバーグ。この物語の主人公。

 夜のスラム街……
 人気の少ない墓地で銀色の眼をした少年が『マーク・バレラー』と記された墓を左足で踏みつける。
(父よ……。貴様には感謝するぞ。この俺をここまで育てた事を最大限の侮蔑を込めてな。ハハハハ!
 名前は『レッドバーグ』か? あの家に俺は行けばいいんだな? おや、誰か来たな?)
 少年の背後に二十代後半の屈強なゴロツキがナイフを手に構えていた。
「よう兄ちゃん。金はあるか?」
「あなた達は誰でしょうか?」
「それを知るには小僧。お前さんは餓鬼過ぎたな、ケケケ」
「ケケケ……随分と予想通りの笑い方だね。いやあ君達は素晴らしい出会いをしたね」
 少年の意味不明な言葉に二人は不審者を見る目をする。
「兄ちゃん? 頭おかしいんじゃねえ?」
「おかしい? どうしてそう言えるのかな?」
「自分で自覚しねえとはこりゃあ重傷だ! きっと鼻を吸いすぎたんだよ、ケケケ!」
 ところが少年は二人の言葉に反応するように満面の笑顔をする--相手を子供扱いするような表情を。
「それが君達の視点だね。でも心配無用だよ。何故なら君達が出会った者は世界を蹂躙するほどの偉業をこれから達成するのだからね。いやはやここは喜ぶべきだよ、僕にね」
 驚天動地の言動を聞かされた二人は少年に引き気味だ。
「兄貴、この餓鬼やばいぞ! 花を食ったどころのレベルじゃねえぜ!」
「俺も思ったぞ、下っ端! こいつ生かしたら禄な事にならねえ気がする。早いところ--」
「始末? ああ、君達は死にたいんだね。引き受けよう!」
 少年はゆっくりと二人のゴロツキに近づく--明らかに殺す気で!
「へへ、俺達には向かった事を後悔してやるぞ!」
 身長190㎝の男は手の届く範囲に少年が接近するとすかさずコンバットナイフを--
「公開するのは君達死にたがりだよ」
 出す前に少年は左ハイキックで男の首に当てる--後ろによろけた所を飛び込んで左手で顔面を掴むと体重を乗せて墓石に頭を激突させた!
「な、何なんだよ!」
「何って? いやあ死んだよ、彼。目ん玉が飛び出そうだね、ハハハ」
「兄貴をやったくらいでいい気に--」
 小太りの男は短銃を構えようとしていた!
「何を寝言吐くのかな、君は?」
 少年は死体の左目を右手で抉り取るとそれを小太りの男の左目めがけて投げつける!
「危ない! よくも兄貴の--」
 短銃を構えたが時すでに遅く、少年は男の眉間に足刀を直撃させる!
 男は仰向けに倒れ、二度と起き上がらなくなった。
「死んだか。自業自得とはまさにこの事だ。僕には向かってはいけない事を死んで学ぶとはね」
 そう言いながら少年の顔は邪悪な笑みを浮かべ、死者を嘲る。
(俺に死角はない。いずれ神々なんぞは俺の下に這いずり回らせてやるのさ!
 世界で初めて支配者となる俺の力によってなあ、ハハハハハハハハハハ……)
 彼の名前はマイヤー・バレラー。邪悪なる瞳で世界を見つめる者。
 ジョーとマイヤー……彼らが出会うとき、歴史の歯車は狂い始める!


 どうでしたか、このショートストーリー。実にどこかの漫画の展開と酷似していると思いませんか? そうあのスタンド使いが漫画を描いてるあの物語のね。まあ皆まで言いません(苦)。とにかくこの物語は自分自身が最も書きたいのですよ。なんたって悪役が素晴らしく気に入ってまして奴のために書きたい次第であります。言っとくけど主人公はジョナサンによく似た少年だよ。とにかく悪役に比重を置きすぎるくらいこの物語の中心存在だよ(笑)。
 ただこの物語は発表したらしたでとある信者に攻撃を食らいます。どこらへんがパクリかは説明しますね。
 まず

1:主人公の名前があからさますぎる。
2:舞台がイギリス。
3:主人公が英国紳士の子。
4:悪役がまんまあのお方に酷似。
5:主役と悪役が一つ屋根の下で青春を過ごす


 とこれだけ似ると出したら出したでトリブラ以上に批判の的を受けますね。まあそこは新作にいつも圧し掛かる洗礼です。そこを乗り越えられるかどうかで作者の力量は示されます。実際冒頭で揶揄した作者もまたそうゆう洗礼を受け続けたけど持ち前のバイタリティで何とか乗り切り、今ではマガジンでは森川先生と並ぶ切っても切れない作者の一人となったのですよ(まあ内容については割愛しますけど)。そうゆう意味じゃあパクリってのは受け継がれてゆくものですよ。
 ちなみに自分はどうかといいますとまだその領域に達していません。ですので仮に某吸血鬼先生が許しても信者は許さない。そんな感じです。
 以上でショートストーリーの解説を終えたいと思います。

 では第三十四話の解説も先週みたいに単純に済ませますね。今回は登場キャラ全員鼠で、対する銀河連合は全体ネコ科で構成されます。今回はハッピーエンドにするつもりが曖昧エンドになりました。申し訳ありません。今話に限って訂正個所が多くてそれを報告するアナウンスを多く出した事を詫びます。ついでに今回は登場キャラが数通り死亡したと思った方。実は死をぼやけさせたキャラが一名います。そのキャラは話の途中で気に入ったのでただ退場させるのは惜しいと思いましてそのような処置をしました。今後の話で出るかは気分次第でございます。
 なんだかんだで曖昧なまま解説を終えたいと思います。

 それじゃあ予定をどうぞ。

 九月
 二十三日~二十八日  第三十五話 蜥蜴の尻尾          作成日間
 三十日~十月五日   第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて    作成日間
 十月
 七日~十二日      第三十七話 鼬ごっこの世           作成日間
 十四日~十九日    第三十八話 三兄弟物語 星々が輝く世で  作成日間

 三十八話から五話構成で中編物が開始されます。主人公は題名通り三名。三名に待ち受ける運命は何なのかをこうご期待してください。
 来週で『格付けの旅』プロローグの半分が終了します。それの解説も併せてやる予定です。
 ではこの辺で、安易にパクッたらあの国の馬鹿どもみたいになるぜえ。

一兆年の夜 第三十四話 袋の鼠(七)

 フランの死から三の時が経過。光が薄まる時間帯。
 三名はここにきて空腹感と排泄物処理を催す。
(こんな時にわいが恐れちゅ生命活動の痛みが来るとは。しかも三つの内の二つか。尿は匂わなければどうちゅでもなるけど空腹は早々我慢出来ない。三つの中で最も重要な痛みだ!)
「サム兄、どこで用を足せばいいでちゅうか?」
「御覧の通りこの辺には厠はない。今なら漏らちゅ、わいのせいにしてもいいから!」
「そうはいかないわ! チューバッハ君のせいなんて罪深いことよ! 漏らちゅたら自分のせいにちゅるんだから」
 全生命体は他者のせいに出来ない--サムソン・チューバッハにとって長年の疑問の一つはこれも世界観補正の賜物だろうか? 学者肌の者は今ではチュンナ只一名となった。そんな彼女の専攻は家庭科。相談に乗れない疑問であった。
「チュンナ姉が我慢するならオラだってちゅるさ! 一名だけ漏らすなんて恥ちゅかしくて面前を歩けないよ!」
「三名揃ってか。銀河連合相手に隙を突かれる理由がまたひとちゅ出来たな」
「しょうがないでしょ。問題は虫さんの方よ。早くここから出ないと銀河連合に遭遇ちゅたら生きて抜けられなくなるわ!」
「とは言ってもオラ達さっきから回っちゅるように感じるけど気のせい?」
 気のせいちゅない--サムソンは改めてチュンナの描いた図を思い出す。
「あなたの考えることはわかっちゅわ。皺が寄ったけど見る?」
 無言の了解をしながらサムソンはチュンナの描いた図を受け取るとそのまま眺める。
(やっぱり。わい達は閉じ込められた場所の周りを移動しちゅるんだ! 何か描ける物があっちゅら苦労しないんだけど。どうやらあれは物置小屋に置いていったんだよな)
 袋の中に入る鼠--今は亡き張鋳汰が伝えた諺。窓の向こうへ辿り着いても待っているのはもう一つの閉鎖空間。一体どこに脱出口があるのかわからない状況。三名はそれでも脱出に繋がる物を探そうと周り続ける運命なのか?
「チューバッハ君。このままではわたい達は--」
「もう気付いちゅる! だからって中に入ったらあいつらが待ち構えているに決まっちゅる! 何せ音を頼りに追っていけばいいんちゅから」
「あのお?」
「何だ? 何か言いたそうだな、チュミシタ!」
「音で思いちゅいたんだけど脆そうな壁も音で調べれば破れるんじゃないかな?」
「そんなのどうやってわかちゅってい--」
「いえわかるわ! どうしてこんな方法をわたい達は思いちゅかなかったのかしら! きっと田中さんは気付いたわ! ボスだって必ず気付いてたし、フラン姉さんも何となくそんな方法を先に思いちゅいたわ!」
 チュンナ以外の二名はどうしてそれが画期的な方法なのか判然としない様子であった。
(音を出すなんちゅ逆に銀河連合を知らせかねないんだぞ! 今も後ろの方で奴等が待機してるかも知れないってのにそんな賭けごちゅとなんて--)
 キイイイイイエエエエ--中にまで響かせる叫び声をチュンナは放つ! 間近で聞いた二名は思わず両耳を前両足で塞ぐ!
「鼓膜が破れたらどうちゅるんですかチュンナ姉!」
「チュンさんは碌でもないことをしや……いやこれならいけちゅかもわからんぞ!」
 サムソンはようやく音による方法の意義に気付く。本来脆い壁を調べるのは一の日を懸けても困難な作業。しかし、響かせた音を周りに放つとその作業は効率よく捗れる。彼女はそれを自らの咽に力を入れて実践して見せた!
「無理ちゅんなよチュンさん。只でさえ尿と空腹で力が出ない身。無理だったらわい達に変わちゅんだ!」
「平気よ。でも後二回ちゅたらあなたに代わるわ。いいわね?」
「オラにも代わっていいんちゅよ! こう見えてボスに次いで肺活量が大きいんだから!」
「チュミシタは出来る限り見張りをしてくれ! そっちも交代交代でやちゅんだからさ!」
「アイアイサー!」
 三名はそれぞれの役割を決めると僅かな希望を胸に行動開始!
 現在位置は一回目の叫びで判明。それによるとチュミシタが目覚めた場所の外回りと判明。脆い壁については結果として全て外れ。
 三名は移動を開始。それから二十の分より後、二回目の叫び声を放つ。場所はチュウ太郎が目覚めたであろう場所とチュミシタが目覚めたの間の外周。そこは図には示されない余白だらけの場所。結果は当たりを引いた。
「はあはあ、五回以上は覚悟したんだけどまさか脆い壁が見ちゅかるなんて!」
 チュンナだけではなかった--他二名も二回目で当たりくじを引いた事に驚きの様子だ。
(これも『世界観補正』の為せる奇跡なのか? 奇跡は二度は許ちゅるのか?)
「まあいいじゃないか! それで脆い壁はどこにあちゅの?」
「ど真ん中よ! チューバッハ君、本を貸して!」
 ああ--サムソンは窓硝子を破った厚紙本をチュンナに向けて放り投げた。彼女は両前足で掴むと左に一回転後に脆いと思われる壁目掛けて本をぶつけた!
 壁は予想通り破れて、中から厠と思われる部屋を露にした。
「やったわ……じゃあ行きまちゅう!」
「そんじゃあオラが先頭を……切る訳にはいかなくなっちゅよ!」
 え--サムソンが呟くと同時に左方より急接近する影が容赦なく三名に襲いかかる!
「まだ見張りは終えちゅないんだよおおお!」
 チュミシタは自分でもどうしてそんな行動を取ったのかはまるでわからなかった。只はっきりする事は自分もまた使命を果たす時が来たというわかりきった事であった!
 影が見えた--正体はピューマ型!
「無茶だチュミシタアアア!」
「もう尿は我慢ちゅないぞ!」
 チュミシタはピューマ型の頭上に飛び上がると尿を前回に浴びせた--ピューマ型は予想外の攻撃にたじろいでしまった!
「チュミシタ! それは一時凌ぎよ! いずれは--」
「わかってまちゅよチュンナ姉さん! どうかお幸せであれ!」
「まさか死ぬちゅもりか、チュミシタアアア!」
 チュミシタはピューマ型の襟首を掴む! 歯を立てる暇もなくピューマ型は急発進してチュミシタを振り払おうと試み始めた!
 そのまま右に一回転、二回転……と円を描きながら五回転目で右方に定めるとそのまま死の競争が始まる--チュミシタは永遠に戻らない競争を!
「……行こうチュンナ! あいつみたいなしぶちゅい雄がこんなことで死なないよ!」
「また呼び捨てね。これで三回目よ。わかっちゅるわ、あなたの言いたいことは!」
 四名の想いを無意味にしない為にもここから出る--二名は部屋の中に縄を垂らすとそれを伝って降りた。
「見た感じ厠だけど密閉させる意味あちゅかしら?」
「厠なら尿漏れの心配はないかもな」
「見たところ雌用の厠ね。雄用だったら尿だけ出ちゅ厠じゃないものね」
「しかもこの厠は中が確認出来ない仕様なのか? 神様は本当に有り難い存在だよ!」
「問題はこの厠……一ちゅだけね」
 一つだけ--サムソンは誰かを救う為に自分は後から入ろうと考えたが--
「わわ! 何をちゅる! ここは女性優先だろうが!」
 チュンナはサムソンに入るよう背中を強く押した!
「それは受け入れない。だっちゅもう目の前に」
「え? 銀河連合! しかもチュウ太郎を死なせた猫型! 良ちゅないよ! ここはわいが……な、何だ?」
 扉が勝手に閉まる--彼は気付いた。この厠は中に入ると公序良俗を保護する為に何かの力が働いて扉が閉まる構造である事を!
「御免ねサムソン・チューバッハ君。わたいはあなたの告白を受け入れないわ。だってわたいが生涯愛する鼠は田中チュウ太郎と決まっていちゅんですもの」
「こんな時に言う言葉ちゅないだろ! ええい、どうやって開けちゅんだよおお!」
「生涯最後に恥ずかしいことをするわ。でもこれもあなたを--」
 それがチュンナ・カテリウォットの最後の言葉となった--扉の隙間から彼女の血と思われる物が流れ出す。
「チュンナアアアアアア!」
 サムソンは慟哭する--肝試しを行い、生き残ったのはもはや自分だけという現実を!

 未明。月が一帯を照らす時間。
 森のような場所にサムソン・チューバッハは身体を濡らしながらゆっくりと歩を進めていた。
(尿は厠の中を潜る時に思い切っちゅ出しまくったな! 問題は空腹だな。それも問題ないか)
 もう一つの懸念材料である眠りが彼を誘う。もはや視界に移る物は残像を描き、平衡感覚を混乱させてゆく。
(眠れば空腹だって少しは抑えられちゅ。昔から生命は眠るこちゅを最終目標としてきたんだ。頭が良ちゅないわいはそう思うんじゃが。違うかな? はは。もう眠気の誘いをもう断れなちゅなってきたな)
 左側にある一本の木に寄りかかる。サムソンは月夜に照らされた神々達を眺めてゆく。
(ありゃあ何だか? 松明だっけ? 頭に布みたいな物を巻いた人族の女性が松明を右手で握ちゅ像なんて。
 ん、右側は何だ? 人族らちゅき顔が四つ。皆雄だな。一体何を称えちゅるだろう?
 他には巨大な三角錐の建物だが、二つあって一つはフランさんの感じがちゅる。もう一つはチュウ太郎が居たら喜びちゅうだな。
 はは、神様はみんな個性豊かだな……そうか。この場所がようや、く、わか……)
 彼はこの場所が秘境神武である事を知った。だが二度とこの地に足を踏み入れる事は永遠に叶わない--短い夢の世界に旅立つのだから。
 それから十の秒経たない内にサムソン・チューバッハは眠りにつく。その眠りには死ではなく生への実感が湧き出るものであった。
 彼は夢の中で仕掛けだらけの仲間達と肝試しを楽しむ……。


 ICイマジナリーセンチュリー九十六年三月一日午後十時零分十八秒。

 第三十四話 袋の鼠 完

 第三十五話 蜥蜴の尻尾 に続く……

一兆年の夜 第三十四話 袋の鼠(六)

 場所は十字架に磔された人族男性像のある部屋。神と他二つに祈りを捧げていたと思われる。成人体型縦三十、横十五、高さ二十五。
 四名は部屋に置かれている神々と成人体型十くらいある縄を使って窓の一つを破らなければならない。窓までの高さは二十。十字架は成人体型六の所にある。そこに登るのは鼠族の誰もが容易い事であった。
 サムソンとチュンナは縄を引っかける及び近付いて祭壇の上にあった厚紙の本で窓硝子を破る係り。一方のフランとチュミシタは銀河連合が来るのに備えて扉または祭壇付近で待機。
(わいとチュンちゃんが登り縄を引っかけ部分に上手く入れないと良ちゅないぜ。にしても縄が短ちゅぎる。仮に引っかけても足を離せば宙に舞うからな。どうちゅ--)
「何ちゅてるんだよ! 早くしないと銀河連合が来ちゃうよ!」
「ええ、自信ないならわたいが投げちゅもいいのよ。どうちゅるの?」
「こんなこちゅで雌の子に頼ってはボスに叱られるよ! わい自身でやってやちゅさ!」
「全くこれだから雄といちゅ生き物は」
「でも頼もしい生き物よ。何たって約束は必ず守る雄ほど頼もちゅいって言うらしいわ」
「姐御。多分それは何か異なちゅ気が--」
「腰砕けはそれくらいにちゅよう。
 それじゃあ行くちゅ!」
 十字架の頂点からサムソンは思いっきり縄を放った--ご都合な事にその縄はギリギリの所で引っかける事に成功した!
 だが、放った勢いでサムソンは後方に倒れようとしていた。すぐさまチュンナは彼が落ちないように十字架の左側から支えようとするが--
「無理ちゅるな、チュンちゃん!」
「これだから雄といちゅ生き物は田中さん以外は有り難くないんだから!」
「こんな時でもチュウ太郎の名前を出ちゅか!」
「あなたの気持ちはとっくの昔に気付いてたわよ……ってわわ!」
「二名とも危う……わわ!」
 間一髪の所でチュミシタが支えた事により縄を離す事も十字架の上から真っ逆さまに落下する事も防げた。
「あ、危なかっちゅよ。チュンちゃんとチュミシタがいなかっちゅら今頃は--」
「ごめんチューバッハ君。罪深いこちゅ言って」
「気にしないよ。いやこんなことを気にちゅたらチュウ太郎に顔面を蹴られていたよ!」
「あはは、多分ちゅるわね!」
「あらあら二名ともお熱い様子ね」
「どうでもいいけちゅ、さっさと体勢を整えてくれない? 重いよ」
 言われた通り体勢を整えた二名は早速縄をよじ登ってゆく。
「姐御もさっさと登ってきて下さい! でないとオラはいつまでも縄を持ったままで右前足がきちゅいよ!」
「わかっちゅわ、今行くから!」
 フランは軽快に十字架の頂点に登り切り、チュミシタの両肩を掴む--彼はゆっくりと縄をよじ登ってゆく。
 すると縄は支える物が無くなり中央に向かって揺れ始める。その頃にはサムソンとチュンナは窓硝子の側まで到達。すぐさま支えが十分でない縄に代わり、サムソンが支えとなる。残った縄はサムソンの服袖を掴んだチュンナが腰回りに巻いてゆく。
「大丈夫か? いくら懐に詰め込んだとはいえ厚ちゅうな本が巻くのを阻んでいるだろうに」
「平気よ。それに巻けば巻くほど二名をわたい達の近くまで寄せて行くんだから」
「もうチュン姉の尻に近付きまちゅたぞ!」
「チュミシタ? 後でどうなるか覚えておいちゅね?」
「あらあら空気が読めない雄だちゅね、チュミシタ君は」
「何てことだよ! オラは正直に言っただけなのに--」
「長話はこのくらいにしろ! もう腰に巻き終えちゅよな」
「ええ、二名分じゃあ少し重いかな? だからこれあげちゅね!」
 チュンナはゆっくりと本をサムソンに渡す。右前足で握ったサムソンは--
「硝子の神々の涙だ! 出来る限り刺さらないでおちゅれよ!」
 硝子の破片を覚悟しながらサムソンは勢いよく窓硝子に厚紙で出来た本をぶつける--窓硝子は四方ないし八方に飛び落ちてゆく!
「ヒイイイイ!」
「奇跡ってあちゅのね。服を引っかけちゅけど皮膚には届かなかったみたいね」
「硝子が落ちゅて行くわ。どんなに煌びやかな物も破れば雨のように憐れにお……え?」
「どうしたのチュンナさ……あ……れ?」
「あのお? 何を……うわあああああ!」
 チュミシタが見たフランシチュ・ドヴェルスは胸から下が無かった。生命の最後はこんなにも呆気なく終わる事にチュミシタは怖れに恐れ、叫び声を上げるしかなかった!
「ど、どうし--」
「見るなチュンナ・カテリウォット! もうフランさんはいないんちゅよ!」
「で、でも--」
「うわあああああああああ!」
「いつまで叫んでいちゅんだチュミシタ! わいはもう窓の外まで登ったんだ! さっさとチュンちゃんと共に下を見ないでここまで登ちゅんだ! フランさんの死を無意味にちゅない為にも!」
「で、でも目を逸らせな--」
「わ、わたいももう登っちゅよ! あなたを見ちゅと同時にフランさんを見てしまったわ! で、でも見ちゅてもいいから身体は何とか動かして! で、でないと--」
「あ、あの。銀河連合がオラを食べようとしちゅて迂闊に動けないよ! ど、ど、ど、どちゅればいい?」
 サムソンは腐乱の死体と同時に壁蹴りしながらチュミシタを食らおうとするサーバル型を見る。
(上手いこと引っ張り上げてチュミシタを救えちゅか? でも相手は銀河連合だぞ! フランさんの時ちゅってそうだ。すでに部屋の中に入っちゅるのにすぐに襲撃せちゅ、わいが窓硝子を破り、破片が全て下に落ちゅたのを計らってあんなことを! いつだってわい達生命体の真逆をゆちゅんだよ!)
 サムソンは引っ張るのを躊躇う。
「チューバッハ君! 早くちゅて! そんなに銀河連合が恐いの?」
「銀河連合のこちゅよりもチュミシタを助けるつもりが--」
「肝試ししちゅおきながら途中で怖じ気ちゅかないで! 死んだ彼等の為にも肝試しをここで終えないちゅよ!」
 サムソンはここに来て自分が今までどうしてこんな目に遭っているのかを忘れた。
 彼は……いや彼等は皆エウク山に潜む神隠し事件を口実に肝試しをしに山に登った。その途中、銀河連合らしきモノに気絶させられここに連行された。そう、全ては自分達で撒いた種。
 安心出来ない思いからそんな事を忘れていたサムソン。それを思い出させたのはチュウ太郎との仲を知って思いを打ち開けられないでいた相手からの言葉であった。彼女の名前はチュンナ・カテリウォット。
「聞こえちゅか、チュミシタ!」
「あああ、オラの人生はもう終りちゅああああ--」
「覚悟しちゅるな! じゃあ阿吽の呼吸でいくぞチュンナ!」
「またいつもと異なちゅ呼び方!
 せえ、のお!」
 二名は神頼みで引っ張り上げた--サーバル型はフランの上半身を食らう事しか叶わなかった!
「姐御オオオオオオ!」
 チュミシタは別れの叫びを響かせながら窓の外には行ってゆく!
(また一名死なせちゅしまった。わい達の行く先に出口はないのか? 答えは窓の外を確かめちゅ以外に他はない。
 抜け出せない袋を抜け出ちゅ為にも!)

一兆年の夜 第三十四話 袋の鼠(五)

「何というこちゅだ! 張忠太達が見ちゅかってしまったぞ!」
「あわわ、猫型、豹型、カラカル型、サーバル型、コドコド型……うわあ、更にオラを襲ったピューマ型までいちゅよ!」
 六体は二つの三角形を交差した文字を描くように配置してゆく。
(全体集合といちゅわけじゃな。他にも銀河連合いちゅのかな? とにかくわかちゅことはわい達に逃げ場はないのか!)
 六体は一瞬も逃さないつもりであった--サムソン達の視線に合わせるように剥き出しの目で捉えてゆくように!
「あなた達が見る世界と妾達が見ちゅ世界……。果たしてどちらがより真実を映し出ちゅのでしょう?」
「姉さん! そんな詩的なこと言っても誰も記憶出来まちゅんわよ! みんなネコ科の銀河連合の腹に入ちゅかも知れないのよ!」
「うわあああ! もうおちゅまいだああ!」
(チュウ太郎に救われちゅ命をこんな所で無意味に散らすのか! 諦めるといちゅのか?)
 誰もが諦観の雰囲気を出していた--只一名を除いて!
「サムソン・チューバッハにフランシチュ・ドヴェルスにチュンナ・カテリウォットよ」
「何かちゅら張君?」
「ボス! どうちゅたんだ、いきなり?」
「はいボス!」
「あのお、オラのこと忘れてませ--」
「ただ一つだけ切り抜ける方法を思いちゅいた」
「「「「え?」」」」
 四名は合わせるように声を出す--それぞれ鋳汰に心配そうな表情を向けるように!
「そんな顔をちゅるな。このキュプロ学校主席張鋳汰の言うことはいつだっちゅ正しいのは知ってるだろうに!」
「ボス! いくらボスでも今回だけは切り抜けられないわ! 姉さんの持っちゅる縄で何とかするの?」
「物を使うほちゅ感受力の乏しい張鋳汰ではない! 決まっちゅるだろ、この張鋳汰自身が脱出口だ!」
 張鋳汰が脱出口--その言葉には四名だけでなく囲んでいる銀河連合達も困惑する!
「何言っちゅるんだボス! それで銀河連合を困惑させても一瞬だよ! 脱出口にも何にもならないぞ! 腰砕けもいい--」
「ところでサムソン・チューバッハ」
「な、何だよ! 何か聞きちゅそうだけどどんなこと聞ちゅんだ?」
「銀河連合が入ってくるまでにサムソン・チューバッハは思いついたこと有るんちゅないか?」
「はあ? そんなのあるわけ……ん?
 そう言えばあるような?」
 サムソンは何かを思い出そうとしていた。チュンナは黙って彼が思い出すのを見守り、フランは鋳汰が自らの命を捨ててでも皆を助けようとしているのを感じて己自身も何かをしようとしていた。
 残るチュミシタは自分の命が危ういのかサムソンに向かって大声を荒げる。
「もう思い出さなくちゅいいよ! もうみんなお終いなんちゅあああ! 食われちゅんだああ! 骨にされちゅんだああ! もう、もう--」
「静かにちゅろヤマカゼノチュミシタ!」
 はい--とまるで別者のように静まりかえるチュミシタ。そして--
(そう言えばどうちゅてまだ襲わない? ここで襲えば……いや何かを思い出してきたぞ!)
「ようやく思い出ちゅたか?」
「ああ、わいは『世界観補正』という仮説にちゅいて思い出したんだよ! あれに--」
「それ以上は銀河連合に知られちゅしまう! これより張鋳汰は六体を惹き付ける!」
「待ってくれボス!」
 制止を振り払うように鋳汰は前方にいるサーバル型へと突っ込む--鼠族独特の鉄を擦る音に似た叫び声を上げて!
「無茶だわボス! このままじゃあ--」
「行きまちゅう三名とも! 張さんの覚悟を無意味にちゅないで!」
「で、でもこのままじゃあボスが--」
「いや行くんだ! ボスはあんなんで死ぬかよ! わいが言うんだから間違いないんちゅよお!」
「本気な……わあ引っ張らないちゅよ姉さん!」
「銀河連合が油を断ちゅ一瞬を狙わないと妾達は生きられない!」
「今がその時ちゅあああ!」
「サム兄がオラを引っ張っちゅるよおお!」
「それでいい……っどおわ!」
 鋳汰はサーバル型の周囲を動きながら時間を稼ぐ。他の銀河連合は一瞬の油断ちで包囲網を突破されたもののサーバル型を無視するようにすぐに四名を追う!
「なんでオラ達を追う? サーバル型が死ぬかも知れないっちゅのに!」
「出入り口まで後少しといちゅ所で! このままでは--」
 二度目の鼠の叫び声が響く--今度は仲間の耳を傷つける覚悟で部屋の外にまで揺れを起こすほどの勢いで!
「耳に宜ちゅくない……けど張さんの覚悟は受け取っちゅわ!」
「ああ、わたい達を追っちゅる五体が一斉にボスの方に!」
「ボス……これでいいのでちゅかい!」
「いくら何でもボスは真鍋傭兵団出身じゃないんだよ! 鼠と猫じゃあとちゅも相性は--」
「相性がなんだって……があああ、後ろ足チュアハアガアア!」
 鋳汰はとうとうサーバル型に後ろ右足を食われ、身動きがままならない状態で他の五体によって欠片残さず食われてゆく……!

 未明。張鋳汰の死から一の時が経過。
 十字架のある煌びやかな天井窓がある部屋。窓には光が差し込む。
「といちゅことは今はまだ昼頃かしら? この光量から考えまちゅと」
「もう昼でも夜でもいいよ。オラ達の大黒柱がもういないんだよ。ここからどうやって脱出ちゅるんだよ。サム兄の薦めでここに来ちゅけど、どこに脱出口があるんだ--」
「チューバッハ君? もしかして窓を傷ちゅける気? 無理だよ! あの窓は固そうだわ」
(確かに無理だ。あの窓を破るには屈強な種族でなおかちゅ筋肉鍛錬を怠らない者。わい達にはちゅれは当てはまらない。でも破る方法ならここにあちゅよ!)
「サムソン君。ひょっとして私が持参した縄と十字架、それに連結椅子を使って破るちゅもりでしょうね?」
「やるちゅもり? 神様に対ちゅて罪深いよ!」
「肝試しをしながら更には二名を死なせちゅわたい達が今更神々に敬意を払う資格あちゅ?」
「やらないことには始まらない! わいはもう誰も死なせちゅくないんだよ! さっさと始めちゅぞ! 銀河連合はわい達を待たしちゃちゅれんのじゃ!」
「ええ、妾はあなた達を最後まで守るわ。でないとエピクロの地で待っていまちゅ婚約者に笑われまちゅわ!」
「フラン姉もわたいと同じく品行が宜ちゅくない雌だわ。わたいも生きないと死んだ田中さんに申し訳ちゅかないもんね!」
「それにしてもこの十字架はどうやったら外ちゅるかな? 物は試しようだと誰かが言っちゅたな!」
(フランさんにチュンさんにチュミシタ……。
 わいらは絶対にここから脱出ちゅなければいけない! でないとここに眠るであろちゅ神々に申しわけがつかない! 今行くよ、チュウ太郎にボス!)

一兆年の夜 第三十四話 袋の鼠(四)

 入ってきた銀河連合は豹型とカラカル型。どれも彼等の知る世界にはいない種族が基だ。おかしな事に彼等は物を漁らず只見回りをするだけで見回り、自信ありげな表情をしていたのかそんな様子で部屋を出て行った。その間にかかった時間は五分。
 二体が部屋を出てから三の分より後、五名は安堵の表情をしながら姿を現してゆく。
(心臓に良ちゅないよ。いつ発見されるかと思うと心臓の音が高く鳴りちゅぎて気付かれるところだったよ)
「あら? あなたもそんな風に考えちゅたのサムソン君」
 ええっ--とサムソンはフランに自分の心境を読まれた事に驚く!
「姉さんが他者の心を勝手に読むのはいちゅものことでしょ、チューバッハ君?
 私は読ませないようにちゅるのはもうやめてるわよ」
「オラなんかいちゅだって姐御に--」
「それよりもフランシチュ・ドヴェルスには今までの状況を説明したいされたりしなくちゅならない! 実は--」
 鋳汰はフランに穴に落ちた経緯と田中チュウ太郎の末路についておよそ十四の分もの間説明した。ただし、チュウ太郎についてはチュミシタと同様にはぐらす形で説明。これを聞いてフランはチュウ太郎の死を感じとるも出来る限り気高く振る舞う事で表情を示さなかった。
 それから二の分より後に今度はフランが今までの状況を説明した。彼女によると目覚めたのは十字架に張り付く人族らしき長髪男性の像がある煌びやかな硝子窓が特徴の部屋。彼女が想像するに恐らくは式場と思われる。突拍子もない部屋で目覚めた彼女は最初戸惑ったが部屋の中から銀河連合が入ってくるとすぐさま落ち着きを取り戻して部屋から出る事を決意する。入ってきた銀河連合はサーバル型。プロタゴラス大陸に住む種族サーバルを基にしたのは明白。彼女はサーバル型から逃れる為に十字架像を活用。それにより部屋から脱出。だが、同時に物部大陸に住むコドコド族が基である銀河連合に捕縛。後一歩で食べられるところを--
「田中さんが助けてくれたの?」
「ええ。チュウ太郎君は命の恩者。妾はあの時、彼の死を確認出来なかったけど、どちゅやらそのまま逃げ切り、今度は--」
「皆まで話さないでくれフランさん。話の続きをお願いしまちゅ」
「わかっちゅわ。その後は怪しい部屋を見つけては隠れて見ちゅけては隠れて……を繰り返したわ。そうして二十の分より後にこの物置部屋に辿り着いたわ」
「成程な。ということは恐らくサムソン・チューバッハが目覚めた場所と田中チュウ太郎とフランシチュ・ドヴェルスがいた場所は繋がっていちゅ事が証明されたな」
「どうゆうことでちゅか、ボス? どうしてそれだけの情報でわいが目覚めた場所と繋がっていちゅなんて断言出来るのじゃ?」
「相変らずサムソン兄は頭が宜ちゅくないね! いいでしょう、ここはオラが--」
「あったわ! わたいが紙に書いて説明ちゅるわ! 今までの状況は紙に書くと……こちゅでしょ?」
 チュンナは一名一名の話を基に地図を作成。まずサムソンは前と後ろがどこまでも続く所で目覚める。彼は真っ直ぐ進む事を選択して最初の分岐点に当たる。彼は革新的な思考の持ち主故に左を選択。
 それ以降の状況に入る前に張鋳汰から先に説明する。彼が目覚めた場所は分岐した場所。彼は自分を含めて六名の頂点故に現実的な思考の持ち主。選んだのは右だった。それから彼は真っ直ぐ進むものの途中で左曲がり角を進んで今度は一文字の分岐にあたったがそこで左側から僅かではあるがサムソンの叫び声が聞こえたので左を選択。
 そこから先はサムソンと鋳汰の状況に移る。ネコ型の襲撃を受けたサムソンを助けに鋳汰はネコ型よりも早く彼の襟首を掴んで逆方向に逃走するもネコ型に追いつかれそうになる。
 田中チュウ太郎の加勢に入る前にフランシチュ・ドヴェルスの状況から説明する。彼女が目覚めた場所は神々が眠る十字架部屋。そこで彼女はサーバル型の襲撃を受けるものの十字架に眠る神々の力を使って何とか逃げ切り、部屋を脱出。部屋を出るとそこは一文字に分岐していた。だがそこで待ち構えていたコドコド型に捕まった。そんな彼女を助けるべく田中チュウ太郎がコドコド型を襲う! チュウ太郎のお陰で脱出出来た彼女はチュウ太郎に勧められて右方向に逃走! それ以降は各部屋に入っては銀河連合が入ってくると入れ物箱などに隠れて何とか切り抜けてゆく。
 一方の田中チュウ太郎は左方向に逃走したと思われる。そうして難聴である彼は自慢の視力で鋳汰とサムソンが猫型に追いつかれそうなのを目撃。二名を助ける為に単身ネコ型の襟首を噛みつこうとするも……。
 今度は地図作成者であるチュンナ・カテリウォットの状況に移る。彼女が目覚めた場所は行き止まりがあった。行き止まりを背に真っ直ぐ進むと目にしたのは正面に続く道と後ろ側に繋がる左右の道。彼女は名門の家でありながらチュウ太郎の為に出奔した事を考えて右後ろの道を選んだ。だがそこは行き止まりであった。仕方なく戻ろうとしたら鋳汰とサムソンが進むべき方向を決めるのに叫び声と同じ音量で議論しているのを聞く。彼女は銀河連合はまだ来てないと考え、ゆっくりとした足取りで戻ってゆき、彼等が行きたい道は行き止まりである事を告げる。消去法で三名は残る道を進むがいきなり床が開いて三名ともさっきまでいた真正細菌族が活発に動く土の上に落ちていた。
 恐らく同時刻と思われるが、穴に通じる物置部屋に入ったフランは下の方で聞き覚えのある声がしたので部屋中探していたら縄と穴に通じる開閉式の床を発見。
「--んでその後は今の状況に至ちゅ……と」
「あのお、オラの状況も--」
「妾の進行方向としまちゅてはチュウ太郎さんの薦めで右方向に逃走。その後くの字分岐にあたったので右方向に行きまちゅとそこで台所と厠と思われる部屋に入っては隠れちゅといった行動をしながら進みました。そこで行き止まりに当たりましたのでさっきの分岐に引き返して左に進んで個室らしき部屋に入って同様の行動をしながら現在に至ります。蛇の足付けに成ちゅけどいいかしら?」
「となるとサムソン・チューバッハが最初にあたった分岐をもしも反対方向に行っちゅらフランシチュ・ドヴェルスと早々に合流したかも知れない。または次の分岐で反対を行けばこの張鋳汰の背中を見ちゅいただろうか?」
「頭の良くないわいでもこれだけははっきりちゅる! 後は落とし穴の先にあちゅ通路しか道は--」
「いやあ、それなんちゅけど--」
「どうしたのチュミシタ? さっきから言いたいことあちゅのにここぞという時にはっきりしないんだから!」
「礼を失ちゅるなあ! オラはさっきから言おうとちゅてるのにみんなが勝手に--」
「早ちゅ言えヤマカゼノチュミシタ!」
 チュミシタはうつ向きの状態で溜息をつくとすぐに深呼吸をした後こう言う。
「オラが目覚めた時、目の前に行き止まりがあっちゅんだ! 更にいきなりピューマ型に襲われて反対方向に逃げてゆくと直角分岐にあたっちゅよ。真っ直ぐと左の分岐に。んで深く考えないオラは真っ直ぐ進んだら何時の間にか穴に落ちてじたばたしている間にボス達と合流を果たちゅたよ!」
 鋳汰の表情は穏やかではなかった。六名を連行した場所の構図をようやく理解したと同時にどうしようもないところに閉じ込められた事に気付く。フランは鋳汰の表情を見て何かが閃くと同時に自分達の置かれている状況は大変深刻であると自慢の気高さに綻びを露にする。
「どうちゅたの姉さん? いつもの姉さんらしくありまちゅんわ」
「気付かないの、チュンナさん? 先程までの話を纏めれば自ずと解ちゅわよ」
「先程までの話は確か……そんな!」
「チュンちゃん! そんな真っ青になって大丈夫か!」
「大丈夫じゃないわ! チューバッハ君は気付かないの? わたい達が置かれちゅる状況を!」
「ど、どんな状況なのかオラにはさっぱり--」
 サムソンは先程までの話を整理し始めた。自分達が目覚めた場所、進行方向、各部屋……そしてようやく--
(銀河連合を甘く見ちゅんじゃなかったよ! あいつらはいちゅだってオラ達の考えることの真逆を行く存在だってのを!)
「あのお? オラにはさっぱり--」
「単刀直入に言おちゅ! オラ達五名……いや正確には六名は出口無き場所に運ばれたんだよ!
「へえ、そうなんだああ……ってなちゅううう!」
「正に袋の中に入ちゅ鼠。この張鋳汰を含めた六名を脱出不可能な場所に運ぶなんて一体何を考えていちゅ、銀河連合!」
「遊んでいちゅのよ、きっと」
「どうゆう意味でちゅか、姐御!」
「ほら、さっきここに入ってきた二体の銀河連合の行動。それ変に思わなちゅ?」
「言われてみれば変ね。いえそれ以外にも落とし穴にわたい達を入れちゅ時もそうよ。どうして追い打ちをかけちゅにそのまま穴を閉じたの? 銀河連合らちゅくないわ」
 その後もサムソン以外の者が議論をする。サムソンは別の考えが先行する。
(遊ぶ為? 果たして本当にそうなんちゅろうか? 遊ぶ為ならどうちゅてチュウ太郎が死んだ後、議論中に襲いかからない? あの時はチュンちゃんと合流ちゅた分岐地点。なのにネコ型は襲わなかった。いやそれだけじゃないかもちゅれない。
 フランさんは十字架のある部屋から脱出する時、チュウ太郎に助けられちゅよな。その時だってそうだ! あの話は真実だ! 真実であちゅ以上、どうしてわい達を助けちゅまでチュウ太郎は無事でいられた? ネコ型はすぐにチュウ太郎を食べたといちゅのに!
 まさか銀河連合は遊ぶ以外のことが関係すちゅのか? わいの頭ではこれ以上は無理だ! せめて『世界観補正』を研究なさっちゅいた吉良家のような柔軟な発想があった……ら?
 待てよ! ひょっとしたらあの部屋に脱出する鍵があ--)
 思考する間もなく連行した数の分だけ銀河連合が部屋に侵入!

一兆年の夜 第三十四話 袋の鼠(三)

「のわあああ!」
 三名の真下は突然開く--床は開閉式と成っており一定の体重になると重石は崩れ、そのまま下の方に開く構造だった!
「張鋳汰ともあろちゅ雄がああ!」
「銀河連合の考えるこちゅを甘く見た罪だわ!」
 三名は成人体型八はある穴に落下してゆく!
「「「あいでええええ!」」」
 浅い穴だったのか三名全員は気絶せず打撲で済んだ。
(イデデデ。銀河連合は襲ってくちゅと当たり前に思いすぎた!
 あいつらはいちゅだって--)
 我々生命体の考えることの真逆をゆく--思考したと同時に床は自動的に閉まってゆく。
「さちゅないわよおお!」
 チュンナは真後ろにある壁をよじ登って元いた場所に戻ろうとするも結局間に合わなかった--彼女はそのまま落下し、背中をぶつけた!
「いだああ! 全く雌をこんな目に遭わせちゅ銀河連合なんて絶対好きにならないんだからね!」
「大丈夫なの、チュンちゃん?」
「心配ありがちゅう……いだいわ。いつだってチューバッハは優しいんちゅから」
 サムソンはチュンナに優しさをかけるのは別に誰に対してもではなかった。
(わいはチュウ太郎の代わりなんちゅ務まるのか? できっこないよな。わいはチュウ太郎と異なり頭は良くない方だちゅ。それに潔癖ちゅは程遠い雄だもんな)
 サムソンの悩みを看破したのか鋳汰は--
「サムソン・チューバッハ! 悩みはここを無事脱出したら聞いちゅやるから!
 今はどうやってここを脱出するかを考えるんだ! 例え考えが回らないサムソン・チューバッハであっちゅもだ!」
 と本者は励ましたつもりでいるようだが余計な一言がなければサムソンの額に汗は流れなかったであろう。
「全く雄達はだらちゅないのね。姉さんが見たらどう思うかな?」
「ええ。姐御は絶対に遊んできまちゅね!」
「フランシチュ・ドヴェルスはいいだろう。今はどこに脱出口があるかを見ちゅけることが先決だ!」
「わいとちゅてはフランさんの他にもチュミシタがどう思ちゅかが心配じゃ」
「オラはいつものサム兄とボスだなあと思っていちゅけど。それがどうちゅたの?」
 ならいいか--と鋳汰は鶴の一声で脱出口を探しに三名を牽引する--何時の間にか合流した齢十八にして七の月と七日目になる神武鼠族の少年ヤマカゼノチュミシタに気付かない振りをして。
「あのお? オラのこちゅ忘れてる?」

 未明。
 場所はサムソンが連行された場所より下にある真正細菌族が蠢く土の上。
 チュミシタは二十の分かけて今まで自分がどこで何をやっていたのかを説明。それによるとヤマカゼノチュミシタは目覚めてすぐに銀河連合ピューマ型に襲われて何もない真っ直ぐな道を只ひたすら走っている内に穴に落ちたとの事。
「それで落ちはあちゅの? チュミシタの相手をちゅるほどわたいも暇じゃないの」
「二十の分かけて説明ちゅたのにこの扱いはないよ!」
「チュンナ・カテリウォットとヤマカゼノチュミシタは五月蠅いぞ! 今は脱出口を探すこちゅから始めろ!」
「ちゅとよ、チュミシタ」
「はあ……あれ? ところで田中兄は? 難聴で有名な田中兄がチュンナ姉を置いてどっか行くはちゅないのに!」
 田中チュウ太郎--彼の名前の一つでも耳に入ると三名は険しい表情をする。
「チュウ太郎はここには連行されちゅないよ。わいが言うんだちゅら間違いないって!」
 誰でもわかる真実味のない言葉--けれどもチュミシタは気付かないのか--
「そうか。それならこの場にいないのもよくわかちゅな! きっと入口付近でオラ達を助けちゅ為に健闘してるんだよ、きっと!」
 と自信満々に意味不明な事を言った。
「今は田中チュウ太郎の分まで張鋳汰をはじめとちゅた者達が生きねばならない!
 それにしちゅも行き止まりが多いな、この部屋は!」
「いえ、この広さちゅかないわ。下の区画は」
 成人体型縦二十、横十四、高さは八。地面は真正細菌族が活発。
(地面を掘って脱出出来ちゅのか? わいは土竜族や蚯蚓族じゃないから無理ちゅよ)
「肩車で届く高さちゅないよ。だってオラ達の平均身長は成人体型コンマ七に満ちゅないよ」
「寧ろ鼠族の平均身長ではコンマ二ちゅらい大きいわよ」
「張鋳汰達の身長はいいちゅろ! 今はどこに脱出口があるかさがさ--」
「……えちゅ?」
「探すと言われてもわい達が落ちゅた所の他に穴のあるのは反対側だ--」
「……こえちゅ?」
「この声は--」
 二度目にしてようやくチュンナは気付く。
「聞こえちゅかしら?」
「姐御の声がすちゅけど、上かな?」
「そうよ! 早くちゅないと食べられるわよ!」
「フランさんか! といちゅことはわい達と反対側の--」
「今開けちゅわ!」
 反対側の穴はゆっくり開いてゆく--向こう側から齢二十二にして八の月と二十三日目になるエピクロ鼠族の女性フランシチュ・ドヴェルスの凛とした美顔が見えた!
「フランシチュ・ドヴェルス! 相変らずお美ちゅいな!」
「『総合名で呼ばないで』と言ってちゅでしょ? 学習ちゅないわね、張君は」
「姉さん! 生きてちゅのね!」
「妾はそう簡単に死にま……いいから早くちゅて! 銀河連合が来たらどうちゅるの?」
「そうは言ってもどうやっちゅこの張鋳汰達を助ける?」
「『張でいい』と何回言わちゅるの? 覚えやすいのはわかちゅけど」
「何呑気な事言ってちゅんですか、姐御! どうやってオラ達を--」
 助けるんでちゅか--と同時に縄が投げ込まれた! 取っ足はフランが利き前足である右で握りしめていた!
「ありがちゅう姐御! じゃあ早速--」
「待て! 先にチュンナ・カテリウォットから引き揚げろ! 常識ちゅろ!」
「ええー! 公平じゃないよ!」
「『ボスの言うことはいちゅだって正しい』とチュウ太郎ならちゅう言うぞ!」
「じゃあお言葉に甘えちゅ!」
「せえの……はああ!」
 フランは見た目に反して力持ちであった--瞬く間にチュンナを引き揚げた!
「二名揃ったのなら三名同時でも大丈夫だろ?」
「無茶言わないちゅよ、張君」
「そう言いながら本当に引っ張ろうとちゅるのね。さすがは姉さんだわ!」
「急がないと銀河連合が食べに来ちゅから仕方ないのよ!」
 フランとチュンナは阿吽の呼吸で両前足でしっかりと掴む三名を同時に引っ張り上げた!
「ぶはああ! 何とか助かっちゅのう」
「サムソン君は時々親父言葉にならないの。雌の子にもちゅないわよ」
「フランさんの説教癖も治ちゅた方が良いんじゃない?」
「そこまでにしろ! どうやら張鋳汰達以外の物音がした! 急いで隠れちゅぞ!」
「いきなり隠れろといわ--待っちゅよおおお!」
 出遅れたチュミシタを含めて五名全員樽や木箱の中に隠れた! すぐ後に銀河連合二体が部屋の中に入ってゆく。

一兆年の夜 第三十四話 袋の鼠(二)

 頭上から何かが飛び込んできた!
「オワチュウ!」
 サムソンは右に横転しながら回避! そのまま飛び込んだ相手の方に視線を向ける!
(やはり銀河連合でちゅたか! しかもわいら鼠族にとってやりにくい猫型を狩りに出させちゅとはやるなあ!)
 感心したと思ったら猫型は右前足を突き出して突撃! サムソンは先を進む為に左へ避けるが--
「アガチュウ!」
 それは猫型の読み通りだろう--左へ避けるのを見計らって後ろ右足で着地し、右回転しながら尻尾による攻撃でサムソンを吹っ飛ばす!
 サムソンは胸を壁にぶつけ、地面に落ちると痛みのあまり悶える。
(よりによって心臓近辺にぶちゅかるなんて。わいの人生はもう終りでちゅ!)
 猫型は舌なめずりしながらサムソンに近付いてゆく。一の分と経たないうちに前左足で首根っこ目掛けて振り下ろす--
「サムソン・チューバッハアアア!」
「その声は--」
 サムソンが向かおうとしている道から齢二十三にして四日目になるキュプロ鼠族の青年が姿を現す!
 張鋳汰ちゅ--とサムソンは叫び声を上げる! 鋳汰と思われる青年に視線を振り向かせた猫型は思わずサムソンに致命傷を与える攻撃を外した!
(目の前に猫型の足が! ぐちゅ、動けない)
「今助けちゅぞ、サムソン・チューバッハアアア!」
 鋳汰はサムソンに襟首を利き前足である左で掴むと後ろ右前足でサムソンが進みたい方角に身体を向けさせる! 猫型が次の攻撃準備が整った状態よりも早く後ろ左足で大地を斜めに蹴ってその場を離れてゆく!
「ググチュウ、ありがちゅうボス」
「礼を言える状況ちゅ、サムソン・チューバッハアア!」
 確かに--とサムソンは猫型がいる方角に顔を向けるとそこには距離を詰めてゆく猫型の姿があった!
「一名分じゃあさすがに追いちゅかれる! どこまで行っても鼠じゃあ猫に勝ちゅないのか?」
「いや噛むこちゅなら容易さ!」
 その声は田中チュウ太郎--とサムソンは叫ぶ! 猫型の後方より齢二十にして十の月と二十七日目になるタレス鼠族の青年が姿を現す!
「難聴鼠の田中チュウ太郎とは拙者のこちゅだよ!」
 チュウ太郎と名乗る青年は猫型の襟首に掴むと歯を立ててゆく!
「無茶すちゅな田中チュウ太郎! 死んだら--」
 ありがちゅう--チュウ太郎は猫型に噛みつきながら別れの言葉を念じる。猫型は強引にチュウ太郎を引き離すと問答無用で頭を食らった!
 チュウたろおおおおおう--サムソンは悼むように叫んだ!
「田中チュウ太郎。お前に助けられちゅことを忘れない……」
 チュウ太郎の犠牲により二名は猫型が見えなくなるまで逃げ切れた--サムソンが通っていった道を横切って!

 未明。サムソンが目覚めて一の時。
 三方向に分岐する地点。暗視状態になっても壁と床の色は灰。天井は見えない。
 サムソンと鋳汰はどの方向へ進むか議論を交わす。
「ボス! どのみち銀河連合は待ち伏せまちゅ! この際は中央を進みましょう!」
「甘いぞサムソン・チューバッハ! 真っ直ぐな気持ちは銀河連合に利用されちゅ! チュウ太郎が命を賭ちゅて伝えたのをまだわからないのか! この場合は左を目指ちゅべきだろう!」
「わいは頭が良ちゅない! 数学の公式だっちゅ解らない! でも当たり前のこちゅならわかる! それは曲がっちゅことが好きじゃない! 真っ直ぐ進むべきでちゅ!」
「この張鋳汰に知識的でないこちゅを吹き込むか、サムソン・チューバッハ!」
「頭でっかちじゃあ時間の浪費でちゅよ、キュプロ学校主席張鋳汰のボス!」
「主席である張鋳汰の言うことに従ちゅ、サムソン・チューバッハ!」
 二名は十の分もかけて議論を交わす。その光景に堪えかねたように--
「全く鼠族の雄はどいちゅもこいちゅもどうして暑苦ちゅうの?」
「張忠太が行きたい方向からどうしてチュンナ・カテリウォットの声がすちゅ?」
「それはね、ここがもちゅ行き止まりだからよ」
 齢十九にして三の月と十七日目になるルケラオス鼠族の少女チュンナ・カテリウォットは左の方向より姿を現した。
「チュンちゃんも無事だっちゅのか」
「ええ。わたいはこう見えちゅルケラオスの名門カテリウォット家の雌なのよ。肝試しちゅけで死なない命運びなのよ」
「ちゅまないが道中で一名の死亡を確認した。」
「え? 誰なちゅよ」
「わいからは言いにちゅいことだが耳の聞こえない--」
「まさか田中さんが! 本当じゃなちゅよね?」
 チュンナはチュウ太郎の死を受け入れ難い。だが鋳汰はチュウ太郎の思いを代弁すべく--
「田中チュウ太郎は最後まで仲間思いちゅった。それだけは受け入れちゅチュンナ・カテリウォット」
「田中さあアアアあん!」
 チュンナの両眼から溢れんばかりの涙が零れた!
(だよな。チュンちゃんはチュウ太郎が好きちゅもんな。好きだから家を捨ててまでチュウ太郎と付き合おちゅとしたもんな。それに比べてわいはどちゅなんだ!)

 未明。チュンナと合流して十の分より後。
 チュンナからサムソンの進みたい道も行き止まりであることを知った。
「じゃあ右に行くしかなちゅの?」
「そうよチューバッハ。確かにそこにも銀河連合が潜んでいちゅかも知れないわ。
 それでも--」
「皆まで言ちゅなチュンナ・カテリウォット。この張鋳汰を始めとした肝試し家共は危険を承知で進ちゅ腰砕けの集まりだ! それをわかって肝試しに参加しちゅのなら『後退』という二文字は無用。進むぞ!」
「「オオ!」」
 三名は右へと歩を進める。そこに道があるのを信じて……

一兆年の夜 第三十四話 袋の鼠

 未明。
(どうしてわいはこんな事になっちゅまったのじゃ!)
 齢十九にして八の月と八日目になるタゴラス鼠族の少年は目が覚めてすぐにそう思考した。
(わいはこう見えてどこの馬の……いや鼠の骨とも知らん今時の若い者ちゅったのに!
 肝試しに友者五名と仲良くエウク山に登っている最中にこんなことになっちゅまうなんて!)
 思考しながらも少年は部屋がどうゆう構造なのかを触診してゆく--暗くて見えないようだ。
(わいはサムソン・チューバッハとして産まれた身なのに肝試し最中に五名と一緒に眠りこけて気がちゅいたらどこかわからないところに連行されちゅなんて!
 きっと銀河連合のせいでちゅ! 話いらの肝試しを本当の命がけの物にちゅるために!)
 少年サムソンの目はようやく暗視状態になった。そこでわかったのはこの部屋は一本の通路となる。前と後ろのどちらか一方を真っ直ぐ進むと分岐に当たるとサムソンは考えるが--
(銀河連合に連れて行かれた気がちゅるけど多分あいつらは出口を提供してくれないとわいは考える! 勉強を疎かにしてきちゅわいでも確かにわかることはある。
 それは銀河連合のやることはいちゅだってわいらとは逆のことばっかりじゃ!)
 そう考えながらも敢えて前進するサムソン。前進して僅か十の分より後に彼が考えた事はまず空腹をどうするかだ。全ての生命に共通する事の一つは物を食べないと生きていけない。彼は幸い眠り耽る前に無断でエウク山菜を五束くらい貪り食べた為、排泄物を出す事以外ではしばらくの間は空腹に悩まされる事はないと考えたが--
(それでも生命はいちゅれ空腹に負ける! 物を食べることは生命にとって一大事でちゅ! その辺はわいでもよおくわかちゅこと! 問題は--)
 次に思考するのは睡眠。先程まで彼は眠りに耽っている間に連行された事を考えた。今度は次回に眠りにいつ誘われるかを思考する。
 生命にとっては食事と同じように睡眠時間も大切な習慣だ。眠らずに過ごせば判断能力が低下して命を落とす危険が高まる。かといって眠る機を誤ると銀河連合に食べられてしまう。だがサムソンは睡眠が他の重要な物をもっている事に着眼する。それは--
(眠れば多少の空腹だって抑えられちゅ。冬眠を御存知か? わいは知らん。それでもわいは最後の手段として眠りに耽って命を少しでも長引かせちゅことだってやちゅさ!)
 最後に考えるのは便だ。サムソンは自分の頭では高等な事を考えるのは容易くない。それでも生命にとって必要最低限の事なら容易く考えられると彼は考える。
(あちこちゅに小便や糞は良くない。臭うし、衛生上に良くないし、何より神様に叱られちゅ! だからどこでやちゅかだよ。わいは胃腸が強くないから厠に直行すちゅ! 下痢になちゅと痛くて死にそうだよ! ワイにとっちゅ最大の壁は銀河連合よりも内なちゅ物だよ。便だよ!)
 そんなサムソンでも身を弁える所はある。それは出来る限り水の流れる場所で用を済ませるというもの。その為なら彼は半の日あっても便を我慢できる。下痢ならば四半の日くらい。
(便のことはこのくらいにしちゅこう。そろそろ分岐が見えるはちゅ……見えた!)
 待っていたのは二分岐--通常なら生と死の分かれ目であろう。
(どちらか一方に銀河連合が待ち伏せちゅて入ると同時にぱくりっちょ! 頭の良くないわい以外でもそんなことは当たり前に考えちゅ。
 しかしわいサムソン・チューバッハはこう考えちゅね!)
 どちらにも銀河連合は待ち伏せする--ならば生存確率の低そうな道を選ぼう!
 サムソン・チューバッハは楽な道を思考する事を持ち合わせず、茨の道を選んだつもりで左へ進んでいった!

時間がないので今日は短い

 どうも某日記アニメを全話見たために時間を潰しすぎたdarkvernuです。
 ショートストーリー始める前に『格付けの旅』が数行ほど更新されてますので読みたい方はカテゴリの<格付けの旅>をクリックして下さい。
 さてと、では2020年オリンピック開催国に決まった事もありましてそんなショートストーリーを短くどうぞ。

 ここがおかしいオリンピック……。
 俺が言いたいのは確かに東京に決まった当時は大喜びしたよ。
 64年以来のオリンピック……。
 胸の鼓動が高まるのが普通だ。けれども--
「何嬉しそうじゃないんだ? もうC国の心配もTPPの心配も売国法案の心配ももう無いんだぜ」
「そっちの話じゃない! 俺がおかしいと思うのはどうして種目競技が変なのばっかだよ!」
「変? 缶蹴りとか軍人将棋とかTRPGとかオンライン対戦とか遊戯王とかジョジョポーズとか別におかしくないよ。普通に--」
「そっちだよ! 何で四年に一度のスポーツの祭典にどうしてそれらアホな競技が採用されてんだよ!」
「いいじゃんいいじゃん! 四年前のリオデジャネイロなんか人狼とか大戦略、ドッグフードなんかが採用されて盛り上がったじゃないか!」
「それもおかしいだろ! そいつらが例え一歩譲っても缶蹴りとドッグフード以外は認めんぞ!」
「堅苦しいな。もっと新種目を歓迎しろよ。次なんかストⅤ、ダンレボ、デスメタル、ゲートボールが採用されるかも知れないってのによ」
「十歩譲ってゲートボールしか俺は認めないぞ」
 この世界は現実とは大きく異なる。故に信じられない競技まで採用され続ける悪夢のような世界だと言う事を知っておこう……。


 缶蹴りに関するネタはこち亀でやってたな。確か。
 まあとにかくスポーツの祭典では主に陸上競技、水泳、ハンマー投げなどのスポーツを互いの選手が国家の威信を懸けて限界を超えて競い合います。ところがどこかで間違うと室内で争う競技から食べ物を粗末に扱う物までスポーツ認定して互いを競い合うと一体スポーツの祭典はどうなるのでしょうか。そんな信じられない物が当たり前のように採用される世界を描いてみました。
 何が信じられないかと言いますと普通の思考なら軍人将棋だとか人狼だとかTRPGだとかどう考えてもチェスと同じように室内でやるやつが普通にやるってのは想像がつきません。国家の威信で戦車とかミサイルとかを進める将棋と村と狼と狐の腹見せ合いとかサイコロ振ってモンスター退治していくもんに限界超えてやり合うとどれくらい時間が潰されるかわかったものじゃないぞ(笑)。特に人狼なんかは普通に放送コードに引っかかりかねないぞ(笑)。吊すとかさ!
 まあ今回はここまでで説明するか。ちなみのこの世界では国内で問題になってる売国素案は全て解決済みになってます。まあ希望的観測でしかないよな(悲)。それじゃあ解説は終わり。

 第三十三話の解説を五行で済まします。
 今回は主人公夫婦が銀河連合を育てます。成長します。
 市の要請で傭兵が山に登ってくる。「なんじゃこりゃあああ!」
 傭兵を家に泊めます。帰ります。
 主人公狩りに出かけます。銀河連合来ます。悲劇の始まりです。
 詳しくは本編をどうぞ。以上で第三十三話の解説を終えます。

 タイトル通り短いですね。それじゃあさくっといきますよ。

 九月
 十六日~二十一日   第三十四話 袋の鼠             作成日間
 二十三日~二十八日  第三十五話 蜥蜴の尻尾          作成日間
 三十日~十月五日   第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて    作成日間
 十月
 七日~十二日     第三十七話 鼬ごっこの世           作成日間

 鼬ごっこは何も現実ばかりじゃありませんよ。創作物の世界じゃあ当たり前にやりまくりですぜ。例えばジャンプ長期連載陣とかさ(W、N、B、Gとこち亀等々)。自分も鼬ごっこをやるつもりでいますのでどうかしっかりチェックして下さいな(辛)。それじゃあ今日はここまで。
 短い事は真に申しわけありません。以後は慎むつもりです!

一兆年の夜 第三十三話 蛙の子は蛙(三後)

 午後一時四分九秒。
 場所はエウク山標高成人体型六百九十三付近。エウク山菜とエウク舞茸が比較的多く採れる場所。
 オタ留はタレス性の入れ物籠を背負い、晩御飯の材料を採る為に雄略包丁と同様の技術で精錬された雄略鎌を前右足で握り、黙々と山菜と舞茸を採っていく。
(これだけでも足りないッケロ。オタ奈はあんなに大きくなったんだッケロ。もっと採れたらいいけど無理だよなッケロ)
 大量伐採は森林を死なせる事に繋がる--銀河連合のいない古い時代の口伝。
 それによると森は命が宿っており常に自らの身を差しだしても全生命に命の恵みを与える。生命は森で採れた食物を食べる事で命の恵みを与えられる。恵みを与えられた生命は森に感謝の意を表して今日を精一杯活動する事で奉仕する。森と生命は切っても切れない関係なのだ。故に全生命は森への多大なる保護を収穫物よりも優先。収穫物が多ければ多いほど森の命は縮むのである。
(なので俺は今日の分はこのくらいにしないとなッケロ。明日、明後日とどうなるかも定かではないからっケロ)
 エウク山菜三十六束とエウク舞茸十八個を入れ物籠の中に無理矢理入れると家族のいる二棟繋がりの家に帰ろうとするその時だった--
 雷が落ちた--オタ留の目の前にあった木を縦に割るように!
 オタ留は雷光によって目を逸らす--雷光の叫びを耳が振動するくらい聞く!
(うわああッケロ! もしかして神様は俺が森から大量に採ってきたことに怒ったのか……何だッケロ!)
 オタ留は現役を引退しても勘は今も健在--後方より二体と前方より一体の気配に気付く!
(いや……一体はもしかしたら--)
「オタ留? 後ろおおお?」
 傭兵山一サンショウ五が成人体型七十まで一気に走ってきた--十秒台で走りきるように!
 オタ留は後方からの攻撃を避けると同時に持っていた鎌で突き刺した!
「こいつは蠍型ッケロ! もう一体は猪型かッケロ!」
 蠍型の頭部に鎌が突き刺さりそのまま息絶える。さすがのオタ留も猪型相手には体格差があると感じる。
 だがそこへサンショウ五が猪型の右襟首を強く噛む--口内に銀河連合の血液が広がり、猪型は生命活動を停止する!
 ブビャアアア--とサンショウ五は猪型から離れると口に含んでいた血を取り除いてゆく。
「僕は後どれくらい生きられるかな?」
 銀河連合から出されるモノは生命にとって益にならない。寧ろ病を併発する恐れのあるモノばかりだ。その知識を知ってかサンショウ五は呟くがオタ留は--
「寿命の話はいいよッケロ! それよりもどうしてここがわかったッケロ!」
「ああそれね? 実は思い出したんだよ? 僕が山に登る目的を?」
 山に登った理由--オタ留は一応頼りないとはいえ先輩であるサンショウ五の話を聞く。
 それによるとエウク市に住む生命がエウク山に登ったきり行方がわからなくなる事件が発生。事件の発端は五の年より前に遡る。当時エウク市に滞在中の登山家でタゴラス蜥蜴族のトカーゲン・ヒラリーがエウク山に挑戦したきり失踪する事件が発生する。
 すぐさまエウク市は五の年くらいかけて第三十二次も調査隊を派遣するも全て失踪。その間にも市の警告を無視して登山する者が相次ぎ合計四十二万名もの生命が行方知れずとなる。痺れを切らした市は大枚懸けて真鍋傭兵団に要請。派遣されたのが九の年より前におけるラテス島に棲みつく大樹型銀河連合を倒した英雄の一名山一サンショウ五であった。
「成程ッケロ。それならサンショウ五さんが派遣するのも無理はないなッケロ」
「気になることがあるけど? 最近オタ留の所に客者は来たかな?」
「いやッケロ。それがどう……おかしいッケロ!」
 雷鳴響く中でオタ留はある疑問に気付く!
(ここに来たのは七の年より前ッケロ。オタ奈の為に俺達夫婦は蛭戸の薦めでここに移り住んだッケロ。それ以来俺達は実の子供のみならず銀河連合であるオタ奈も同時に育てるという苦労が始まったッケロ。それはいいッケロ。
 気になるのはサンショウ五さんからの話ッケロ! 五の年より前から事件が発生したのならオタ奈の急激な成長と僅かに匂う鉄の……そんなはずないッケロ!
 そんな--)
 考える間もなく四方から合計四体もの銀河連合が襲いかかる! サンショウ五は思考中のオタ留を尻尾で家の方角に突き飛ばした!
「サンショウ五さんッケロ!」
 サンショウ五は四体同時に相手しながら--
「行け? ここは……わわ? 僕が死ぬ気で……うわわっと?」
 さすがに四体を相手に中年真っ盛りのサンショウ五も苦戦を強いられる。
 そんな様子を見てオタ留は--
「わかったッケロ! 俺も引退した身とはいえ傭兵だッケロ!
 晩御飯を持ち帰るのは諦めるよッケロ! その代わり俺は家族を守る為に帰るッケロ!」
 徐々に掠り傷が増えるサンショウ五を背にオタ留は飛び跳ねてゆく--自らの考える恐るべき事実にも背を向けながら!

 午後二時四十二分九秒。
 場所は標高成人体型七百六十五付近。川上家の住む二棟の家。
 雷鳴が轟き、今にも大雨が降りそうな天気。
 東側の玄関前にオタ留は立ちつくす。辺り一帯に自分の子供と思われる死体の欠片を避けるように。
(他の生命にはわからなくとも俺とオタ実はわかるッケロ。全て俺達が愛情込めてつくった三十三名の子供だよッケロ。本当じゃないはずだッケロ!
 中にはオタ実が--)
 玄関をゆっくり開ける。すると中からオタ奈に良く似た物がオタ実の死体に性的行為をしながらゆっくりと食べてゆくのが視界に入る。それでもオタ留は現実を受け入れようとせず戸をゆっくりと閉める。
(ががあががっけけけろろろ。ああああれれれはははゆめなんだなななだだけけろろ。
 ……夢なんだあああああッケロおおおお!)
 もう一度中を開けるとそこにはオタ実の死体を見て震えていると思われるオタ奈の姿であった。
「ははっけけろ、生きて、るのッケロ?」
 これは夢……なのか--オタ留はオタ実の死体を見て悲しみが増幅されながらも「オタ奈が無事なら自分は生きられるッケロ」と呟く。
「さあ父さんの所においでッケロ」
 オタ奈はゆっくりと彼に近付いてゆく。感動の親子再会……何てモノは銀河連合にあろうか!
 オタ奈はオタ留の懐に入るとすかさず大きな口を開けてオタ留を食べようとする--
「があああ--」
 髪の毛一本を捨てるギリギリの瞬間でオタ留はオタ奈を玄関前まで投げ飛ばした--ここに来て彼は傭兵としての危機回避能力を最大限に生かす!
「オタ奈あああッケロ!」
 オタ奈と呼ばれる銀河連合に振り返りながら叫び声を上げるオタ留。銀河連合蛙型は笑ったのか?
「何が面白いッケロ? 死んだんだぞッケロ! 家族が死んだのに笑う生命がどこにいるッケロ!」
 蛙型は飛び跳ねながらオタ留の周囲を移動--腰砕けに彼を笑う。
「死んだ生命は戻らないッケロ! そう散々教えたというのにどうしてそんなことが出来るッケロおおおお!」
 蛙型は後ろから唾を吐く。我慢の限界に達したオタ留は持参した鎌で振り返り様に攻撃!
 蛙型は後方に避けるが、反応が早いのかオタ留は蛙族の特性を生かして懐まで一気に跳躍!
 蛙型は鎌を避けながら後方から大きな口を開けてオタ留を食べようとする!
 だがオタ留は--
「俺に傭兵時代の勘を思い出させたのがいけないッケロ!」
 口内にある舌目掛けて鎌を振り落とす--蛙型は舌を切られた痛みでのたうち回る!
「これでわかっただろッケロ。おたなが家族に与えた痛みというモノをッケロ」
 十の分経過してようやく痛みが和らいだ蛙型は命を乞う。
「助けてほしいのかッケロ。そうだよなッケロ。俺だってお前を死なせたくはないからなッケロ」
 どんな姿であっても自分の子が可愛いオタ留は蛙型の命乞いを受け入れて鎌を足離す--とこのまま仲直りすればどれほど夢物語でいられようか。
 突然蛙型は離した鎌を拾うとそのままオタ留の前右足を切断する!
「があああああっけろおおおお! おたなああああっけろろろおおおお!」
 振り上げた鎌はそのままオタ留の頭上目掛けて落ちゆく……。

 午後四時零分零秒。
 雷鳴は鳴り終わり、待っていたのは赦しを容れない神々による怒りの雨だった。
 サンショウ五はオタ留の様子を見に東側の玄関の中を見る。そこには前右足が切断されて血が溢れ出ながらも前左足で鎌の付け根を握るオタ留の哀れな姿が見えた。彼の足下には最愛の子と思われた銀河連合蛙型の死体が胸に大きな傷跡を残して仰向けに倒れていた。
「オタ留? 包帯で巻こうか?」
 首を横に振る--彼はもう生きる気力のない生命と成ってしまった。妻であるオタ実が死に、血を分けた三十三名の子供も命を落とした。更には自らの足で精魂懸けて育てた蛙型を死なせる。こんな状態で生命はこの先どのように行きようか? そこまで生命は強くない。肉体的に充実しようと精神は今も硝子細工のように脆い。
「俺は……もう……生きる目的は……」
 お節介焼きなのかサンショウ五は包帯を見つけると素早く彼の前右足の切断面一帯に巻いてゆく。血を止めるには至らないものの少しは出血は抑えられる。後は--
「それまでにオタ留が持ち堪えるか?」
 この先彼が生きたのか死んだのかはサンショウ五と周辺の者にしかわからなくなってしまった。ただこれだけははっきりするだろう。
 遠すぎる過去の世界に於いても蛙の子はどこまで行っても蛙でしかないという事実を……。




 ICイマジナリーセンチュリー九十六年二月百九日午後四時四分四秒。

 第三十三話 蛙の子は蛙 完

 第三十四話 袋の鼠 に続く……

一兆年の夜 第三十三話 蛙の子は蛙(三前)

 二月百八日午前三時二分一秒。
 神々の怒りに触れたのか、現在の天気は雷が鳴り続ける。
 一名の傭兵が標高成人体型七百六十五付近にある伏流水と共に二棟繋がりの家を発見する。
「やっと休める? 僕の目は隈だらけ?」
 ラエルティオ山椒魚族の傭兵は東側の家にある玄関の引き戸に前右足平で三回叩いた。
 反応がない--と呟いた後、同様の方法を繰り返す。すると中から跳ねる音が聞こえる。そして引きとがゆっくりと開いた。中から齢三十の熟女が顔を出す。
「どちら様ですかッケロ?」
「あの? 僕はラエルティオ山椒魚族の山一サンショウ五と申します?」

 百九日午前七時二分十七秒。
 川上オタ留は困り果てていた。
(いくら真鍋傭兵団であってもこのままこいつを滞在しぱなっしにすると家計が危なくなるッケロ!)
 困りの種は山一サンショウ五であった。
「いやあ美味しいね? ユークリッド地方も案外良いかもしれない? だってこんな美しいの奥さんや可愛いお子さんばかり居たらいつまでもいたいね?」
「もう帰れッケロ! サンショウ五さんがいつまでも滞在してたらこれから先ッケロ、食べ物に困って死んでしまうッケロ!」
「あなたッケロ! いくら『元』とはいえ先輩傭兵の山一さんに向かって礼を失しますわッケロ!」
「ウグッケロ!」
「どうやら奥さんに軍配が上がったみたい? おかわりー?
 ちなみに『軍配』って言葉はいつから流行ったの?」
「『ぐんばい』はねオタ。しんこっかじんむこうけんしゃのいちめいだったあらうんさんがつくったのだってオタ」
「まあ凄いッケロ! オタ一はもうそんな難しいことをスラスラ言えるようになったのねッケロ!」
「アラウンかあ? ところで『アラウン』ってどんな者?」
「やたがらすぞくのおすだよオタ」
「八咫烏? 確かもうこの世には存在しなくなったね?」
「仕方ないだろッケロ。八咫烏族は鬼族以上に繁殖に恵まれない種族だと聞くッケロ。
 ……っていうか今疑問に思うことがあるッケロ!」
 オタ留はようやく山一サンショウ五が何しにこの山に登ってきたのかを尋ね始めた。
「八咫烏族はまだいるんじゃないかってこと?」
「それは後にしていいッケロ! サンショウ五さんは何しにこの山へ登ってきたのですかッケロ?」
「あれ? そういえばどうしてだっけ?」
 『どうしてだっけ』はこっちの台詞だッケロ--と夫婦揃って思考した。
「まあいいや? 思い出すまでしばらくの間泊まって良い?」
「それだけはやめてくれッケロ! サンショウ五さんのせいで俺達家族が生活出来なくなったらどうするッケロ」
「あなたッケロ。その時は私がしっかり切り詰めてみせるわッケロ! 何たって私はあなた以上に働いている女房ですもんッケロ」
「雄は辛いよッケロ」
「おとんはじしんもとうオタ」
 ありがとうオタ助ッケロ--と第二十一子のオタ助に慰められるオタ留であった。
「そういえば? 何だろうね?」
「どうしたんだサンショウ五さんッケロ?」
「僕から疑問があるけど? ここって珍しく二棟構造だよね? どうして?」
 夫婦の表情は少し曇り始める。
(あのことを言うべきかッケロ? でも『オタ奈』に関してはまだ者前で見せる時期じゃないッケロ。あいつの容姿は俺達が倒さねばならない銀河連合そのものだからなッケロ。だから--)
「じつはあそこにいるのはぼくたちのあにき『おたな』がいるオタ」
「コラオタ江ちゃんッケロ!」
 第十七子であるオタ江は純粋無垢な幼児らしく隠し事せずはっきりと『オタ奈』という存在を明かした。
「オタ奈? えっとこの中にオタ奈は居ないってこと?」
「そッケロ、それにつきましてはそうであります山一さんッケロ」
「じゃあどんな者か僕に見せてくれる?」
「それはまだ出来かねますッケロ。何故ならあの子は私達夫婦の本当の子ではありませんッケロ」
「はい? つまり養子をとってるわけ?」
 そうですッケロ--と子供達には「静かにするように」と身振り足振りをしながらサンショウ五と会話するオタ実。
「じゃあどうして僕に見せられないわけ?」
「実はオタ奈は生まれた時から重度の病にかかってましてこれは名医スネッガーでも除去出来ないと判断された次第でございますッケロ」
 明らかに真実ではない。川上家は一度としてスネッガーに会った事はなかった。スネッガーはもうこの世にいないという事実も含めて。オタ留の語るそのような明らかにわかる真実味のない事を信じる者がいた。
「スネッガーは名医だったね? かつて僕らと共に命をかけた医者がいたね? その方もかなり腕が立ったよ? 病じゃあ仕方ないよ?」
 全生命体は度し難いほど信じすぎる者達だ。その中でサンショウ五は性格上疑いの浅い者であった。

 午後零時八分三十二秒。
 ようやく山を下りてゆく山一サンショウ五を見て夫婦は安堵の溜息をついていた。
「これからは節約する時期が来たみたいねッケロ」
「ああッケロ。サンショウ五さんは昼飯まで食うから困った方だよッケロ」
 結局何しに来たのかがわからなくなった。只これだけははっきりする。
 エウク本部は派遣する者を間違えた--という事実をな。
「さあ只飯くらいが帰ったら俺は日課である山菜と多種多彩のきのこを採りに行くかッケロ!」
 別れの言葉を交わした夫婦はそれぞれの日課を改めて始める。
「今日もオタ留さんが自己主張の強いきのこを採らないことを願いますよッケロ」
 自己主張の強い茸とは食べると体調を激変させ、下手をすれば想念の海に旅立たせる茸の事である。そんなどこにでもありそうな事を考えながらオタ実は家事に追われていた矢先--
「ねえおかあさんオタ」
「なあにオタ香ッケロ?」
「おたかずにいちゃんとおたえちゃんはどこにいったのオタ?」
「水遊びしてるんじゃないのッケロ?」
「みずあそびはさっきやったばかりだよオタ。
 みんなといっしょにかえってきたのに……あらオタ?
 おたすけちゃんもいないオタ。どうしてオタ?」
「えっケロ?」
 オタ実は体内で凍えるようなモノが湧き出る--見えない恐怖であった。
 やがてそれは川上家を絶えさせる恐ろしい出来事になろうとはまだ誰も予想出来なかった……

一兆年の夜 第三十三話 蛙の子は蛙(二)

 午後一時二分四秒。
 場所はエウク山標高成人体型六百六十六付近。キュプロ市寄りの道。
 ゆったりと歩くのは齢三十六にして三の月と十二日目になるラエルティオ山椒魚族の中年は生命異動させられた不満を持ちながらも傭兵団の依頼であるエウク山連続失踪事件の調査を行う為に山を登る。
「どうして僕がキュプロ支部に異動されなきゃならない? こう見えてもラテス島の大樹型を倒した希望の一名なのに?」
 山椒魚族独特の訛りのせいで不満そうに感じない喋りでも彼は元々配属していた応神支部が快い環境であったのだろう。その為なのか生命異動場所であるキュプロ支部は知らない顔、環境、掟に挟み撃ちされ、精神的にも参っている様子なのだろう。
「大体見つかるね? 失踪した者が見つかるという保証あるね? 無いに決まってる?
 僕は一刻も早くこんな仕事を済ませてアリゲルダやオタマンの居る応神支部に戻りたいよ? こんな辺鄙な場所は耐えられ……おや? あれは何?」
 傭兵は早速何かを見つけた--それは木と木の間を挟むように置いてある廃材の異質投棄だ。
 傭兵は周りに気を配りながら素早く廃材との距離を自分の胴体一個分開けて覗き込む。
「まさか銀河連合なの? まさっかな?」
 傭兵が廃材に前右足を伸そうとする次の瞬間--背後斜め上より虎型が傭兵の首目掛けて口を大きく開ける!
「僕はこう見えて--」
 傭兵は直前で倒立--後ろ両足蹴りを上前歯に受けた虎型は前方に飛ばされる!
 元の体勢に戻った傭兵は廃材から自分の胴体二個分距離を置いて虎型の出方を窺う。一方の虎型は先程受けた足蹴りで顎が外れ、その痛みであちこちを転がる。それから二の分かけて顎を治すと傭兵が見える距離まで近付く。
「僕と同じ考えね? じゃあ僕から仕掛けよう?」
 訛りのせいでそう感じないが言葉通り傭兵自ら仕掛ける--中指の長さまで廃材に近付くと勢いよく飛び上がり、虎型目掛けて突っ込む!
 虎型は先程傭兵が仕掛けた事を真似るように直前まで惹き付けると素早く左横回転後ろ左足蹴りを仕掛ける! だが、傭兵はそれを前両足と顔をすり寄せる事で威力を半減させる!
 傭兵と虎型は転がりながら相手の急所に噛みつこうと互いの隙を突いて仕掛けるものの互いの高い反応により避け続ける。そうこうするうちに転がる先に成人体型七十もある巨木に勢いよくぶつかる!
 傭兵は背中を強く打ち、先程倒した虎型を離すほどに痛がる--ぶつかる寸前に虎型の頸動脈を噛みついて絶命させた!
「だから異動は好きじゃない? 口元をさっさと洗いたい?
 でも痛い?」
 十四の分経過してようやく痛みが治まり、すぐさま虎型の埋葬を開始しようとしたところ彼は信じ難い光景を目の当たりにする!
「こ? こりゃああなんじゃあああああ?」
 目にしたのはおよそ数千にも上る生命体の浄化しきれない白骨死体の数々であった!

 午後七時一分二秒。
 場所は川上オタ留の家。
 夕飯はオタ奈も含めて一家団欒で食事をしていた。
「ママーオタ! きのこほしいオタ」
「はあいッケロ、オタ一ちゃんッケロ」
 齢七にして二日目になるオタ留の第一子オタ一は幼生期を過ぎて四の年にして五の月と二十二日目になる。
「おかあちゃんオタ! おにいちゃんばっかりいくないオタ。あたちにもオタ!」
「オタ子ちゃんは我が儘だねッケロ」
 オタ一と同日生まれのオタ子は幼生期を過ぎて四の年と五の月と三十日目になる。
「ママアオタ。ぼくはオタ?」
「ぼくもぼくもオタ!」
「わたしもオタ!」
「はいはい頼むから順番に待ってなさいッケロ!」
 川上オタ留夫妻には三十三名の実子がおる。その中には死んだ子は含まれない--死んだ子供の数は十名。
 生きてる子供の齢は最初に紹介した二名を除けば齢六にして十一の月と二十九日目から幼生末期の齢ニニして三の月と四日目まで。彼等は一名たりとも健康状態が良好のまま成長してゆく。
 蛙族は二の年にしておよそ半までオタマジャクシとして過ごす幼生期がある。この時期では言葉を話す事も満足に行かない代わりに水中での生活に適する。やがて言葉を話し始め、尾が目立たなくなる幼体期に入ると徐々に蛙族の姿に成長する。
 そして、成年になる時期--十五の年を過ぎると大人の体つきと共に訛りも蛙族の基本形に成長。
 蛙族は他の種族と異なり、成長段階が三段階に分かれる。故にそれぞれの形態は大きく異なる。
「おたなにいちゃんはたべないのオタ?」
「また食欲が振るわないッケロ? 昼もそうだけどどうしたんだッケロ?」
 オタ留はオタ奈に近付いてゆく。すると--
(ッケロ? 一瞬だがテツのような匂いがするッケロ?)
「どうしたのぱぱオタ?」
「何でもないッケロ! 俺も少々罪深いことを考えていたなッケロ。
 気を取り直して早く晩飯を食べきるぞッケロ!」
「ゆっくり食べなさいッケロ。良く噛まないとオタ奈のように大きな身体にならないわッケロ」
「おたみにいもはやくたべるけどオタ?」
「あらッケロ? ま、まあ気のせいッケロ!」
 オタ留オタ実夫妻は決して子供に良くない視線も思考もしない。夫婦共に『命に上下はない』という思想の元に子供達を育てていった。川上家の幸せはいつまでも続く。誰もそれに反論しなかった。
 彼等一家に近付く山椒魚族の傭兵を除けば……。

一兆年の夜 第三十三話 蛙の子は蛙

 ICイマジナリーセンチュリー九十六年二月百七日午前八時二分九秒。

 場所はエウク山標高成人体型七百六十五付近。伏流水が湧き出る絶好の場所。
 付近にあるのは二軒並ぶように木製の小屋があった。東側にはとある家族が住み、
西側には得体の知れない何かが住む。
 東側から齢三十にして九の月と七日目になるエウク蛙族の熟女は木製の器を頭に
乗せながら西側の小屋に向かう。その様子を齢三十一にして五の月と十日目になる
アデス蛙族の中年が見つめる。
(あれから八の年かッケロ。俺達夫婦はオタ奈を育てる為に傭兵をやめてエウク山の
伏流水が良く湧き出るここへ移ったんだよなッケロ。八の年は短いと思ったのにこれが
中々長いものに感じたよッケロ。オタ奈の義理の弟ッケロ、妹達の面倒とかオタ実と事
ある毎に喧嘩とかそんな生活ばっかりで短く歳月が過ぎられんかったなッケロ。
 おっといけないッケロ。そんなことよりも重要なのはオタ奈の方だッケロ。
 どうして俺達家族がここへ移り住んだかということだなッケロ。それにはオタ奈が関係
してくるんだよッケロ。オタ奈は銀河連合だッケロ。しかも雌雄がはっきりしないッケロ。
銀河連合という者は両性具有の存在なのかッケロ? それは専門家に任せるとして
もッケロ。
 それにしたってオタ奈が銀河連合というだけでどうしてこんな山奥に住むのかッケロ?
そこが重要ッケロ。銀河連合は我々全生命体が倒さねばならない存在だからだッケロ!
銀河連合は水の惑星に飛来しておよそ三百八十の歳月が過ぎたッケロ。奴等のせいで
死んだ生命は兆を下らないッケロ!
 ある者は流れ星を見ている時にッケロ。ある者は家族と楽しい時を過ごす内にッケロ。
ある者は愛する者を逃がす為にッケロ。ある者は食われる為に命をかけたものよりも先
にッケロ。ある者は部下達の成長を促す為にッケロ。ある者は戦って死にッケロ。ある者
は戦う者と意見を異にしながらも守る為に後押しするようにッケロ。ある者は先祖代々
の故郷を無茶苦茶にされた嘆きの果てにッケロ。ある者は超越しすぎた故にッケロ。
ある者は……もうしつこいなッケロ。とにかく銀河連合は生かしてはならない存在なん
だよッケロ!
 そんな銀河連合を俺達家族はどうして育ててるのかってッケロ? それは俺の妻
オタ実たっての希望なんだッケロ! あいつの気持ちを汲んで俺川上オタ留はオタ奈を
育てようと決心したッケロ! けれども俺達が住んでいたアデス市ではオタ奈を育てる
には余りに苦しすぎるッケロ。現在も傭兵を務めるメデス蛙族の王蛭戸の薦めで山奥の
伏流水が湧き出る場所に暮らすようになったんだよッケロ! 勿論俺達蛙族は水のない
生活環境では干涸らびるッケロ。こうゆう場所はうってつけだし、もしオタ実を埋めた時
の大地の枯れも……いやそんなはずはないッケロ!
 オタ実は絶対銀河連合じゃないんだよッケロ! 元から銀河連合になる訳じゃない事
を俺達夫婦が示さないとッケロ!)

 オタ実が運んだ皿にはオタ奈の好物と思われるエウク山菜が載る。
「さあお食べッケロ、オタ奈ちゃんッケロ」
 オタ実はエウク山菜を部屋の奥でうずくまるオタ奈と思われる蛙族用の衣服を身に
付ける事で剥き出した部分を覆い隠す銀河連合に寄せる。だがオタ実は身体を震わし
ながら食べる事を実行しない。
「そんなに安心出来ない心境にならないのッケロ! 私はあなたのお母さんですのよ
ッケロ。母が子供を恐れさせるようなことはしないってオタ奈ちゃんもわかるでしょっけろ」
 それでもオタ奈と呼ばれる銀河連合は身体の震えを止めない。
「どうやら山菜を食べるよりも先に遊びたいんでしょッケロ! わかりましたよオタ奈
ちゃんッケロ! お母さんはたっぷり遊ばせますわよッケロ!」
 オタ実の言う遊びとは水遊びの事である。彼女はオタ奈の気分を良くしようといつも
蛙族の子供が比較的好きな水遊びをする事でオタ奈に安心感を与えてきた。
 そうして安心しきった後にようやく食事をする。オタ奈に言う事を聞かせるのは一苦労。
 けれどもそれ以上に彼女は養い子であるオタ奈を愛する。オタ奈はしびれを起こし
かねないくらいオタ実の母性本能を擽らせてきた。今日という日の朝も彼女の母性を
刺激してゆく。
「あらッケロ? まだ遊び足らないッケロ? しょうがない子ねえッケロ!」
 山菜を少し食べてはまた水遊びを要求……彼女はすっかりオタ奈に夢中であった。
「ふうッケロ。ようやく食べ終えたわねッケロ。それじゃあ御馳走様の構えをしましょう
ッケロ」
 ごちそうさまッケロ--オタ奈は言葉を一切出さない。それでも仕草くらいはしっかり
出来た。そうして今日の朝食は無事終わる。オタ実は空の食器を頭に乗せるとオタ奈
に背を向けながら小拍子で飛び跳ねていった。
 その様子を覗いて今日も安心してゆくオタ留。彼もまたオタ奈に父性を刺激される
者の一名であった。
(これなら近い将来はみんなに紹介出来るなッケロ。オタ奈は我々と同じ生命の一員
だってことをッケロ!)

一兆年の夜 第三十三話 蛙の子は蛙(零)

 ICイマジナリーセンチュリー九十四年二月百六日午後五時七分三秒。

 場所は西物部大陸ユークリッド地方アデス川。ギャラッ土橋付近。
 そこには蛙型銀河連合の死体が五体並んでいた。訳はこの一帯で真鍋傭兵団
アデス支部とギャラッ土橋を占拠していた銀河連合の一団との戦いが繰り広げられ、
銀河連合側が全滅。傭兵団は現在死体を並べて塩蒔きを始める。銀河連合は清浄
された塩を万遍なく染み込ませないと土壌・水質を枯れさせかねない。塩蒔きは
必ずしも効果的ではない。けれどもそれ以外の方法が確立されない現在でも全生命
体は銀河連合や銀河連合が住み着いた土地に塩蒔きを続ける。
 今日アデス支部から派遣されたのは三名。全員蛙族だ。中には卵を多数抱えた
まま戦闘に参加した者もいた--口の中に入れながら。
「銀河連合をこのまま川に葬ろうかなッケロ? どう思うオタ実ッケロ?」
 齢二十三にして五の月と九日目になるアデス蛙族の青年川上オタ留は齢二十二
にして九の月と六日目になるエウク蛙族の女性にして妻の川上オタ実に聞く。
「その方が彼等も安らかに川で過ごせるわッケロ。出来れば土に被せないといけ
ないわッケロ」
「んッケロ? 蛭戸は何か言いたそうだなッケロ?」
 齢二十二にして三の月と一日目になるメデス蛙族の青年にして二名のように家庭
を持つ王蛭戸は前右足で右から二番目の死体の後ろ足の方角に指を示す。そこ
には二十から三十ほどの卵があった。
「何で気付かなかったッケロ!
 もし孵ってしまったらこの先我々に襲いかねないッケロ!」
 オタ留はすぐに卵を潰そうと川に潜るが--
「待ってッケロ、あなたッケロ!」
 オタ実はオタ留を制止するも既に一個だけ残して全て踏みつぶされた後だった。
「それは大変罪深い行為なのよッケロ! 確かに銀河連合は私達全生命体が
倒さなければいけない存在なのはわかるわッケロ! 彼等のせいで私達の仲間や
先祖が次々と死んでいったのもわかるッケロ! それでも今度生まれてくる子供達を
死なせる意味があるのッケロ!」
「オタ実は何もわかってないッケロ! そうやって助けても銀河連合は恩義すらも
仇で返すような存在だぞッケロ!
 武内蛇族にして世界最高峰の医者であったスネッチを知ってるかッケロ!」
「ええッケロ、知ってるわッケロ」
「あの方の死因が何なのかオタ実はわかるのかッケロ? 銀河連合を助けたが為に
その銀河連合によって食われたのだぞッケロ!」
 銀河連合は恩を仇で返す--スネッチの死を通じて全生命体に広がった。
 オタ実は痛いほどわかっていた。けれども--
「それでも絶えられないわッケロ! その子だけはお願いだから助けてッケロ!」
「助ける切りはこれっぽちも--」
「僕からもお願いしたいッケロ!」
 蛭戸は卵を前両足平に乗せながら咽を通してオタ留に訴えた!
「君の言う事は正しいッケロ! 傭兵である僕達は依頼された事を何としても遂行
するッケロ! それが熟練された傭兵としての資格さッケロ!
 でも僕はそんな傭兵でも子供を抱えるとどうしても情に左右されやすい時期だって
あるんだよッケロ。いくら銀河連合でも産まれる以前の者まで死なせる意味はある
のかッケロ? 僕はそう思わないッケロ」
「蛭戸の言う通りよッケロ! オタ留もどうかその子だけは助けてッケロ!」
 オタ実はオタ留の眼前で土下座をした--蛙族にとっては容易な構えだがオタ実
が行うと話は変わる。
 さすがのオタ留も蛭戸の訴えとオタ実の必死な願いに心が折れる。
「『蛙型全て倒せ』と言う依頼は受けたが『卵まで倒せ』という以来は聞かないッケロ。
いいだろうッケロ! 好きにしろッケロ! ただしそいつが周りを傷つけるような事が
あれば俺自身の足で責任を取るッケロ! いいなッケロ?」
 顔を上げたオタ実の両眼から涙が互いを逃げるように流れゆく!
 ありがとうッケロ、あなたッケロ--という感謝の言葉がその後に続いて。
(助けた以上はこの子は絶対に俺達を食わない存在にしてやるッケロ!
 銀河連合にだって物分かりのいいのが少しでも居たらこんな悲しい戦いを済まない
可能性だって現われるんだッケロ!)
 川上オタ留オタ実夫婦は産まれてくる蛙型銀河連合に名付けた名前はオタ奈
 オタ奈は果たして全生命と同じような存在なのか?
 あれから八の年が過ぎる……。

格付けの旅 プロローグ 魔術師デュアン

 格付士……それは世界中のあらゆる物事を正確に定義づける者達。
 彼等は公式に格付依頼された物事しか定義づけない者もいれば、非公式に定義づける者もいて、更には公私問わず趣味の範囲内なら何でも定義づける者もいる。そうゆう連中に共通する者は居たってシンプルにレッテル貼り。物事を勝手に定義づけるという事故に皆から嫌われ、憎まれ、蔑まれる。
 そんな格付を存在意義そのものにする者が何の為に来たのかわからない宇宙に飛び込んだ。
(宇宙は絶対零度。この定義が崩されるとしたら恐らくは絶対零度の色はもわからぬ愚か者が現われる時……俺の事だな)
 彼は自らを愚か者と蔑む……いや褒め称えながらも生身で宇宙の内部に通じる入口を探る。
(実際は生身じゃない。俺の周りで蠢いている経典を御存知か? こいつには超高性能な顕微鏡で覗かないとわからない無数の魔術二進法が記されてある。そこに記される中には宇宙空間に適応する魔術公式が記されてある。よって--)
 体温も呼吸も宇宙放射線対策も万全--と思考しながら目当ての数ミクロン以下の入口を発見するや否や経典を高速回転させる!
「言葉も話せるという事も追加しとくぜ!」
 わずか一秒足らずで詠唱を終えると入口に巨大な火球を叩きつけた--穴は衝撃で彼が入る大きさまで開く!
「あと一秒で閉じる前に--」
 その中に入る--同時に穴は塞がれた。

 ここはドーナツ型宇宙……中心部はバニシングワールドで収められた歪な宇宙。ここでは円を描くように進むしか目的の銀河及び太陽系に到達出来ない。それ以外の方法で進めば瞬く間に一周するという非常に歪な構造。狭い故に一度ブラックホールが発生すれば逃れる術は極めて低い。
(俺なら簡単に脱出出来るがな。何たって俺は……ん?
 誰かの悲鳴か? しかもかなり遠く? 何光年先だ? 百光年? ちょっと計算してみるか!)
 経典を適当な位置で止めるとそこに描かれる文字をそれぞれの人差し指で触れながら指定位置を割り出す!
(大体百二十から百二十一光年と五の光月か! しかも方位は宇宙南南西ときたか! ここがちょうど宇宙南西ならそこへ行くのに反対側に回るように進むしかないって事か! どうして真っ直ぐ進めないかって? それはな--)
 ブラックホール通行止め--ドーナツ型宇宙では日常茶飯事の現象。仮にブラックホールを突破出来たと仮定したならその影響は中心部のバニシングワールドに与えかねない。そうなれば目的地に到達する前に宇宙は崩壊する。
(さすがの俺もバニシングワールドを暴走させる訳にはいかない。他の宇宙にまで飛び火したら創造主達が黙っちゃいないし!)
 彼自身はブラックホール通行止めを無視出来る。しかし、バニシングワールドを止めるだけの力を使う余裕はない。
(けれどもブラックホールを通過せずに目的の、星? でいいか?
 到着するまでにもっとかかるぞ! 二百光年? いいや重力の強さにもよるが四桁の光年では収まらない。こりゃあジャン・ロドリックスも寿命を迎えちまうぜ! こんなに光が届くのが遅いようじゃあな!
 面倒なのでブラックホールを通過しよう--)
 と思わせて反対方向に進んでゆく--アインシュタインを困らせる速度で!
(光年? 距離? あいにくそんな尺度はこのデュアンには通用しない! 門番というレッテルを貼られた者は光年だって丸一週間にする術を知ってる!)
 彼の名前はデュアン・マイッダー。歴代最強と呼ばれるに相応しい魔力を持ちながらも神を愚弄する存在故に神々から認定されなかった魔術師。今回のお話はそんな彼が自分と同じく神々から嫌われた者との出会いを描く……。

 シーシェP銀河グリーンP太陽系……
 第十惑星<リューイチ>……
 この星は遙か昔、第三惑星<わとーそ>の住人が数千年かけてテラフォーミングを行う事でわとーそ人でも住める環境に成っておよそ百年が経つ。
 だが、環境が整えても惑星軌道そのものに身体を慣らすことなく移住民の内およそ九割九分が軌道後遺症で命を落とす。現在リューイチ人は数千人。男と女の比率は十七対三。いずれ種が絶えるのは時間の問題であった。
 そのような未来を憂いながらも最後の一日も欠かさずグリーンP太陽系にある他の惑星を観察する青年がいた。彼は二十四歳にして既に肩まで伸びる長い髪のあちこちに白い物を生やしていた。これは度重なるストレスによる副産物ではない。
 惑星<リューイチ>では月に五回は石灰の雨を降らし、汗を流した物はそれを浴びて酷い火傷や場合によっては死に至る被害を受けてきた。彼の場合は石灰による火傷は比較的少ない方。だが、髪に付着した石灰が毛根に染みつき、今では石灰製の髪を生やすほどの症状になった。
 彼が暮らす場所は惑星<リューイチ>の南半球に位置する絶海の孤島。その中心部にある集落<Hカー>。
 時刻は夜十時。
 今日の天気は晴れ時々水素雲、所によっては酸性雨が降る模様。現在は晴れわたる。
 <Hカー>で二番目に小さな木製小屋の北側には位置された小窓からスマートフォン式望遠鏡で第五惑星<オーT>にある四つの衛星を観測していた。
「へへ、エウロッペちゃんは相変らず可愛いね。あの氷に抱きしめられたい。それに比べてハイオンちゃんはいっつもツンツン気味だ! また怒り火を出しちゃって」
 訂正。どうやら彼は天体観測家ではなく天体観測妄想彼女愛好家のようだった。度重なる<リューイチ>の環境に精神が病んでしまい、星々を妄想彼女にする事で自慰行為をするしか道は無いと選択してしまった。
「ん? フォン(スマートフォン式望遠鏡)の視界を遮る影が見え……え?」
 ちょうど観測位置に被るように魔術師デュアンはおよそ百二十一光年と五の月光月先にあるシーシェP銀河グリーンP太陽系に到着した。かかった時間は二週間。体内時計はおよそ五日と十五時間二十四分経過。
「な、な、生身の人間が望遠鏡の映像を通して光の残像を--」
「オイ、そこの変態!」
 デュアンは望遠鏡で覗く者に気付くなり長旅で出す速度の数分の一くらいの速さで惑星内に侵入し、小屋の手前まで接近。
「ひええええ! お助けを--」
「別に俺は殺人に興味はない。それよりも星を眺めながら現実逃避するお前に聞きたい事がある!」
 どこの馬の骨とも知らない現実離れした男が急接近すればまともな思考の人間なら誰でも逃げる--青年は恐怖のあまり小屋を出た!
「ぎゃああああああ!」
「瞬時に先回りしてもらう! この太陽系に俺を楽しませるような情報はないか?」
 目的が適当な男は青年に目的を答えだそうとする。
「ぎゃあああ! 全財産は出すからどうか命だけは--」
「だから殺人に興味ないと言っただろう。それよりも何か楽しい情報はないか?」
 デュアン・マイッダー唯一はっきりする目的は格付け。左手で裾からB5サイズのノートを取り出して右手でどこからともなく万年筆を出して青年が怯えている中でも惑星<リューイチ>に関する情報を格付け中。青年は恐怖のあまり白目を向いて仰向けに倒れてしまった。
(使えねえな。んと、こいつの名前は知らんが『星々に性欲を出さなきゃ生きていけない』って事だけはわかった。
 おや?)
 デュアンは小屋の周りに人が集まってくるのに気付く。彼等は青年の声に反応して小屋にいるアラビア系の服を着た男に興味津々。
「お前誰だ? 俺達の集落に何のようだ?」
「私達を食い殺すつもり?」
「政府関係者にチクるぞ!」
(どうやら拳銃の引き金を上げる馬鹿もいるな。俺を殺せると本気で思っているのか?)
「やあ兄ちゃん。あんたはアッラーを信じる者か? それともイエスの父を信じる者なのか?」
「アッラー? イエス? ああ、そうゆう事か。確か--」
 デュアンは懐からA4サイズのノートを取り出した。題名は『宗教の神様に関する事項』。
(ここもまた物理学宇宙と歴史を同じくしているようだな。それであいつらが言うアッラーは確かイスラム教だったな。それとイエスはキリスト教の創設者の名前だな。えっと確か一神教で--)
「オイ、何黙り込んで本読んでるんだ、ああ?」
「怒るな。俺の趣味である格付け手帳を見直しているとこ--」
 ビルダー体型のスキンヘッド男は我慢出来ずに発砲した--銃弾は真っ直ぐデュアンの眉間に命中したかに見える
「あれ? おかしくね?」
「私も思った」
「ど、どうなってやがる! あいつの脳天に鉛球を打ち込んだと思ったら……目ん玉に指を突っ込まれていたああ!」
 デュアンはスキンヘッド男の左眼に左人差し指を入れる--失明しないギリギリまで!
「わからないか? 俺は光より早く動ける存在だ。目で追えばこうなるという事は知っておくんだな!」
「ハゲよ、手伝うぞ!」
 小柄で短距離ランナー体型のモヒカン男はダーツをデュアンの首目掛けて投擲! ダーツは中間地点で速度が零になった!
「はい? どうし……て、ぇあ?」
 モヒカン男は後頭部付近に右手刀を打ち込まれて前のめりに倒れた--白目を剥きながら。
「ヒイイイイ! いつの間にモヒの背後に!」
「というか私は見たぞ! あいつがモヒのダーツが直前で落ちた後にわざわざダーツの所まで移動して掴む素振りをした後にモヒが倒れ込んだ後にチョップを空振りする姿を!
「な、何言ってんだお前は! 言ってる事を理解出来んのかよ!」
「で、出来るわきゃねえだろ! 俺だってあいつの頭部に銃弾打ち込んだと思ったらいつのまにか目ん玉に指突っ込まれたんだぞ! 催眠術を使ったのか、兄ちゃん!」
「いや超スピードだ! お前ら相手には威嚇するつもりで当たらないといけないと思ってな。
 どうだ? まだやるか?」
 被害を受けたモヒカン男をはじめ、デュアンを懲らしめようと集まるゴロツキ達は一斉に逃げる体勢に入っていた。
「逃げるなよ。逃げたらこの星を壊すぞ!」
 それはデュアンの脅しだ。彼はここで殺人を起こす気はない。それでも話し合いをする為なら逃げ場を与えないようにゴロツキ全員に脅迫した!
 ゴロツキ達は先程までデュアンの人間離れした動きを見て本当に信じ、そして--
「も、もう逆らいませんのでどうか命だけわあああ!」
 土下座した!
「ようやく大人しくなったな。まあ脅しを懸けて正解だったな。
 続きを読もう。えっとアッラーはイスラム教の創始者ムハンマドが--」
 デュアンはマイペースにノートを見直す。
「あのお、わしらの霊をとるんじゃあないのですかい?」
「盗るかよ。俺は話を聞きたいんだよ。そもそもお前らみたいなのがどうしてこんな辺境の惑星に棲みついたというのをな」

 一時間後……
 デュアンは集落の代表との面会を許可された。
 代表の名はワテガ・マチガーテタ。身長は152cm、体重65kgと太り気味だ。髭はZ状に生やすが髪はモヒカンとよくわからないファッションスタイルをした八十九歳の男色家男性だ。
 デュアンはワテガと三時間以上話をした。ワテガによると<リューイチ>に棲みついた経緯は表向きは宇宙開拓事業の一環。彼等は天文学単位程遡る大昔は母なる惑星<わとーそ>を中心に第四惑星<マクタガ>、第五惑星<オーT>にある衛星<エウロッペ>と第六惑星<かいど>にある衛星<レアル>と<でぃおーね>等々をかつてのアメリカ開拓時代を彷彿するように次々とテラフォーミング。年月はそれぞれ異なるものの計一万年かかるかかからないかの大事業であった。
 それほどまでに開拓事業を進める裏--それは<わとーそ>で猛威を振るった新種の鯨から逃れる為。
「ちょっと待て! お前からは超弦理論に代わるキューブリック理論やフロイド・カレルレン理論は納得したが、鯨如きでお前らが開拓を進める意味がわからん!」
 そうは言われましても--ワテガは髭を上下にいじりながらどう説明すればいいか悩む。
 それから五分経ってようやく口を動かし始めた。
 彼の弁によるとかつての人類は<わとーそ>で反捕鯨運動が盛んだった。彼等はとある国が鯨文化であるのをいい事に果敢なバッシングと賄賂、圧力を駆使。更にはヨーロッパの日和見主義と連動して一大キャンペーンを行う事でとうとうその国は捕鯨を断念した。この日(どれくらい前かはもう定かではないが)から一切鯨は殺される事はないという捕鯨団体にしてみればユートピアと呼べる時代が訪れる……かに思えた。
 悪夢が訪れたのはそれから二十年経たなかった。鯨の総数が爆破的に増加。彼等が増える事で他の海洋生物が次々と絶滅していった。それでも世界はこうした状況を黙って見過ごす事を決めた。これは大きな誤りに繋がった。海洋生物がほぼ根絶やしにされると鯨達は今度船ごと人類を食べ始めた。人類はとうとう見過ごすのを断念。科学の粋を集めたレーザー光線、アクチノイドキャノンで鯨を攻撃し始めた。最初こそ人類側に優勢だった。
 しかし、隕石の落下--そう隕石が鯨目掛けて落下したのがいけなかった!
「隕石? 鯨に向けて……まさかブラックストーンを呑み込んだのか!」
ブラックストーン! あなた様もそのレアメタルを御存知でしたか!」
「あんな物はレアメタルじゃないぞ! ブラックストーンは俺が身につけている経典もそうだが、あれは悪意を引き寄せるどす黒い石なんだぞ!」
「悪意を引き寄せる……た、確かに引き寄せましたよ。続きを話していいですか?」
 話してくれ--デュアンは左手を広げてワテガに催促した。
 隕石--ブラックストーン--によって頭脳と身体能力を大きく発達させた鯨達は力だけでなく交渉術でも人類に対抗した。人類は喋る鯨に下手を出してしまった。これがいけなかった。これ以降は失態に次ぐ失態を重ね、とうとう核兵器や超重兵器まで彼等に手渡してしまった。
 これを機に鯨達は反抗を再開--瞬く間に人類は<わとーそ>を手放す結果となった。
「うむ……。要約すると『鯨こえー』か?」
 デュアンは何時の間にかB5サイズのノートに何かを記しながら要約する。
「その後も人類は超重兵器を百発以上<わとーそ>に投下したんだよ。最初の十二発までは効果あったのに十三発目以降は……」
「超重兵器を防ぐ科学力を身につけたのか?」
 いえ--ワテガは首を振る。
「はあ? だってあいつらはブラックストーンでお喋り出来るくらいインテリになったなら科学技術もそれなりにあるんじゃ--」
「それが伝承によると『鯨達は野蛮以外の方法は身に付けたことがない』とあります。これ以上の事はこの星のもっと詳しい方か第九惑星<アイリー>に--」
「ここに来る前に経典で確認したが<アイリー>に人類はもういない。それにお前以外で詳しそうな奴を発見するのは骨が折れる」
「案外面倒くさそうですね。こんなに強いのに?」
「寧ろ強いからこそ俺は面倒ごとに慣れなさすぎるんだよ!」
「例え強くても鯨には勝てません。超重兵器の効かない鯨は神に頼るしかないよ」
 ワテガはクリスチャンだった--祈願しながらこの世の無常さを嘆く。
(超重兵器は核以上に環境破壊を促す兵器だぞ。それすら効かないなんて神に頼んでも勝てないだろ。
 ということは一体どんな鯨が<わとーそ>に棲みつく? 俺の経典に反応させる以上はワイズマン? ノイズン・リオートメイン? それとも俺達みたいな存在か? 
 いずれにせよ格付けし甲斐のある相手と見るべきだな!)
 デュアンの表情は人間のそれとは思えない無邪気な笑顔を形成していた--これから出会う存在に引かれる恋人のような思いだ!

 半時間後……
 デュアンは針路を第三惑星<わとーそ>に向けた--序章はまだ始まったばかりだ……



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U:何回誤字脱字をだしゃ気が済むんだ! D:本当に申し訳ありません!

 どうも息を吐くように誤字を出すdarkvernuです。
 時事ネタが思いつかないので先週発売されて見事掌を返された例のゲームの原作。それのパクリを試しに書いときます。

 時は近代ヨーロッパ……
 絶対王政の世は刻一刻と崩壊し、大衆を覆っていた階級の壁は取り除かれようとしていた。
 フランス革命……という名の神殺しによって。革命政府は神の保護下にあった様々なシステムを時代の流れであるかのように次々と破壊してゆく--大衆の支持という名の得体の知れない力を背景に!
 蛮行は非難されるかと思いきや喝采を浴びる--国内外を問わず!
 そんな蛮行を冷静に、なおかつ俯瞰的に見る一人の政治家がいた。
 彼の名はエドマンド・バーク--後の近代保守主義の父と呼ばれる男。
 彼はフランス革命の全体像を省察しながらも寿命という逃れられない運命により灯火が消えようとしていた。
「私は死ぬのか? リチャードよ?」
 歴史は神々のよって紡がれてゆく。これ以前もこの先もここでも。変わる事があるとしたら神々を揺るがす存在が目覚めるという血管が紛れる時だろう。
「リチャード! リチャード!」
 最愛の息子リチャードはもういない。代わりとして晩年エドマンド・バークの理解者となった一人の青年が寝室に入ってきた。
「エド……リチャードはもういないんだ」
「お前はジャック! リチャードは生きてるんだ! だからリチャードを--」
「落ち着いてくれ、エド! その、リチャードは、ちゃんとイエス様と共にあなたを見守ってるのですよ!」
「信じろと?」
「信じて下さい! バークの名を継いだ私が言うんだ! 間違いないです!」
「レッドバーグ……私がお前に与えた名字。本当はフランス革命が上手くいってるのが悔しくて血の色が付いた名前をお前にくれてやったのに!」
「血の付いた……結構じゃありませんか!」
「まあいい。私はもうじき死ぬ。今日は上手く話せるなんて結核はよっぽど私を嬲り殺したいのか?」
「元気で何よりじゃありませんか。ところで今日はどうしてリチャードとお話をしようと思ったんだ?」
「それか……実はな、悪魔を見たんだよ!」
「悪魔?」
「夢で悪魔を見たんだ。レイピアを構えた悪魔をな」
「状況がさっぱり解りかねる。つまりエドはどんな夢を見たのか説明して欲しい」
「それは未来と呼べるのか? 大英帝国の偉大なる島でジャックよ、お前の子孫らしき少年とどこの馬の骨? いやプロイセンからの移民の子が出会う。そこから悪魔は島中を恐怖のどん底に叩き落としてゆくのだ!」
「いつから曖昧になられましたか? 内容がさっぱりです。それに悪魔とは何者なのです?」
「悪魔とは両眼を銀色に輝かす者。金色の髪をたなびかせ、黒銅の心を持った災厄! 見た者にそれを解らせるほど直線的でありながらなおかつ柔軟に大英帝国全てを蹂躙させる智慧を持つ。いや、その智慧は神々を平気で愚弄するのだ!」
「ですから曖昧すぎます! その悪魔が今後十年で現われる保証は--」
「悪魔は百年先に現われる! 私は百年後の大英帝国がわかるぞ! クリミアの勝利に踊り、なおかつ黄金の国ジパングと同盟を結ぶ大英帝国の未来をな! そんな未来を嘲笑う悪魔もまたこの時代に生まれ落ちる!」
「百年なんて私が生きられる訳が--」
「生きられるだろう。意志を継いだ者が一人でもいればお前の魂は生きられる! それが私の提唱する保守の真なる姿であろう!」
「だったら教えて下さい! その悪魔の出現がわかるなら倒す方法も!」
「倒す為には早めに気付かなければいけない。でないと私の妄想した革命の結末……いやそれ以上に悲惨な事が大英帝国、ヨーロッパ、いやいや世界……それ以上に地球そのものから離れて災いを起こすぞ!
 悪魔の野心は大きすぎるのだ! ヤハウェよ!」
「神の名を軽々しく呟くほどにまであなたは堕ちたのですか!」
「それが……ウグウウ!」
「エドオオオ!」
 エドマンド・バークはそれから数日後に最愛の息子リチャードの元に旅立つ……

 それから四十年の歳月が過ぎた……
 ジャック・レッドバーグもまた死を迎えようとしていた。
「私はもうすぐ死ぬ。エドの言った事……死ぬ前に解ったぞ!」
「何独り言を仰いますか父上!」
「いたのかジョージ?」
「召使いを追い出して私と父上だけで話をしようと言い出したのはあなたですよ!」
「そう……だったか?」
「それはそうとヴィクトリア様が即位なさいましたよ!」
「そうか。あの御方が……だがあの御方もそこまで生きられないだろう」
「ヴィクトリア様の件でもう悪夢から覚めて下さい! あんなのはバーク卿の妄想でしかないので--」
「妄想? 果たしてそうだろうか? 私は知ってる。エドは全体を見渡せる男だという事をな。フランスで起きた革命の結末を彼は様々な省察で見事に当てて見せたよ!」
「た、確かに凄い事ですが。ですがそれとこれとでは--」
「夢もまた真実だ! 私は生涯を通して彼の保守主義とは何なのかを追い求めてきた! 国をあるべき方向に導く事なのか? それとも現状を維持し続けるのか? それとも壁を取り払う事なのか?」
「現状の維持でしょ? 現状を壊されたら自分はやっていけませんよ」
「いいや違う! 来るべき厄災から己と己が守るべき人々の為に剣を振るう! それがエドの提唱した保守主義の真なる姿!」
「考えすぎでしょう」
「ジョージよ! お前にも伝えよう! 五十年先に悪魔はここレッドバークにやってくる!」
「え?」
「ここはイングランドにある辺境の地ノーサンバーランド。ここにジョージの孫はプロイセン移民の子と出会う」
「その者が悪魔?」
「そうだ! そいつを決して近付けてはならん! 奴の瞳は銀色に輝く! 銀眼は太古より生まれ落ちる悪魔が身につける代物! 決してお前の孫にそいつを近付けるな、いいな!」
「五十年……その時まで自分は生きているでしょうか?」
「生き続けるんだ! 魂が次の世代に受け継ぐ事が叶うなら私だってエドだって今も生きる! 忘れるな!」
 その日から二日後の夜……ジャック・レッドバーグは一人息子ジョージと十名以上の召使いに看取られながらこの世を去る。

 それからおよそ四十九年先の1896年とある夏……


 すみません。長すぎたのでここで止めます。というかパクッてる部分が出るまでにいろいろ冒頭を書きすぎた(苦)。本当はそれ以降の所まで書いて終わりたかったのに冒頭に出てくるエドマンド・バークとジャック・レッドバーグの部分に文章を割きすぎたよ(笑)。やっぱ哲学的な物を書いちゃいかんと思ったよ! これじゃあ冒頭を見ただけでブラウザバック決定だね。
 まあネガティブは後回しにするとしてエドマンド・バークについてはググって知ろう! そうすれば自分が誤解している部分が発見するかもね(笑)。
 とりあえずパクリ作品の続きはネタが思いつかなくなる頃にまた書く予定だ。そしたらどこがパクッてるかわかると思うよ。ではこの辺でショートストーリーを終わらせますね。

 第三十二話の解説に入ります。今話の主人公は第三十一話で登場したスネッガーです。
 スネッガーは先祖代々医者でございます。彼は常に誰彼構わず助ける事を理念に置いた生粋の医者。故に医者としての道から離れようと放浪の旅をします。んで放浪の果てに見つけた物は……という感じのお話でございます。
 三十二話では三十一話で登場したキャラが重要な位置を占める事が多くなりました。特に駱駝のジジイは三十一話で奇跡的に助かった後でも存在感を遺憾なく発揮するという快挙を達成。というか一介の患者であるこのジジイがどこをどう間違ったらここまで大きくなってしまったのか不思議でならないよ(笑)。
 ついでに前話で登場した山羊も今回と変わらない立ち位置になってます。というかこいつが居なきゃ物語は進まないと言うくらい大きいですね(笑)。上司はどこへ行った!
 今回は記事のタイトル通り謝罪しなければならない事がございます。三十話~三十二話にかけてIC九十四年と記しましたが正確にはIC九十五年の間違いでした。本当に本当に申しわけありません! 焼き土下座はビビって出来ないにしてもタイトルで謝罪しました。今後も誤字脱字に注意して行く方向でございます。ちなみに誤字脱字があってもこっそりやる以外は残すつもりでございます。どっかの誰かさん達みたいにツイッターで発言しながら不味くなったら消すような卑怯な真似はしたくありません。仮にしても皆さんの前で『消す』と宣言した後に消すつもりでございます! ついでに三十二話でも日付関係で間違った数字を書いた事もお詫びします!
 本当に自分は誤字脱字を連発するほど自分は三流に到達していないという事を情けなく感じます。三流に到達するにはもっと磨くしかありませんね。
 悲観的に締めますが以上で第三十二話の解説を終えたいと思います。

 何か知らないけど東京はまたもやオリンピック開催地に選ばれたよ。開催年までにジョジョのパクリ作品が世に出られるか心配だな(笑)。それじゃあ今後の予定をよしっと行くぞ!

 九月
 九日~十四日     第三十三話 蛙の子は蛙         作成日間
 十六日~二十一日   第三十四話 袋の鼠           作成日間
 二十三日~二十八日  第三十五話 蜥蜴の尻尾        作成日間
 三十日~十月五日   第三十六話 弥勒菩薩を待ち侘びて  作成日間

 弥勒菩薩は他の宗教では救世主になったり預言者になったりと大忙しだ! 只これだけははっきりする。救世主を求める国は必ず滅ぶ。何故なら他力本願だもん(笑)。各方面に喧嘩を売るような形で今日はここまで!
 ちなみに今日は不定期のとある物をちょこっと書いて行きますね。

一兆年の夜 第三十二話 蛇の道は蛇(終)

 五月百十五日午後三時六分四秒。
 場所は川内集落中央地区酋長邸。一階にある空き室--かつては酋長ゴーリラマの妻であるゴーリエーの娯楽する部屋。
 今日もスネッガーは意識を取り戻さないどこの出身か判明しない人族の少女を看病する。
(日に日に弱ってゆくなエエ。集落を出るには患者が集落に任せても良いエエ、そうゆう頃合いになるまで俺は残るエエ。
 しかしエエ、少女だけはまだ任せられないエエ。未だに意識を取り戻さなくてここを出られるかエエ!)
 突然扉が開く音がした。スネッガーが振り返るとそこには八の日より前に件の少女を助ける為にスネッガーの忠告を無視して無理に身体を動かした為にその後の日より後に説教を受けた老年ラークダムであった。
「駱駝族の体躯で良くこの部屋には入れたなエエ」
「最適化ですっかり痩せ細ったのじょお。部屋に入れる道理に適うのじゃあ」
「それでまた説教されに来たのかエエ?」
 ラークダムは首を横に振った。そして少女の方に近付いてゆく。
「未だに目覚めないエエ。爺さんの力でも目覚める保証があるのだろうかエエ?」
「先生は最高の医者じゃあ! さっきゴーリラマから聞いたんじゃが先生が八の日より前に百名に上る患者を中央地区にある食物庫まで集めて治療して深夜までかかりじい、一名残らず救っただけじゃないじい。
 先生はその後も全ての患者の様子を見て回ったって聞くじょお。それから現在に至るまで後遺症で死んだ物は零じゃあ。あんたは凄い若造じゃあ!」
 スネッガーは『最高の医者』という言葉に関しては首を横に振った。
「高尚な医者である者かエエ! 俺は昔から医者という道から離れたかったエエ!」
 スネッガーは今まで溜まり込んでいた思いを吐露し始めた--今日はその為に用意されたかのように。
 そんな様子を間近で見せられた老年ラークダムは左右の目を反対側に回す。
「どじょ、どじょ、どうじゃじゃあ--」
「産まれた時は俺も医者になる事に迷いはないエエ! 一族の義務だエエ! 神々への奉仕だエエ! 命を救う事の喜びだエエ! 己自身を鍛える実感だエエ!
 それが医者という誇らしい職種エエ、それが医者という生命を救う道エエ! 俺にとっては誇り高き命職エエ!
 だが現実はどうだエエ! 救った命を一の秒でも長く生かす為に只ひたすら患者の容態を看なければならないエエ! それが却って患者の容態を急変させる事に繋がりかねないエエ! 患者を死なせたら遺族に何と説明すればいいエエ! 説明出来ないようでは遺族の容態を急変させかねないエエ! 手術を少しでも気を抜けば患者を想念の海に送ってしまうエエ! こんなの同族死なせと変わらないエエ! 神々にどう向き合うエエ? 学べというのかエエ! 慈悲を僅かにする行為が全ての医者に出来ようかエエ! 俺以外に出来る保証が有ると言うのかエエ!
 八の日より前の忙しい事エエ! 俺は苦労をかけたエエ! 数名までは良いエエ! その先から苦しいエエ! 物が足りない状況になったエエ! 刻一刻と次の患者の灯火が俺に訴えるエエ! 焦りが生じるエエ! 口元が何度も狂ったエエ! 空腹にも負けそうだったエエ! このような状況になったら医者は医者として心を強くあれるかエエ!
 俺は誰彼構わず命を救ったエエ! あと僅かしかない命を無理矢理長引かせたエエ! 患者と遺族の希望で命を墓の下にだって送ったエエ! 銀河連合だって救ったエエ! 医者の道を往く過程でエエ!
 一族の道をたった一つの事で諦めた祖父スネッグムエエ! 彼は死ぬまで頑固であったエエ!
 一族の道を辿り続けた先に救った命によって想念の海に旅立った父スネッチエエ! 彼は己を貫き通したエエ!
 だったら俺はどうだエエ! 祖父のように頑固でもなければ父のように貫く事もままならないエエ! いつだって一族の重みは俺にとって耐え難かったエエ!
 今度こそ医者をやめられるとそう願っても願っても--」
 もうよいじい--途中でスネッガーの言い訳を止めたラークダム。
「爺さんに何が--」
「わしが言いたいのはそうゆう事じゃないじい! 少女を見るんだじゃあ!」
 少女--ラークダムが顔を向ける先に目線をやる。そしたら--
「んん? ここはどこなの?」

 五月百十六日午後九時二分六秒。
 場所は酋長邸。一階にある書庫。
 齢三十一にして五の月と二十四日目になる武内猿族のゴーリラーマは次期酋長として藤原マス太一族が代々出してきた書物に目を通す。そこへエリフェインが調査報告書を持参して現われた。
「扉を叩かずに申し訳ないうえ! 緊急の連絡を持ってきましたうえ!」
「いいっよ。それでどんっな件っだ?」
 エリフェインは一枚の紙を地面に置いて丁寧に読み始める。
「『九の日くらい前に起きた<旅者連続襲撃事件>。我々は滞在中の国家神武軍者川内集落担当のログバーコフと協力。結果は全て鬼型による襲撃と判明。一命を取り留めて意識がはっきりする者達十名から聞き取り調査も裏取りも完了。よって銀河連合鬼型が川内集落周辺で誰かを死なせる為に百名以上の旅者を襲撃した模様。一体で百名を相手にするのは困難故、他にも鬼型がいたかどうか再調査が必要』以上で報告を終えますうえ」
 これを聞いたゴーリラーマは南地区にある埋葬地で人族を蘇生させた事件と何か結びつかないものかと思考を巡らす。
 一方でエリフェインは日が隠れる前に集落を発ったスネッガーを心配した。

 五月百六日午後十一時十分二十八秒。
 場所は波多八代地方熊懐山北出入口。
 夜更かしする為、スネッガーは焚き火をする。木と火が互いにぶつかり合い、弾ける音を出す。それを聞きながら蘇我人族の少女を思い出す。
(彼女が元気ならそれで良いエエ。俺はもう逃げる事をやめられるエエ。俺は恥ずかしくてやめる事が出来ないってだけだなエエ。少女の前で惨めになってるようじゃまだまだ修行が足りないエエ。
 もっともっと道を究めないと恥を吹っ飛ばせないエエ! もう一度少女と会う為にも俺は逃げないエエ! 偉大なる先祖達に誇れるだけの大医者になって恥を吹き飛ばすエエ!
 俺ながら恥ずかしいエエ。もうね……ようエエ?)
 彼は胴体の感覚がおかしくなるのを感じた--何か得体の知れないモノに踏んづけられたような。
 対象に向かって振り向くとそこには--
「ああ……まさかエエ? 俺がエエ、助けエエ?
 まさか--」
 鬼型は足をどけると左手でスネッガーの首を力一杯握りしめる!
「ガ、ガガガ--」
 スネッガーの顔面に血が通わなくなる--同時に視界が回る。
(思い、ダシ、だエエ。俺だエエ。お、れ、ぁぁ、ぁ、ぅ--)
 正体は十六の日より前に後ろ左足の傷を治してやった鬼型銀河連合。
(お、ぇは……医者だったエエ。んエエ?
 力が弱まり--)
 鬼型はスネッガーが付けた焚き火に彼を包み込ませた--胴体の至る所で火は燃え始める。
(く、らあああ! おれ、はこ、しくだ、けぁエエ。ぃぃぉ……ぉぁ、くぅ。
 ぉぉぅ、ぁ、あ、ぁぉぅ?)
 スネッガーは自分がどうして今までの人生を振り返れるか? その訳を知っていた。これは生命自身が無意識の内に最後の贈り物を出している証拠。そうする事により楽に死と向き合える。
(少女……ごめんエエ。俺は道を貫きすぎたみたいだ……エェ……)
 それが武内蛇族スネッガー最後の思考であった……。




 ICイマジナリーセンチュリー九十五年五月百七日午前零時零分一秒。

 第三十二話 蛇の道は蛇 完

 第三十三話 蛙の子は蛙 に続く……

一兆年の夜 第三十二話 蛇の道は蛇(三)

 午後二時十二分十五秒。
 場所は川内集落中央地区食物庫。立方体にして成人体型千。出入り口は二つで対称的に設置。
 食べ物は保存が利く物に限られ、主に米や小麦粉。それら食べ物は今回の治療でスネッガーが使用する予定だ。
 スネッガーは酋長邸から出ると食物庫に患者を集めるようにシ紋に呼びかけた。
(ここに来て十の分経過エエ。距離がある分エエ、それだけで患者の容態に影響を与えかねないエエ!
 ここに来るまでには皆も応急措置はしているはずだエエ。そこの所は俺達全生命の誇りだからなエエ!)
 考えの主旨は自分も含めて全ての生命は教育しなくとも誰かを助ける為に行動する--銀河連合にない慈悲深い心を生まれつき持つという意味だ。
(だからこそ銀河連合はそれを良からぬ方向に使うエエ! 生命を助ける為ではなく己の望むままになエエ!)
 主旨は銀河連合全ては教育関係無しに誰かを死なせる為に行動する--自分達生命にはない慈悲無き欲望が尽きる事なく心すらも食らうようにという意味。
 スネッガーがあれこれ思考する内に最初の患者がエリフェインの背中に背負われて運び込まれた。
「北地区から患者を一名持ってきたうえ! 種族は羊族でえい!」
「うう、うう--」
 スネッガーは額に米粒二個分の傷を受けた旅者の老年にしっかりと包帯が巻かれているのを確認するとすぐさま包帯を少し開けて額の傷を舌で舐める。
「イタ! な、な、何すルーんですか!」
「じっとするんだエエ! 至急縫合を開始するエエ!」
「縫合ってスネッガーでえい。縫い針はどこに--」
 上下の歯で成人体型二はある熊懐製の糸の先端を軽く噛み締める。そこから彼は傷口目掛けて三十の秒に満たない時間で縫合して見せた--八カ所を糸の尖った箇所で穴を開けるという芸当を駆使しながら!
「イデデ! 余計な傷を増やしイーたんじゃないーイだろうな!」
「もう一度包帯を巻くから身体を動かすなエエ!」
 包帯は二の分かけて丁寧に巻いた--血の付いた包帯から新品で綺麗な包帯に。
「包帯巻く速度だけは普通で良いかうえ?」
「早すぎれば却って治りが遅くなるエエ。遅い方が良いエエ」
 迅速で丁寧に--代々医者の一族であるスネッガーは日頃から早い事と遅い事の両方こそ医者に必要である事を叩き込まれた。齢が二十九になった今でも守り通す。
「包帯を巻かれルーんと自然に痛みが感じなくなってるような?
 いや痛くなーイ! ありがとう先生!」
 老年はスネッガーに礼を言うもスネッガーは--
「礼をするのはまだ早いエエ! どうやら次の患者が来たみたいだエエ!」
「老体に何て過ぎたるん労働をさせるんか!」
 そう言いながら二足歩行で軽々と後ろ両足に怪我を受けた牛族の少年を横抱きで運んだログバーコフ。
 深呼吸するとスネッガーの前にゆっくりと降ろした。
「ぐ、ぐぐう! いでえよう!」
 スネッガーの表情は先程治療した患者の老年相手に見せたものよりも一層頬の皺が寄る。
「ワシよりもまずイー! 特に後ろ右足首が斜めに曲がってルーん! ど、ど、どうすれ--」
「静かにしろエエ! 患者を恐がらせてどうするエエ! 患者にとって肉体よりも精神が大事だエエ! その精神の為にも口を閉じるんだエエ!」
「という訳だようえ。小声になるようにうえ」
「へいーイ……」
 羊族の老年は声調を低くした。
 スネッガーは静かになったのを確認すると少年の後ろ両足がどうゆう状態かを一の分くらい見つめる。
「まだ--」
「静かにうえ」
「いでえう! 助けてっよう!」
「……これより後ろ右足首の固定に入るエエ。爺さんとエリフェインエエ?」
「自分にかうえ?」
「何じゃい。わしに何をし--」
「倉庫にある米袋や棚を何個か持ってきてくれないかエエ? 患者の背中を立たせたいエエ! 牛族や羊族などは固定させるのが困難だエエ。俺一名では時間がかかるエエ。足を貸してくれないかエエ?」
「わしを重労働させおって!」
「わかってえい」
「呼ばれてないーイがワシも先生の足伝いする!」
 三名は言われた通りの事をする--棚を三つ胸以外を挟むように三方向は位置する事で少年の背中を立てた。
 次に米袋三つを少年後ろ右足太腿の下に潜らせる事でやや固定させた。
「いえでうでで!」
 それからスネッガーは触診しながら生の状態を確かめると--
「果物包丁を俺にくれエエ!」
 エリフェインに頼んで受け取った綺麗な果物包丁の柄を噛み締めながら手術を開始!
(時間との勝負だエエ! 骨を正しく処置しないと肉体にも精神にも関わるエエ!
 良し……ここだなエエ!)
 彼は少年の後ろ右足を手術し終えた。時間にして僅か二の分--勿論縫合も含めてである。
「イデエの治らねえっよう!」
「次は後ろ左足の方だなエエ」
 後ろ左足の方は米粒一個ほどの大きさ。包帯を解いた後は予め清めた水で濯いだ後、綺麗な包帯に換えて一の分かけて巻き終える。
「こ、これでいいでえのう。治るう?」
「左後ろ足の方は一の週かければ後は神々に任せれば治るエエ。
 問題は右後ろ足は半の年か早くて三の月かかるエエ。両者の均衡が傾く恐れがあるので傷口が塞がった後は一の月以上掛けて最適化が必要だエエ。
 済まないなエエ、少年エエ!」
「謝らなくてもいいよう。ありが……イデデ!」
 痛がりながらも少年が礼を送ろうとした矢先に--
「大変じゃあ! 意識不明の物を今すぐ助けてくれじぇえ、先生じゃあ!」
 怪我が完治しないラークダムが東地区から重体の患者を運んできた。
「腰砕けをするんな、ジジイ!」
「あんたにジジイ呼ばわりされる覚えは--」
「静かにしろエエ! 爺さんの件は後で叱りつけるエエ!
 それより患者を俺の前に降ろせエエ!」
「ははじゃあ、先生じゃあ!」
 ラークダムは齢七くらいと思われる人族の少女を降ろすとすぐに転がりながら痛がった。
「だから言ったじゃろうん! 腰砕けするんなと!」
「静かにしろエエ!
 これより患者を触診するエエ!」
 スネッガーは少女の全身を身体全体で触れると一旦彼女の頭上近くで思考する。
「だ、大丈夫かなう? イデデ--」
「お喋りするんな! 声の声帯を低くんしろ!」
「ログバーコフの若造もだぞじょお!」
「どっちも口を閉じるんでえい」
「大丈夫かなイー?」
 羊族の老年が小声で言った後すぐにスネッガーは心配蘇生法を開始!
 彼は気道を確保しているかを確認。気道確保がわかるとすぐに蛇式胸骨圧迫で数回行うと今度は唇と唇で触れあいながら空気を送る生命呼吸を数回。繰り返すように蛇式胸骨圧迫と生命呼吸を十の分かける。しかし、患者の意識は戻らない。
「仕方ないエエ。かくなる上は代々一族に伝わる禁忌蘇生法を行うエエ。みんな目を瞑れエエ!」
「どうしてう? 何で--」
「患者の命がかかってるんだエエ! 急げエエ!」
 スネッガーの鬼族に近い気迫に押されてその場にいた全員は両眼を瞑る。だがラークダムは半の分はかからずにすぐ開けたが。その間にスネッガーは信じられないやり方で患者の息を吹き返した!
「なじゃあ、何をしたじゃあ?」
 秘密だよエエ--とスネッガーは顔全体に皺を寄せながら返答。
「確かに禁忌だな。あれは普通の物が真似しちゃいかんのうん」
 ログバーコフだけでなくラークダムも何かに気付いた。
(これで少女は生きられるはずだエエ。
 いや生き返らないと俺は--)
 スネッガーの思考をする暇もなく次の患者が運ばれた。今度は北地区のシーピーが猿族と犬族の青年を背中に担いで現れた。
「先生! この者達を看てもらえルー?」
「今度は二名同時か--」
「先生! 西地区正門で倒れてる闘牛族の夫婦を土竜族の者達と一緒に運んできたにゃ! 看てもらえ--」
「先生!」
「先生! 俺からもたの--」
「順番に並べえい! 一度に二名以上はさすがのスネッガーでも--」
「出来るエエ! 俺なら十名でも二十名でもエエ!
 だがその為には優先順位をこちらで決めるぞエエ!」
 その後も次々と患者が食物庫に運び込まれてゆく。スネッガーはそんな状態でも足を借りなければならない状態以外は全て果物包丁と熊懐製の糸で数の差も感じさせずに次々と治してゆく。勿論包帯はエリフェイン達に任せる。
 そうして十の時が経過。深き夜になる頃にようやく全ての患者の治療は終了。昨日と今日の現在で治療中に死んだ患者は一名として現われなかった。それがわかったスネッガーは眠りに誘われ、意識を深い所に沈めた。
プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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