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一兆年の夜 第二十七話 海洋藤原の伝統(三)

 二月六十七日午後三時三十一分三十九秒。
 場所は深部四。村長一家が住む洞穴。第五区画。
 そこでは村長である齢四十六にして二十八日目になる海洋藤原海月族の藤原クラ玄や藤原マス太を初めとした知識官僚、学者、研究家などが集まり、午前九時から意見交換を催していた。
「ところで真正細菌族のおん代表はあういつ来るかの?」
「村長。エラ会話を見てましたか? 真正細菌族は皆、言葉を話せないのですよ。代表とかそうゆうものが来るわけないじゃないですか」
「ところでえあ君は?」
「藤原鮎族のアユ巳で御座います。勿論雄ですよ」
「んで今はあん何のおう話をおいしとったかの?」
「物部貝族の物部カイ原と申します。今は流れ星が銀河連合かそうでないかを議論してました」
 彼は蓋の開け具合でエラ会話を表現。
「えっと? ラテス鰯族の呉岩士でいいかな? 俺の考えでは銀河連合だ! 今までだって流れ星で奴等はこの星にやって来た!」
「仁徳鯔族のホノノミノボラスケ。岩士の意見に自分も賛成。昼を挟んでおよそ六の時は議論しているけどいい加減、議論は収束しないか?」
 互いに自己紹介しながら意見交換を交わす知識者達を前にしながら当のマス太とマス次郎はエラ会話でお喋りをしていた。
「お母さん。考案した論をいい加減に出したら如何ですか?」
「断るわ。明日の日の出入り前に見られる櫛灘彗星を観測しないと論の確実である事の自信が沸かないわ」
「櫛灘彗星か。海洋藤原ではいつの代で見られるかわからない流れ星でしょ。お母さんの代で見られる事は有り難いよね」
「いいえ、これは大きな良くない出来事かも知れないかな?」
「どうゆう事? 櫛灘彗星は周期七十五か六の年ですよ。現われるならむしろ良い出来事じゃないでしょうか?」
「そうかしら? 七十五の年より前はどんな日だったか知ってる? その日は海底火山がお怒りになってるのよ」
「ぐぐ! 噂だよ、噂--」
「そこの二名! このルケラオス鯵族のアジオ・カワックは気付いてるぞ!」
 マス太は齢二十八にして十一の月と一日目になるアジオの注意を受けても自己紹介した後、自分の意見を述べる。
「申しわけありません。明日の日の出前に現われる櫛灘彗星に興味を持ちまして、それが現われた時に起こりうる状況を試算しておりました」
「本当でない事を伝えるか! じゃあどんな試算か伝えてみろ!」
「はい。彗星が流れるとそれに反応した惑星にいる銀河連合はある一つの銀河連合を生み出しましょう」
「はあ? それのどこが試算だ?」
「この周辺にいます銀河連合は若布型と真正細菌型……だけではありません」
「はい? 仁徳鰯族のホノノミノボラスケだ。他にいるのか、藤原マス太?」
「それは種子型でございます」
「海洋藤原鮭族の藤原マス次郎だけど、どうゆう事? それどこの情報?」
「村長のおん海洋藤原海月族のおん藤原クラ玄じゃ。もしや真正細菌族とおう会話できるのかい?」
「彼等の言語周波は私の代で捉えたわ。それによると--」
「海洋藤原秋刀魚族の藤原サン樹です。どうしてそれを一昨日披露しなかったの、えっとマス太?」
「まだあの時ははっきりしなかったのよ。説明を続ける。
 彼等によると種子型は真正細菌族の仲間を食ってるのよ。それも一名残らずね」
「エピクロ鯖族のサバラド・ネルソンだ。それはいつもの事だろ?」
「そうじゃないみたい。いつもの事なら種子型は今頃孵化してもいい頃。でも彼等の目的はまた別なのよ。
 私が櫛灘彗星の接近で一つの銀河連合を生み出すという試算を出したのは代々天体研究家である藤原マス太の日課である天体観測。これを行った後に何が起きてるのかを養子マス次郎が家に帰った後に真正細菌族の各自に聞いてみたわ。そしたら彼等は一斉に『流れ星と共に銀河連合は活発に行動してる』って答えを出したの」
 荒唐無稽な理由を聞いた者達は隣にいる仲の良い者とエラ会話をするなり、整合できる案を探った。
(退けられると思ったけどン、みんな頑張ってるんだねン。整合なんて難しい事よン。代々の藤原マス太は荒唐無稽を述べてはいつも退けられてきた一族なのにン)
 思考するマス太にマス次郎は尾ひれをマス太の口に当てて振り向かせる。
「何?」
「それが考案した論?」
「異なるわ。論はまだ確実じゃないんだから」
 十九代目藤原マス太に時間はない。それでも研究者としての意地なのか、彼女は残りの時間が尽きてでも論の完成度を高めようとしていた。
 なお意見交換は月が昇ると共に終了し、マス太を含めた客者は皆、それぞれの洞穴に帰り、それぞれの日課に戻る。
(論文名は『大樹の銀河連合』ン。近い将来には現われるわン!)
 産卵から五の日より前の嵐が訪れようとする静かな夜だった……。

一兆年の夜 第二十七話 海洋藤原の伝統(二)

 二月六十六日午後七時八分二十三秒。
 場所は藤原マス太の洞穴。
 マス太は十枚の石版を横一列に並べて熟読していた。題名は全てメエガン・メヒイスト著『貸借対照宇宙論』。
(平行世界説に信憑性があるかどうかン。仮に平行世界説が真実ならばン、メヒイスト氏による貸借対照宇宙説も真実と成りましょうン。ですがこの説の問題点は無物質宇宙の実在を証明できない事ねン。
 数学的常識だけどン、ある仮説が認めれば別の仮説も自然に認められるン。ただしン、別の仮説を認めるにはある仮説と別の仮説が両方とも整合された物でなければ成り立たないン。
 となればメヒイスト氏の貸借対照宇宙論が成り立たないわけン。それは無物質宇宙の実在が認められない事ン。それに伴いン、禁忌宇宙の実在も認められないン。
 はあン、別の著作を見ようン)
 『貸借対照宇宙論』を石版の山に放り込むと今度は山から蘇我シシ朗・ベレッタ・バルケミン共著『歴史は何故整合を許さないのか?』を取り出し、十五枚を縦一列に並べた。
(真実話と成りすまし真実話の理解を深めるにはちょうど良いと思って出してみたけどン、読み進めると時間が経つのが早いわン。
 でも私が求める説に繋がらなくて残念ン。あーあン、奇才バルケミン氏の著作でも頭の感受力を高められると思ったけど期待はずれねン)
 今度はリザヴェルタ・メデリエーコフ原作『アリスティッポスの氷は切なく』を取り出し、十二枚を右斜めに並べた。
(リザヴェルダ氏は実際にアリスティッポスの大地を踏みしめながら現地の物から話を聞いてきただけあってスラスラと読み進むわン。面白いけどン、それだけン。私の求める物はもうここにはないわねン)
 石版を仕舞おうとした時、齢十五にして十五日目になる海洋藤原鮭族の少年が十枚以上の石版が詰まった袋を抱えながら泡を二回吹いて確認を取る。
「いいわよ、マス次郎」
「礼を失します、お母さん」
 マス次郎と呼ばれる十九代目マス太の養子は尾びれを小刻みに揺らしながら中に入る。
「昨日の講演は良くなかったよ。あれじゃあ皆が怒るのも無理ないよ」
「あれは私を強引に講演させたサン樹がいけないのよ!」
「そうじゃないよ。お母さんが半の時も経たずに退席したのがいけないよ。講演時間は一時間なのに!」
「あれ? そうだった?」
「はあ、お母さんがこれじゃあ先代のマス太は墓の下で--」
「そうゆう言い方は良くないわ、マス次郎。私は気にしないけど、あなたがマス太になった時にそんな言葉を聞いたらどうする?」
「うう! べ、別にまだ僕が藤原マス太になるわけじゃ--」
「それがね、マス次郎。あなたは近い内に成らなきゃいけなくなったの」
 マス次郎は養母がいう事が理解できない--理由を探るべく袋を降ろすとさっきまでマス太が口探りしていた石版の山から手掛かりを探す。
「これは……ただもの研究委員会発行『ただもの絵描き歌集』!
 ってそうじゃない! これは……おかもと学検定会発行『おかもと検定三級』!
 そんな下らないのはいい! これは--」
「マス次郎!」
「お母さんが何故そんな事を言うのかをお母さんの所にある石版から探して--」
「勉強熱心は有り難いけど、私のエラで伝えるから口を止めて!」
「いえ、もうわかりました! お母さんは産卵を迎えようとしてるんですね」
(鋭いン! さすが私の二十一番目にあたる姉マス美の第三十九子ねン)
 思わず笑顔になり、周りにいる真正細菌族の野次者達は驚いて光ってしまう。
「笑顔は腰砕けじゃないでしょ! お母さん! 子供を産むということはいずれ僕はあなたと別れる事を意味してるじゃないですか!」
「だからあなたには私の後を継がないといけないのよ。二十代目藤原マス太としてね」
「僕は鮭族の雄として生まれている以上は子を産む事の辛さは慣れてます!
 交尾したって僕の前に実の両親は墓の下。物心付く前から僕には実の両親の顔も体型も性格もわかりません!
 だけど、育ての母であるお母さんと別れるのは慣れた事なんてありませんよ!」
「怒鳴らないの! 悲しいのは私だって辛いわ。でもこれが海洋藤原の伝統。
 それでも耐えられないなら今の内に泣きなさい!」
「いいよ! どうせ今の内じゃあ泣けないんだし。
 そんな事よりもお母さんは僕に藤原マス太の極意をお教え下さい!」
「極意? えっと今は夜空?」
「はい、夜空ですよ!」
「じゃあ外に出ましょう。今日の星は綺麗なのか見ておかないとね」
「古くからの天体研究だけは欠かさないんだね」
 二名は外からの息継ぎも兼ねて深部零まで上がった。
「見てン、マス次郎! ガブブ今日は流れ星がたくさん降ってるねン」
「本当だン! ガガブブでもこれが銀河連合の可能性はン?」
「ブブブクただの流れ星だと信じなさいン! 吉というのはいつだって安定しない命運びよン。ブクウブ例え吉が無くても私達は流れ星に願い事を叶える以外にないわン」
「現実は辛いン。ボググボ神様は助けてくれない以上は信じるしかないかン」
(神様は助けないン? いいえン、私の仮説では見えないところで助けてるわン。銀河連合から出来る限り私達を離すようにン)
 産卵から六の日より前の暖かい思い出だった……。

一兆年の夜 第二十七話 海洋藤原の伝統

 ICイマジナリーセンチュリー八十七年二月六十五日午前八時零分三秒。

 場所は東海洋藤原不比等村深部三。一番大きな洞穴。
 齢三十二にして十の月と九日目になる海洋藤原鮭族の熟女が眠っていた。数百
にも上る石版で山を築きあげながらその下に出来た穴に潜って眠り扱ける。
 数百の石版は一般のアマテラス文字で記され、内容はあらゆる知識が詰まる。
どうやら彼女は学者のようだ。
 書かれた内容の例を挙げるならオッツール・バルケミン著『野菜健康日誌』、物部
ワニ造著『物部刃はこうして作られた』、原案ストルム・ササーキー、キッシャ・
キッシェール著『イマジナリーセンチュリー』、天同読四著『国家神武八年 一年目』。
 彼女は膨大な石版の著作物を読み返しては研究資料の作成を進め、更には日に
一回は天体観測をしながら新たな発見を探し、研究が詰まってくるとまた著作物を
読み返す。不規則ではあるが様々な試みをしながら眠るのは深夜過ぎ。彼女は
いつも睡眠に悩まされる。
 それが彼女の使命。彼女の一族伝統行事なのだ。彼女の一族は古来より学問に
励む。それは趣味ではなく神々を理解する為。神々に感謝の意を表す為。
 彼女の名前は--
「サケ那いる? ああ! 起こさないといけないわ!」
 齢三十一にして九の月と十四日目になる海洋藤原秋刀魚族の熟女はエラ会話で
独り言を表現しながらサケ那と呼ばれる熟女の留守を確認。眠りこけた彼女を見つ
けるなり、泡を眼の部分に吹き付けて起こした。
「ああ? サン樹? 起こさないでよ、眠いし」
「そうはいきませんわ。あなたは後一の時に集会所で講演するんでしょ?」
「講演? 延期して」
「はあ? 勝手すぎるわ! どれだけの者に迷惑がかかるのよ!」
「だって新しい発見がないんだから講演しても意味ない」
「はあ。大変だわね、サケ那も」
「ちなみに私は『サケ那』ではない。一応は一の週より前に母から『藤原マス太』の名
を受け継いだわ。この先も私は『藤原マス太』なのよ。だから『サケ那』と呼ぶのは
今日でお終いにして!」
「『マス太』は雄の名前でしょうに」
 彼女は藤原マス太。襲名前は藤原サケ那だった雌。現在彼女で十九代目。
「気にしない。十九代目も大変なのよね。出産で死んだ母の後をいきなり継いだから
母がどうゆう風に調べ上げてたのかわかんなくて」
「あなたの叔母様も大変ね。雌として生まれた以上は出産だけはどうする事も出来
なくて」
「雄の方が大変だわ。交尾しただけで死んじゃうんだもの」
「ってそんなことは後にして! その……マス太! 出来が良くなくて良いからさっさと
講演しに行きなさい!」
「だからさっき伝えたじゃない。延期よ、延期!」
「いいから早く!」
 サン樹は十九代目マス太の右鰭を噛みながら深部一にある集会まで引っ張る。
「鰭を噛まないでよ。千切れて泳げなくなったら罪深いよ」
「あんたは雄勝りの雌なんだからこれくらい平気でしょ!」
「サン樹だって同じでしょ!」
 なお、十九代目藤原マス太は現在産卵期間に入る。つまり--
(はあン、マス美さんとの出会いがもう少し遅ければン、私だって行き急ぎしないのに
ン。公演を延期すべきだわン。残りの人生を有効活用する為にもン)
 彼女の夫は交尾して三の日より後、衰弱により墓石の下に埋められた。
(子供達を生む前に実績と次期藤原マス太を探さないとン!)
 産卵からまだ一の週より前だった……。

今日は時事ネタを書く気が起きないからまた試作品を書いてみた

 どうもdarkvernuです。
 自分は政治を語るのが大好きな性分ですが、今回は何故か時事ネタを書く気がないので試作品でも書いてみようかな。

 遙かなる時代……。
 正しい歴史を記す為に歴史が修正される理想世界。
 人々は偉大なる存在を崇める為に敵を作り、彼等は一つになる。
 一つになるには偉大なる存在を崇めるよう心の教育をする。
 伝統よりも自由を。階級よりも平等を。家族愛よりも友愛を。
 そして、自分よりも偉大なる存在を。
 そんな理想世界に従わない者達は心も体も理想に矯正しよう。偉大なる存在は暖かく人々を矯正させる。これまで矯正された人々は自らの罪を認め、心も体も解放された。人々は偉大なる存在の為なら家族が過ちを犯す事も偉大なる存在に知らせるほど慈悲深い。それだけに家族以上に偉大なる存在を愛する。
 悲しい存在。偉大なる存在の命を狙う者。理想世界を破壊しようとする敵。
 敵は人々を惑わす。人々を自由からも、平等からも、友愛からも。
 そして、偉大なる存在からも。
 倒さなければ理想世界に平和は訪れない。塵一つ残さずに倒さなければ偉大なる存在は死ぬ。敵を倒す為ならば戦争は善き行為。戦争は敵を減らす手段。理想世界では戦争こそ平和だ。自由と平等と友愛こそ伝統と階級と家族愛を倒す切り札。自由と平等と友愛の為ならば伝統と階級と家族愛という敵を倒す。戦争こそ自由と平等と友愛を実現する。

 宇宙に進出しても偉大なる存在は必要。人々に理想世界を提供する為にも。
 スペースコロニーの社会になっても人々は偉大なる存在を求める。自由と平等と友愛の為ならば。
 地球と呼ばれた星から約130光年離れた移民国家コロニー社会主義人民連邦……。
 スペースコロニー5バンチの別荘。
 二階の寝室で青年は絶え間なく偉大なる太母(ビッグマザー)への愛を誓う。
「ビッグマザーよ。僕はあなたを心の底から愛おしい! 父よりも、母よりも、祖父よりも、祖母よりも、そして……はあ信心が足りないな」
 青年は後一歩に踏み出せない自分を嘆く。
「僕の愛は浅い。明後日の集会までに愛を深めないといけない。信心が足りないと立派な共産党員になれないよ。ビッグマザーへの愛は本物なのに最後の一歩を踏み出せないなんて……ん?」
 青年は扉から発するノックの音に気付く。
「ブラムヘイム。入っていい?」
「ミーシャか! いいよ、入って!」
 開き戸式扉はブラムヘイムの声と共に内側の左に開く。中に入ってきたのは白髪で紫の瞳をした少女。どこか人間離れをした白い肌と煌びやかな髪。それでいて人々を魅了しかねない美しい容貌。
 彼女の名前はミーシャ・ルーシェ。ブラムヘイムと呼ばれる青年の婚約者。
「また悩みなの? 私に教えて?」
「監視カメラがある所じゃ勘違いで愛情省の人に捕まっちゃうよ」
「大丈夫。ブラムにはリボーズやマルシャやフォルフスコリーニやババロナがいるじゃない。あの人達が居ればすぐに釈放されるわ」
「そうだよね。でもそれが悩みじゃないんだよ」
「まさかまだビッグマザーへの愛が足りないの?」
「そうなんだ。僕がこんなんでは父さん達の力添えがあっても共産党から除け者にされちゃうよ」
「大丈夫よ。ブラムの愛は本物だから除け者にされる心配はないわ」
「本当? ミーシャが嘘を吐いてるんじゃないだろうな」
「まさかブラムが私を矯正するの?」
「するわけないじゃない。だってミーシャは僕がこの世で最も愛した人なんだから」
「駄目よ、ブラムヘイム。二番目に愛した人にしないと警報が鳴るわよ」
「御免。二番目だったよ、ハハハ」
「ふふふ……」
「でもね。やっぱり一番にしたいよ。僕の愛するミーシャ・ルーシェ」
「愛情省に捕まっちゃうわ。外に行きましょう、ブラム」
「外ってまさか……待ってよミーシャ!」
 針鼠の形をした監視カメラにブラムの後を追う。全身を光らせながら。
 二人がやってきたのは別荘の離れにあるコロニーの断崖。崖から眺める風景はスペースコロニーらしく絶えず変化する宇宙の様子。二人は崖にある人工的な草原に尻を付ける。
「いつまでもこんな日々が続くと良いね、ミーシャ?」
「はい。私の愛するブラム」
「誰にも譲らないよ。父さんや母さん、お祖父さんやお祖母さん、それにミーシャへの愛は」
「私も譲らない。永遠にね」
「永遠……そうだね。僕達は永遠に愛し続けるんだね」
「約束できる?」
「もうしてるよ。君に」
 ブラムヘイムは仰向けに寝転がり、両眼を瞑りながら会話を続ける。
「幸せは誰にも侵せない。例えビッグマザーであってもね、ミーシャ?」
 一分経っても当の本本人からの返答はない。ブラムヘイム・リンドブルムは眼を開けた。すると--
「うわあああああああああ!」
 暗転。五年後へと戻されてゆく。
 場所はコロニー社会主義人民連邦5バンチ第3警尾官宿舎三階。とある個室。
 個室には一台の針鼠監視カメラが浮かび、寝台の正面にはホログラフが四六時中浮かぶ。
「うう、また悪夢。私は--」
 突然ホログラフからタンクトップを着た三十代半ばの女性が映る。
『おはようございます。ナンバー5-57-0127。
 朝です。7時です。今日は集会の日です。集会は朝9時に行いますので急いで警尾官服に着替えて出席しましょう。欠席をしますと愛情省より矯正通知が来ます。矯正を必要としない愛情溢れる人間でありたいなら出席しましょう。それじゃあ朝の体操を始めます。朝の--』
(朝の体操も集会への出席も人々にとっては日常。人々は日夜ビッグマザーへの愛を誓い続ける。家族よりも。愛が足りなければ愛情省で徹底した矯正が行われる。どんな内容かは知る必要はない。私自身はそんな事に興味はない。
 私が興味を持つのは復讐。父さんや母さん、お祖父さんやお祖母さん、そしてミーシャを殺した全てに復讐する事。私の復讐は誰に求める権利はない。例えビッグマザーであってもだ!)
 朝の課題を済ませた警尾官の巡査ブラムヘイム・リンドブルムは集会に出席する為に寮を出た。
(私の愛は家族とミーシャ。今では他の誰にも愛はない。私は復讐する為なら他人の愛を捨てる! 例えビッグマザーが相手であってもだ!)
 ブラムヘイム・リンドブルム。彼は復讐の先に何を掴むのか?


 冒頭から気持ち悪いと感じたあなた。それが正しい反応。もしも普通だと感じたならそれは病に冒されている証拠。とにかくジョージ・オーウェルの真似事をしてみましたけど上手くいきません。それだけ若くして墓の下に入ってしまったオーウェルの想像力と壮絶な精神状態は凄まじいの一言ですね。
 まあオーウェルと比べるのはこの辺にしよう。今回も先週と同じく出来映えを確かめました。舞台は移民船団国家。中身は宇宙に進出しても共産主義というゴキブリ思想が支配する理想とは真逆をゆく嫌な国。フランス革命のシンボルである自由、平等、友愛も蓋を開けてみると粛清につぐ粛清。矯正? いやいや反共の人なら誰でもわかるとおりあんなのはニュースピーク用語。言葉のレトリックだよ。
 とそれくらいにしましょう。この物語はどうゆう内容かを説明すると主人公である共産貴族の御曹司であるブラムヘイムが家族と婚約者を殺した者達に復讐するという実にシンプルだが極めれば行きすぎたお話。シンプルな部分である愛する者を殺した相手に仕返しする事はタランティーノの映画であるキル・ビルや谷口悟朗監督作品であるガンxソードなどでよくみかけるので珍しくありません。ただし、後者の部分が他とは違い行きすぎております。その部分は想像にお任せ下さい。
 物語をお読みになった方はこれがとても気持ち悪いと感じる理由を敢えて説明します。とにかく世界観がオーウェル原作の1984年の内容を知っていればこんな会話や説明など普通なのです。以上なのはどこまで異常な世界かと言う事です。ジョージ・オーウェルは従軍中に共産圏の兵士から発せられる会話を聞き、異常性に気付いた為、その体験を元に共産主義のおぞましさを訴えた2本のフィクション小説を書いた。それと同じようにこの試作品もオーウェル作品を真似る形で異常な世界観を出してみた。何が異常かはビッグブラザーにあたるビッグマザー。愛情省と言う名の粛清機関。何よりも主人公であるブラムヘイムの価値観も家族も異常としか言いようのない空気を醸し出す。まだ他にもありますがこのくらいにしましょう。
 なお今回はネタが思いつかないので暖めておいた作品を文章に表してみました。いやはやまだまだ修行しないと駄目だな。まあ次週からは自分の好きな時事ネタを書くかも知れません。
 以上で試作品の解説は終り。

 では二十六話の解説に入りたいと思います。今回は海が舞台という事もありましてシリアスに行かせてもらいました。主人公は二十五話と違って最弱になってます。怠け癖はあるわ、雌にうつつ抜かすわ、すぐに突撃しようとするわで余り良い印象はありません。ただし最後は一命前(一兆年の夜ではこの言葉が普通)になってます。まあ描写不足は心より申しわけ御座いませんが(笑)。とにかく今回の物語は仲間と周りの部隊員の死を通じて主人公である秋山サバ克が海の厳しさを痛感しながら生きる事の意味を見出してゆきます。まあ最初と最後の方がダイジェスト風になっている事につきましては申しわけありませんがそれで許してください(苦)。
 それじゃあ今回出てきたパルメニデノスとは海で採れる海洋果物。作中にも書かれてますが、ホエンラ丙と呼ばれる酸味を感じさせる栄養価が豊富。皮ごと食べられる柔らかさと野球球並みの大きさ。一度食べたら後は病み付きになる味。海洋種族の舌に合った果物だ。ちなみにホエンラとは現代用語でビタミンです。そしてホエンラ丙はビタミンCにあたります。
 次に海中用雄略包丁は何かを説明します。これは海洋種族用に作られている為、斬るという用途はありません。突き一点を重視しており、魚系でも持ち運びできるように長さは成人体型コンマ七以下(約一メートル以下)で抑えます。そして刃と柄とは1:6。よって柄のどこからでも噛み運びしやすく出来ます。ただし先端の刃は銅であれ、鉄であれ海中に長時間付けると錆びやすいので普段は袋で包んでてもさびを抑えないと駄目ですが(そこもちゃんと書くべきだった)。
 真正細菌とは何なのかは海と言えばバクテリアがいますよね。それです。バクテリアだと思って下さい(辛)。
 まあ他にも説明したい事はありますが気分が乗らないのでこの辺にします。以上で第二十六話の解説を終えたいと思います。

 では二十七話も引き続き海洋種族の話を描きます。まあ深海生物を始めとして海は陸や空以上に生存競争の激しく、ややこしい世界です。それを描けたら十分です(苦)。
 じゃあ今後の予定をどうぞ。

 七月
 二十九日~八月三日  第二十七話 海洋藤原の伝統       作成日間
 八月
 五日~十日      第二十八話 大樹の銀河連合(前篇)    作成日間
 十二日~十七日    第二十九話 大樹の銀河連合(後篇)   作成日間
 十九日~二十四日   第三十話  母はそれでも強い      作成日間

 三十話から陸に戻ります。主人公はカンガルーですが。
 ではこの辺で。来週こそ時事ネタを書くぞ!

一兆年の夜 第二十六話 海は広いな、大きいな(八)

 午後十時九分十一秒。
 サバ克は持参した縄で出入り口の扉をこじ開けようとする。
(でえ圧力で扉が変形してきた。でえこのまま行くと縄を使っても開かない。でえその前に何としても扉を開けないと)
 扉は引き戸式。開き戸式だと少し開くだけで圧力により一気に流れ込む。その為、この船では出入り口に設置されてある扉は圧力に対応した引き戸式となってある。
(でえそれにしても開かない。でえ擦れ合う音がして大変危険だなあ。でえここまで圧力があると更に開けづ……開いた!)
 開いたが人族の拳くらいだった。鯖族が入るには適さない。
(でえあと少しなんだ! でえあと少しだけ開いて!)
 縄の中心は今にも千切れそうだ。苦しみの音が中心で響き渡る。サバ克はそれでも引っ張る--死んでいった者達の為にも!
(でえ開いてく……千切れた!)
 サバ克は右鰭部分から壁に強打--壁は脆いのかサバ克の身体の形くらい凹む!
(でえ意識が……それよりも! でえ扉はどう)
 サバ克は空腹感と眠気に襲われ始めながらも扉の方に近付く。すると僅かではあるが彼のからだが入るくらいの幅は開いた。
(でえやった! でえようやく--)
 安心するのも束の間だった--背後から数十以上の若布型は真正細菌型を纏ってサバ克に襲いかかる!
(でええ! でえそんな! でえこんな時に!)
 サバ克が諦めようとしていたその時だった!
「うおおおおオオオオオ! 救出作戦の功績はこんな所デモ発揮させてモラウゾ!」
 体中のあちこちに黒点を刻みつけながらも仲間の為に命を懸けるエピクロ鯨族の青年ワルシャーワン・ホエンラドンは巨大な口でサバ克を守るように銀河連合を呑み込んでゆく!
「でえホエンラドンさん! でえ銀河連合は--」
「私はいいと言ッテルだろ! お前は早クココカラ脱出しろ! 約束シタだろ!」
「でえでも--」
「圧力で閉ジル前に早ク出ルンダアア!」
「……でえはい!」
 サバ克はホエンラドンとの会話を思い出す--それ故に彼はホエンラドンを最後まで信じて僅かな幅しかない出入り口に入ってゆく!
「『さよなら』は言ワナイゾ!」
 それがワルシャーワン・ホエンラドン最後の言葉。彼の身体に刻まれた無数の黒点から何かが勢いよく飛び出す。それらはやがて彼を骨にした!
 ワルシャーワンの死と同時に船は沈んでゆく。沈むと共にしたから押し潰されてゆく。それはやがて海中部隊の区域全てを押し潰し、更には船を中心から真っ二つに押し上げた! もはや鬼ヶ島奪還作戦で活躍したそれらは二度と元の形に戻る事は叶わない。海底深くに沈んでゆく……。

 午後十時十分零秒。
 場所はエピクロ海。鬼ヶ島寄り。
(でえ僕は……僕は……僕は……。でえ僕は結局誰も救えなかった。でえ銀河連合一体も死なせることも、でえ誰かを守る為に強くなることも、でえ僕自身で成長することも出来なかった。でえそんな僕を生かしたみんなにどうやってお返しをすればいいんだ? でえ教えて欲しい。でえほんの少しでもいいから……)
 只一名の帰還者である秋山サバ克は海の神様に懇願した。声を発するなんて事は叶わないのはわかっていながらひたすら懇意に願い出た。活性炭入りの袋三個全てを手放してでも。
(でえ僕は無力だ! でえ僕は弱いんだ! でえ僕は戦いだって出来ないんだ! でえそれでも僕は海と共に生きないといけない! でえ海の神々は広い心で僕を包み込む! でえ大きな心で暖かく慰める! でえ愛情深く僕をお叱りで在られる! でえ『船を沈めた責任を取れ』と解釈しながらでも! でえ僕は……僕は!)
 彼は沈んでゆく船に背を向けると陸上部隊と空中部隊のいる鬼ヶ島へと鰭を動かしてゆく……。

 ICイマジナリーセンチュリー八十六年七月二十六日午前六時三十分四十五秒。
 場所はエピクロ海。船が眠るちょうど真上。
 齢三十四にして五の月と十六日目になるルケラオス鯖族の中年は今日も活性炭
入り袋を三個沈めて黙祷。
(でえあれから十六の年が経つ。でえ俺は鬼ヶ島周辺海域で一生暮らすと皆に宣言
したけど、でえ生活は大変だ。でえ差し入れがない日はどうやって食にありつけるか
に苦労したよ! でえ海は快くなく、でえ時々痒くなったり、でえ熱を出して倒れ込む
事だってしょっちゅうだったよ。でえそんな生活でよく俺は十六の年もの間を生き
抜けたな。でえ多分伯父さん達が見守ってくれたお陰だと俺は今でも信じるが)
 秋山サバ克は十六の年もの間、陸上部隊隊長と空中部隊隊長がどうなったかに
ついて興味津々だ。
(でえ傭兵シカット・ムーシは四年の駐在後、でえエピクロ市に戻り、でえそのまま
ルケラオス港で北の大地であるアリスティッポス大陸行きに乗る。その地を食らう
白熊型銀河連合と壮絶な相打ちを果たす。でえ日付は確か
ICイマジナリーセンチュリー八十四年一月二十一日の出来事だったから彼は当時三十だったな。
でえ傭兵業を最後まで捨てない彼らしいな)
 続いて空中部隊隊長ハルブス・ハルトマンのその後をエラ会話で独り語りする。
「国家神武坂井組の組員であるハルブス・ハルトマンはシカットと同じく四年の駐在
の後だな。羽根付き指揮官型との戦闘の傷が元でエピクロ市に戻るとすぐに軍者を
引退。その後は同じく引退していた坂井ブク郎と共に全生命初となる商業本を市場
に売り込み、百万部を記録する人気を博す。まあ本自体が商業に参加する事自体
が珍しい事もあってではあるけど。でだ、ハルブスは現在も元気に暮らしてるよ。
齢四十の現在も雌に惚れられないけど」
 そして最後に秋山サバ克自身を自らの口で語る。例え誰にも聞こえな声で
あっても。
「でえ俺は現在は家庭を持つ。でえ妻は誰かって? でえ想像してくれ! でえ俺の
子供は現在六十九名目が生まれようとしてる。でえいや七十七名目かな? でえ
まあ魚系は子供の数を正確に数えない生命体だから仕方ないか)
 最後に両眼を限界まで開いた--その眼は十六の年より前とは比べものになら
ない力強い光を放つ! そう、彼は年月を経てようやく成長する事を果たした。
「でえ俺はルケラオス鯖族の雄、でえ秋山サバ克。でえ俺は俺の道を今も泳ぎ続け
る! でえこの広く大きな海をただひたすらに……」




 ICイマジナリーセンチュリー八十六年七月二十六日午前六時三十二分四十八秒。

 第二十六話 海は広いな、大きいな 完

 第二十七話 海洋藤原の伝統 に続く……

一兆年の夜 第二十六話 海は広いな、大きいな(七)

 三名はそれぞれ報告し合い、三名とも苦悶の表情を隠せない。特にサバ克は伯父の命があと僅かという報告を聞き、涙で視界を阻まれそうだった。
「涙を堪えろ! 雄たる者は一命前の雄の覚悟に涙していいのは隙を見せていい時だけだ! ここはそれに相応しい状況じゃないぞ!」
「それでも伯父さんはたった一名の伯父さんなんですよ! 伯母さんが悲しんだらどうするんですか!」
「サバ香の事か? あやつにはいつだって万が一のことは伝え続けておる。それでもあやつを悲しませるのならお前が生きて慰めればいいだろ?」
「勝手すぎますよ!」
「雄とはいつだって意地を張る為なら勝手をしたがる性よ!」
「格好付けて申し訳ないけど、そろそろ今後についてどうするか決めて下さいよ隊長さん?」
 二名の会話に業を煮やしたのかサバ次が割り込んだ。
「身内だからついつい私心に泳いで申し訳なかった! 今後についてだろ? ここから脱出するぞ!」
「じゃあ早速--」
「待て! 脱出する前に俺に巣くう銀河連合や船内に残った若布型に一泡吹かさねばならない!」
「? 伯父さんは何をするの?」
「船内の圧力を高める」
「まさか船で銀河連合を挟むのか? 一歩間違うとわしらまで挟まる危険があるぞ!」
「やるしかないだろ? 俺にはもう残された時はない!」
「で、でもどうやってやるの? 僕達の持ってる雄略包丁じゃ穴を開けるのは--」
「俺に巣くう銀河連合は脆い壁を示してくれる!」
「まさか信じるのか! 隊長さんともあろう方が銀河連合を!」
「真正細菌族はどうやってここに入ってきたのかを考えれば自然とそう考える。行くぞ、二名とも!」
 サバ吉は二名と共に船の解体作業に取りかかる--残りの命を燃やしても!
(でえわかるのかな? でえ僕達の入れる区域はこことそれ以下の所しかいけないのにそこに穴を開けて挟ませるなんて)

 午後九時三分二十三秒。
 場所は海中部隊倉庫。ここには様々な道具が保管されてある。
「伯父さんはここに穴があるの?」
「単純に必要な道具を取りに来ただけだ」
「何だよ、がっかりしたよ」
「すまな……い!」
「伯父さん!」
「心配するな。まだ、動ける」
「早くしよう! 若布型が来たらこれらの道具もどんな穢れ深く使うか分かったものじゃないぞ!」
 三名はルケラオス製の縄成人体型二千分と海中雄略包丁用の袋十個と海中雄略包丁八個、活性炭入り袋七個を持参して倉庫から急いで出て行く。
(でえ伯父さんも心配だけどホエンラドンさんは今頃どうしてるかな?)

 午後九時二十二分二十二秒。
「ここが脆そうだ!」
 サバ吉は今にも刃が欠けそうな雄略包丁を咥えながら勢いよく刺す--壁は僅かに凹む。
「凹むということはここも真正細菌型の囓った後があるってことか!」
「僅かに凹むだけでは良くない。圧力によって挟むには中ぐらいまで凹ませないと良くない。次だ!」
 サバ吉は他にも囓った後のある壁を探す。
(でえ僅かじゃあ圧力はかからない。でえ伯父さんの命が消える前に一つでも穴を開けないと!)
 サバ吉の視力は徐々にぼやけ出す。それでも全体を見ることで脆そうな壁を見つけるとすかさず刺す!
「中ぐらいか! 急いでここから離れるぞ!」
「え? 何て伝えたんですか、隊長さん?」
「もしかして伯父さんの眼は--」
「いいからここから離れろ!」
 ようやく伝わると瞬きの差ギリギリで三名は見えなくなるほど離れた--すると壁は穴が開くほど変形し、そこから海水が勢いよく押し込んでゆく! 押し込まれた海水は陸上部隊の区域に圧力を掛けてゆく……。

 午後九時五十八分五十九秒。
 サバ吉は脆そうな壁を発見すると次々に海中雄略包丁を刺す。そうして彼は五本物雄略包丁を消費し、現在咥えてるのは六本目になる。
「隊長さん! 何だか上の方から鉄が圧迫するような音がするぞ。もしかすると--」
「もうすぐこの船は沈む。そう……な、れば、あ、ふ、ね--」
「伯父さん!」
「大丈夫だ。船の水位が上がれば比例する形で船が浸かる体積は増す。この船は下から押し上げる海水によって陸上区域と水中区域を分かつ二重構造は伸びきり、やがては--」
 どこかの一部が船中に響く音を出す!
「何だ? 耳が聞こえなくなりそうな強烈な音は!」
「こうなればこの船は海の藻屑となる! 急いで脱出するぞ!」
「船に挟まれたら碌な死に方をしないだろう! わしはそんなの御免被る!」
「僕も同様です!」
 三名は船首方角にある出入り口目指して泳ぐ!
 だが、サバ吉の肉体は限界に近付きつつあった!
「隊長さん! そんな遊泳速度じゃあ間に--」
「お前……らは、いそ、げ」
「伯父さん! そんなのでき--」
 サバ次は捉えた--サバ吉の背後に楕円を描くように高速接近する物体を!
「危ない、隊長さん!」
 サバ次はサバ吉をサバ克の方へ飛ばすと楕円の物体に縦に咥えた雄略包丁を向けて突進!
「サバ次さん!」
 サバ次は物体--銀河連合若布型--を倒す!
「心配するな! わしはそう簡単に死な--」
 それが塚本サバ次最後の伝言となる--隙を見せたところを右横から楕円に突進して斜めに胴体を切断! さらには逆方向より逆斜めに切断!
「サバ次……く、ん」
「ああ、ああ?」
「俺よりも生きられるのに!」
 二体の若布型は四等分したサバ次の死体を包み込むや両目ん玉と背骨を取り出すなりそれを数珠状に繋げた!
「何、がしたい? あんた達は何がしたいんだよ!」
「やめろ……。奴等にエラ会話しても意味はない。怒りをぶつけるのはやめるん、だ。お前はここから--」
「絶対に死なせてやる!」
「腰砕け!」
 サバ克は怒りの余り二体へ特攻を掛けようとするが、サバ吉は先回りして彼を二体から離すように吹っ飛ばした!
「伯父さん!」
「行け! 俺は命を懸けて奴等を倒す! お前は生きて生きて生きるんだ!」
「伯父さん!」
(でえ伯父さあアアアアああん!)
 サバ克は船首方角にある出入り口へと流されてゆく! 彼は徐々に遠くなるサバ吉を見続ける! サバ吉は真正細菌族に刃毀れさせられた雄略包丁を咥えながら今にも包み込もうとする若布型二体に最後の特攻を仕掛けてゆく!
 今際の際はどうなったかは永遠にわからなくなった。ただわかることは若き伝説は永遠に戻らない……。

一兆年の夜 第二十六話 海は広いな、大きいな(六)

 午後七時二十三分二十四秒。
 場所は鯨族区域。壁は鯨族の巨大な音に耐える為に通常の二倍の四重構造と成る。鯨族六名分は入る大きさだ。
 二名が入った時の第一印象は……真っ赤な世界だった!
「骨がでかすぎて何名の鯨族が死んだのかわからない! 気を付けろ、サバ克! 中に銀河連合が潜んでるかも知れ--」
「もう潜んデル。私の体中ニ」
「あなたは?」
 二名が見た生存者は成人体型六に満たない巨大な鯨。彼こそはエピクロ鯨族にして海中部隊隊長ワルシャーワン・ホエンラドン。
「ホエンラドンさんか?」
「エラ会話は必要ナイ。私ハ鯨族。特殊な波を送ル。自分の咽で会話シロ」
「でええ? でえ口で話せるの? でえ本当に話せるの?」
「でえあんたは海中部隊隊長のホエンラドンさんか?」
「そウダ。私の名前はワルシャーワン・ホエンラドン。エピクロ鯨族の偉大ナル雄……のハズダッタがもうそれは過去ノ話」
 ワルシャーワンの身体は無数に囓るモノが湧き出る。その意味するところは--
「でえ銀河連合! でえどこまで穢れ深い奴等だ!」
「でえ刺せないよ! でえ刺すとホエンラドンさんまで」
「刺シテモ無意味だな。銀河連合は細カイ。急所には当タラズそのまま増殖スル」
 それは即ちどう転んでもワルシャーワン・ホエンラドンに待っているのは避けがたい死であった。
「でえ話を変えるぞ! でえホエンラドンさんは知ってるよな? でえ海中部隊長ならここにいる骨がどうなったかを!」
「全ては私に寄生スル真正細菌型が原因。奴等は菌にまで形を変エルことが出来る。そのせいで瞬ク間に仲間達が死んだ」
「でえ真正細菌?」
「でえ真正細菌族はわしらとは異なる系統だ。あいつらは言葉を持たないがわしらを日頃から助ける頼もしい奴等だ!」
「でえそれが銀河連合だと恐ろしいモノになるの?」
「でえああ! でえ土壌が死んでゆくのは今思えばひょっとすると--」
「でえ真正細菌型が原因なの!」
「だとしたら背後に近付く気配はまさか--」
「私が庇ウ! お前らは逃ゲルンダ!」
 ワルシャーワンは二名に近付く微少な銀河連合に食われる覚悟で突進--二名は左に避けた!
「でえこれ以上囓られたらさすがの部隊長さんでも!」
「私のことはイイ! お前らはサッサトここから逃ゲルンダ!」
「でえそんなのできな--」
「まだ未熟のヨウダナ! お前も雄なら私を助ケルことは自身の死期を早メルゾ! さっさと私ヲ見放せ! 例え神様へ申しわけが付カナイ行為だとしてもだ!」
「でえそうゆうことだ! でえ部隊長さんの覚悟の為にもここを出るぞ、でえサバ克!」
「……でえわかりました! でえそれでも僕はホエンラドンさんなら生きて帰ると信じます! でえですので僕はさよならなんて言いません!」
 サバ克はホエンラドンに希望を託した--ホエンラドンもまた希望を託すサバ克に僅かな期待を寄せた。
「お前も生キルンダ! そう言った以上は生きて帰ラナイト私は想念の海に旅立タナイゾ!」
 そう言ったのを最後に口会話は終了した。
「行きます!」
「全力でここから脱出だ!」
 二名は入ってきた出入り口の反対側にある一般海洋種族用の一階に通じる出入り口を水圧を抑えながら速度を上げて泳ぐ!
(でえこの事実を伯父さんに伝えないと!)

 午後八時三十七分二十七秒。
 場所は海洋種族用二階食堂。
 そこには秋山サバ吉と客員組長タケミカグノアララギがいた。
「二名は無事脱出できたか?」
「坊やは二名の底力を信じないのか?」
「そうだな。それにしても死体だらけだ。供養するのは厳しいぞ」
「ああ、そうだ……なな?」
「どうした、アララギ殿?」
 アララギは白目を剥いたまま二度と意識は戻らなくなった。
「さっきから痒いと思ったら……俺もいずれアララギ殿と命運を共にするか?」
「どうゆうことなの、伯父さん?」
「『どうゆうことなの』と伝えたのか? どうしてここにいる、サバ克!」
「それはわしも同じですよ、隊長さん」
 三名は合流した。それはサバ克にとって更なる悲劇の始まりでもあった……。

一兆年の夜 第二十六話 海は広いな、大きいな(五)

 午後六時一分二秒。
 場所は第一空き室。
「ここにはおらんのう」
「でも……骨が散乱してる」
 既に食われた隊員の死体を見てサバ克は目を逸らそうとする。
「逸らそうとしても自然と目は死体の方に向くのじゃ。本当に逸らしたいのなら死体を直に見るのじゃ」
「吐いても良いんですか!」
「水中では嘔吐物を片付けるのは苦労するが、状況は一刻を争う。今の内に吐け!」
「そう伝えられても吐く気にならなくなりました。これって僕の頭が変になってるんですか?」
「老いぼれに比べれば正常じゃ!」
 そうしてサバ克の心を安定させたサバルバは空き室から出て行く--海中雄略包丁を咥えながら隙を見せずに!
(でえお爺さん離れてるなあ。でえ僕はそんなに用心深くなれないよ。でえ咥えたままでも一々分けて行うんだから)
 そう思いながらもサバ克は海中雄略包丁を横に咥えながらゆっくりと無理せずに出て行く。
「そうじゃ。別に老いぼれ達のようになれた捌き方をしなくてもいいのじゃ」
「でも銀河連合が万が一に僕を狙ったらどうしよう」
「その時は老いぼれの全身全霊を掛けて小僧を守りきるぞ」
「でも死んだら良くないよ。僕は死者を見るのは好きじゃない」
「それでも人生に於いて死者を見る機会からは逃れられん。特に海洋種族はその機会が多い」
「良くない機会だよ!」
「まあ死者は穢れを纏うと聞くがの」
「聞いたことないよ、それ」
 二名は下らない会話をしながら心を平常に保つが……。
「何かの気配がする!」
「まさか銀河連合?」
 サバルバは振り返る--そこには右鰭を食いちぎられた鯖族の別隊員。
「助け--」
 隊員は若布型に包み込まれるように食われてゆく。
 遅れて振り返ったサバ克は口と共にエラを動かす。
「銀河連合!」
「口を動かすな! 雄略包丁を手放すぞ!」
 エラ会話に気付いたサバ克は慌てて持っていた海中雄略包丁を強く掴んだ!
「んん? どうやら背後にも銀河連合が来たのう」
 サバ克は同じ方向に周りながら振り返る--サバルバの読み通りだ。
「本当にいる! しかも若布型が……三体?」
「どうやら四体に増やしたのう」
 サバルバの方角に二体。サバ克の方角に二体……訂正して三体。合計五体が二名を食らおうと流れてゆく。
(でえこんなのないよ! でえ若布だからって本当に増えるのはどうかしてるよ! でえどうかしてるのは僕の方かも知れ--)
「老いぼれ達は正常だ! でないと銀河連合に隙を与えるぞ!」
「え、え? ああ、そ、そうだよね。僕達の方が正常だもんね」
 徐々に距離を縮める五体の若布型。サバ克は恐怖心と葛藤する。
(でえ恐い! でええ、でええ、でえ恐い! でえでも恐い自分に打ち勝たなくて何が秋山サバ克だ! でえ『克』とは『克服』って意味でいいだろ! でえ『何かに打ち克つ』という意味だろ! でえ打ち克つぞ!)
 サバ克は無謀な行動に出た--目の前の三体から中央に向かって特攻を仕掛ける!
「腰砕けな事を! それは勇敢とは言わないぞ!」
 サバ克に向かって若布型三体は一斉に包み込もうとする!
(でえな、でえ何だあ! でえええええうあああああ--)
「小僧はやらせんぞ!」
 寸前で後ろに飛ばされたサバ克は水圧で勢いが落ちながらも若布型三体の方へ目を向ける!
「お爺さん?」
 エラ会話はもうサバルバに届かない--中央の一体は倒せたが残り二体に呑み込まれ、全身を貪られてゆく。
 それは水中でもサバ克の耳に届く--紙を引き裂くような快くない現実の音を!
(でえ僕のせいだ! でえ僕が勇敢と無謀を違えたせいだ! でえ僕は……ああ、でえ後ろにも銀河連合が!)
 二体の銀河連合が飛ばされたサバ克を捉えるように近付き覆い被る……その瞬間だった!
「サバ克をやらせるか!」
 サバ次が二体まとめて串刺しした!
「サバ次さん! 来てくれたんだ!」
「ああ、ところ……くそ! サバ音ちゃんに続いて爺さんまで! 許さないぞ、銀河連合!」
 サバ次は勢い付けて引っこ抜くと左下に弧を描くように周りながら勢いを付けてサバルバを食べる二体に向かって突撃!
「良くないよ! 僕みたいにな……らない? 串刺しにしたよ!」
 ちょうどサバルバの骨だけの死体に傷を付けずにサバ次は同様に貫通させた!
「こんなことをしても爺さんは戻らない。わしが格好を付けてどうする!」
「サバ次さん。僕は、僕は--」
「独房送りを決めるのは隊長さんの仕事。今は死にゆく者の為にも銀河連合を片っ端から倒すしかないぞ、サバ克!」
「でも僕のせいで--」
「甘ったれるなら後にしろ! わしだって甘ったれたいのに隊長さんは副長二名と客員組長と共に二回で戦ってわしだけ除け者! わしだって甘ったれたかったんだよ! わかるか、この気持ち!」
 鬼気迫るサバ次の迫力に押し負けたサバ克は泣き言を伝えるのをやめた。
「わかったよ。サバ次さんの気持ち……確かに受け取りました!」
「ふう、ようやく楽に出来るな」
 サバ次は一の分もの間、一安心をした後--
「じゃあ行こうか、サバ克!」
「はい、サバ音さんやサバルバお爺さんの為にもこの区域にいる銀河連合を倒しましょう!」
 二名は進んでゆく--海上部隊のいる区域へ。
(でえでも安心できないな。でえサバ次さんは頼もしいけど、でえ何か引っかかる? でえ何かが後を追ってるような?)
 サバ克の予感は的中--背後には凝視しないとわからない銀河連合が壁を食い荒らしているのを……。

一兆年の夜 第二十六話 海は広いな、大きいな(四)

 午後五時一分二十二秒。
 場所は第五空き室前。
「言ってきます、サバ音さん!」
「若布型はあれだけとは限らない。何せホエンラドンが数字を表せない以上かなりの数が入ってきてるぞ!」
 二名は残りの若布型を倒しに船内を泳ぎ回る!
(でえならばサバ音さんのような死者をこれ以上出さないためにも見つけ出さないと! でえ塚本さんとサバルバお爺さんと合流しないと!)
 そう思った瞬間、偶然にも二階へ通じる階段近くでサバ次とサバルバと合流した。
「サバ吉どんとサバ克の小僧かい。老いぼれ達はちょうど若布型を発見して現在三体は倒したぞい」
「三体もいるとは恐れ入った! わしらでもあの体型は厄介だ! 若布である以上まだいそうな気がするぞ!」
「若布型である以上か。入ってきた数よりも増加してる気がする。俺達は手遅れになる前に全てを見つけ出して倒すぞ!」
「ところでサバ音ちゃんがいないようじゃが?」
「……」
「サバ克よ! 何故エラで伝えない?」
「俺が伝えよう。サバ音君は死んだ」
 事実を知った二名の表情は水中とはいえやや歪みを生じる。
「また老いぼれよりも先に行く若者が出てくるとはのう。今度は二十にも成らないぴちぴちの少女がのう」
「わ、わしは悲しむ暇がないのでと、とりあえず探そうよな、隊長さんや」
「サバ次君の言うとおりだ。サバ音君の死を悲しむのは若布型を全て倒した後でいいだろ、サバ克?」
「そうだよね。そうしよう!」
「それじゃあ決まりだ! わしらは--」
「部隊長は俺だ。俺が決める! 二手に分かれるとしたらサバルバのおやっさんはサバ克と共に行動してくれないか?」
「老いぼれに小僧のお守りを押し付けるんかのう?」
「良くないか?」
「いや、いいじゃろう。小僧にはまだまだ甘やかしたい気分じゃて」
「だ、大丈夫なの? サバルバお爺さんと一緒で?」
「心配無用だ。人生経験は俺より長い。その分だけ俺にはできない事をおやっさんはする。それを期待してお前とくっつけた!」
「ま、まあそれなら話が早い! じゃ、じゃあわしらはさっさと行こうか! んでどこに行く、隊長さん?」
「俺達は二階を捜索するぞ!」
「じゃあ僕たちはここを?」
「そうじゃのう。まあ鯨族の区域に入るかも知れんのう」
「じゃあ俺達は鰭を動かすぞ! エラ会話はここまで!」
 二組、二名づつそれぞれの区域を捜索し始めた!
(でえ僕の力であいつらを倒せるのか? でえ僕にはとても自信がないよ!)
 サバ克は未だに成長の鍵を見つけられないでいた。広い海をくまなく探すように……。

一兆年の夜 第二十六話 海は広いな、大きいな(三)

 午後四時六分十二秒。
 場所は海洋種族用海中部隊会議室。通常の部屋と大差ない広さ。
 部隊長と副長二名、そして客員組長が一名。合計四名で会議をする。
 現在会議を開いてちょうど一の時が経つ。現在主張するのは左方副長である齢三十七にして一の月と一日目になるセネカ秋刀魚族の明石サン造。
「……皆に配るお金がこんだけじゃあ指揮に影響しますぞ。俺はこんな季節でも故郷に出来るだけ早く持ち帰るべく働いてますのに。たった五万マンドロンではどうかしますぞ。海洋種族用に精度の高い意志で出来た硬貨でも軽過ぎちゃあ故郷のカミさんは満足しませんよ。もっと--」
「サン造はお金しか頭にないのか?」
 途中から話に割り込むのは右方副長である齢三十六にして十の月と二十七日目になる仁徳鰯族のイザヤノイワシムカイ。
「イワシムカイもたくさんある方が生活に困らないだろ? 世の中はお金が大事だよ。お金はたくさんのものを買うのに必要だからな。でなきゃ--」
「長い! お前の話は長いんだ! わしは一生食べられるお金があれば十分だ。金稼ぎは二の次だ!」
「お金の話はここまでにしろ。俺達の任務は鬼ヶ島周辺海域を浄化させるべく活性炭入りの袋を配置すること! それを忘れるな!」
「わかってるよ、秋山の坊や。それを防ぐ者達が中に入るんだよねえ」
 サバ吉を小さく腰砕けに見るのは客員組長である齢三十二にして六の月と二十八日目になる応神?族のタケミカグノアララギ。
「銀河連合! 奴等のせいでどれだけの同胞が海の藻屑と消えたか!」
「遺産も大変な額でしょうな。未だにそれを保証できる制度が出来れば残された者も生活に困らないはずなんでしょうが。未だに国家神武ではそれを作る土台が--」
「それは国家神武に任せるんだ! とにかく銀河連合はやることなすことが正々堂々ではない! わしはどんな曲芸を持ち込まれても奴等を倒す! 一体残らずな!」
「『一体残らず』と伝えたのか? 某は目がぼやけて大変だな」
「エラ会話でもはっきりわからない仕草もあるんだね。水中において口で話せない以上は俺もエラの動かし方に困るね。少しエラの動きを間違えると伝えたいことまで間違うんだし! 俺はいつも困って--」
「とにかくこれだけは断定できる! 奴等は必ずこの船ごと--」
「緊急事態ダ! 海ヨリ特定困難な銀河連合現る! 繰り返ス! 海ヨリ特定困難な銀河連合現る!」
 突然、齢二十九にして四の月と九日目になるエピクロ鯨族の青年にして海上部隊隊長ワルシャーワン・ホエンラドンが船全体を大きく揺らしながら警告を発する!
「塩水の調整は苦労してるってのにホエンラドンの腰砕けは!」
「怒るなや坊主。某達はやれることを上手くやって部下を救わねばな」
「それじゃあ行こうか!」
 四名は急いで会議室から出た!

 午後四時十三分三秒。
 場所は海洋種族用第二空き室。
(でえ苦しい! でえ海水を間違って呑み込んじゃった! でえ辛くて苦しい!)
 サバ克は突然の警告で体内に含まれる海水を謝った調整をして、しばらく苦しむ。
(でえそりゃそうだよ。でえパルメニデノスを食べてる時にホエンランドンさんの警告が発したんだから。でえ間違って塩水を呑み込んでもおかしく……何で若布が入ってくる?)
 穴から若布が生きてるように入り込む--サバ克はそう思い込んだが……。
(でえ違う! でえ透き通った若布なんて聞いた事ないよ! でえ内部に血管が出てる若布なんて聞いてないよ! でえ間違いなく銀河連合! でえ僕は逃げないと!)
 逃げなきゃ食べられる--そう思ってもこの部屋は命令を守らない者を反省する為に送り込む。なので逃げないようにする為、扉には鍵が掛けられている。
(でえうわあああ! でえどんどん近付いてる! でえこのままじゃあ本当に--)
 突然扉は部屋の方に開く--そこからサバ音が飛び出す!
「サバ克君! これを渡すわ!」
 口に咥えた海中式雄略包丁を口で掴んだサバ克だったが、咄嗟に抵抗する余裕はなかった!
(でえやられ……え? サバ音さん?)
 サバ克の眼前でサバ音が若布型に右エラごと抉られ、口から赤い水泡を数え切れんばかりに溢れ出した--彼女は二度とエラ会話をすることは永遠に有り得ない。
 突然の出来事にサバ克は身動き一つ取れない。
(でえサバ音さんが死ぬ? でえ恋者はどうなった! でえサバン通さんの為に生きるんじゃなかったの? でえあれ? でえこんな事が--)
 骨だけになったサバ音の死体を放り出した若布型は今度こそサバ克を食らおうとゆっくりと近付く!
(でえ僕もサバ音さんみたいに骨に……あれは伯父さん!)
「部下をやらせるか!」
 サバ吉はサバ克に触れる寸前で海中雄略包丁を咥えて素早く若布型に接近--中心部に刃を突き立てて、即死させた!
「ありがとう、伯父さん!」
「若布型である以上、感触の方を心配したが何とかなったな!」
 サバ克は喜びはしたものの頭上に浮かぶサバ音の死体を気にしてか悲しみの方が勝った。
「悲しいか。サバ音君を救えないことが悲しいのか? それともサバ音君が死んだのを悲しむのか?」
「どっちもです! 僕は、僕は! 僕が命令を無視しなければ彼女を!」
「それなら俺にも責任がある! しかしだ! 責任問題を起こすことをサバ音君が望むか?」
「伯父さんに彼女の何がわかるんだ!」
「わからない! 死んだ者はどこまでも口を開けない以上はな! だが、意志を読むことなら俺達は出来るはずだ! そうやって俺達は生きてきたんだ! それを大事にするんだ!」
「穢れ深いよ、僕達海洋種族は!」
「海を流浪する以上は穢れを避けて通るなど出来ようか! 俺達は死んだ者達の為にも流浪するんだ! この広い海をな!」
「はあ、伯父さんはいっつも脱線するよな。今は鬼ヶ島の清掃が大事なのに!」
「お前も同類だろ? 俺を腰砕けに見る暇があるなら少しは成長しろ! でないと骨になってもサバ音君は--」
「もういいよ。僕も成長しないとならないってことは! 僕に出来るかな、成長なんて!」
「お前次第っってことだろ?」
「曖昧だよ」
 サバ克とサバ吉はサバ音の死体を運んでゆく。運び先は海洋種族用第五空き室。そこは他の部屋と違い、やや冷えた部屋。遺体を安置するには最適だ。

一兆年の夜 第二十六話 海は広いな、大きいな(二)

 午後二時二分四秒。
 場所は海洋種族用第二空き室。別名は独房。
 秋山サバ克は伯父にして隊長である秋山サバ吉におよそ二の時もの説教を受けた。その後、彼は無理矢理引っ張られ、独房に送られた。
 独房に入れられた者はおよそ一の週はそこで生活しなければならない。肝心の食糧は海洋種族用の食堂で働く鱈族の熟女が運んでくる。ただし、儀礼が重なる場合は運ばれることが無く、空腹に耐えるしかない。
(でえ全く叔父さんも大人げないな。でえいくら国家神武で定めたこととはいえ一の週もここにいるのは良くないよ。でえあーあ、でえサバ梨ちゃんと石版のやりとりがしたいよ。でえ寂しがってるだろうに。でえん? でえ誰か来た? でえ食堂のおばちゃん?)
 やって来たのは齢二十八にして八の月と二十九日目になるルケラオス鯖族の青年。先程までサバ克を説教し、独房に放り込んだ者。
「伯父さん! ようやく出れるって事?」
「異なるな。出る条件にもう一つ追加しなくてはならないことを伝えに来た」
 それを聞いてサバ克は鰭をダラしなくしてしまう。
「そこまで落ち込むな。追加条件はお前の為になるぞ」
「どんな条件?」
「『万が一の命材不足が発生した場合は現場指揮官の判断に任せる』とのことだ」
 それを聞いたサバ克は--だったらここから出してよ--とエラで懇願するもののサバ吉は規律を守る軍者故、身体を横に揺らす。
「あくまで万が一だ! それに現場指揮官の判断も加わるとサバ克は期日通りここで暮らすことになるぞ。わかってるのか?」
「でも緊急時じゃない! 僕が居ないとみんなが明るく--」
「仲良しごっこは軍以外でやれ! ここは軍だぞ! 軍である以上、俺は軍規を最優先する! 穢れ深いがわかってくれ!」
「はいはい……」
「『はい』は一回で済ませろ! 俺は忙しいので帰るぞ! お前が必要だと思う時は必ず出すように伝えるからそこで身体の柔軟をするんだぞ!」
 サバ吉は身体を縦に振った後、左に振り返りながら独房の扉から離れた。
(でえサバ梨ちゃんに会いたいよ~。でえサバ梨ちゃんは僕をきっと心配してるんだよ。でえサバ梨ちゃんに……誰か来る? でえ今度は誰? でえサバ音さん? でえいや何か肌模様が異なる)
 擦れ違うようにやってきたのは齢二十三にして五の月と五日目になるラテス鯖族の黄色肌の青年だ。
「元気で何よりだ。ただ、これを読ませていいか迷う」
「塚本さん! 塚本サバ次さん! 励ましてくれたの!」
「励まそうと思って石版を持ってきたけど、読んでみると……まあ励ましにならないから良くないかな?」
「えっと……誰宛のもの?」
「お前の恋者……だった下野サバ梨さん宛だよ」
「『だった』? 何それ?」
「読むのか読まないのかと聞いてる? けど読まない方がお前の為だぞ」
「そんな伝え方じゃ余計に読みたくなるよ! 通してよ!」
「ま、まあお前の気が済むなら渡してやるよ。じゃ、じゃあわしはこの辺で」
 逃げるようにサバ次は扉から飛ぶように去った。残ったサバ克は内容を見た。するとそこには--
『敬愛していたサバ克へ。

 私、サバ克が遠くへ行ってる間に彼氏が出来ました。御免ね。

                         サバ克が愛するサバ音より』
 たった一行ではあるが、サバ克の心を粉砕するのに十分だった。
(でえ? でえ? でええっと? でえこれはきっと夢の内容なんだ。でえ僕がサバ音ちゃんに振られるわけないじゃないか。でえこれはきっと神様が与えて下さった夢の続きなんだ。でえこんなのいくら何でもあんまりだよ! でえ僕達で了承したことなのによ! でえ了承した、でえ事、でえなの……)
 サバ吉は両眼から水泡が溢れる。水泡は部屋全体に乱れるように当たってゆく。それだけ彼は失恋で心を痛める。
 そんなサバ克の様子を知らないのか、齢四十にして十一の月になったばかりのパルメニデ鯖族の老年が差し入れを口に掴みながら独房の外にやってきた。
「小僧や。元気にしてたか? おや、差し入れが嬉しいからって水泡が老いぼれの所まで来とるぞ!」
「帰ってよ! 僕は一名で悲しみたいのに!」
「差し入れを持ってきたのにつめ--」
「帰ってくれ!」
「差し入れは中に放り込むからから気が済んだなら少しかじってみるんだのう」
 一連の行動を済ました老年はゆっくりと立ち去った。
(でえうう、でえええう。でえサバルバのお爺さん伸さし入れでも食べて落ち着こうかな。でえん? でえこれはパルメニデノス! でえ海洋果物の一種で僕の大好物であるノス。でえその中でホエンラ丙が豊富なパルメニデノス。でえ酸っぱくて美味いはず……酸っぱい! でえでも生き返る! でえありがとう、でえお爺さん!)
 サバルバと呼ばれる老年の差し入れを美味しく頂くサバ克は徐々に立ち直ってゆく。その様子を外から眺める者がいた。
 サバ音もまた恋者から失恋の石版を送られ、傷心していただけに彼の心が修復する姿に感動していた--両眼から溢れんばかりの水泡を出して危うく独房に中に入りかけるくらい弾け飛んだ。
 だが、それでも二名は仲間として互いに慕い合う。これから訪れる悲劇を乗りきる切っ掛けになるように……。

一兆年の夜 第二十六話 海は広いな、大きいな

 サバ克は袋に詰めたルケラオス産の若布を食べる。
(でえ鬼ヶ島周辺の若布は食べられたものじゃないっておっちゃんが言ってた。でえ僕は活性炭入りの袋を設置するんだ。でえこれがおっちゃんは口五月蠅くて『ちゃんと距離を取っておかないと良くない』って言うんだよ。でえ五月蠅いよ、でえおっちゃんは)
 秋山サバ克は幼少の頃からサボり癖の激しい少年。全ての鯖族の行事である海洋横断の旅行でも途中の休憩地点で昆布を拾い食いした。戻ってきた鯖族の者は強引にサバ克を連れて行く事で期日までに横断を果たす。他には鬼ヶ島侵攻作戦で陽動任務に当たる時も彼だけ船に帰って拾い集めた石版でルケラオスにいる恋者に直撃文句を書いて送ろうとし、それを伯父であり隊長であったサバ吉に説教と独房送りを受けた。
(でえ僕は別にサボってなんかないよ。でえ若布を食べていつでも空腹にならないことも隊員の務めだよ。でえそれにしても武内産の若布はあんなに遠いのに流味が落ちて無くて美味いよ。でえ生き返る)
 サバ克は袋の中に入っていた若布を全て食べると深くまで沈む鬼ヶ島製の岩で構成された環状に向い、南側にある岩に生えた成人体型一とコンマ三もある巨大な海草に全身をもたれ掛かる。そのまま両眼を閉じて眠る。
(でえ食べた後は寝るだけだあ。でえ今日も一仕事を終えたし)
 眠りは僅か一の分も経過せずに同じ部隊に所属する齢十八にして二の月と十二日目になる海洋藤原鯖族の少女が口から泡を吹き付けて起こした。
「何する!」
「『何する』って何よ! こんな所でサボってないでちゃちゃっとしなさい!」
「えっと何を?」
「活性炭入りの袋は現在どこまで置いた?」
「二個だけど。いいかな?」
「目標は三十一でしょ! 何で僅か半の時をかけてたったの二個なのよ! もう手伝うから袋がどこにあるか教えて!」
「ここから北の方にあるよ。確か目印に若布入り袋を置いといたから」
「また摘み食いなの? 呆れた雄ね、サバ克君は」
「そっちこそ世話焼きが過ぎるぞ、サバ音さん」
 二名の会話は魚系なら誰もが行うエラ会話。よって人族のように標準的な会話になるのは当然である。本来はサバ克の思考が示すように『でえ~』訛り。
 だが、水中では声は出せない。声は通り難い。それを解消すべく魚系の種族はエラ会話を開発した。
「また隊長に独房送りされちゃうよ」
「見つからなきゃ大丈夫だよ」
「銀河連合みたいになってない?」
「恐いこと伝えないでよ」
 藤原サバ音と呼ばれる少女はほんの少し年下でありながらもサバ克にとって姉のように慕われる存在。ただし、恋憧れるほどの感情は彼女に抱かない。
「サバ音さんが部隊にいて嬉しいよ」
「偶然サバ克君のような怠け鯖に出会っただけよ」
「それでも居てくれると助かるよ」
「まあ礼を言われると誰だって嬉しいんだから」
 同じようにサバ音もまたサバ克を慕いはしても恋憧れるほどの感情は抱かない。彼女には海洋藤原に住む頭でっかちな青年に恋憧れている。
「この任務が終われば僕達は恋者が待つ故郷に戻るのかな?」
「マス太先生を困らせてないのかな、サバン通は?」
 二名は一の時をかけて袋を置いてゆくも十五個しか置くことが叶わず、そのまま部隊の寝床である成人体型縦五十、横八十、高さ七十にもなる海洋種族用の船に戻った。
(でえ塩水が美味くないよ。でえ鬼ヶ島周辺はあんなにも水質が死んでるのか? でえ船に戻れるなら幸せなことはないよ)
 この時二名は若布の形をした銀河連合が虎視眈々と付け狙っていることに気付かない。それがやがてサバ克を怠け者から一命前の鯖に成長させる悲劇へと繋がる事も……。

一兆年の夜 第二十六話 海は広いな、大きいな(序)

 ICイマジナリーセンチュリー八十二年六月百四日午前十時零分七秒。

 国家神武首都棟一中央地区神武聖堂内で鬼ヶ島奪還作戦が立案された。
 立案者の名前は飛遊隆人。後に天同たつると結婚した者。彼は先祖である飛遊実兎
の事もあってか鬼ヶ島を奪還したい思いがあった。

 ICイマジナリーセンチュリー八十二年六月百十日午後九時二分十三秒。

 国家神武は特定行方不明者を割り出す。中には鬼ヶ島へ連行された者がいると
いう目撃情報と共に鬼ヶ島包囲網が着々と進む。

 ICイマジナリーセンチュリー八十二年六月百十七日午前十一時二分六秒。

 国家神武は真鍋傭兵団に鬼ヶ島に拉致された者の救出を依頼するも団長である
ベアルシ・真鍋はこれを受け入れない。交渉は一の週かけて続いた。

 ICイマジナリーセンチュリー八十二年七月七日午前八時二分四十八秒。

 交渉の結果、拉致された七名だけを救出するべく真鍋傭兵団は実戦経験の豊富
なシカット・ムーシ只一名を鬼ヶ島に送る事を決定。

 ICイマジナリーセンチュリー八十二年七月九日午前零時零分零秒。

 エピクロ海寄りの鬼ヶ島周辺を警戒巡航していたワルシャーワン・ホエンラドン
率いるエピクロ鯨族の一団は海に浮かぶ巨大な鍋のようなものと破損した
カルネアデス製の船の板にしがみつく生存者八名を救出。
 一の週より後、シカット・ムーシら八名は国家神武より手厚い保護を受けた。

 ICイマジナリーセンチュリー八十二年七月十一日午前十時二分一秒。

 国家神武は正式に鬼ヶ島奪還作戦を開始。決行はその翌の日から午前九時に
開始。

 ICイマジナリーセンチュリー八十二年七月十三日午後十時三分一秒。

 国家神武は鬼ヶ島奪還作戦の兵員の規模拡大を決定。背景には天候の荒れも
あって中々進行状況が芳しくない事が理由。
 翌の日より新米兵士の応募を国家神武内で開始。

 ICイマジナリーセンチュリー八十二年七月十五日午後十時零分零秒。

 鬼ヶ島へ本格的な奪還を開始。
 撤退命令は受け付けず、千名に満たない死者を出しながらも四の日より後。
 二十日午後十時零分零秒に鬼ヶ島を奪還。

 ICイマジナリーセンチュリー八十二年七月二十一日午前九時零分三十六秒。

 鬼ヶ島全土に塩蒔きが開始。約一週を掛ける予定。
 指揮にあたるのが陸上部隊は七名を救出した傭兵シカット・ムーシ。
 空中部隊は羽付きの指揮官型を倒した空戦最強と謳われるハルブス・ハルトマン。
 海上部隊は救出作戦で多大な貢献をしたワルシャーワン・ホエンラドン。
 そして、海中部隊はルケラオス鯖族の若き伝説である秋山サバ吉。

 ICイマジナリーセンチュリー八十二年七月二十二日午前十時二分三秒。

 秋山率いる海中部隊で皆に後れを取る少年がいた。彼の名前は秋山サバ克。
秋山サバ吉の甥にあたる齢十八にして五の月と十二日目になる怠け者。
 彼こそ今回の物語の主人公だ。

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 どうもdarkvernuです。
 今回はタイトル名にちなんだ試作品をどうぞ。

 今より数十年も前の話。
 世は1999年7月……。
 その時代はちょうど終末がありふれた悪しき風潮。誰も彼もが終末の予言を信じ、誰も彼もが終末を疑い、そして誰も彼もが終末を希望した悪しき風潮。
 悪しき風潮はやがて重力を膨らませ、一つの時代に終りを告げた。
 場所は東京タワー周辺。
 とある若いカップルは何も知らずに東京タワーに入場しようとしていた。
「ねえねえもう待ちくたびれたんけど」
「我慢しな。もうじき入れ--」
 カップルは突如発生した重力により身体を無限に引き延ばされ、消滅した!
 場所は大阪駅。
 ノストラダムスの大予言を信じるオタク風の中年はドリームキャスト用ゲームを買いに家電量販店に入ろうとしていた。
「今度こそDの食卓を買うぞー!」
 そう思っていたら目の前が右螺旋状に変化。
「あ、あれ? 目眩? おかしいな? 僕は至って健康な--」
 彼は家電量販店ごと無限に引き延ばされ、何もわからずに消滅した。
 場所はニューヨークの貿易センタービル前。
 人々は悲鳴を上げた!
「助け--」
「ブラックホ--」
「飲みこ--」
 人種を問わず様々な人々が世界各地に発生した小型ブラックホールによって四散し、分解され、そして家族を奪われた!
 ノストラダムスの日記帳は予言の書と成る日。デマゴギストも懐疑論者も事なかれ主義も日和見者も一瞬にして被害者となった。
 貿易センタービル跡で一人の少女は泣き続けた。
「お母さんはどこ? お父さん? お父さあああん!」
 11歳の少女は世界の終りで家族を叫んだ。だが、叫んだところで彼等はもう引き延ばされた後だった。それでも少女は泣き叫ぶ。誰かが気付いてくれると信じて。
「おかああさあああん! おとうさあああん!」
 その時だった。少女の叫びに気付く者が背後よりゆっくりと近付いてゆくのを。
「どうしたんだい? そんなに泣いて?」
 少女は振り返った。目の前にいるのは三十代前半の男性。身長は184cm。体重は77Kg。着痩せする体つきだ。
「実は……」
 ここから物語は始まる。ここから世界は再生の日を見る。ここから新たな種族が生まれる。ここから少女の物語は始まる。

 それから100年以上も先。人々が人口冬眠から目覚めて数年後。
 場所は旧ニューヨーク貿易センタービル跡。
 肌は緑。髪は焦げ茶。左腰に掛けた日本刀を引っ提げた旧アメリカ系日本人は顔を上げて堂々と歩く。
「世界が滅んだのは確か100年も昔だよな? あれだけの期間で復興させた奴等には驚きを隠せないよなあ、アズナー?」
 アズナーとは彼が常時身につける日本刀のこと。鉄ではなく宇宙やホワイトホールから飛来した悪魔の残骸ブラックストーンで出来た頑丈な刀だ。彼はそんな刀と共に格好良く歩いて--
「何でバナ……ヅゥブ! いでで」
 格好はどうしても付かない。それが彼--
「わしは井原ガイン。これは俺の帰化名だけど、確か僕は元アメリカ人だったよ。多分父さんや母さんはアイルランド系出身だったっけ? まあいいよ。拙者の匿名はガイン・トカマクってんだ。ヨシユキ・Tの作品に出てくる登場人物の名前にちなんだ匿名さ。えっと私の本名はガイン・マーチンスターっていう。父さんはギンジ・マーチンスター。母さんはユリア・マーチンスター。日本に帰化してるのはまあ日本好きの父さんの影響なんだよ。って誰に言ってるって? アズナーに改めて自己紹介してるんだ」
 この物語は彼がやがて旧世界を破壊した者を倒すお話。彼の日常を描いたお話。そして彼の不運を描いたお話。
 その題名は……。


 試作品である以上ここまで。自分がかつて考えた物語を改めて文章にしてみた。にしてもこんなんで読者を惹き付けられるかどうかって話だな。売れっ子の物書きは繰り返し文章の改行や書き直しを徹底したり、あるいは鎌池数馬のように頭で捏ねくり回した設定を詰め込み、粗を無視して押し通したり、あるいは奈須きのこのように設定をしっかりして何百枚にも及ぶ文章で勝負したりして読者を獲得していったんだなあ。そう考えると自分の引き出しはそんな連中に比べれば蟻並みの大きさでバキが妄想した巨大蟷螂に挑むような無謀ともいえる挑戦をしてる気がして無力感で沈むそうな気分だよ。まあ自分はそうやって進んできたつもりでいるが(笑)。
 今回このような試作品を書いた理由は単純にネタが思いつかなかったから自分が未だに暖め続ける物語を文章にして出来映えを確かめただけです。ちょうど七月のと言う事もあって1999年当時の世界がどんなものだったかを想像しながら書いたのでその頃ヨドバシカメラがあったのかどうかはさっぱりです。まあドリキャスやDの食卓はまだあったと思います、たぶん(苦)。ちなみに主人公はハルク色の青年です。ルイージカラーの青年です。ただしこれにも設定はありますが試作品である以上はこれくらいにします。んで強さはというと当時の状況を踏まえるなら加減を知らなすぎるほど強い。そう考えて下さい(笑)。試作品を書く作業をまた今度やるかも知れません。今度はジョジョのパクリのような物語か、1984年の続編っぽいボトムズのパクリのようなガンアクション作品か、鬼がきたりてや鬼切丸の設定をパクッた半人半鬼が主人公の物語か、一撃必殺を多く持つ無能主人公のRPGものか、僕が考えた最強の主人公とメアリー・スーの最終進化形ラスボスが鳥山明や石川賢も真っ青なハイパーインフレーションなバトルをする物語か、あるいは主人公もラスボスもド外道ド下衆ド悪党な未来進行形なRPGものか、あるいはド悪党に憧れる勇者になった少年が主人公の未来進行形なRPGものか。まあ数えたらキリがない。読者なら誰もが考えた物語を並べると自分がいかに厨二病で収まらないかがわかるよ、恥ずかしいくらいに(笑)。
 そんな感じで試作品の解説を終えたいと思います。

 第二十五話の解説をする。
 今回の舞台は空と言う事もあって主人公は隼にした。二十四話と違い、登場キャラに死者は出ます。主人公であるハヤブスは格好良い雄を目指す青年。なので格好良さを表現する為なら善意が及ぶ範囲でどんな無理なことだってやってのけます。なので一瞬という僅かな時間で翼持刀を取り出すことだって出来ますが、代償としてそれが後の悲劇に繋がってゆきます。ですが、そんな悲劇を乗り越えて彼は最後に大空のトリとなります。
 ちなみに今回出てくる坂井組は白鳥カブ壱以外は質が高い者で構成されます。主人公であるハヤブスや組長のブク郎が特別に突出してるわけでもなく全体として組員は一騎当千出来るほどの強さを持ちます。それでいて連携も取れている為、指揮官型の襲来するまでハヤブスとフォウルン以外の組の者に一名も怪我する者を出しません。ただし白鳥カブ壱を除いて。
 ついでに今回出てくる鯨族の者は二十四話にも出てます。どこで出てきたかは敢えて説明しません。なお最後が丸投げのように感じた方は多いかも知れませんがこれは二十六話との兼ね合いの為、敢えてそうしました。主人公は生きてます。
 駆け足ですが以上で二十五話の解説を終えます。
 
 それから鬼ヶ島を巡る戦いは今回で終わりましたが、舞台としてはまだ終わりません。それは二十六話でどうなるかをお楽しみ下さい。ついでに最初から二十四話から二十五話までの流れを書くかも知れません。たぶんね(苦)。
 ではいつも通りどうぞ。

 七月
 二十二日~二十七日  第二十六話 海は広いな、大きいな    作成日間
 二十九日~八月三日  第二十七話 海洋藤原の伝統       作成日間
 八月
 五日~十日       第二十八話 大樹の銀河連合(前篇)   作成日間
 十二日~十七日    第二十九話 大樹の銀河連合(後篇)   作成日間

 二十六話の舞台は海です。なので混沌とした海の世界を自分なりに描いていきたいと思います。それから主人公は悩んだ末諦めて鯖にしました。しかも怠けた方の鯖にね(辛)。
 それじゃあ今日はここまで。今度はさすがに土曜まで引き延ばすのはやめようっと!

一兆年の夜 第二十五話 大空のトリ(九)

 舞台はエピクロ海の上空成人体型およそ五百。
 ブク郎は指揮官型が織りなす複数の腕を使った攻撃を躱しつつ一撃を狙う。
「そのおお攻撃はああ全ておおとりかああ! 小生いいと考えは同じいいようだああ!」
 戦いは一対一に持ち込めない--時たまたの銀河連合が割り込み、危うく隙を出しかねん状態。それでもブク郎は割り込みもまた指揮官型に決定打を与える機会と読み、気を弛む瞬間を狙う。
 そして--
「うおおおおおおうううん!」
 ブク郎は烏型が指揮官型の視界を遮る瞬間を狙い、素早く刃を放つ! 同時にブク郎は烏型に右翼を食われ、そのまま落下!
「グオオオオウウウン! あたたったかああ!」
 願いも空しく刃は指揮官型の左隠し腕に掴まれ、粉々に砕かれた!
「小生もおおここおおま--」
「諦めるんじゃねえよい、組長い!」
「どうして来たのじゃああ!」
 落下するブク郎とすれ違い様にフォウルンは右翼を食らった烏型の頭部に刃を当てた!
「俺はフォウルン・フォーディーぃ! エピクロ鷹族の誇り高き雄なんだい! グググオオオイ! 相手になるゾオおおおい、指揮官型あああぃ!」
 銀河連合二体の遮る向こう側にいる指揮官型へフォウルンは飛ぶ!
 一方のハヤブスは倉庫から残り三本の物部刃を入れたキュプロ枝製の紐付き袋を背負い、甲板に出た!
「ハヤブス君ねう! まさかフォウルン君を助けるねう!」
「そうでえ! それよりよく……こんな時にどうして持ってねえ!」
「フォウルン君が取ったのやう! もうここには--」
「ハヤブスね! 持ってきたね!」
 カブ壱はとてもあちこち刃を受けたものとは思えない速さで翼持刀をハヤブスに渡した!
「これはあっしのせいでフォウルンが飛べない先刻を与えるきっかけを作った--」
「御免ね、僕はハヤブスに後遺症を与えるようなものを持ってきてね! でもこれしかなかったね!」
「本当にこれだけしかないねう?」
「もう倉庫には--」
「四の五の言ってられろう! 後遺症でも何でも構わねえ! あっしが撒いた種ならあっしはどんな辛いことだって引き受けてろう!」
「待ってよハヤブス君ねう!」
「今行くでえ、フォウル--」
 三名はブク郎が右翼を食われて落下していくのを目撃!
「組長だわう! 私達は組長を助けに向かう! くれぐれも生きて帰ってきてねう、ハヤブス君う!」
「生きて帰れよう! 何故ならあっしは雌に惚れられる色雄になるならどんなに格好付けても構わねえ! そうゆう鳥なんでろう!」
「気を付けてね、ハヤブスね!」
 三名はそれぞれの役目に従い、大空を飛ぶ!
(あれはフォウルンでえ! 二体から引き離して指揮官型と空中戦を繰り広げてるのけえ! しかも徒手空拳でろう!)
 フォウルンは肝心の物部刃を放たず、出来る限りの肉弾戦で指揮官型と戦う。しかし、指揮官型は遊ぶようにフォウルンの身体を切り刻む!
「遊んでんじゃない! 必死なんだぞい!」
 それでもフォウルンの攻撃は指揮官型に掠りもしない!
「フォウルン・フォーディーでろう! あっしも加わるからもう--」
「今だアアアアイ!」
 指揮官型が右襟首を食らいついた瞬間--刃は指揮官型の左肩に命中!
「フォウルンンンン--」
「ハハハ……『鬼ごっこ』の、つ、ぅ--」
 フォウルンはそのまま襟首ごと強引に食らい分かれ、指揮官型の左腕以外複数ある腕を振るい内臓を見せつけるように四肢を裂かれた!
『……話の続きはその鍬形族の少女が鬼族と遊びたい一心で追いかけっこを提案し、追いかける側を決めたところ鬼族のものになったという話だっけい?』
 ハヤブスは幻聴を聞いた。
「多分異なる気がするんでろう」
 フォウルンを追っていた二体の銀河連合がハヤブスの背後に食らいついた!
「鬼ごっこをしに来たんじゃねエエ!」
 ハヤブスは上に半回転し、二体に続けざまに刃を放ち、頭部と心臓部に命中--二体ともそれぞれの部分から血を流して海に向かって落下する!
「今度はあっしが相手になるぜえ、指揮官型ああ!」
 ハヤブスはフォウルンと同様、肉弾戦を仕掛ける--だが指揮官型は相手にせず高度を少し下がった位置にいる組の者に狙いを定めた!
(左翼げえ! 指揮官型はあっしを狙わず別組の者でえ! そうはさせろう!)
 ハヤブスは痛みを堪えながら両翼を広げ、風を大量に受けながら加速--指揮官型に振り向かせた!
(例えあっしより強い相手だとしても飛び向かわねばならねえ! あっしが撒いた種は多くの者を死なせてろう! あっしはそのけじめを付けるんでろう! 生きて必ぜえ!)
 指揮官型はそれでも無視しようと逃げる!
「これは鬼ごっこでろう! 逃げる暇があるならあっしを死なせえ!」
 指揮官型は高度を下げて逃げるも距離を縮まってゆく!
(上空に逃げるけえ! 上空なら高度が増す度に向かい風が強まるだけじゃねえ、呼吸もままならなくなってゆけろう!)
 ハヤブスと指揮官型は徐々に高度を上げる! それはハヤブスにとって呼吸器に後遺症を残しかねない苦しいものであった!
(冷えてきてえ! 左翼に響けろう! 先生の言うとおりになりそうでろう!)
 翼持刀は徐々にヒビが入ってゆく。ハヤブスの周りはいつ壊れるかわからない危険な状態であった。そんな状態になってるのはハヤブスだけではなかった!
(指揮官型も苦しいんだねえ。元々地上戦が主体なのに羽なんか付けてえ。あの羽はもうすぐ--)
 ハヤブスの予想時刻より早く指揮官型の両羽は四散--飛行機能が壊れた指揮官型は落下する。
「あ、しのおか、あ、ちで、ろう!」
 ハヤブスは翼持刀に物部刃を差し込み、弦を強めて弾いた!
(心臓部に当たるけろう! こんな時に頭部を命中できないあっしはどこまでも……)
 ハヤブスの意識はそこで黒い迷路に入った……。

 未明。
 ハヤブスは死んだ両親と久方ぶりの再会を果たす。
『格好良かったわえお。あなたはやっぱり私達の自慢になる息子でろう』
『ハヤブスはよく頑張ってろう。もう俺達の所に来たらどうでえ?』
 ハヤブスは両親の側に近付く為、三途の雲を渡ろうとしたが--
「父上と母上に会えるのは嬉しい限りでろう。ですがあっしは渡ることを避けませえ。あっしはまだ帰る場所がありませえ。だからもうしばらくお待ち下せえ」
 ハヤブスは生きる道を選んだ。その結果、眼前に光が差し込む。
(あっしは大空のトリでろう。例え飛べない身体になってもあっしは心の翼を広げて飛べよう。それが鬼ごっこのようであってもねえ。でろう、フォウルン・フォーディーでえ?)
 ハヤブス・ハルトマンが目覚めた後、どこまでも心の翼を広げる--大空のトリとなって!


 ICイマジナリーセンチュリー八十二年七月十六日午後九時一分二秒。

 第二十五話 大空のトリ 完

 第二十六話 海は広いな、大きいな に続く……

一兆年の夜 第二十五話 大空のトリ(八)

 午後八時一分六秒。
 場所は医務室。ハヤブスとフォウルンが寝る所とは別の部屋。
「三名とも命に別状はないエエ」
「うぐぐねう」
 ウェリンティは何かを言いたそうだ。
「ウェンディさんをう、連れてきてう」
 二の分より後、ウェンディが入る。
「どうしてう、ウェリンティさんねう?」
「僕は情けない雄でう! 鬼ヶ島からわざわざ敗走するなんてう!」
 ウェリンティの痛みは喋る事に関しては苦痛はない。だが、心はそうでもなかった。悔しさの余り両眼から涙が勢いを増してゆく。
「ううううう! 死ぬ覚悟が出来てるつもりであってう! あってう! うううううああああ!」
「そんなに泣かないでう、ウェリンティさんう! あなたの悔しさは痛いほど分かってう!」
「君は何か食い異ねう! 僕は銀河連合から敗走したんじゃねう! 実は--」
「緊急事態発生! 銀河連合がオヨソ五十体! しかも真ん中には指揮官型と思ワレルモノが! 繰り返ス! 銀河連合がオヨソ五十体! しかも真ん中には指揮官型と思ワレルモノが!」
「何だってエエ……だエエ、大丈夫かエエ!」
 普段は冷静なスネッグムもさすがに指揮官型の襲来を聞き、引きつった顔になった!
「本当じゃないねう? 本当じゃじゃじゃななないねねねうねう?」
「指揮官型の強さに恐怖して僕達はああ……」

 午後八時十分三秒。
 予報を聞いた二名の顔はむしろ覚悟が据わった。
「指揮官型が来るなんて予想だにしねえ! だげえ、恐怖心はああいつと戦っていくらでも味わってやるでろう!」
「俺は楽しみ。何せ指揮官型を倒せたらお前より強いと証明できるからない!」
「言っておくがあっしが組で最も強いのは無理してるからでろう! 無理しないあっしはカブ壱にだって負けるせえ!」
「言ってろい!」
「ところでいつ出れえ?」
「一刻を争うい! すぐに取り掛かるぞい!」
 二名は独房を覚悟して命がけの無断出撃を決める--フォウルンも!
 ハルブスはいつも通りフォウルンが弟子五名を引き付けるのを確認した後、甲板を出ようとしたが--
「ハルブスが甲板を出ようとしてるぞい! 第三出入り口から出ようとしてるぞい!」
(でえ? 何故フォウルンでえ?)
 逆にハルブスが陽動を任された--弟子五名に見つかり、すぐに毛布で二重にくるまれた!
「顔だけは確保してるんでねう」
「当たーり前だーよ! 息ー出来なくーて死んだーら神様に申ーし訳ないでーしょうーが!」
「それもそうだねえ」
 ハルブスは捕まり、医務室に戻されたが--
(フォウルンは飛ぶ気でろう! それはやってはいけないことでえ! スネッグム先生は優れた医者でろう! あの方の意見を聞かないと言うことはフォウルン・フォーディーは指揮官型に挑む気でろう! 何としてもあっしが止めないてろう!)
 だが、毛布から脱出するのに手間取る!

 午後八時三十分五十三秒。
 場所はエピクロ海。その上空で坂井組を含む五もの組は銀河連合と空中戦を展開!
 だが五十体を相手に刃切れ、行動癖、疲労などにより徐々に押されてゆく。
「これええで九体目ええ! 刃がああ残おおり一本。それをおお指揮官型にいい!」
「組長う! 私は切れましてう! 一旦船に戻りませう!」
「数が多すぎる上ね、まるで僕達の行動を読めるかのような動きね。僕はあちこちに刃を受けてもう無理ね!」
「ウェンディはしばらああく休ううめ! カブ壱はああ船にいい戻ってええ治療をおお受けええろ! 小生いいは指揮官型をおお倒おおす!」
 ブク郎が指揮官型まで近付く--二組相手に無傷のまま鳥たちの身体を切り刻む羽付きの指揮官型のおぞましき姿があった!
「二組をおお全ん滅! 何一つうう刃をおお受けええずに!」
 そんな異形の存在にも臆せずブク郎は単身挑む!
 一方でウェンディとカブ壱は命令通りの事をしていた矢先--
「フォウルン君う! 外に出たら良くないよう!」
「知るかい! それよりも翼持刀はないかい?」
「物部刃の入った袋は僕が持ってるね。でもやっぱり出るのは危険ね!」
「それを貸せい! それに俺から飛ぶことを取ったら何も残らない! 俺は飛んで指揮官型を倒すぜい!」
「意地を張らないでう! そんな身体で……キャウ!」
「翼持刀を使わせて貰おい! 俺は最後まで鳥だ! 鳥は空を飛ぶ為に生まれ、飛ぶ為に死ななきゃならないんだい!」
「行くなね、フォウルンんんんんえんねえねええええ!」
 フォウルンは残り二本入った袋を背負い、ウェンディから強引に取った翼持刀を右に抱えてふらつきながら空を飛ぶ!
「医者がどんなに凄くてもい! イデデデエい! 俺から飛ぶことを諦めることは出来ないんだよおおおい!」
 一方、医務室で脱出を試みるハヤブスはきつく締めた毛布二枚に苦しむ。
(早く行かないとあいつは必ず死ねよう! 死んでしまうでろう! いい加減弛んでしまえばいいのにでえ!)
 そんな姿を見て堪えきれないスネッグムは医務室に入ってきた。
「先生でえ! あっしは空を飛ぶぜえ! どんな事になろうとも空を飛ぶんでえ!」
「医者として飛ぶことを許さないエエ。フォウルン君と同じく飛べない身体になるぞエエ」
「だからこそあっしはそれを覚悟してもう一度飛ぶんでえ! こんなに想いを伝えても聞かないのけえ?」
「そうだエエ。それが医者というものだエエ」
 突然扉が開いてそこからウェリンティが現われた。
「行かせて下さい先生ねう。僕のせいにしてう」
「ウェリンティけえ。どんな風の吹き回しでろう?」
「……」
「でないとあなたが死ぬ恐れがありますよう。それでも医者として止めるねう?」
「……どうやら我は後継者に譲る時が来たなエエ。今すぐハヤブス君を離すエエ」
 スネッグムは丁寧に布団を解いた。
「ありがてえ。ウェリンティと先生でろう」
「我に礼を言うべきでないなエエ」
「僕は無理だってう。でも君ならもしかしたら勝てるかも知れねう!」
「それは買い被りすぎでろう! だが雄として生まれた以上は格好付けないと雌に惚れられねえ! 今すぐ行くぜえ!」
「生きて戻れエエ。我が医者として最後のお願いだエエ」
 ハヤブスは飛ぶ--悲劇の空へと……。

一兆年の夜 第二十五話 大空のトリ(七)

 スネッグムの弟子五名はフォウルンを見つけるなり、布団にくるめて拘束してゆく!
「すまん乃。これ模医者たる者乃穢れだ」
「さすがスネッグムのじじい! 鬼族の者を弟子に取るなんてい!」
 フォウルンの陽動は完了した。
 一方のハヤブスは甲板に出るなり、翼持刀と物部刃が三本入った余りの袋を背負うと誰にも見つからないように飛び立つ!
(左翼が痛い上でえ、均衡が良くねえ! スネッグム先生の言うとおり安静にするべきかもせろう)
 その割に彼は一本残らず物部刃を使うとすかさず甲板に戻り、スネッグムの弟子五名にわざと捕まった。
「いででえ」
「腰砕けえがあ! 安静にしろおと先生があ言ってるでえはないかあ!」
「ごめんなせえ」
 戦いは坂井組には怪我者を出さずに勝利した。

 午後二時一分七秒。
 場所は医務室。
 ハヤブスとフォウルンは毛布にくるまれてそれぞれの体勢で寝転がる。
「飯は食べてえ。フォウルンは相変わらず飯を食わないねえ」
「今日は余計に食べた以上はお粥には手を付けんい」
「いくら美味しくなくても食べるべきだぜえ。痩せ細ると雌に惚れられねえろ」
「雌は好きじゃない。五月蠅いし自分勝手に育つのが多い!」
「ウェンディに聞こえたらどう--」
「聞こえてるわよう、二名共う」
 ウェンディはカブ壱と共にこっそりと入った。
「二名とも元気そうで何よりね」
「カブ壱の方こそ元気だよねえ。流れ刃に当たって想念の海に向かっているかと--」
「僕に何か満足しきれないことあるね!」
「喧嘩しないのう! ところで聞きた--」
「緊急事態ダ! 海ヨリ銀河連合が十一体! 空よりオヨソ二十七体襲来! 繰り返ス! 海ヨリ銀河連合が十一体! 空よりオヨソ二十七体襲来!」
「またけよう! そこまで鬼ヶ島に近付けまいとするのけえ!」
「俺の身体が良ければすぐにでも--」
「良くないね! フォウルンはここでじっとするね!」
「らしいぜえ」
「くそい!」
「私達が居れば何とかなるわう!」
「ところで物部刃は大丈夫でえ?」
「まだ一杯あるわう。そうねう、およそ百本以上かもう」
「それなら今日中を乗り切れろう!」
「そうねう。ただし誰かさんが無断出撃しなければの話だけどう」
「何の事でろう?」
「どうしたね?」
 すでに坂井組の者には気付かれている模様。カブ壱以外は。
「じゃあ行ってこい! 刃を多く使うんじゃないぞい!」
「出来ればの話だけどう」
 ウェンディとカブ壱は出陣する!
「五の分より後に行動するかい?」
「早すげろう! もう少し分数を掛けてもいいでろう」
「慎重だない、ハヤブスは」
「格好付ける雄は柔軟でないてえ」
 二の分より後、スネッグムが二名の診察に来た。
「……傷が予定より遅いなエエ。動き回るもんじゃないぞエエ!」
「はいはい」
「『はい』は一回だエエ!」
「あっしの方はどうなれえ?」
「そちらの傷も動き回るのがいけないのか治りが遅いエエ! いいかいエエ、安静にするのだエエ!」
 スネッグムは一連の診察を終えると部屋を後にした。
「後二の分かい?」
「三の分くれえ」
 三の分が経過。二名は行動開始!
 フォウルンを食堂で発見した弟子五名はすかさず毛布にくるめた!
「俺は食堂に来ないという思い込みを利用したつもりが--」
「バレバレでちゅ! あんなに堂々と食堂に入ってゆくフォウルン殿なんて誰だって見つけられまチュよ!」
「離せい! 俺は飛びたいんだい!」
「子供っか! 成者である以上はしっかりせっんか!」
 フォウルンの陽動は完了。ただ--
「いつまでもこんな事を演じるつもりは--」
「何言ってまちゅか?」
 一方のハヤブスは望遠刀を担ぎながら倉庫で物部刃五本入ったキュプロ枝製の紐が付いた筒を見つけるなり秒を掛けずに背負う!
(今回は翼持刀を使わぜえ、望遠刀を使用せろう。あくまで狙撃に徹するしかねえ)
 ハヤブスは軍に入りたての頃はよく望遠刀で筋力鍛錬をした。それ故に狙撃の翼に衰えはない。
 十の分より後、甲板に出たハヤブスは帆に隠れながら銀河連合に狙いを付ける。
(イデデエ! 左翼がまだ痛めえ。支える方を選んだのにこんなに重荷とのろう! んえ? 相変らず組長は強すぎるでえ! 六体相手に一本も余計に使わず全て当てるなんて業師けえ! 一方のカブ壱は全て外すなんてえ! それでいながら流れ刃に当たらないなんて神様に愛されてるんじゃないでろう? それはいいとしてもウェンディが苦しむねえ。四体相手に善戦はするものの二、三本は余計に使うでえ。もう物部刃もない以上はいつやられるかわかねえ。支援せろう!)
 そう言いながら五本全てを使い果たしたハヤブスはこっそり甲板の真下に戻る。
(五回でこの痛みでえ。さすがに堪えろう)

 午後四時二分八秒。
 場所は医務室。
「腰いい砕けがあああ!」
 ハヤブスとフォウルンの二名は坂井ブク郎に説教を受ける!
「無断ん出撃いいに気付かああぬ小生でええはあるううまい! フォウルンがああ陽動でええハヤブううスが出撃すううるという段取おおりに気付かぬと思おおうてか?」
「申しわけございませえ。以後は慎む次第で--」
「別に慎むうう必要はああない! 小生だってええお前達のおお頃にいいはよくやああったぞ! そおおれで仲間が助けええられるのなああらやっても構あわなああい! ただしいい、時と状う況によってだああ!」
「ねえね、ウェンディね」
「何なねう、カブ壱君ねう?」
「組長も本当は出撃して欲しいんじゃないね?」
「二名とおおも私語は慎めえええ!」
「「はい!」」
「オホウウン! とにかく小生がああ言いたい事はああここまああでだ! 身体ああの事もおおある以上うう、二名には--」
「緊急事態ダ! 生命らしき者が空ヨリ三名こちらに飛ぶ! 繰り返す--」
「オホウウン! 処分は後にしよう。小生はああこれええから様子をおお見てくる!」
 ブク郎は甲板へと向かった!
「ところでハヤブス君ねう? 助けてくれてありがてう」
「別に礼を貰うつもりはねえ。あっしは無断出撃して組に迷惑を掛けた雄でろう」
「でもハヤブスが居なければね、僕達は死んでたかもね」
「そうよう。だから--」
 扉を勢いよく開ける音が部屋中に響く--そこにはウェンディを狙うルケラオス鸚鵡族の良家出身である御曹司ウェリンティ・アーリントンが傷だらけになりながらウェンディに近付く。
「ウェリンティねう、そんな身体でどうしたねう?」

一兆年の夜 第二十五話 大空のトリ(六)

 ハヤブスは袋から物部刃を出そうとするが--
「あ、袋が……」
 フォウルンが落とされた衝撃が大きいのか袋ごと物部刃を落とした。雀型はその一瞬を見逃さず拾った翼持刀を活用して刃のようなモノを放つ! ハヤブスは右捻りする事で物部刃の刃先ギリギリで躱すが、雀型に背後を取られる!
(徒手空拳の状態で背後を取られたら何も出来ねえ! ただ鬼ごっこの鬼族みたいに逃げるしか手立てがねえ!)
 ハヤブスは刃切れスルまで音の波を読みながら雀型の猛攻を避け続ける!
 その頃、徐々に風が強まり始める。
(速度を落としたつもりはないのに何だか風げえ。風が徐々に強くなって……ううっ!)
 急速に強くなる風の影響でハヤブスは左翼の中央先端に刃を受けた!
(血は出てるのけえ? ますます速度を出せない上でえ、左翼の怪我で全体の均衡が偏って……避ける事もギリギリけえ)
 今度は右翼に命中--幸い羽に刺さるだけで済むが僅かな重みでハヤブスは高度を大きく下げる!
 更にハヤブスを危機に陥れる存在が左方より出でる--五体の銀河連合が海から這い出た!
(このままじゃ海に落とされるのけえ! あっしはフォウルンと同じように海に沈むのけえ? あいつの仇も取れずねえ……)
 ハヤブスが諦めかけたその時だった! ハヤブスの前方に見慣れた三名の姿が見えた!
「カブ壱いい! ハヤブスをおお保護しろおお! 小生いいは濡れええたてのおお銀河連んん合を相手すううる!」
「了解ね!」
「私が相手よう!」
 ブク郎は海から這い出たばかりの銀河連合に単身挑み、ウェンディは翼持刀を持ちながら袋から物部刃を取り出すやいなやすぐさま雀型との距離を縮め、刃を放つ!
 一方のカブ壱は命令通りハヤブスを救助しようと高度を下げ、彼に近付く!
「もう安心ね! 僕が居ればハヤブスだって--」
 それは間違っていた--カブ壱は両翼でハヤブスを持とうとしてそのまま海に落下!
「ゴボボボ! ばあ、なにがば! あんじじじぶぶ……」
 二名はそのまま海へと沈む。だが、二名の真下から成人体型六に満たない影が這い上がる。影はそのまま二名を救助した。

 七月十六日午前七時七分三秒。
 場所はエピクロ海。鬼ヶ島の北西に漂う成人体型縦五十、横八十、高さ七十にもなる海洋種族用の機動力が優れない船。甲板の真下にある一室。
 左翼に包帯を巻いたばかりのハヤブスと近くの毛布にくるまる首から股間まで包帯を巻いて仰向けになるフォウルンが居る。
「てっきり死んだかと--」
「俺が死ぬかよい。ググ!」
「無理するねえ。その傷じゃあ今日は無理でえ。まああっしもこの傷では飛べねえ」
「くそい! 俺がもう少し回りを警戒していればこんな事に!」
「無理もねえ。あっし達がどんなに強くても時として空から落ちるのでろう。情けない話でろう」
「お前はまだいい! 俺なんかこの傷では医者から空を飛ぶ事を止められるかも知れない! 医者はそうゆう連中だい」
「それならあっしもその領域に踏み込むぜろう」
「あらう? 二名とも意外に元気じゃなう?」
「それだああけに空をおお飛べないのおおは念がああ残るのうう」
「とにかく元気で良かったね」
(カブ壱が出てくると何だか怒りが湧けろう! あいつのせいで海に突き落とされたからねえ)
 扉から出てきたのは坂井組の三名だけじゃない--齢三十六にして三の月と十五日目になる老年入りかけの武内蛇族の医者だ。
「スネッグムのじじいかい?」
「コラアアア! 口いいを慎まんかああフォウルン!」
「いいっていいってエエ、坂井組長エエ。ちなみに我はまだ中年だエエ」
「先生が入ってきたと言う事はフォウルンの状態について何か言いたそうですねえ」
「『仰りたそう』でしょう!」
「細かいことね」
「うむエエ。実はフォウルン君の今後について話し合う為に五名全員この部屋に集めたよエエ。実は--」
 スネッグムは予め書いておいたフォウルンの全体図を五名に見せた。
「医学はああよおおくわからああんがこれええは?」
「実はここの部分エエ。これはね……」
 スネッグムは三十の分掛けて説明した。
「そう、それじゃあフォウルンはもう……」
「彼は余生を歩いて過ごすしかないのだよエエ」
 五名中二名は納得いかない様子だ! 特に当の本命は飛ぶ事に生涯を掛けたばかりに医者の言葉に耳を貸そうとしない。
「医者ってのは偉い? 偉いってかい? そうやって患者を傷つける事が仕事かい?」
「偉くはないエエ。ただ我は事実を述べたまでだよエエ。君が今後飛ぼうとすればその影響で身体全体にまで危険が及ぶエエ。そうなると今度は飛ぶ以上に歩く事も食べる事も出来ない身体になるぞエエ」
「そんなのあんまりでえ! フォウルンは産まれた時から両親が他界して日毎の生活を飛ぶ事でまかなうしかない生き方なんだぜえ! なのにそんなあいつに飛ぶ事を捨てたらどうやって生き甲斐を見つけるんでろう!」
「それは彼自身で見つけてゆくしかないと我は言うがねエエ。我は医者だエエ。医者は仙者でも長者でもない存在エエ。助ける事もあれば時として苦渋の道だって進める穢れ深い者達だよエエ」
「言う事あおおは言うんんんだのおおう」
「でもフォウルンが無事に生きられるのなら私達はフォウルンの分まで戦うしかないもんねう」
「大丈夫ですね、二名共ね。僕が居れば--」
「お前じゃ無理でえ! けどあっしの傷じゃあ当分は飛んじゃならんのけえ?」
「我は医者だエエ。飛ぶのは勧めないエエ」
「納得いくかよい! 俺は鳥だぞい! 飛べない鳥は鳥と呼べないぞい!」
「あっしも納得いかないがフォウルンの為にもここは--」
「緊急事態ダ! 空ヨリ銀河連合およそ二十体襲来! 繰り返ス! 空ヨリ銀河連合およそ二十体襲来!」
 突然として齢二十九にして四の月と三日目になるエピクロ鯨族の青年が船全体に振動を与えるように伝える。
「壊す気けよう、あの鯨でえ!」
「我は患者が数十名待ってるのでこれで礼を失するエエ! くれぐれも無茶をするなよエエ!」
「じゃああ小生達いいは出陣すううる!」
「僕が居れば安心ね!」
「二名だけで戦うのは辛いけでう、坂井組は他の組の者より遙かに優れてるからこれくらい何とかしてみせるわう!」
 四名ともそれぞれの持ち場に戻ってゆく! 残った二名は--
「このままこうするかい?」
「あっしは我慢出来ないねえ。こっそり抜けるけえ?」
「そうしようぜい!」
「ただしお前はその傷じゃあ無理だから他の者の引き付け役に回れえ!」
「悔しいがそうしようい」
 二名は無断出撃へと翼を広げる……。

一兆年の夜 第二十五話 大空のトリ(五)

 午後十一時二分七秒。
 場所はエピクロ海。
 鬼ヶ島奪還作戦中も坂井組は二手に別れて陽動を行う。
 ハヤブスとフォウルンは前と異なり、鬼ヶ島の北西を飛ぶ。
「ハヤブスい! この前みたいに翼持刀を落とすない!」
「あれはフォウルンが無茶を要求したからああなってろう!」
「確かにそうだけど俺が言いたいのはい、また坂井組長に叱られるとこっちまで責任が及ぶから気を付けろと忠告し!」
「勝手な雄でえ!」
「なんて言ってる間に銀河連合が近付けい!」
 フォウルンの視力は組一である為、捕捉するのに最適だ。
「本当でえ! 翼持刀を構えるべく減速しえよう!」
 二名はすかさず減速--と同時に袋から素早く翼持刀と一本の物部刃を出すと成人体型八百近くまで接近した銀河連合十五体の一つに狙いを定める。
「距離はおよそ七百でろう! 遠すぎれえ! もっと近付けえ!」
「距離成人体型五百なり! まだまだい!」
 距離は四百……三百……二百……百七十五--
(今でえ!)
 ハヤブスは弦を弾き放つ--刃は狙いを定めた鳩型の脳天に命中!
 フォウルンも続くように放ち、鍬形型の心臓部に命中させた!
「相手も翼持刀に似た何かを持ちし! ここからは鬼ごっこの幕開けだい!」
「ところで……うわってえ! 『鬼ごっこ』という言葉はいつに成立してえ?」
 ハヤブスは既に二射目の準備を整う。しかし、背後を取られている上、追っ手は五体も居る為中々攻勢に回れない!
「わわ! 鬼ヶ島が食われる八十の年より……どばっつぢ! 前くらい? その……危ない! 鬼ヶ島を訪れたとある鍬形族の少女が……ええいってい!」
 フォウルンは刃の雨を鷹族独自の飛翔術で回避しながらようやく二射目の準備を整えた!
「続きは三、四体目に狙いを付けてからでいいけえ?」
 ハヤブスとフォウルンは互いに向かい合わせになるようにそれぞれ五体ずつ誘導させると一斉に刃を放つ--二名の頬を掠め、翼を当てずに後ろにいた銀河連合の急所を射貫いた!
「罪深い、俺達い!」
 二名は捻れ回転するように擦れ違う--奇妙な動きに翻弄された互いの四体は正面衝突する!
「あっしの相手はあの四体でえ! 海に落ちなかった奴に狙いを絞れえ!」
 ハヤブスは背後を取った四体の内、海に落下しなかった二体に狙いを絞る!
「二体もいれえ! 利はあっしにねえ! でもやってやるせえ!」
 三射目を準備したハヤブスは降下しながら狙いを右側に集中。
(何本はなったか知れねえ。だが二体とも一本もないはずでろう!)
 ハヤブスの予測は正しかった--二体とも口を大きく開いて肉弾戦を仕掛ける!
 ハヤブスはそれに応えるように距離が二十になっても放たない。
(敢えて利に適わない道を選べろう! それがハルトマン家に生まれた者の運命でえ!)
 ハヤブスは二体と嘴の距離まで近付く--瞬く間にして食われた……かに見えた!
「血は浴びろう! 穢れてる以上べえ!」
 一体を零距離で射貫くと素早く四射目の用意をする!
「今度は余裕を優先せろう!」
 四度連続で銀河連合の急所を射貫いたハヤブスは三射目を終えて自らの相手を全滅させたフォウルンと合流した。
「生きてるかい?」
「五体満足でろう?」
 二名は腰砕けに言いながらも落下した五体がいつ這い上がるのかを警戒する!
「気を緩めるついでに鬼ごっこの--」
「ハヤブス! 強い気がするぞい! 気を付け--」
「え?」
 フォウルンは右腰から左肩にかけて物部刃のようなモノに射貫かれた!
「フォウルンでえ?」
 フォウルンはそのまま落下し、水飛沫を上げるように落下!
(もう海ねえ? いやそうじゃねえ! フォウルンが狙われた角度は明らかに空からでえ! しかも方角からし……え? あの翼持刀らしき……いや間違いなくあれはあっしの)
 ハヤブスはフォウルンを狙撃した銀河連合雀型が持つ翼持刀に似た何か……いや翼持刀そのものが何なのかに気付いた!
「よくもフォウルンをエエエエ!」

一兆年の夜 第二十五話 大空のトリ(四)

 午後九時零分十二秒。
 場所は船の甲板。
 空戦部隊の半数が集合。その中にはハヤブスが所属する坂井組も含まれる。
(鬼ヶ島奪還戦では海戦部隊との連携が不可欠でえ。しかし--)
 部隊長である齢二十五にして三の月と二日目になるゼノン雁族の青年遠山ザギ彦は点呼するなり立場を代表するかのような碌でもない事を口にする。
「……ワレ々は海戦部隊との連携をと口にスル。ソンナのは本当ではナイ。ジッサイは縄張り争いのタメ、カイセン部隊を無視してでも我々は我々の責務を全うしなければナラナイ!」
(そうなるでろう。あっしだってあいつらと仲良くするのは無理でえ。いくら事情を理解しようとしてもあいつらはいつも石版付きで送れと五月蠅いでえ。だからってそれを口にするけろう? 部隊長の考えは理解できねえ)
「……タダシいつも無視しろとは言わナイ。ヒツヨウなら彼等の海に関する知識もまたこちらにとって有りガタイ。ナノデ緊急時には彼等と連絡シヨウ。デナイト我々は銀河連合相手に全滅する危険がタカイ!」
(だけど石版をいちいち彫らなきゃならないでろう。連絡用に鰐族が居れば手間は省けるでろう。なのにいないから困るでえ。そこがいつになっても空陸海が一纏めにならないわけ何だよねえ)
「……コッカジンムはひっきりなしに空陸海を統合せよとの通達をダス。ケレドモそれは無理なハナシ! オカにはオカヲ。ウミにはウミヲ。ソシテ空には空の流儀がアル! オオ空の鳥タチヨ! トウ合にはまだ我々の知性は追いつかナイ! ニク体が追いつかナイ! ソシテ精神が追いつかナイ!」
(その言葉はかの学者一族バルケミンのユートリスから引用でえ? 『統合には知性と肉体と精神の三つが最大値に届かなければ実現は遠のく』でろう。統合するのは容易いがそれを維持するとなると些細な喧嘩が絶えねえ。あっしらの他種族または同種族関係だって些細な事で喧嘩する以上どうしようもねえ)
「……ソレでも統合する事に意味はアル! ギンガ連合を倒す為には統合しなければならナイ! カノ歴代最強の仙者天同生子が築いた旧国家神武は銀河連合の宇宙からの飛来によって僅か八の年で歴史に幕をトジタ! ソレはナゼカ? ギンガ連合は複数ではなく一つの統合された集団なのダカラ!」
(銀河連合はその名の通り銀河規模の存在でろう。一個命で収まればいいけどそうじゃねえ。あいつらは今確認した連中でも結局は何億光年も離れた本体が送り込んだ分身でしかねえ! その事は藤原マス太が再三の研究で明らかにしてろう! そうなると本体はどれくらいの大きさけえ? 天の川銀河規模でえ? いや想像が出来ねえ)
「……ダカラこそ我々は銀河連合を倒す為にも統合しなくてはならナイ! ドンナに縄張りを主張したところで流れに任せて我々はいずれ銀河連合全てを倒す為にも好きでない者達との仲間関係を深めなければならないノダ! コノ一戦はそんな仲間意識こそが戦いの全てを左右するノダ!」
(いくら強すぎるものがいても結局は数こそ戦いを左右せろう! そして数がどんなに多くても結局は緊密な関係こそ戦いを左右せろう!)
「……ドンナに苦しくても見るに堪えない事が待ち受けても我々は鬼ヶ島を取り戻すのだああアア! オニガシマの空を取り戻すのは我々空戦部隊なのダアアア! ミナのモノ! キヲ引き締めて取り掛かれえエイ! イジョウダ! カイサン!」
 遠山ザギ彦の点呼は気付いたら演説に様変わりした。彼は代々ゼノンの者としての誇りを大事にしてきた。故に食われた知を取り戻す事に懸けては誰よりも強い思いがあった。
(だからって点呼が長くなる理由にならねえ。先祖が燕族のシュラッテー・ベンデルウムと出会わなければこんなに長くなかってろう。世の中はどう転ぶかは生子様でもわからないかもでえ)
 ここから鬼ヶ島奪還の短くも辛い戦いが始まる。坂井組の任務が陽動であろうと彼等に待ち受ける悲劇は想像すら困難であった……。

一兆年の夜 第二十五話 大空のトリ(三)

 午後四時四分九秒。
 場所は船の一室。
(あっしはまた叱られてろう。大事な翼持刀を一挺紛失した事でえ。どこまでもあっしは色雄に程遠いかねえ? そう思うかねえ、想念の海に旅立つ父上と母上。あっしは程遠いのかねえ)
 ハヤブスは五の年の頃に両親を空難事故で失う。彼は父方の兄に引き取られた。その伯父は大の色雄で妻が居たにも関わらず日毎にあらゆる種族の雌と一緒に飲みに歩いては家に帰るとしょっちゅう妻に叱られた。ハヤブスにとっても困った伯父であった。
 そんな伯父でもハヤブスの両親に憧れを抱く。ハヤブスの両親は異性から数十通の告白状を貰う程惚れられた。そこには見た目の格好良さも関係もする。しかし、本当に惚れられた理由は格好良さを引き出す心の強さにあった。二名はどんな逆境であってもどんなに無理な注文であってもそれを実行してみせる心強さを兼ねており、その度に異性から憧憬の眼差しを向けられた。
(だが行きすぎた逆境や注文は結果として父上や母上の命を旅立たせてろう。伯父さんの自慢話を鵜呑みにしながらあっしはここまで強く成れたけでえ。けど)
 そんな物思いをするハヤブスの周囲で突如、扉が内側に開いた!
「うわっつ! 驚かすねえ、カブ壱でえ!」
「ハヤブスね、驚かしてないけどね、お食事に行こうね」
「まだ早でえ! 日は沈みかけでろう!」
「僕はお腹空いたね」
「カブ壱は自己波長で進む雄でえ!」
「それは申し訳ないね」
「まあいええ。あっしもいつまでも部屋で悩んでると任務に支障を来しかねないから付き合ってろう!」
「ありがとうね。ハヤブスは相変わらず優しいね」
「『断ってばかりでは前に進めねえ』って叔父さんに耳が蜂の巣だらけになるまで聞かされたから仕方ねえ」
 ハヤブスはカブ壱の誘いに乗って船の真ん中に設置された食堂に向かう。

 午後六時二分三秒。
 場所は食堂。
 カブ壱はご飯のおかわりを注文するが齢三十五にして三の月と八日目になるエピクロ蟷螂族の熟女は首を横に振る。
「なんてことをね! 僕が餓死したらどうするね!」
「二杯も食べたら一ス、二の日は何も食べなくても済みますよス」
「もう諦めろう。これ以上おかわりを注文したら軍全体の指揮に関わるでえ!」
「ハルトマンの言う通りス。ですのでこれで終りでス」
 熟女はカブ壱とハヤブスのお椀を持ち上げるとそのまま調理場に戻る。
「ああね、前までは一食三杯は余裕だったのにね」
「仕方ないでろう。戦争は大量の物資を消費せろう。只一名の為に皆に迷惑を掛けられんでろう?」
「そうはわかってもね」
「あれう? カブ壱君とハヤブス君じゃねう?」
 ウェンディはちょうど夕食を済ませに食堂に来た。
「今から食事でえ?」
「そう。ハヤブス君も早くからカブ壱君の夕食に付き合うなんてう。そこまで雌に惚れられてう?」
「わかりきった事でえ!」
「ところでね、フォウルンと一緒じゃないね?」
「あの雄は一日二食なのよう。だから夕食は取らない主義なのう」
「任務に支障を来しても知らんぜえ!」
「それは本命に言ってう!」
「ところで組長も来てるかね?」
「組長は空戦部隊長の所で作戦会議に参加してるわう! どうせ陽動に回されそうな気がするわう」
「まあどんな任務であろうと遂行するのがあっしら軍者の役目でろう!」
「僕はそろそろ引退したいね」
「遂行できるかねう、こんな組でう?」
 心配そうにするウェンディの前に齢二十九にして十三日目になるルケラオス鸚鵡族の青年がやって来た。
「何なら僕の組に来ねう? そうすれば良家の嫁養子になる機会に恵まれますよう」
「またお誘いけえ、ウェリンティ?」
「そうだよう。これでも僕は君と異なり十数名以上の同種族の雌からお誘いが来てるくらいの色雄だよう」
「でろう。悔しいがお前に負けろう!」
「何度誘っても私には故郷の幼馴染が待っているんだからお断りよう」
「あんな細工無しをどこまで心配するかねう、ウェンディさんう?」
「細工無しとは礼に欠けるわう! ああ見えても歯は心を擽って可愛いのよう!」
「だからそれが意味不明でう」
「確かにそんな雄に惚れるウェンディも変わり者だね」
「「お前が言うねう!」」
「はいね?」
(全く気付いてねえ!)
「とにかくでう! 僕の組は今回鬼ヶ島の進行に加わるかも知れねう! 命をいつ落としてもおかしくない任務でう! 僕がもしも生き延びたら誘いを受けるけう?」
「そんな誘いに乗らないわう。どんなに言い繕っても私は昔からあの子のお嫁さんになるのが夢なんだからいい加減諦めてう」
「はあ。死ねるねう、今度こそ僕へう」
「傷心の所を申し訳ないけでえ、ところで鬼ヶ島の上空はどんな状況でえ?」
「あっう! そうだってう! 本当はそれを伝えたかったよう! 実はいつ数十の竜巻が発生するかわからないほど天候が安定しねう!」
「うひゃあね! 死ぬ確率が高いね!」
「それと情報部の噂によると銀河連合の空戦部隊には羽付きの指揮官型が配備してるらせう!」
「指揮官型でえ! オイオイでえ! そいつが出たらあっしらは全滅するぜえ!」
「現時点の噂でう。島に残ってくれるなら君達も生き残れるかねえ? まあ陽動任務中に来ない事を祈るしかねう」
 ウェリンティはエピクロ林檎を二個頼みながらハヤブス達と数の分ほど会話を楽しんだ。
「じゃあねう。ウェンディさんう。もう一度言うけど僕の--」
「九の時にまた会いましょう。今はゆっくりしなせう、ウェリンティ・アーリントンさんう?」
「やっぱり鬼ヶ島で死ぬねう、僕はう」
 今日二度目の傷心を食らったウェリンティは情けない後ろ姿を見せながら自室に帰った。
「可哀想ね。あんまりね、ウェンディね!」
「雌はそうゆうもねう。雄とは見える世界が異なるわう。諦めてう」
「見える世界でえ。成程でえ、それも良い考えかもう?」
 ハヤブスはまた一つ雌に惚れる技術を学んだ。多分……。

一兆年の夜 第二十五話 大空のトリ(二)

 午後二時三分三十一秒。
 坂井組は二手に別れた。組長坂井ブク郎はウェンディ・エレシウムと白鳥カブ壱を率いる。彼等は鬼ヶ島の北西を偵察飛行。残ったフォウルン・フォーディーとハヤブス・ハルトマンは南西を偵察飛行。
(風が強くなってきてろう。万が一ではあろうと、空難事故に遭えば銀河連合どころじゃなかでえ)
「考える事があり」
「風が強いから話すねえ!」
「いいから聞き! 『二手』って文字には手があり。でも俺達は翼しかないし! この場合『二翼』という言葉を使用すべきじゃない?」
「一応『手羽先』という別の言葉もあるでえ。『二羽』か『二羽根』でもありかろう」
「言語は難しい」
 二名は下らない話をしながら心を平静に保つ。
(空は雲だらけえ。鬼ヶ島周辺はいつも天候が変動するって聞いた事えろうが、こんなに様変わりしやすいねのう!)
「ハヤブスい! ここは一旦船に戻りし!」
「そうでろう、空が危なけろう! 手遅れになる前に戻るしかねえ!」
 二名は大きく旋回しながら反対方向にすると逆風に煽られながらも船の方に戻ってゆく!
(風がこんなに大変でろう!)
「ぶるっしい! この感じは気を付けい、ハヤブスい!」
「風の中に怖い感じのする匂いでえ? 間違いねえ! 銀河連合でえ!」
 二体の背後に付いてくるように燕型と鶴型が接近!
(見えなくともわけろう! 背後を取られてろう! どうせろう?)
「風が強くて翼持刀を出す余裕がない! しかし、出さなければ後ろから噛みつかれし!」
「翼を緩める隙もなこう! 速度を下げるなんて出来なえねえ!」
「風が弱くなる瞬間に懸けし!」
「無茶な事言うねえ! 風が弱くなる瞬間な……これでろう!」
 ハヤブスは袋から翼持刀と物部刃二本を出すと素早く右翼の羽根に引っかけてわざと速度を落とす!
「俺は機を逃し!」
 鶴型に自分の体型一個分ギリギリまで近付かせると前回りするように半回転し、鶴型に放つ!
「命中する音……二つい! ハヤブスい! 無茶すんない!」
「御免でえ! 格好付けたつもりが風に流されてれえ!」
「先に帰るし!」
「組長には二体倒した事を伝えてくれえ!」
 二名の距離は遠のく。けれども二名とも無事に帰還する--二体倒した代償に翼持刀一挺と物部刃二つを消費・または紛失する形で。

一兆年の夜 第二十五話 大空のトリ

 ICイマジナリーセンチュリー八十二年七月十五日午前六時零分五十三秒。

 場所は神武国エピクロス島エピクロ市第二西地区五番地。その中で真ん中より
二番目に大きな建物。
 齢二十四にして二十五日目になるエピクロ隼族の青年は起床するなり制服に
着替え、朝食の五穀米を軽く平らげた後、塩水で口を濯ぐ。
(歯は色雄の絶対条件でろう。あっしは常に雌に惚れられる雄になろうと)
 彼はエピクロ製の櫛で体毛に絡まった塵を入念に取り除くとため込んでいた雨水を
顔に掛けた。
(とはいえそれでも朝は起きるのが大変でえ。顔全体に水を注いどかなきゃ目覚め
ねえさえ)
 顔をしっかり拭いた後、自分の大きさよりやや小さい籠に櫛や石版五枚を入れた。
(石版はそれぞれ藤原マス太の書物でろう。代々学者肌な彼等の書物は必見でえ。
にしてもどうして石版? 住む環境を考えればわかるでろう)
 誰かに話すように思考しながら青年は籠を背負い、右翼で扉を押しながら開く。
(さあ行こうでえ! エピクロ隼族のハヤブス・ハルトマンの出陣でえ!)
 ハヤブスと呼ばれる青年は両の翼を大きく広げて風を受けながら飛ぶ--第二西
岸目指して。

 午前九時零分二秒。
 場所はエピクロ市第二西岸。
「遅い!」
 齢二十六にして十の月と十日目になるエピクロ鷹族の青年は愚痴をこぼす。
「あっし達四名揃わないとエピクロ海に飛べないってのねえ、どこほっつき回ってるん
でえ?」
「まあまあカブ壱君の良くない事はそれくらいにしませう」
 二名を宥めるのは齢二十五にして五の月と五日目になるエピクロ鸚鵡族の女性。
「雌はいい。そうやって女房役を務めれば済むし」
「雌ではありませう。私はエピクロ族の長であります鸚鵡族のウェルウム・エレシウム
の第二子ウェンデイと言う名前がありませうわ」
「ウェンデイもフォウルンもそれくらいにしそう! 喧嘩は組の仲間意識を薄れる恐れ
が高いんでろう!」
「逆だし! 喧嘩するほど仲は深まるものだし」
「それは雄の世界の話でせう。私は雌なねうよ!」
「だからやめろってう!」
「お待たせね!」
 ウェンディとフォウルンが口論する中、齢二十五にして二の月と二十五日目になる
エピクロ鴨族の青年白鳥カブ壱は何食わぬ顔で南の方からやって来た。
「何が『お待たせね』でろう! お前はいつになったら定刻に間に合うんでえ!」
「怒らないね、ハヤブスね」
「いや私達三名は怒り心頭てう。そのことをわかってう!」
「そうそうさっさと行くね! 組長が怒ってるかもね!」
 カブ壱は逃げるようにエピクロ海の西へと飛び立つ!
「待てい、カブ壱い!」
「待ちなせう、カブ壱君!」
 続くようにフォウルンとウェンディも飛び立つ!
(こんな組でこれから先やっていけるかねえ? あっしは辛いでろう)
 残ったハヤブスは置いていかれないように三名の後を追うように両翼を風に
乗せて飛ぶ!

 午前十時二十二分五秒。
 場所はエピクロ海。成人体型縦二十、横十、高さ十五もある巨大な船の甲板。
 齢三十七にして六の月と三十日目になるエピクロ梟族の老年はフォウルン、
ウェンディ、カブ壱、ハヤブスら四名に向かって説教を続ける!
「……というううわけじゃああ! カブ壱一名いいのせいいじゃなああい! お前え達
三名もおおまたああ責任重うう大じゃああ!」
「「「「はは!」」」」
「オホウウン! これよおおり今日のおお点呼は終あありじゃ! 皆持ちいい場に
つけええい!」
「「「「は!」」」」
 組長である老年の説教混じりの点呼を終えた後、四名はいつでも飛べる体勢に
入った!
「とうとう取り戻すんだねう!」
「あい、このエピクロ鷹族の雄い、フォウルン・フォーディーの鼓動はいつ爆発するか
知れんし!」
「ところで組長ね」
「何だああい?」
「名前はなんて言うね?」
(おいおえい、坂井ブク郎組長の名前をいい加減覚えろう!)
「小生はああ坂井ブク郎うう。エピクロ梟族のおお誇り高きいい傭兵いい
坂井サブー呂の第一子なああり! 七光りなああり!」
「そ、そうだったんだね!」
「これで何回目だい、カブ壱い?」
「計二十回目突入しませう」
「それ以前に組長が七光りなんて本当の話に聞こえんけでえ」
「どうううあれええ小生はああ七光りじゃああ!」
「そ、それよりもとうとう取り戻すのねえ。鬼ヶ島をえ!」
「そい、そうだったい! カブ壱のせいで鼓動が小さくなったじゃないかい!」
「僕のせいにされるのは心外ね」
「もう突っ込まねえ」
「心を引き締めんかああ! もうすううぐ島が見えええるぞ!」
(まだ先だよえ、組長せえ。まあいつ銀河連合が来るかわからのう)
 空戦部隊坂井組の目的。それは空にいる銀河連合の陽動。
 組の最年少にして組で最も強い鳥ハヤブス・ハルトマンは来るべき激戦と悲劇を
まだ知らない……。

切羽詰まると人は平気で手を抜く←言い訳するな、コラ!

 どうも手を抜く事に関してはプロ小説家も真っ青なdarkvernuです。
 今回も選挙期間中は時事ネタは控えますのでタイトル名にちなんだショートストーリーをどうぞ!

 2013年七月十四日午前八時零分十二秒。
 場所は枚方市X町Y丁目Z番W号。
 二階建てで家族と共に暮らす就職活動が全く出来ないアルバイト兼アマチュアネット小説家D氏は切羽詰まっていた。
「こんなに時間がないなんて! もっと早く書いときゃ良かったよ!」
 D氏はコメントすらまともに来ないほど不人気な小説家。それでも仕事はする時はする。そんなD氏でも時間という人類の永遠の課題にだけは苦しめられる。
「いつも言うけど時間がない! 時間がない中でこれだけの作業をこなさなければならないなんて頭がおかしいぞ! えっとこうでこれでっと!」
 彼は切羽詰まるといつも--
「えっと『彼は切羽詰まるといつも』……あとはなんて書けばいい? 『えっと『彼は切羽詰まるといつも』……あとはなんて書けばいい?』でいいか?」
 とうとう人外をアシスタントに雇いました。
「今日中に更新したいが面倒くさくなったのでお前らに任せるよ」
 D氏は人外二体に任せて自分は寝るかゲームするかのどちらかを優先します。
 人外に任せて十時間が経過。D氏が様子を見に行くと--
「ぜんっぜん進んでねえ! つーかさっき頼んだ事と『十時間が経過』とまるで予言してるかのような事を書いてる! つーか今言おうとした事まで書くなんてお前ら神か悪魔か……はっ!」
 D氏は運命を呪った。何故なら今回の話はD氏自らの行動そのままに書かれているから……。


 相変わらず落ちが弱すぎるな(苦)。それはいいとして今回はとある売れない小説家は最終的には自分が物語の登場人物であると気づき、後悔するというお話です。メタフィクションは便利です。何せ登場人物がフィクションに気付くような発言をしてにやりとする事が出来ますから。メタフィクション物に共通する点は登場人物全員が自分も含めた世界は作られた世界だと認識してる事、後は役割等を揶揄する発言をしても笑い飛ばすだけで済む事、後はそんな発言をしても世界に何の影響も与えないという異次元法則がある事ですかな。まあたまに世界観に影響を及ぼす作品も何個かあるよ。例えば高松監督や空知先生や西尾先生やあと居たっけ? 自分の引き出しの狭さに後悔した(悲)。
 ただメタフィクションにはとんでもない欠点があります。それが読者や視聴者を現実に引き戻す事。世界をまるで知っている発言をしてしまう。なので折角感情移入した物語の世界を現実に引き戻された事で物語そのものに飲み込めなくなります。ですので使用する際は十分に気を付けて下さい。
 あれ? タイトル名にちなんだショートストーリーを作ったのにどうしてメタフィクションのお話になってる? つくづく自分の脱線癖に困ります(笑)。まあ全体で見るなら切羽詰まってる感は出たのかな?
 とにかくショートストーリー解説は終わり!

 それでは第二十四話の解説に行きます。今回は世界を広げるつもりで書いてますので今までの話では出て来ない種族が何種も出ました。何せ鹿族や猪族、兎族は既出ですがそこに犀族、ゴリラ系の猿族やパンダである熊猫族、髪を食べる羊の山羊族、更には重さの基準である象族が出ました。彼等はそれぞれ今までの大陸では登場しなかったので目新しさは醸し出せたと自分は思っている次第でございます。
 さてと、今回の主人公は鹿族の傭兵。その為なのか依頼された事以上はしない雄です。まあどこまで遠すぎる過去の善悪基準に引っかかるかはわかりませんが多分灰色領域だと思うよ、思うよ(苦)。つくづく一兆年の夜の世界観を描く難しさは感じるよ!
 話を戻します。彼は誰彼(銀河連合を必ず除く)構わず七名の救出に全力を挙げます。それ以外は必ず救出しません。そこは傭兵らしく切り捨てます。ですので八パートで人質(作中では生命質)があっても現在七名を救出した以上、良心の呵責はあっても切り捨てます。なのでそこら辺はちゃんと描いたつもりでいます(まあいつも思うんだが直ぐ手を抜くから読者にちゃんと伝わらない部分が散見するんだな)。
 今回の話では救出する傍らで銀河連合の食事情が描かれてます。鍋を使った料理をしたり、天日干しをしたりと何気に現実の自分達のやる調理方法がとられていて善悪関係なくそこは妙に人間臭さが出たと思ってます。まあ同族殺しはさすがに残酷きわまりないが(怖)。
 今回は機械仕掛けの船が出ましたがあれは使えるかという問いがあるとすればどんなに頑張っても機能しません。例え現代の技術で機能の回復を試みても使えません。あれは飾りなのです。しかも高度に作られた飾りなのです。なので現地の者はあれを神様として崇めます。少しでも傷を付ければ罰がありますのでもしも見つけたら警察や政府関係者が来るまで入念に磨いておきましょう(笑)。
 それからどうしてそんな物があるのに銀河連合の手に渡らなかったり、腐食したりしなかったか? それは作中で意味深な単語が出ます。後付け設定ではありませんよ。自分は物語を作る時、その設定を考慮します。なのでこの単語の意味するところは目の肥えて賢明な読者なら概ねわかると思いますので皆までは説明しません。
 最後に金曜日に完成させる予定があらゆる事情で土曜まで持ち越した事をお詫びしたいと思います。今後このような事がないよう再発防止に努めたいと思う次第であります。
 では第二十四話の解説を終えます。

 九パート物は辛かった! これが後二週間続くとなるときつくてきつくて嫌になるよ! でもまだ陸を制した程度だ! 次は坂井三郎が魂になっても飛ぶ空を征くぞ!
 それじゃあ今後の予定をどうぞ。

 七月
 十五日~二十日     第二十五話 大空のトリ           作成日間
 二十二日~二十七日  第二十六話 海は広いな、大きいな    作成日間
 二十九日~八月三日  第二十七話 海洋藤原の伝統       作成日間
 八月
 五日~十日        第二十八話 大樹の銀河連合(前篇)   作成日間

 二十八話は前後編物ですが主人公は鰐族になります。そこは中編物ではないという証拠ですよ。ただし覚醒の章や天同生子の章のようにパート数は多く作らないつもりでいます。
 それじゃあ今日はこの辺で! 手を抜く時は攻撃力を減らさないように脱力する感じで行きましょう!

一兆年の夜 第二十四話 二十四時間の脱出劇(九)

 午後八時二十九分二十八秒。
 場所は第一南岸。そこには船は無い。
(銀河連合めッツ! このままではッツ!)
 二体の追っ手が四名に襲いかかる!
「俺様を甘く見るなああッツ!」
 シカットは背負っていた袋を降ろして中から足斧を咥えるとそのまま右方にいる犬型目掛けて投げる!
「外れっちゃ良くないっだろ!」
「学習してやがるッツ! 接近戦しかないのかッツ!」
「ここは僕がに隊の足止めをするよぞい!」
 サイ造は二体に下から上に首を二回振る。しかし、二体は弱そうな相手を選ぶ!
「僕目掛っけてえええ! 僕は美味しっくないよオオ!」
 雨山は逃げる--サイ造は雨山を助ける為に二体の銀河連合に突っ込もうとするが--
「待ってサイ造! ここはあっの小僧に任っせろ!」
「角を掴むなぞい! 痒くて仕方が--」
「ゴリ久の言うとおりにしろッツ! 雨山には足斧を着けてるッツ! それに追っ手はたったの二体ッツ。百獣型や獅子型を相手にしてるわけじゃないんだからッツ」
「しかし万が一にも--」
「信じろッツ! 子供の成長は大人が思ってる以上に大きいのだぞッツ! あいつは生者でなくとも立派に成長するんだよッツ! そう思えッツ!」
 サイ造は犬型と猫型に追われる雨山を見ながらそれでも心配する。
「シカットの言葉を信じたっらどうっだ? でないと雨山はいっつまで経っても母依存症は克服できっないぜ!」
「……信じるしかないのかどい」
 サイ造は雨山を心配する事を諦めた。
「サイ造さああああん! 助けってエエエ!」
 雨山はなおも逃げる--四番地に向かうように!
 一方雲は徐々に空を覆い尽くす。どちらに微笑むかを探りながら……。

 午後九時零分一秒。
 場所は南地区四番地。
 マモルモリノス・アダルネスは全身に無数の傷を出しながらも周りにいる銀河連合を残り三体まで減らす。
「はあはあ我もおう、こ、のままで、はぞう」
 彼の体力は限界に近付こうとしていたが銀河連合は依然としてマモリスにそこが見えないと感じ、退き気味になる。
 一方のマモリスは死を覚悟した。
「死なば諸共ぞう、ってのは死を覚悟するだけじゃ、無理ぞう」
 ゆっくりと三体に近付く。三体は後ろに下がってゆく。
「生き、る覚悟もぞう、必要、だぞう」
 マモリスが死を決めようとしたその時、南から二体に追われている雨山が現われた!
「はあはああはあ、はあ、ももう、げっん」
 瞬発力は優れるが持久力は今一つな雨山は徐々に距離を詰められてゆく!
「アブナアアイゾウ!」
 雨山を心配したのかマモリスは力を出して雨山を守るように飛ぶ!
 うえええ--雨山は高度成人体型十まで飛ぶマモリスに驚いて一瞬だけ疲れを忘れる!
 雨山を追っていた二体の上にのしかかるように落下したマモリス--落下音は西地区第二海岸まで届く!

 午後九時十分一秒。
 場所は西地区第二海岸。
 パタ音は両眼が腫れ上がり、前右足を脱臼されながらも残り一体まで減らす。
「この音やは?」
 南地区四番地から響く音に油を断った。その瞬間を狙ったのかは定かではないが鰐型はパタ音に襲いかかる!
「ボクって死ぬよの?」
 前左足を掴まれたパタ音は折られようとしていた。
「よりにも、よって鰐型、をのこ、すん、じゃ、ないやわねえええ!」
 咆哮と共にパタ音は後ろ両足に力を入れて鰐型ごと持ち上げるとそのまま大地に叩きつけた--同時に前左足も脱臼された。
「前両足を持って行きなさよい! ボクには後ろ両足と頭とヤマビコノ流関節技があるんだかやらわあああ!」
 鰐型の腰に後ろ両足を絡みつけるとすかさず後頭部に噛みつき、絡みつけた後ろ両足指で支えながら鰐型を逆さ『く』の字に曲げてゆく!
「うわあわあ、抵抗なんて寝技に当たり前やわだってええ!」
 鰐の伝統である回転で解かれそうになりながらもパタ音は全身の力を振り絞り、鈍い音を響かせた!

 午後九時二十二分七秒。
 場所は西地区三番地。
 エリファウルは前右足に装着した足斧を既にただの飾りにした。
「殴ってももう死なんぜえい! まだ三体もいるなんてぜえい」
 エリファウルの動きは鈍く、いつ噛みつかれるか定かではなかった!
「銀河連合よりももっと高くぜえい、もっと速くぜえい、そしても……何だぜえい?」
 エリファウルは雨粒を受けた--それは鼻から周囲に広がるように当て続け、やがて大雨に変化!
「うわっ……しまったああうえ!」
 エリファウルは掠り傷で済むが、右肋の部分の羊毛を食われて荒野だけが佇む。
「折角の色雄がうえああ!」
 エリファウルは悔しさと共に全身を叩きつけられた--羊毛のお陰で重傷の内に済んだが一瞬だけ動けない。
「が、が、はあはあうえ。このいっしゅんはぎんがれ、んごうにと、ってはぜえい」
 徐々に距離を詰めながら今か今かとエリファウルを食らおうとする三体の銀河連合。
「囲んでくるとはうえ。万事休すぜえい」
 大雨の中エリファウルが口に出した途端、エリファウルの頭付近に近付く鹿型に大きな影が降ってきた!
「万事休すはまだ早いぞう!」
 鹿型を踏みつぶす大きな影--それは雨の中では西地区二番地だけでなく第三東岸まで響き渡る!

 午後十時六分六秒。
 場所は西地区二番地。
 巨大な鍋にいる生命は既に事切れた側で一つの生命も事切れる寸前まで追い込まれた。
「周りは銀河連合ウウ。こんだけ攻撃を食らいながら軽傷で済むのはわしが若者を腰砕けに見るせいじゃナナ!」
 イノ吉の前右足に着けた足斧は既に使い物ではなくなっていたとしてもイノ吉は自分が助かる見込みはないと思うはず。
「これもゴリ久坊主の作戦ならわしはここで死ぬ生命じゃないぞオオ。とはいえ雨だけは予想外じゃナナ」
 大雨で周りの囲まれながらもまだイノ吉に諦めの気持ちは微塵もない。自分が生きると信じるだけではない。
「わしは目の前の生命を死なせた罰ジャジャ! 死んでたまるものかイイ!」
 一斉に銀河連合がイノ吉を食らおうとしたその時だった--東より波の音が近付く。
「何のお--」
「じいさあああんぜえい! 鍋の中に乗れええい!」
 西よりパタ音を抱えたエリファウルが全速力で波から逃げてくる!
「うお、ごぷウウ! 無事じゃナナ、二名イイ!」
「さすがイノ吉殿おう! あれだけの猛攻をかするだけで済ますとはおう!」
 イノ吉の周囲に巨大な影が踏みつけんとばかりに落下--イノ吉は鍋のような物の左取っ手に前左足を絡め付ける事で巻き込まれるのを回避。
「わしまで死なせて罪を背負う気かアア、若造ウ!」
「にしてもこの年でどんだけ体力あるよの、爺さん?」
「若いもんに負けないからのウウ」
「とか言ってる暇がある場合ですかアア! ママアアアア!」
 エリファウルは抱えながら両者とも鍋のような物に入った!
 一方のマモリスは右取っ手に鼻を絡ませ、雨山はマモリスの背中から飛んでギリギリ中に入った!
「死、死体っイイイ! うわあああああ!」
「叫ぶやな! 耳に--」
「波がこっちにぜえ--」
 波は鍋のような物に触れた物全てを呑み込みながら東へと流してゆく!

 午後十一時零分零秒。
 場所は第三東岸。
 袋にある足斧は残り一つ。シカットはそれを刃毀れした足斧と交換するように右前足に装着。
 一方のゴリ久は船に乗っかる亀型をてこの原理で海に落とすとそのまま船を奪還。
「数が増えすぎて僕達三名じゃもう--」
「泣き言を吐くなッツ! 俺はあと三回倒せるぞッツ!」
「取り戻しったのにまった銀河連合が船に乗ってくる!」
「おらッツ、でえッツ、そらッツ! くう! 二体しか倒してないのにもう刃毀れをッツ! この雨だなッツ!」
 傭兵の誇りなのか、シカットはまだ戦い続けた--鹿族の誇りである角を駆使しても!
 一方の船にはサイ造が乗る。
「シカットさんどい! 早く乗って下さあい! 波が来ますぞい!」
「マモリスの踏みつける音だけじゃなく波が来るなんてッツ! だがッツ、まだ銀河連合がいるぞッツ! こいつらだ……くうッツ!」
 人型に両の角を掴まれたシカット。
「シカット!」
「船を離すんだッツ! 俺様はここで死なんッツ! でえいいいいッツ!」
 首を左に多く九振り回して人型を離すが、角はへし折られた!
「また勲章が出来たよッツ! 今飛ぶぞッツ!」
 成人体型五まで離れた船にシカットは乗っかろうと跳躍する!
「どわっを!」
「うんぬッツ!」
 前両足を後尾に絡めたシカットは勢いを付けて全身を船の中に押し込めた!
「助かったぞい」
「いやッツ、銀河連合はまだこの船に--」
「え? 何でわかめにまっで成れっる?」
 若布型は数十体も船に絡みつきながら三名を食らおうと近付く!
「ここまっで来ながっら俺達は……」
「死ぬ運命ぞい? いやだよおいいい!」
「俺様と救出者七名を生かすという依頼を達成できないなんてッツ……」
 三名が諦めようとしたその時だった--西より成人体型二十以上の巨大な波がイノ吉ら五名を乗せた鍋のような物を流しながら船まで呑み込もうとしていた!
「あ、れは生命質十三名を茹でたものかッツ! あそこにイノ吉ッツ、雨山ッツ、パタ音ッツ、エリファウルッツ、そしてマモルモリノスもッツ!」
 波は情無く船を呑み込んだ!
(いしい、が、あ、あ、あ。いやッツ、俺様はここに来て寝てた、か、かなッツ? も、う、寝ようッツ。しんだ、な、か、まがいる、とこ……ろにッツ)
 シカットは額の十字傷が出来る切っ掛けになった七名の仲間が死ぬ悲しき思い出を振り返っていた。彼は当時イノ吉、マモリス以外の五名と同じく未熟者だった。未熟故に彼は助かる見込みのない命を助けようとした。結果は当然彼以外の全員が死んだ。彼は七名の仲間を失い、額の傷だけが未熟者である彼を一命前の傭兵に育て上げる事になるとは。

 未明。
 場所はエピクロ海。
 国家神武の依頼でシカットと七名を救助しに来た鯨族の一団は海に沈む者または浮かぶ者、船に捕まる者、鍋のような物に入る者を引き揚げた。
「鍋に入っテル十三あル遺体の身元を行え! それと生存者でアル八名はあちコチ傷は付いテル物の命に別状はナイ」
 シカット達八名はほぼ一日も眠らない為、今日この日はお日様が頂上に到達するまで眠る。
「それニシテモ鼾の五月蠅い物は後々説教すル必要があルナ! 特にシカット・ムーシと言う傭兵に関しテハ!」
 シカットは夢の中でかつての仲間達と飲み会をする……。



 ICイマジナリーセンチュリー八十二年七月九日午前零時零分零秒。

 第二十四話 二十四時間の脱出劇 完

 第二十五話 大空のトリ に続く……

一兆年の夜 第二十四話 二十四時間の脱出劇(八)


 午後四時零分三十秒。
 シカット達は大地の上に還ろうと登る。
「なあなっあ。俺かっら提案があるっけど」
「何だッツ? まさか俺様と同じ意見なら聞かんぞッツ!」
「シカットとマモリスってどっちっが強い?」
「そうだなッツ。マモリスは情報によると国家神武の特別隊に所属する軍者だッツ。故に俺様よりも遙かに上をゆくぞッツ!」
「それで百獣型相手っに勝てっるかな?」
「マモリスに聞けッツ!」
 ゴリ久はとある作戦を立案する。

 午後六時零分三秒。
 場所は廃鬼ヶ島西地区二番地。
 シカット達が外に出ると既に日は隠れ、月が目立ち始めた。
(銀河連合がいないッツ? いや居ない振りをしてるのかッツ?)
 シカットがそんな考えをしながら一番手に身体全体を臭気漂う島に晒すとすぐにそれらは現われた--生命を盾にして!
「わしもで……何ということじゃアア!」
「あ、れは僕達以外に捕まった者達っだ!」
「銀河連合を甘く見てたぞい!」
「奇襲でっはなく生命質なっんて!」
「ますます生き残るのが--」
「ここまで大変なこととはようぜえい!」
「許すまじ、銀河連合ぞう!」
 シカット達の前方に半径成人体型十以上ある鍋のようなものの中に十三名の捕われの生命が両手(または前両足)両足(または後ろ両足)を縛られたまま茹でられた。その周りには四十二もの銀河連合が待機しながらシカット達に向けて身振り手振り(または足振り)しながら伝える。
(あいつらは俺様達がこのまま何もしなかったら生命の命は保証しようって身振りをするのかッツ? このまま俺様達が死ねばあの生命達は助かるとか身振りするのかッツ? そうしたいのは山々だがッツ、俺様は銀河連合がどれほど約束を守らないかを知ってるッツ! 奴等は俺様達を死なせた後ッツ、あいつらの命まで食らうッツ! そうゆう事を平気でする連中だッツ! しかし目の前の命を前にするとどうしても--)
「ここは我があいつらの代わりに差し出されようかぞう?」
「何を腰砕けったことっを! 奴等っはどうせ約束を守っらんぞ!」
「だからって十三名を死なせられると思うかぞう!」
「心が痛むぞい! 僕だって自らを死なせてでも救いたいのにどい!」
 彼等の心を更に追い込む事態が起きる!
「助けてくれエエ! あぢいよおオオ!」
「死ぬのは良くナアイ! 死にたくナアイ!」
「はんぶ、バブブ!」
 茹でられた生命の叫び--八名の心を追い込むのに十分だ!
「ぎ、銀河連合がゆっくりボク達の方に近付くやわ!」
「食いに出るかぜえい! シカットさんぜえよう! どうするぜえい?」
「決まってるッツ! 俺様は七名を超える生命は救うとは依頼されてないッツ!」
「つまり死なせるのかぜえい! 反対だぞえい、そんなのえい!」
「だからって俺様達の命を差し出して救えるなんて甘い考えはやめろッツ!」
「くそおうえい!」
「シカットの若造よオオ! ここはわしに任せてくれんカカ?」
「何をするッツ?」
「それはなアア、わしだけが盾になりあいつらを救うのジャジャ!」
 イノ吉は自己犠牲をするかのような事を言い出す。
「死っぬ気っか、爺さん!」
「死にはせンン! わしは防御戦の達命じゃヤヤ!」
「いや説明にならっないよ!」
「あいつらが助かる見込みはなくとも盾になる気かッツ?」
「この場合はわしの助かる見込みが大変危ないじゃロロ?」
「まさか老いてる身だから早死にする気なやの?」
「早死にイイ? 最近の若造は何でも老年が死にたがり屋だと思い込んデデ! わしは生きる為に盾になるのじゃアア!」
 イノ吉は謀り無き特効を仕掛ける!
「イノ吉のじじいッツ! 死ぬのは絶対許さんッツ! 両手両足が取れてでも生きろッツ!」
「五体全て無事に生き抜くゾゾ、わしはなアア!」
「イノ吉の爺さあああんぜえい!」
 鍋のようなものの側にいる一体の狼型がイノ吉に向かって突進する!
「食われると思ったか若造ウウ!」
 イノ吉は狼型の牙を逸らすようにかすり傷で済ます!
「……行くぞッツ皆の者ッツ!」
「大丈夫なのっか? 爺さんっでは--」
「わしの事は心配するなアア! お前達とは後で合流すルル!」
「約束は守ってよの、あなたも最近の老年なんだしやな!」
「健闘を祈るぞう!」
「死んだら許さんぜえい!」
「イノ吉さっああん!」
「僕は信じますぞい! あなたなら神様に生かされると信じておい!」
 シカット達は第二西岸の方角に向けて走る--イノ吉を信じて!
「必ず助けに来るッツ!」
「ぐおオオ! 奇跡的じゃナナ。耳を掠るなんてエエ!」
 イノ吉は狼型の猛攻に徐々にではあるが劣勢になりつつある。
 一方、狼型以外の銀河連合から二十三体が七名を追う!

 午後七時一分二十二秒。
 場所は西地区三番地。高さ成人体型十以上ある巨大な岩石が『ふ』の字に並ぶ。
「そろそろかぜえい?」
「どうしたエリファウルッツ? 具合でも良くないのかッツ?」
 エリファウルは突然、二十三体の銀河連合の群れに突入!
「それは危険っだよ、エリファウルの兄ちゃん!」
「拙者を誰だと思うたかぜえい!」
 エリファウルは虎型と縞馬型の攻撃を変幻自在の動きで躱しながら巨大な岩石群に誘い出す!
「足斧を装着した拙者は強いぞうえ! 悔しいなら登ってみるんだなうえ!」
「エリファウルの坊やわ!」
「心配するなうえ! 拙者はイノ吉の爺さんに感化されたから足止めを務めるんじゃないぞうえ! 拙者の力がどこまで通用するかを確かめる為だぜえい!」
「それじゃあもしも死んだらどうするぞい?」
「死ぬかようえ! 拙者は……うわっとうえ! どうやら話は終りだぜえい! 後はよろしくな!うえ」
「わかったぞう! ただしこれだけは言えるぞう! 我より弱いということをなおう」
「生きるのだぞッツ! お前は俺様より若いが俺様以上に成れる素質があるから死なれては悔いが残るだけだッツ!」
「じゃあ頼んっだよ、エリファウル!」
「任せときぜえい! と言っても七体相手はさすがに苦しいぜえい!」
 エリファウルの動きに慣れたのか、徐々に距離が縮まってゆく!
 一方の残り十六体はシカット達を追いかける!

 午後七時三十分三十一秒。
 場所は西地区第二西岸。船は無い。
「当てが外れたわやね……ふわああ--」
「欠伸をしてる場合ですかおい! 銀河連合が来ましたぞい!」
「眠いやね。じゃあそろそろボクも働く時が来たやわ!」
 パタ音は熊型に狙いを絞って懐に入ると寝技を掛け、十秒も経たぬうちに首の骨を粉砕した!
「凄いっよ、この熊猫は!」
「と言っても残り十五体はきついやわよ!」
 パタ音は寝転がりながら食らうのを避ける!
「加勢するかッツ?」
「必要ないやわ! ボクはここで銀河連合の足止めするかやら!」
「雌の癖に一丁前のことをおう!」
「雌は関係ないでしょよ! ボクの綺麗な顔が変形したらどうするよの?」
「それもいいっかも! 俺は他種族だから変形しったパタ音の顔っを見て見たい--」
「グウウ! これで二体目やわ! 生きて帰る理由が出来たやわ! ゴリ久は罰として寝技の相手をして貰うやわ!」
「そりゃ良っくなかった!」
「まあまあ生きたいという願いは本物ですしどい、そこまでにしましょうぞい!」
「この! この! どんどん学習してきて逆に懸けられそうやわ!」
「それでも逆に掛けてみろッツ、パタ音ッツ! 生きてゴリ久相手に寝技を試したいなら死ぬんじゃないぞッツ、いいなッツ?」
「うわ! 死にそうやわ! でも死なないんだからああ!」
 パタ音は四体を相手に寝技が困難になってゆく!
 残り十体は引き続きシカット達を追いかける!
(南地区に懸けるかッツ? 船があるかは定かじゃないがッツ!)
 シカット達は第一南岸目指して足を進める!

 午後八時二分一秒。
 場所は南地区四番地。
「何なんだッツ、ここはッツ!」
 四番地跡は数百もの十文字の形をした墓石で埋め尽くされた!
「銀河連合にも死者を埋葬する心はあるのですぞい。良かったぞい」
「そうっかな? 良くない予感がっするけど」
「母依存症の雨山にしては勘が良いぞう!」
「見ろっよ! 墓石の下から何かが--」
 混合銀河連合が土を飛ばして這い出た! その中の獅子蛇型はゴリ久目掛けて口を全天周しながら突進!
 甘いぞう--という掛け声と共に獅子蛇型は成人体型十も吹っ飛ばされた!
「助かったっぞ、マモリス!」
「我を誰だと思ってるぞう!」
 銀河連合の追っ手八体は各方角からマモリスに攻撃を仕掛ける!
 八体、容易いぞう--と言う言葉を放つと自慢の鼻を一周させながら八体を成人体型五から八まで吹っ飛ばした!
「加勢しようかッツ?」
「我はここに留まるぞう! 戦いこそ我の生き甲斐だぞう!」
「病気を患ってるよおい!」
「マモリス! わかってっるな!」
「これもゴリ久ぞう、君の作戦通りにやらせるぞう」
「作戦どい? 何の--」
「話は後だッツ! 俺様達は岸に行くぞッツ!」
「置いていっいの?」
「本当に大丈夫じゃない時は叫んで下さあい! 僕達がマモリスさんを助けに--」
「一名加勢したところで変わるかぜおう! 足手まといを増やすだけだぞう!」
「力押しだがここはマモリスの強さに懸けようッツ! マモリスよッツ」
「フンヌウウ! 何だぞう?」
「油を断つなよッツ! でないと死ぬぞッツ!」
「我は神様に好かれてはおらんぞう! だから死にきれないぞう!」
「何か安心っでき--」
「行くっぞ! そこに船があることっを願って!」
「取りをお前が務めるなッツ!」
 マモリスは動きを読まれ、攻撃を受け流されつつありながらも依然として油を断たない。
「気持ちが良くなるほど戦いの申し子だぞう、我はぞう!」
 むしろ強くそして徐々に大きくなる--銀河連合が感じるマモルモリノス・アダルネスの存在感は!
 シカット達は第一南岸に船がある事を信じて突き進む!
 四名の背後に銀河連合の追っ手二名を抱えながら……。

一兆年の夜 第二十四話 二十四時間の脱出劇(七)

 午後零時三十分四十秒。
 場所は巨大船の標本。中は平面な板で出来たよくわからない物。均衡が定まらない椅子。周囲は何の目的があるのかわからない回転しそうな物。硝子で出来たお椀。様々な物をシカット達八名を驚愕させる。
「これはまさしく神様ジャジャ! 神様じゃからこそ不思議な魅力を感じるウウ!」
「神様っかあ。確かっに俺もその意っ見に賛成。生命が造るには何を手がっかりに造ったか分っからない以上神様だよ、こっれ!」
「それにしてもう、どうしてこれは銀河連合に見つからないのだろうやわ? 銀河連合ならこれを有効に--」
「神様を有効には使えないよい。動かし方がわからない上、どれくらい前に造られたか定かでない年まで放置してる以上銀河連合は使いたがらないよい」
「だといいっけど……」
「それは外れねぜおう。もう少しの理由があるはずぞう」
「もう少しの理由ぜえい? 何だぜえい? 言ってみろぜえい」
「年長者には最低限敬語を使うべきだよおう」
「もう一度言ってみ--」
「喧嘩は生きて脱出した後にしろッツ! 恐らくは偏屈学者であるルケラオス鯨族の吉良ホエ頭野助の仮設『世界観補正』による効力かッツ?」
「知ってるんだなぞう。ところで君の名前は--」
「それよりもマモルモリノスよッツ。お前はどこから来たッツ?」
「山羊族の少年にも言ったが--」
「俺様の名前はシカット・ムーシッツ。シカット・ムーシっていうんだッツ。俺達七名は武烈聖堂跡のとある隠し通路を経てここまで来たッツ!」
「君は他者に好かれない性格だなぞう。まあそんなことは後にするかぞう。我は鬼ヶ島の西地区にある民家のあった場所で偶然発見した通路を経てここに来たよおう。これでいいのぜう」
「二名とも好かれない性格だゾゾ!」
「爺さんもっだぞ!」
「あんたの場合は母依存症をどうにかしなさいやわ!」
「外見が美しい割に中身が美しくないパタ音の姐御も大概だぞえい!」
「要約すると俺達皆、他者っとの交流が上手っじゃない物同士ということっでいいな!」
「僕まで一緒にされると傷つくなあぞい」
 シカットは七名の救助者を改めて見回しながら--
(こんな連中で必ず生き残れるかッツ?)
 と心配した。
「えっとマモルモリノスさん?」
「何かぞう」
「この場所に通じる通路っは他にありっました?」
「二の時より前にここに来た我が言うぞう。二つだけぞう」
「そうなのかアア……」
「それでマモルモリノスが来た通路は険しいかッツ?」
「もう『マモリス』でいいぞう」
「ではマモリスッツ!」
「『ッツ』は余計ぞう!」
「通路は険しいかと聞いてるがッツ!」
「楽だよおう! ただしここに来るまでは我の足で六の時はかかったぞう」
「つまり早くって五の時。大丈夫っか?」
「や、やめっよう! どうせ銀河連合が待ち構えてるって!」
「弱気で行くなアア! 気合で何とかするべきじゃロロ!」
「ボクの寝技は一対一でしか発揮しないやわ」
「拙者一名だけなら逃げ切れるがぜえい」
「僕の力では良くて五体しか倒せずに朽ち果てそうだぞい」
「だが立ち止まる理由になるかッツ! 俺様は俺様も含めてお前ら七名を必ず生きて鬼ヶ島から脱出する事を依頼されたッツ! ここでそんな依頼を守れないようでは傭兵を名乗るのも無理な話ッツ! だから俺様は無理矢理でもその道を進むぞッツ! そこに百獣型が俺様達の百より倍は居たとしてもだッツ!」
 シカットはそう宣言すると相変わらず勝手気ままに船の外に出ると先ほどの道とは反対方向にある通り道に進む!
「コラアア! わしらを置いて一名だけ進むなど傭兵のすることカカ!」
「あの雄は好きじゃないやわ! 例え同種族であってもやわ!」
「全くえっと、シカットのお兄さんっはパパみたいに勝手気ままで困る!」
「我より強そうにない君が言ったところで命を大事にしないのと同じだぞう!」
「とか何とか言って本当はシカットとか言う傷物の鹿野郎っは俺達が後っを追うのをわかってて動いてるんだぜ!」
「それでも僕はシカットさんの後に続きますぞい!」
「全くお前らと来たらッツ……」
 八名は今揃い、ここから脱出劇が始まる! いつ命が尽きるともわからない--
(七名の一名の命は大変軽く想念の海に旅立ち易いッツ! それでも俺様は俺様を含む全員を生きて鬼ヶ島から脱出するッツ! それは全生命体の希望の第一歩と成るのだからなッツ!)
 果てしない一歩を踏み出す!
 その時午後一時零分零秒……。

一兆年の夜 第二十四話 二十四時間の脱出劇(六)

 午前十時二分七秒。
 場所は不明。台所のような場所で七名は気味の良くない光景を眺める。
「秋刀魚族や鮭族はみんな炙っられたまま銀河連合に食っべられる。俺の場合は多分身体を分っけられて目ん玉を取り出っされて--」
「気味の良っくないことだよ! 僕もそんな風にっされるよ!」
「拙者の場合は家を毟り取られえい、身体を分けられえい、そんで肉は美味しく銀河連合の胃の中で消化されてゆくなれい」
「魚の種族には他にも外に出されてぞい、お日様の光を浴びさせられた後食われる者もいるぞい」
「やめろッツ! 銀河連合の食に関する話は俺様達の気分を良くしないッツ。俺様は後一名救助しなくてはならないッツ」
「後一名の救助オオ? 若造よオオ、わしが見たところこの聖堂にはもういないと思うゾゾ。今頃は銀河連合に鍋で蒸し焼きにされてるかも知れないってのニニ」
「恐いこと言わないよの。恐怖でお肌の張りが良くなかったらどうするよの?」
「腰を砕かすのはこのくらいにしようッツ。俺様は何としても後一名探さないと任務を果たせないッツ」
「傭兵という仕事は厳しいのオオ」
 シカットが部屋に抜け道がないかを調べていた。彼の行動に六名もまた部屋全体をくまなく探す。
(とはいえこの匂いはいつまで経っても慣れんッツ。それにここへ上陸して多分十一の時が経つのか? もう船はあいつらに壊されたかッツ? 或いは勝手に使われるかッツ? いずれにしたって後戻りは出来ないッツ。残り一名を救助したら本番だッツ! 鬼ヶ島をどうやって脱出するかをなッツ)
「にしても無いっな。抜け道っはこの部屋にっないよ」
「部屋を出るしかないのかあい? 僕は恐くて無理だよおい」
「百獣型が現われったら僕達は……ママアアア!」
「また母親の名前をよ! ボクだってお母さんは心配よの」
「わしはもう両親は想念の海に旅立った後オオ。最近の若造は親離れできないかノノ?」
「爺さんは俺達を腰砕けに見ないでもっらおうか! 俺だってこうみ……この引き出しを開けてみっると中に何かあるっぞ!」
 ゴリ久は流し台の下にある成人体型二までの体型なら入る引き出しを開けて何かを発見。
「何かわかったのおい? どんな……何これい?」
「でかしたぞゴリ久ッツ! 恐らくこれはかつて鬼族が台所に作った隠れ場所ッツ。俺様ならそう考えるッツ」
「こじつけでしょに? どうせ数十の年で銀河連合に--」
「わしは年長者ゆえ先に入るぞオオ」
「オイッツ、早まるなッツ!」
 シカットの注意は一足遅かった--イノ吉は堂々と隠し通路に入る。それに続くように雨山以外の四名も後を追う。
「あのお祖父さんは勇気があっるんだよ! だって父親の心を持っつから--」
「知らんッツ! 親とか子は関係ないぞッツ。勇気という者は生命次第だッツ。誰だってすぐに勇敢でいられないッツ。イノ吉の爺さんはただ俺様達若造よりも先に行かせない想いがあるこそ踏み出せるッツ。それは簡単じゃない行動さッツ」
 そう言ってシカットは中に入ろうとする。
「雨山ッツ。先に入れッツ!」
「え? でも--」
「ママはここにはいないッツ! 会いたきゃ指示に従えッツ!」
「ひいっいい!」
 雨山は飛び跳ねるように中に入った!
(じゃあ行こうかッツ! ここに七名目が居るかどうかだなッツ。必ずいるッツ! 俺様は傭兵としても使命としても信じる心だけは大切にするぞッツ!)
 シカットは確信を持って中へと入ってゆく。

 午前十一時五十七分八秒。
 道は細く、中は暗く前も後ろも見えない。銀河連合が突然襲いかかる恐怖を抱きながらも七名は深淵を下ってゆく。
(前にいるのは臆病者である雨山だなッツ。恐いなッツ。いくら戦場をくぐり抜けても恐怖は克服できないッツ。俺様がこうして恐怖を抱き続けられるのも一重に恐怖が俺様に信号を出し続けるお陰かもなッツ。学者じゃない俺様がこんなこと考えても仁徳島で通用するとは思えないなッツ)
 それでも七名は哲学的な事を思考して恐怖を和らげようと必死だ。
「どこまで続っく?」
「それボクも思ったやわ。お肌に良くないわ。土の中は」
「ただわかるのはここは空気がよおい」
「え? そうなのかうえ?」
「言われてみれば空気が快っい。何だかママの温もりを感っじる」
「若い頃を思い出すノノ。けどこんなことも考えたくなるのウウ」
「どんな事おい?」
「空気が良いと見せかけて銀河連合が襲いかかるという良くない事ヲヲ。わしも若造共を腰砕けに思えなくなってくるのウウ」
「そりゃあ互い様っさ! 俺達若造もまった未熟者だってことの証じゃない?」
「未熟者かッツ。それは俺様も入るのかッツ?」
「ったく好かない雄だぜえい。入らなきゃ困るぜえい!」
「全くッツ……」
「ンン? 何だか光が差し込んできたのウウ」
 七名は光の先を進むとそこには成人体型およそ縦が八十一、横が九、高さが三十六もある巨大な船が目の前に現われた。
「こ、これは何だッツ!」
 七名はあまりにも巨大な船が地下深くで造られた事を知り、驚愕した!
(こんな船は一体いつの時代に造られたッツ? 秘境神武の者が隠れて造ったッツ? 鬼ヶ島の鬼族が隠れて造ったッツ? いやそのどれもが外れかも知れないッツ! この船は全身が鉄であちこちにある光を出しそうな物はとても今の時代では造れないッツ! まさか神様ッツ! どうなんだッツ?)
「驚いたぞう? いやはやここに来る生命は我だけじゃなかったんだねぜおう」
 看板に乗っていたのは齢三十三にして七の月と八日目になるルケラオス象族の中年。
「その緑の入った鼻はまさかルケラオス象族の--」
「我はマモルモリノス・アダルネスぞう。宜しくぞう」
 シカットは最後も救助した。名前はマモルモリノス・アダルネス。シカットを含める八名で最も強い者だ。

一兆年の夜 第二十四話 二十四時間の脱出劇(五)

(四体の百獣型ッツ? まだ入ってくる可能性も視野に入れるッツ。俺様は傭兵だッツ。いかなる可能性だって身体で受けてきたッツ! 多くの仲間を死なせたッツ。額の傷はその証だッツ。さあどう出ようッツ)
 シカットら六名は部屋に入ってきた四体の百獣型から逃げる方法を模索する。
「傷物の鹿野郎。提案があっるよ」
「何だッツ? 言ってみろゴリ久ッツ!」
「部屋全体を眺っめて俺はあることに気付いった。それはこの部屋っが迷路に成ってるというっことに」
 それを聞いてシカットとイノ吉以外の三名は座りながら部屋全体を見渡す。
「そうなのおい?」
「ママアア!」
「『ママ、ママ』五月蠅いやわ! 近付いてきたらどうするよの?」
「確かに迷路じゃがアア、それがどうしタタ?」
「僕の提案ではここは二手に別れっましょう」
「ほうッツ、つまり誰かが百獣型を引き付けてッツ、一方は部屋から出るのだなッツ?」
「正解。んで引き付け役っはさっきから五月蠅い兎族の子供っで決まりだっね」
「えええ! 良くないっよおオオ!」
「黙らんかアア! お前みたいな若造は何度でも痛い目に遭う方がいいのじゃヤヤ! わしが若い頃なんか--」
「お祖父さんの若い頃は後で聞きますぞい。兎族の少年だけじゃ安心できないのでここは--」
「もう一名引き付け役が必要だッツ。ここは自分も加わろうッツ。お前らと異なり覚悟は据わる方だッツ!」
「何か好きじゃないやわ、あなたはの」
「美雌に好かれないとは俺様はどこまでも神様に申しわけがつかないのやらッツ。腰砕けはこのくらいにしていつ出るッツ?」
「ちょっと待って? 後十の秒くらいっでイイ?」
 は無言で応答した--母依存症の少年を除いて。
 それから十の秒が経つとシカットは前右足で雨山の尻を蹴飛ばす--雨山は四体の銀河連合の正面まで飛ばされた!
「あ、あのお? はろーないすとっるみー? えっと--」
 雨山は少々頭が回らなかった。百獣型は訛りなのかどうかわからない言葉を聞かれ歯の軋む音を立てながら解読作業に入る。
 その間にシカット以外の四名は百獣型の視界に入らないように平行四辺形を斜めに半分切った部分の上部を進むように逃げた。
「ぼんじょっるびー? えっと今度っは--」
 四体の百獣型は一斉に攻撃を開始--解読するだけ意味を為さないと理解した模様。
「わあああ!」
 雨山は兎族特有の瞬発力で攻撃が当たる前に後方に逃げた!
「奥に進んでどうするッツ! それじゃあ--」
「ママアア! 助っけてエエエ!」
 雨山は台形を半分に切った上半分を周回する形で逃げるが--
「わああ! えっと僕っは絶体絶命?」
 左右に二体ずつ配置する事で雨山を取り囲む。
「オイ銀河連合ッツ! 俺様を食らう方が数倍美味しいぞッツ! こっちだッツ!」
 シカットは右側に二体を引き付けようとするものの--
「一体しか追ってこないッツ! その一体でも俺様じゃ勝てないッツ!」
 シカットは部屋を脱出しないように追ってくる百獣型から逃げる。
 一方の雨山は--
「ああ、僕の人生はここっで終わっるの?」
 雨山の心に走馬燈が浮かび上がる。その時だった--
「人生に終りが来るのが早すぎるぜえい!」
 齢十九にして八の月と七日目になる武内山羊族の少年が左側から壁伝いで雨山の背後に着地すると--
「襟首を掴んで何--」
「ひゃわひゃわ--」
 百獣型は少年二名を上中下による攻撃を仕掛ける!
 だが山羊族の青年は変幻自在の動きで三体からの攻撃を避けるとそのまま右側の壁伝いで逃走!
「すげええ!」
 雨山は山羊族の少年の背中に乗った。
「あれが君の大将かうえ?」
「好っかない雄だけど」
「あの螺旋を描く角は武内山羊族ッツ! ならばお前は--」
「自己紹介しましょうぜえい! 拙者の名前はエリファウルぜえい。武内山羊族の誇り高き雄だぜえい!」
「俺様の自己紹介は後にするぞッツ!」
 エリファウルはふくれっ面になった。
「確かに好かない雄だぜえい!」
 迷路を駆使する事で三名は部屋を脱出。
 三の時より後、台所のような場所で先に逃げた四名との合流を果たす。
 シカットは六名目を救出。名前はエリファウル。武内族ゆえ名字はない。高所や壁のある場所で変幻自在の動きを駆使する者だ。

一兆年の夜 第二十四話 二十四時間の脱出劇(四)

 午前四時三十五分十九秒。
 場所は廃武烈聖堂。恐らく銀河連合が主に生命を拷問する為に作ったと思われる壁紙が骨の首飾りで一杯な趣味の良くない場所。
 四名は中の様子を窺う。
(あれは鋭棒ッツ? 尻部に尻尾を吊して何に使うッツ? 他には武内人族特有の尻尾にあちこち鉄を埋め込んだ何かッツ? あんな者を作る技術があるならどうして幸せの為に使わないッツ! 言ったところで聞かないよなッツ、銀河連合とはそうゆう連中ッツ)
「ぼおい、僕はあれで一の時くらい打たれそうになったよおい! あの人族から無理矢理千切った尻尾でい」
「わしは三の時くらい打たれたのウウ! 今でも生きてる方が不思議じゃ」
「僕は打ったれなくて良かった! ママー!」
「叫ぶなッツ! 銀河連合が気付いたらどうする! 足斧だって残りは多くないのだぞッツ!」
「袋には残りどれくらいあるウウ?」
「七つッツ。俺様が装着した足斧はあと一回使うだけで使い物にならなくなるッツ」
「そうなっる前にえっと--」
「残り四名を救出するのおい?」
「正確には『残り最低四名救出せよ』との事ッツ。他の生存者は残念ながら--」
「勝手な国じゃナナ。他は助けないなんてエエ!」
「ああ。だが、それでもお前らと残り四名を救出さえ出来れば後は国家神武に鬼ヶ島奪還の意義が持てるッツ!」
 国家神武がシカット・ムーシに七名を救出する本当の目的は鬼ヶ島の内情を知る事。
 もしもシカットを含む八名全員が生きて鬼ヶ島を脱出できれば鬼ヶ島奪還の一歩を踏み出せる。
 けれどもそれが叶わないのなら--
「諦める以外に他はないと判断すっるとは国家神武は勝手すっぎるぞ!」
「声が聞こえるようおい。雨山君が怒りたくなるのもわかるけどおい」
「会話してる内に奥から銀河連合の奴等が来たゾゾ!」
 十体もの銀河連合は各生命と銀河連合の骨で作った何か二つで生命二名を運んできた。逆さ吊りにされた生命は左方から紹介すると齢二十四にして四の月と五日目になる物部猿族の青年。右方は齢二十五にして六の月と六日目になる蘇我熊猫族の女性。熊猫族の女性は眠りに就く。
「いおい、今すぐ助け--」
「待てッツ! 機が熟すまで待てッツ! ここで出れば逆に俺様達が骨にされるッツ!」
「だからって二名を身死なっせる気ですか!」
「わしも鹿族の若造と意見は同じジャジャ! 見ろオオ、囲んどる銀河連合は皆百獣型アア。油を断つ隙がどこに在ろうかアア?」
「百獣型はさすがの俺様でも勝てないッツ! 逃げる事なら容易かもしれないがッツ……」
 百獣型は壁に掛けていた尻尾付き鋭棒に足をつけてゆく。
(さすがは銀河連合ッツ! 持ち場を簡単に離れないようにするとは俺様が出る機を迷わすッツ)
 十体全てが尻尾付き鋭棒を持つと南南西の百獣型は気配を察知したのかシカット達に突進してきた!
「こ、こ、こ--」
「気付かれたかッツ! そっちがその気ならこっちだって--」
「に、逃げっようよう!」
「わしは逃げるように心が出来取らンン!」
「一瞬で二名を救出するぞッツ! 全員百獣型はなるべく相手にせず二名を救出するぞ!」
「「「オオ!」」」
 百獣型は尻尾部分でシカットを攻撃するが、シカットは逆に相手せずに真っ直ぐ百獣型の群れに突入!
「なななんだっか--」
「助けに来たッツ! お前だけは手がある分離すぞッツ!」
 シカットは素早く両手両足に懸けた骨だけ切って猿族の青年を助けた!
「ありがとっう--」
「礼はいいか--」
 シカットは百獣型に掴まれるとそのまま一本背負いされ、背中を地面に叩きつけられた!
「ガッツ、アアッツ! こッツ、今度は--」
 別の百獣型に袈裟固めを食らい体中の骨を折られようとした!
(いッツ、意識があ……も、う--)
「僕は鹿族の者を助けるうい!」
 サイ造はシカットごと体当たりで百獣型を吹っ飛ばす--その反動でシカットは離れる事が出来た!
「ありがとうッツ、サイ造ッツ!」
「どういた--」
「礼を言わないで僕も助けってエエエ!」
「泣き言を吐くナナ! わしも百獣型に追われとるぞオオ!」
「そこの猿族の雄ッツ!」
「な、何?」
「熊猫族の美雌を運べッツ!」
「命令されんのは好きじゃないっけど今が今だっからそうっする!」
 青年は背中に背負う形で女性を運ぼうとするが重いせいなのか中々足が進まない。そこへ--
「僕が手伝うおい。背中に乗せてぞい!」
「それ良いっけどそれっじゃあこの後俺の番は--」
「お喋りは後にしろッツ! 奴等は暇を与えん以上ここから急いで出るぞッツ!」
 大声で叫んだシカットは百獣型が現われた方角に真っ直ぐ走る--それに続くように三名と眠っている一名を抱えたサイ造はシカットの後を追うように逃げる!
「追ってっくるよおオオ! ママアアア!」
「お前は母依存症っかよ!」
「全く困るぞオオ! 最近の子供は--」
「世代間の喧嘩は薦めませんぞい!」
「喋るなお前らッツ! 百獣型は逃がしてくれんぞッツ!」
 シカット達と百獣型の距離は縮まない。逃げ続けて一の時が経つ。

 午前五時五十九分二十秒。
 場所は不明。武器庫のような場所に逃げ込んだシカット達は息を潜める。
(ここで出るのはまだ早いッツ。それよりも二名は誰だか思い出さないとッツ! えっと猿族のあいつは確かッツ、物部猿族で顔周りが黒く猿族にしては大きいから恐らくは国家神武が手配した紙によると多分ッツ、物部ゴリ久か?)
「あ、あの? 俺の、名前っはゴリ久。名字は物部と申っします」
「息を潜めろと言ったのにッツ!」
「んんああ? ここやわ?」
「起きたぞい。君はおい?」
「ほえ? えっとボクの名前は蘇我パタ音やわ。目の隈が特徴な熊猫族よの」
「雌の癖に『ボク』という一名称を使うかッツ!」
「自由でイイでしょの! ボクはボクなんだし!」
「口喧嘩してる暇があるかアア! もう百獣型に見つかったゾゾ!」
「うわあああ! ママッアアア!」
「泣きたいのは僕の方だよおい!」
 シカットは四、五名目も救出。名前は物部ゴリ久。猿族だけあって知恵に長けた者。もう一名は蘇我パタ音。救出者の中では投げ技において右に出る者はいない攻撃的な雌だ。
プロフィール

Author:darkvernu
 どうも大阪府に住むdarkvernuです。
 自分の趣味はネットサーフィンする事と偉そうに批評する事と、たまに読書をする事。今はそれだけです!
ちなみに読む本は主に経済本や評論本、たまに数学関連や科学関連の本を読みます。歴史も好きなのか歴史関連を読んだりもします。ただし、その分野に詳しいかと言えば、ドマイナーだと自分で思います。ただし、小説関連は余り読みません。何故なら自分は三流未満とは言え小説家なので手塚治虫の言葉を応用して小説は読まないように心がけてます。神話や昔話、童話は読みます。小説というジャンルとは違うので。今度はSF界の重鎮作品も読みたい気分です。
 好きな食べ物は数えきれませんので嫌いな食べ物は基本無いです。苦手な事は就活。いや本気で。今はギリギリでいるか或はその前に貯金を使い果たすかのどちらかだ。

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